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交渉の行方

「魔法とは便利なものですね」


 王城の通路を鉄兵を案内して歩くホーリィが、心底感心したように呟いた。なぜそんな言葉がホーリィの口から漏れたかといえば、朝の二日酔いでうな垂れていた姿から一転して、鉄兵が背筋をしっかりと伸ばして歩いているからである。


「そうですね。でも魔法に頼ってばっかりだとダメな人間になりそうだから気をつけなきゃですね」


 二日酔いが治って気分爽快な鉄兵は、これ以上ないほどに爽やかな表情でホーリィの呟きに応えた。そんな鉄兵の言葉にホーリィがくすりと笑みを零す。


 鉄兵が二日酔いから治ったのは、流石に二日酔いで就業条件の交渉の場に顔を出すのは失礼だろうという事で解毒の魔法を試してみた結果である。今までは元の世界に戻った時に変な癖がついていると大変な事になりそうなので自重していたのだが、今回は緊急措置として使ってみたのである。結果としては大成功で、二日酔いが治ったどころか生まれ変わったような清々しさである。これは本当に気をつけないとつい頼ってしまいそうなので注意するべきところだろう。


「そういえばオスマンタスさんって宮廷魔術師長なんですよね。なんで自分の人事担当なんですか?」


 さて今はオスマンタスのところに顔を出しに行く途中なのだが、ホーリィの後ろについてテクテクと歩いていた鉄兵はふと疑問に思っていた事をホーリィに聞いてみた。考えてみれば昨日の謁見の際も王の横に立つ人物は宮廷魔術師長のオスマンタスと宮廷神官長であるイスマイルだけである。要するにその二人が王に次ぐ国の最高峰の権力者だという事なのだろうが、それが神官と魔術師というのは少しおかしな話に思える。


「父う……オスマンタス師は宮廷魔術師長であると共に宰相の地位にも就いておられるのです。なにぶん10年前までは戦争ばかりをしていた国ですので、官僚が足りないものでして。育ってきてはいるのですが、まだ重い責任を負えるほどには成長していないのです」


 苦笑気味にホーリィが説明をする。今の話を聞く限り、育ってきた官僚の筆頭がホーリィといったところなのだろう。にしても謁見の際には重臣っぽい人が結構いたような気がするのだが、あれは全て武官だったという事だろうか?


 どうでも良い話だが、ホーリィが最初に言いかけた言葉は恐らく父上だったろう。別に実際父親なのだからそれで良いと思うのだが、やはりこういう時の定番として、王宮では父ではなく上司と思いなさいとでも言われているのだろうか? そんな光景を思い描いてみたら予想外に和やかで、鉄兵は少しだけほのぼのとした気分になってしまった。


 ここ二日ほど世話をしてもらって気がついたことだが、ホーリィは実務はしっかりしているが、やはりリードと同じように言動がたまに見た目相応の幼いものになる事がある。ホーリィもリードも鉄兵より年上なのだが、二人そろって精神年齢が幼くなる時があるという傾向は、それが半精霊族という種族独特の特徴なのかもしれないなと鉄兵は思った。


 王都の主な種族が人間族という環境にあるために二人は大人のように振舞っているが、もしこれが人間族より身体の成長が遅い精霊族の国であったなら、二人は見た目相応のものとして未だ少年期を過ごしていたのかもしれない。どちらが良いかは分からないが、そう考えると環境というものはなかなか不思議なものだなと思った。まあ調査対象が今のところ兄妹一組だけなので、たまに言動が幼くなるのはただの遺伝という可能性は否定できないが。


 話が逸れたが、それはともかくホーリィの話である。オスマンタスが宰相も兼ねているのは分かったが、わざわざ宰相が全ての人事を担当しているのだろうか?


「って事はオスマンタスさんが人事を全部担当しているんですか?」


「いえ、本来でしたら人事に関してはイスマイル様が一任されております。選考は他のものが担当しておりますが、最終面接は魔見眼をお持ちのイスマイル様が担当しておられます。イスマイル様の魔見眼は魔力波長によりある程度人格を探れますので、邪まな企みをもって王宮に潜り込もうとするものを弾く事ができるために人事には最適なのです」


 なるほど。出会った当初にイスマイルが魔見眼があるために神官を束ねる地位についていると言っていた事に違和感を持っていたのだが、魔見眼にそんな効果があったためなのかと今更ながらに鉄兵は納得したりした。


 謁見の時についてもアルテナ達を国に迎え入れることについて反論があまり無かった事に違和感を持っていたのだが、そんな事情があったからなのだろう。アルテナ達は下手をすればそこらの山賊などより性質の悪い、オズワルド王国に恨みを持っているはずの亡国の元騎士である。なのにあの程度の猿芝居であっさり意見が通ったというのは、すでにイスマイルにより検閲済みだったからというわけだろう。


 さらに遡れば王都への道中でさえアルテナ達に対する警戒が甘すぎてこれで良いのかと疑問に思っていた事もある。つまりそれもイスマイルの判断の結果であり、イスマイルがいなければひょっとして今の結果は有り得なかったのかもしれない。そう考えればまさにイスマイルにより縁の下を支えられていたわけで、今更ながらに頭が下がった。


 それはともかくホーリィの説明はまだ終っていない。


「一般でしたら就業条件は決まっておりますのでそれで終わりです。ですが、テツ様のように予算に関わるような採用となりますと、国庫を預かるオスマンタス師が担当する事になっているのです」


「そういう事ですか」


 ようやく話が繋がったが、まあそういう事らしい。鉄兵は事業を起こす予定であるからその辺りを考慮しての事らしい。


 とそんな話をしていたらオスマンタスの執務室に到着したようである。ホーリィが一室の前に止まり、ドアを叩く。


「失礼します」


 ホーリィに連れられてオスマンタスの執務室に入ると、そこには立派な執務机に座り、お茶を片手に優雅に本を読んでいたらしいオスマンタスの姿があった。書類に囲まれて忙しく仕事をしている姿を想像していたのだが、どうやらそれほど忙しくはないようである。部屋の中は整頓されており、壁には本のつまった本棚がびっしりと並べられている。執務机の前は談話用の空間のようで、長椅子がテーブルを挟んで設置されていた。


 オスマンタスがポンと本を閉じ、こちらを確認して笑顔を見せる。


「お待ちしておりました。おや、二日酔いと聞いておりましたが大丈夫のようですな」


「あはは。魔法で治しましたので大丈夫です」


 なんで二日酔いの情報がここまで伝わっているのやら。ちょっと恥ずかしくなった鉄兵は頬をかいて笑って誤魔化す。


「ほう? 魔法でですか。あぁ、まずはそちらにお座り下さい。」


 宰相を兼務していても基本は宮廷魔術師長という事なのだろう。魔法の話には興味津々のようである。談話用の長椅子を進めながらいそいそと自分もそちらに向かう。


「二日酔いが魔法で治ると言うのは寡聞にして知りませんでした。よろしければどういった種類の魔法なのかご教授下されませんか?」


 長椅子に座り対面すると、興味を隠す様子も無くオスマンタスが前のめりに迫ってきた。なにやら新種の魔法でも編み出したのかと思われているようだが、別にたいした事はしていないのでどうしたものかと考える。とはいえ考えても何が思い浮かぶわけでもないが。


 神官などがいる世界である。恐らくは魔法に頼り切っているために医療水準は低く、二日酔いのメカニズムも解明されていないといったところなのだろう。ならばそこら辺の事を交えて話せばいいだろうか?


「いや、ただの解毒の魔法ですよ。二日酔いはアルコールを体内で分解する際に発生する毒素が原因ですから、それを除去しただけです」


「ほう、二日酔いはそんなメカニズムで起こっていたのですか」


 やはり思ったとおりだったようで、オスマンタスは心底感心している様子であった。


「しかし、良く考えれば二日酔いの治癒魔法がわかったところであまり意味はありませんでしたな」


「なぜです?」


「それはまあ、まさかサクヤ様に二日酔いを癒してもらうために祈るわけにはいかないでしょう」


 ほっほっほっとオスマンタスが笑う。まあ確かに神様扱いされている人にそんな事を願うのは罰当たりと言うものであろう。


 でも。と疑問が浮かぶ。確かに神官はサクヤの力を使って回復魔法を使うわけだが、自分が使えたように普通の魔術師だって回復魔法は使えるはずである。ならば意味がないとまでは言えないと思うのだが、そう言い切ったのはどうしてだろうか?


 というわけでさっそく聞いてみたところ、答えは以下のようなものであった。


 基本的に魔術師は回復魔法を得意とはしていないようである。魔術師は全ての魔法を使えるが、そこに使う魔力は自前である。一方神官は回復魔法しか使えないが、魔力はサクヤから供給されるためにほぼ無限である。サクヤの思いとどれだけ同調できるかで回復魔法の威力は変わるが、一般魔術師に比べて神官の使う回復魔法は比較にならないほど強力なのだ。


 そう考えれば魔術師が回復魔法を習熟する意味合いは低く、魔術師の大多数は応急手当レベルの回復魔法しか使えないとの事であった。解毒についてもサクヤの魔力を使えばごり押しできるが、魔術師が解毒の魔法を使う際にはまず毒の種類を選別して、さらにそれを力づくで除去するという工程が必要らしく、それはとても難易度が高い行為らしい。ゆえに普通の魔術師が使用する事はあまりないようである。


 話の流れで病気治療の話題にもなったが、こちらはもう魔術師には完全に手に負えない代物らしい。内臓疾患系の病気はまだ自然治癒能力を高める普通の回復魔法で対処できるが、風邪などの感染症は細菌やウイルス等の存在が認識されていないために長時間回復魔法をかけ続けて免疫系を活性化させる治癒方法が主流らしく、これは自前の魔力を使う魔術師にはかなり厳しいようである。また、癌等の腫瘍にまつわる病気は下手に回復魔法をかければ腫瘍の細胞が活発化し、逆に死期を早めてしまう結果になるために気をつけねばならず、せいぜい傷を縫う程度の外科医療水準であるこの世界においてはほぼお手上げ状態との事だった。


 そんな事を話していたらコンコンとドアがノックされ、扉が開いた。そこに入ってきた人物にちょっと驚く。


「失礼します」


 入ってきたのはメイド姿のアルテナであった。どうやらお茶を運んできたらしいが、こちらなど気がついてないような様子で済まし顔をしている。


「言い忘れておりましたが、しばらくアルテナ殿はこちらに貸していただきます」


「はあ……」


 オスマンタスが何か言ったようだったが、残念ながら鉄兵の耳には届いていなかった。不気味なほどに澄まして給仕をするアルテナの姿が珍しすぎて、それどころではなかったのである。


「見るなよぅ……」


「あー……悪い」


 泣きそうな顔で睨まれてしまい、慌てて目を逸らす。別人かと思えるほどに淑やかだったので、もしや本当に別人ではないかと失礼な事を考えてしまい、思わずじーっと見てしまったのだが、予想以上に嫌だったようだ。


「そういや、なんでアルテナだけメイドやってるんですか?」


 ばつが悪くなった鉄兵がオスマンタスに話を振る。マーティン達他の騎士達はしばらく仕事が無いために、今頃は中庭で訓練をしている頃である。なのになぜその騎士達の頭領だったアルテナだけがメイドなんてやらされるのかは前々からの疑問であった。女は武官になれないのかというとそうでもないらしく、理由がよくわからない。


「おや、王から聞いておられぬのですか?」


「さっぱりです」


 本当は昨夜の晩餐の際に聞こうと思っていたのだが、早々に酒に逃げてしまったので聞きそびれてしまっていた。ひょっとしたらその時に話題に上がっていたのかもしれないが、残念ながら覚えていない。


「あの方も案外忘れっぽいお方ですからな。まあ私の口から説明いたしましょう。

 ……そうですな。一言で言えば家出娘へのお仕置き。といったところでしょうか」


 ピクリ、とアルテナの猫耳が揺れたと思ったらそのまま耳がヘタレてしまった。なんとなく分かっていた事だが、親父さんだけは苦手なのだろう。


「お仕置き……ですか?」


「筋道を立てて説明いたしましょう。

 アルテナ殿の山賊団は規模が大きいですからな。首領が捕らわれて王国に忠誠を誓ったからといって本拠地の部下達がはいそうですかと認めるとは限りますまい。なので後々の事もありますし、一昨日の夜にテツ殿の提案を聞いた後で早急に実質的な山賊団の首領であるアルテナ殿の父上と交渉をしたのですよ。

 条件に関しては元よりあちらに有利なものでしたのですんなり合意が取れたのですが、そこで交換条件といいましょうか。部下をほったらかして家出した馬鹿娘を一から鍛えなおしてくれと言われてしまいましてな」


 ほっほっほっとオスマンタスが笑う。なるほどそんな理由で侍女からやり直しているらしい。そういう事情なら自業自得なので頑張ってもらう他無いだろう。どうやらシリウス王の趣味ではなかったらしい。


 給仕を終え、とぼとぼと部屋を出て行くアルテナの背中に『がんばれよー』と念を込めて送り出す。だが、出された紅茶に口を付けてみたところ、残念ながらこりゃ時間がかかりそうだなぁと思ってしまった。出された紅茶はかなり冷めてしまっていたのだ。


 オスマンタスとの回復魔法談義は結構長い事やっていたので、考えてみれば鉄兵がこの部屋に入ってからだいぶ経つ。多分用意に時間をかけてしまい、ここに来るまでにお湯が冷めてしまったのだろう。ゆえに一人前には程遠く、メイド修行は時間がかかるだろうというのが鉄兵の考えである。


 ここで裏を明かしておくと、紅茶が冷めてしまったのは鉄兵が考えているような理由ではなかったりする。真実のところは給仕の相手が鉄兵だと気がついてアルテナが、中々部屋の中に入る踏ん張りをつけられずに立ち往生してしまっていたという理由だったりした。


「さて、それではそろそろ本題に入りましょうか」


 ぬるい紅茶に顔をしかめながらオスマンタスが話を進める。


「まずは役職についてですが、これは『技術顧問』という役職名をお望みでしたな」


「はい。それでお願いします」


「次に雇用期間についてですが、まずは期間限定雇用と言う事で雇用契約期間は半年間。これもよろしいですかな?」


「はい。それで大丈夫です」


 ここまでが鉄兵の希望した条件である。役職名についてはあまり責任が発生せず、他の部署に警戒心を感じさせないための新しい役職名でお願いしていた。まあ要するにフリーの技術指南役と言う立場である。雇用契約期間については自動更新ではなくその時に再び条件交渉をする条件にしてもらっている。


「就業条件の方はこちらで考えておきました。まずはこちらに目をお通しくだされ」


 差し出された書面に目を通す。まず目が行ってしまうのはなんといっても給与だろう。


「……かなりの高給ですね」


 提示されていた金額は月給10000オズほどであった。確か一般的な給与は300オズだったはずだが、その33倍ほどの額である。


「それはまあ、アルテナ殿達の給与も入っておりますからな。彼らは国の直接雇用ではなくテツ殿の部下ですので、給与はそこから遣り繰りしてくだされ」


 なるほど、それなら納得がいく話である。一般的な人員を雇えば18×300=5400ほどかかる計算である。マーティン達は熟練した技術の持ち主であるからそれに色をつけて月500オズを支払うとすれば18人で9000オズ。と言う事は鉄兵自身の給与は1000オズということで、それでも高いが、自分の能力を考えればそれほど高くもないようである。


 と、そんな風に鉄兵は計算したのだが、実はこれはオスマンタスが試算した内容とはかなりかけ離れていたりした。オスマンタスの試算としては、アルテナ達は鉄兵に隷属しているような状態であるので、せいぜいその給与は一般賃金以下の280オズ程度と考えていた。ゆえに鉄兵の給与は4960オズとして試算していたわけである。ちなみに例のガルム討伐の賞金が5000オズ、ワンコインの1オズで一食外食が出来ると考えればどんな評価かわかっていただけるだろう。


 その他の条件を見ていく。休みは月五日。住居については王国持ち。労災なども完備である。ここで少し暦について聞いてみたのだが、一月は30日で一週は6日だそうである。要するに休みは週に1日程度だが、文官についてはここは多少の無理が効くそうである。ちなみに文官は月休五日だが武官は週休二日だそうで、武官の休みは文官の倍らしいのだが、その代わり融通は効き難く、変則勤務もあってそれだけハードだそうな。

 ざっと見たところ待遇はかなり良いようだ。とはいえ気になる項目も二つ三つあるが。


「これは除外できないんですか?」


 そう言って指差したのは従軍義務の項目である。


「魔術師には例外なく付いて来る義務でしてな。こればかりは除外できかねます」


 こう聞くに魔術師は戦場ではほぼ必須のようである。どうやって扱うのかは知らないが、まあ除外できないなら仕方が無いだろうか。国が統一されているような状況だから戦争はないはずだし、余り気にするような事ではないかもしれない。


 とまあそんな感じに交渉は進み、特に書面の条件に問題はなかったために合意となった。


「では雇用条件についてはこれで終わりですな。続いて仕事内容についてですが、これはすでにプランがあると聞いておりますが」


「はい。まずは小手調べに闇玉を低コストで光玉に変化させて一般に普及させる計画を立てています」


「ほうほう、してどのように?」


「具体的な方法については少し迷っているのですが、闇玉・光玉のメカニズムについては大体解析できましたのでどうにでもなると思います」


 残念ながら時間が足りなくて闇玉・光玉についてはまだ詳細に解明できていないのだが、旅の間の時間を使ってコツコツその属性を調べてきたためにおおよその性質は理解できていた。


 闇玉・光玉の性質について具体的には、と鉄兵は説明を続けた。ここに書く事は少し分かりにくいので後の話で説明するものとする。


 闇玉がなぜ暗闇を作っているのかと言えば、ようするに光子などの電磁波を吸収する作用があるためのようである。この吸収された電磁波が吸収限界を迎えた時に放出され、さらには水晶の構成物質である石英元素の電子軌道に影響を与えて励起・電子遷移を起こす事により光子を放出するというのがおおよそ分かった闇玉・光玉の変換メカニズムである。


 なのでようするに電磁波を当て続ければある程度継続的に電磁場を発生するようになり、そのために発光すると言うことらしいのだが、地中に埋まっていた水晶が闇玉として発掘される事を考えれば全ての電磁波を吸収していない。もしくは電磁波の波長を忠実に再現している可能性などもあるのでここはもう少し研究が必要なところである。


「なるほど、さっぱりわかりませんな」


 神妙な面持ちでオスマンタスが頷く。ちょっとずっこけそうになったがそりゃそうですよねと思う鉄兵であった。とはいえこれで却下されてしまうとちょっと困った事になるのだが。


「ですがまあ、私がわかってなくともテツ殿には分かっているようですな。

 ふむ。闇玉もそれなりに値が張るものですが、長期的に見ればかなりのコスト削減になりそうですな。

 とはいえ、いきなり王都全体にそれを適用するには少しリスクが高いような気もするが」


「ですね。だからまずは実験的に王城の中だけをテストモデルとして試してみたいと思います」


「それが良さそうですな。ではまず王城に適用した場合にかかる費用対効果の試算を……これはホーリィにやってもらうとするかの」


「かしこまりました」


 後ろに控えていたホーリィが返事をする。とりあえず受け入れられたようなので後は地道に頑張っていく事にしよう。


「そういうわけですので、必要資材等についてはホーリィの方にお伝えくだされ。後はまた交渉と言う事で」


「了解しました」


 これにて最初の打ち合わせは終了のようである。鉄兵はほっと胸を撫で下ろしたわけだが、その耳に「しかし」と呟くオスマンタスの声が聞こえた。


「これでは木こりや油屋が失業してしまいそうですな」


「そう……ですね。でもそれについては他に計画を考えますのでご安心ください」


「ほう?」


「まあ、まだ計画段階なので追々という事で」


 材木も油もいかようにでも利用できる資源である。何を考えるにしても不足する事はあっても余る事は無いだろう。


「ではこんなところですかな」


「はい。おつかれさまでした」


 というわけでビジネスライクな話はこれにて終了である。


「テツ殿はこの後予定はあるのですかな?」


「いえ、特に無いです」


 まだ企画段階なので鉄兵の仕事は少ない。闇玉・光玉について研究する必要はあるが、特に急いではいない。急ぐ必要があるのはこの国の技術レベルの調査くらいであろうか?


「では、今日は王城を見学されてはいかがですかな? これから長い付き合いになる場所ですしな。構造をよく知っておくとよいでしょう」


 渡りに船と言う提案であった。ホーリィに案内されなくても城の中を歩き回れる程度に知っておきたいところだし、製鉄技術を確認するために鍛冶場などにも顔を出したいところであった。


「そうですね。ホーリィさんお願いできますか?」


「はい、喜んで」


 というわけで今日の行動は王城見学に決定した。

 闇玉・光玉の設定についてちょいと定義しきれてないので突っ込み大歓迎です。


2011/2/12:指摘いただいた誤字修正

『当てるづければある程度』→『当て続ければある程度』


だが、出された紅茶に紅茶に口を付けてみたところ、

だが、出された紅茶に口を付けてみたところ、


2011/2/14:指摘いただいた誤字修正

解毒の魔法ですよ二日酔いは

→解毒の魔法ですよ。二日酔いは


2011/3/24:指摘いただいた間違いの修正

「風邪などの細菌性の病気は細菌の存在が認識されていないために」

→「風邪などの感染症は細菌やウイルス等の存在が認識されていないために」

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