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タイムリミット
作:神名代洸


「ハァ、ハァ、ハァ、・・・。」

あと少し、・・・もう少し逃げ切れれば・・・・。
男は必死で逃げた。
彼は警察に追われていた。
20年ほど前、付き合っていた恋人と些細な口論をしてカッとした時、近くにあった石で何度も何度も殴打して殺害したのだ。憎しみを込めて・・・。
ふと気がついた時にはすでに彼女はこときれて冷たい骸になっていた。
そんなつもりは全くなかったと言っても刑事には分からないだろう。
それよりも厳しい取調べが彼には怖かった・・・。

「俺は絶対に逃げ切ってやる!!警察なんかに捕まってたまるか!!!」

男は今は40代になっていた。
今までずっと浮浪者として生きてきたが、時効が過ぎれば堂々と歩けると思えばどうと言う事は無い。
そして警察に勝ったと大手を振って務所仲間に会いに行ってやる・・・などと考えながら。
どれくらい走ったのだろう。人の気配を感じる事が無くなって男はようやく足を止めた。

「ふぅ〜、何とか撒いたか。」

男の額には汗が光っていた。
それだけ歳をとったという事もあるが、つまり時効も近いという事だ。
暫らくすると公園の隣の道を歩いていたことに気がついた。
男は喉が渇いていたことに気付いて、警官がいないかどうかを確かめながら歩いていった。
男は気付いていなかった。木の陰から彼をじっと見ていた人影を・・・・。
人影の手には光るものが握られていた。

「っくっ・・・・よくも・・・姉さんを・・・。」

男は水道のある噴水広場まで歩いてきた。
平日は人が少なく誰も男が警察に追われている事など気付いていない。
ホッとしながらゴクゴクと水を飲むと一息ついた。

「ふぅ。生き返った。だが、時効までのタイムリミットはあと1日。あと1日で俺の勝ちだ。」

男は両腕を上に上げ勝利宣言を上げた。

「貴様に勝ちは無い。絶対に。警察が捕まえても敵を必ずとってみせる。姉さんとの約束だ。」

人影は亡くなった姉に誓った。
人影は男か女かはまだ分からない。だが、男に殺された女性の家族だろう。
男に向かって【仇】と言っていたから・・・・。
人影は男の様子を木の陰から伺い、隙を見て近づこうとしていた。
その時、近くでパトカーのサイレンが聞こえてきた。
男は近くに警察が来た事を知り、その場から走ってどこかに逃げていった。

「ちっ。」

人影もまたその場から消えていた。
男を追って・・・・・。
男は警官の服を見るとすぐに近くのものに隠れて様子を見ながら街中から出ようと必死になっていた。
だから人影がずっとつけてきている事にも全く気付く様子は無い。
どれくらい走ったか分からないほどにめちゃくちゃに走るとそこはどこかの神社のようだった。

「へへっ、ここに隠れて時効が成立するまで待っていれば俺の勝ちはもう決まったも同然だな。」

服装はもうヨレヨレになって汗でベッタリと張り付いていた。
それほどに必死だったのだ。
だがここら辺には警官がいる様子もないし、パトカーも見ていない。
ホッとして男は神社の境内に入っていった。
男は腕時計の時間を見ようとした時、近くで<カサッ>と物音がした。

「誰だ!誰かいるのか??」
「ニャ〜オ」
「なんだ、ネコか。脅かしやがって・・・。」

そして腕時計の時間を確かめた。

「あと5時間か・・・・・・。」

近くに座る所が無いかとあたりを見回すと座れそうな所が見つかり、そこに腰掛けるとようやく一息ついた。今まで一つ所にじっとしている事はなく、人づてで誰かを探していると聞けば警官がやってくる前に逃げ出していたので疲れていた。
そしてポケットからクシャクシャのタバコを取り出しマッチで火をつけた。
このタバコは浮浪者仲間から安く手に入れたものだ。
暫らくボーっとしていたが、ここからだと見つかりやすいので奥に入っていった。
幾つもの細い木々を掻き分けながら入っていくとある程度外から見えにくい場所までやってくる事が出来、そこで隠れている事にした。
そしてじっと待ってあと少しというところで<ミシッ>と何かを踏む音が聞こえた。男が音のなった方に振り向くとそこには彼より一回りくらい若い男性が立っていた。それはさっきまで男をつけていた人影の人物だった・・・。

「お前、誰だ?警官じゃないな。」
「ああ、俺は刑事じゃない。俺は・・・お前が殺した女性の弟だ。」
「弟?・・・あいつに弟がいたのか。」
「お前をずっと探していた。姉さんの仇だからな。」

そう言うなり男性はポケットからナイフを取り出した。

「おい、まっ、待てよ。いいのか?俺を警察に連れて行かなくても・・・。」

男はそう言いながら男性の様子を伺っていた。男性が油断した隙に手に持っているナイフを奪い、口封じをしたのちまた逃げようと考えていた。

「そうだな。警察か・・・。お前をあいつらに渡すつもりは無い。俺がこの手で姉さんの仇を取る為にここまで追ってきたんだからな。」
「いや、待て、・・時効まではまだ時間がある。だから俺を連れて行かないとお前は俺の仲間と思われるぞ。だから・・・・な。」

男は必死だった。何年も隠れて生きてきてようやく・・・あと数時間で開放されると思っていた。けれど被害者家族が追ってきているとは・・・・。

「お前は警察に行きたいのか?それとも警察から逃げたいのか?」
「もちろん警察からに決まってるじゃないか。」
「そうか、ならお望みどおりにしてやるよ。お前のタイムリミットを止めてやる。
永遠に・・・・。」

そう言いながら男性は男に向かっていき、男の腹部に刺した。

「グワァッ。」

男は言葉にならない言葉を言いながらその場にくず折れた。
男性は両手に手袋をはめ男性のポケットからハンカチらしい汚れた布を取り出すとさっきまで握っていた部分を念入りに拭き、男の両手で掴み直した。

「だ・・・たす・・・けて・・・くれ・・・。」

男は痛みのあまり苦痛で顔をゆがめて掴まされたままのナイフを抜こうと必死で掴んでいた。

「ガハッ。」

額に汗をかきながら何とか抜く事が出来たが、その部分からはおびただしい出血があり、やがて男は苦痛に顔をゆがめたまま事切れた。
そして男の時間は止まった。
時効までのタイムリミットは後5分だった。

「姉さん、敵はとったからね。」

男性は骸となった男をその場に残し、どこかに消えていった・・・・。














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