「それでは、次の報告を」
真っ白な口髭をためた初老の男が、
若い女性研究員を促した。
「ミシェル君、地球だったかな」
「それの報告をしてくれたまえ」
ミシェルと呼ばれた、髪が長く眼鏡を掛けた女性が、
演台に向い、ファイルを開いた。
「USN35027の報告をいたします」
「現星で『地球』と呼ばれている惑星です」
ミシェルは淡々と報告していった。
「『人類』と呼ばれる2足歩行生物が66億4千万」
「他の生物を圧倒しています」
「これは、現星時間で100年ほどでの変化です」
「さらに人類は、地球環境を変化させています」
「それは、自分達にとって居住不可な状態への変化です」
「我々はこの状態を阻止すべく、対策を打ちました」
ミシェルは一息入れた。
初老の男と同席している数名の老人達は、
溜息をつきながら、ぼやいた。
「やれやれ、困った生物がいたものじゃ」
「攻撃的な素質があるんでしょうかね?」
「いやー、自分の首を絞めるとは恐ろしい」
ミシェルは、報告を続けた。
「我々は、人類の自浄能力が欠如していると予想で」
「人類の人口増加が原因という仮定で」
「人口を減少させる対策を開始しました」
ミシェルは、ページをめくった。
「第一段階として、ペスト菌を放出しました」
「ですが、対策は一時的なものでした」
「第2弾は、インフルエンザウイルスの放出でした」
「現在でも若干効力が残っていますが、一時的でした」
「3つ目は偶然でしたが、戦争という自浄が起こりました」
「しかし、自浄されるべき人類の淘汰ではありませんでした」
ミシェルは、更にページをめくった。
老人達は、感想を漏らした。
「いけませんな、これは」
「えぇ、まったくです」
ミシェルは続けた。
「我々は、30年ほど前にエイズウイルスを放出しました」
「同時に、サルの一部にエボラウイルスも放出しました」
「時間差で効果を上げようとしました」
「ですが、残念ながら十分な結果は得られていません」
「現在も効果は残っていますが、予想される効果は低いです」
ミシェルは、顔を上げて席上を見回した。
「ですが人類も、前時代の恐竜のように」
「種としての限界を示す証拠が出てきました」
老人達から声が上がり、表情が柔らかくなった。
「おぉ、それは、それは」
「よい傾向ですな」
ミシェルは、静まるのを待って報告を続けた。
「癌化率の上昇と癌化細胞の量的増加が挙げられます」
「これは、遺伝子の飽和を示していると思われるので」
「明らかに限界が見えていると結論付けできます」
「そして、自らの環境汚染による影響です」
「現在の地球は、空、海、陸、全域に汚染が進んでいます」
「この影響が人類に大きく作用していると思われます」
「そして、疾病率の増加と奇形様状態の出生増加」
「これらも、種としての限界を指標するものです」
老人達は、安堵の表情を見せた。
しかし、ミシェルはキッとなって次の報告をした。
「しかし、人類は人為的生殖によって」
「そのバリエーションを増やそうとしています」
老人達に、どよめきが走った。
「な、なんと!」
「恐ろしいことじゃ」
ミシェルは、尚も報告を続けた。
「非常に確率の低い生態系が地球には存在しています」
「廃棄や処分、実験中止の方策も考えられますが」
「我々観察実験スタッフとしては、継続を切望するものです」
ミシェルはファイルを閉じた。
「以上で、報告を終わります」
真っ白な口髭をためた初老の男が、
ミシェルに声を掛けた。
「報告をありがとう」
「だが、継続かどうか、審議は長引くかもしれん」
「審議の最中に、人類がどうなるか、だな」
ミシェルは、初老の男に頭を下げた。
「教授、ありがとうございます」
「ホントにそう思います」
去りかけた初老の男にミシェルは声を掛けた。
「先生!」
初老の男は振り返った。
「何だね?」
ミシェルは涙目で訴えた。
「ホントは怖いんです」
初老の男はウインクをした。
「遠い星のことだ」
「そんなに根を詰めないように」
ミシェルは、初老の男にそう言われて、
気持ちを切り替えた。
地球の将来は、彼女が握っていたのだ。 |