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第1話:思い出となってしまったもの
「ザーザー・・・」
天気予報はかすりもしなかった。上がらないモチベーションを無理矢理上げる。降りしきる雨に押し戻されるのは言うまでもない。そんな中、夏期関東中学軟式野球大会決勝戦が行われていた。
「何で決勝戦なのに雨降ってるんだよ。」
僕(棚倉龍一)は呆れた。グローブもスパイクもユニフォームもずぶ濡れで軋む感情を抱えて最後のマウンドへ向かう。
「ザーザーザーザー・・・」
雨音と歓声がこだまするグラウンドの真ん中で僕は全身全霊と言う言葉を忘れかけていた。
その一瞬、快音とともに雨音も聞こえないほどの歓声に球場全体が包まれた。
文字通り最期のマウンドになってしまった僕の心にはバケツをひっくり返したような豪雨。劣等感と絶望感に満ち溢れて淀んだ水溜まりに溺れていた。

「ザーザー・・・」
今日も天気予報はかすりもしなかった。あれからどのくらいたっただろうか?僕は今日、中学を卒業した。
「僕は雨男なのか?」
下らない自問に自答はなくただあのとき同じずぶ濡れのグラウンドに立ち尽くすばかりの僕だった。
「ザーザー・・・」
止まない雨と殺風景すぎるグラウンドが寂しさと悔しさをより一層させる。
僕の野球人生最期の日を思い出した中学校最後の日だった。

「お〜い!棚〜あ!」雨音に混じり誰かの声が聞こえた。現役時代バッテリーを組んでいたキャッチャーであり親友でもあった細見祐介がこっちに走りながら言ってきた。
「だいぶ探したぞ!こんなとこで何してんだよ!」
特に何をしている訳でもなく立ち尽くす僕に理由を話す術などなかった。一瞬の沈黙を掻き消すかのように傘をたたく雨は降り続いている。
そして祐介は卒業祝いに何処かで宴会をやるうと提案してきた。場所は言うまでもなく決まった。
「もちろん光太も誘うよな。」
祐介が提案した。
光太とは向井光太のことである。卓球部だか僕のもう1人の親友であり、祐介の親友でもある。僕にとって2人は唯一心を許している親友だ。僕たちは受験が終わってから毎日のように遊び、今日も宴会をやることになった。

そして学校から帰り、3人は棚倉家に集結した。

それぞれお菓子やらジュースやらを持ち合わせて乾杯をした。中学3年間いろいろあった。修学旅行の話、女の子のこと、光太と学校をバックレて怒られたこと、そして…最後の夏の話…

「棚は高校で野球やるの?」
ふと祐介が口にする。

祐介とは別々の高校になってしまう、祐介は千葉の中でもなかなかの有名校からの推薦を受けた。しかし僕には高校で野球を続けるという感情はなかった。後悔はしていないと言ったら嘘になるがあのときに充分したはずだ。そうして地元の高校に一般受験した。もちろん野球など全く強くない普通の高校に。

「僕はやらないつもり、まあ僕の分も頑張ってくれよ」
僕自身の言葉に半信半疑だったのは気のせいにした。
光太も違う高校に受験し合格したため3人は別々になってしまう。そう思った途端、止めどない現実感が僕の胸を襲った。
そしてあの日に終わったはずの野球が何故か心残りになることになるとは…

時計の針は0時を手前にした。
「そろそろお開きにするか」
明日からの僕らはどうなってしまうのだろうか?寂しさを部屋に残し3人は玄関を出た。

「そんじゃーな」
祐介は自転車にまたがりペダルに足をかける。
「またいつか会おうな」
僕の
「いつか」はもう会えないの
「いつか」だと…
「俺,明日ひまー」
光太の一言で僕の
「いつか」は消え去った。

2人は帰宅した。そして僕はベッドに倒れ込んだ。ぐるぐると寝転んでいると壁側の隙間に何か落ちていた。気になってた僕は壁とベッドの小さな隙間に右手を伸ばした。そしてその何かを掴んだ。しかしすぐに離してしまった。
期待が全て出て行くように僕からため息が溢れていった。
そして部屋を真っ暗にした。

次の日から僕達3人は毎日のように集まり下らない話や下らない遊びで朝から晩までの時間を使い果たした。
新一年春休み課題などもはや机の片隅で埃をかぶっていた。
楽しい日々あっと言う間で花びらをかっさらうような風のように僕らを入学式前日まで吹き飛ばした。

「やべー終わんねーよー」
僕は嘆く。3人は真っ昼間からファミレスで勉強会をしていたところで、今までかぶっていた埃を払いのけて、ここでそのページを開いた。
しかしながらこの膨大な量に圧倒されてしまって光太はすでにペンを置き得意げに珈琲をすすっている。
祐介は黙々と進めるばかり、僕はひたすらドリンクバーのカルピスを飲んでいる。現在進行形でのこの温度差と絶望感に浸るしか僕にすることはない。

話し始めると話題はもちろん明日の入学式のことになる。
「光太は高校でなにやるの?」
あからさまな質問をする僕の懇談は聞かれる前に聞いてやろうと言うことで、ただ何もする事が決まっていないことを答えるのが嫌だったため先に質問した。

「おれはー軽音楽部にでも入ろーかな」
決まっている光太が羨ましかった。

僕がもう1つ恐れていることが・・・

「祐ちゃんはどうなんの?」
光太の声で黙々と動くペンが止まる。

「聞くのか?」
一瞬の沈黙を間に
「俺はどっかの根性なしとは違うから硬球なんて怖くないよ」
夕日が差し込む客席に凍り付くような沈黙の空間が漂った。

どっかの根性なしとは僕のことである。
祐介の冷たさが心に刺さったつもりでいた僕は何も言い返せなかった。

いつかの悔しさと似たような錯覚をした。
そして何も言わず席を立ちこの場を後にした。

これは
「逃げ」なのか?
今まで僕が逃げたことはなかった。いつも寸前で連れ戻す相方がいたからだ。しかし今回は違う。何故だろう?近くにいるはずの祐介が何処か遠くへ言ってしまったような気がした。そして風とは逆の方向に自転車を走られた。

その頃僕が帰った後のファミレスでは

「これでよかったのか?」
光太は心配そうな表情で言う。

「大丈夫だよ、あいつは俺なしでもやっていけるやつだから」
祐介は薄ら笑いを浮かべていた。


そして3人はそれぞれ別々の風が吹いていた。
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