塔の中で
昔むかし、見るに堪えないお姫様がおりました。
その名をダストといいました。
ダストは親からも周りの従者達からも『醜い』と噂されました。
ダストが10歳になる頃には敷地の隅にある、塔の中に住まわされてしまいました。
両親は醜いダストを社交場に出したくはなかったのです。
陽を浴びることの出来ない難病だと公言し、決して社交場に出すことはありませんでした。
ダストは一人で塔の中に住み、他人の前に出ることはありませんでした。
それから5年の年月が経ち、姫の成人の儀式が行われることになりました。
この国では15歳になるとどんな家庭でも成人の儀式を行うのが通例でした。
まさか国の王家がそれを破ることなど出来るはずもなく、仕方なく儀式を行うことになりました。
ダストは真っ黒のヴェールを被り、顔が公に出ないようにされました。
式が始まると王座の横に座らされ、隣国の王子や国の貴族達が階下からダストに祝いの言葉を投げていきました。
醜いダストはお礼を告げることも許されておらず、会釈をするだけでした。
式は滞りなく進み、会場中がペアを組んでダンスを始めました。
そして一人の王子がダストの元へ来てダンスに誘いました。
けれどダストは踊れません。
ダンスをしたら顔を見られてしまいます。
首を振って断りましたが、とてもとても小さな声で「ありがとう」とお礼を言いました。
王子はそのまま引き下がり、会場の隅で姫君、ダストを見つめていました。
それからしばらく経ったある夜、塔の中で一人本を読んでいると窓がカタカタと鳴りました。
不思議に思ってそちらを見るとあの時ダンスに誘ってくれた王子がいたのでした。
びっくりしたダストは慌てて明かりを消し、近くにあったショールで顔を隠しました。
王子は鍵のかかっていない窓を開けるとそこから入ってきました。
「失礼、姫君」
王子はひざまづき、ダストの手を取ると口付けました。
思わずダストが手を引っ込めるとふと思い出しました。
ここは塔の一番上で人が窓から入れるはずがないのです。
怖くなったダストは後ろに退き、目の前の王子を恐怖の目で見つめました。
「私はあなたと同じように自由を奪われ、畏怖の目で見られる存在です」
そう言って王子は帽子を取りました。
そこには人ならぬモノ、獣の耳がありました。
ダストは声を上げないまま叫び、尻餅をついたその拍子にショールが取れてしまいました。
恐怖でショールを直すことも忘れ、震えていました。
「あなたも私と同じように・・・?」
震えた声でダストは王子を見上げました。
帽子を被り直した王子は優しく姫君を立ち上がらせ、顔を真っ直ぐに見つめました。
そのとき初めて自分がショールを被っていないことに気付いたダストは、両手で顔を覆い隠しました。
「なぜ顔をお隠しになるのですか?」
心配そうな王子の声にダストは涙を流しました。
「私は醜いのです。親が見捨てるほどに。だから見ないで下さい・・・」
「そうおっしゃるのなら私は見ようとは致しません。ただ私はあなたともっとお話がしたい」
王子は姫君にショールを被らせると椅子に座らせ、外の世界の話をしました。
時間が経つのも忘れてさまざまな話をしているうち、ダストは獣の耳を持つ王子、キラーに心を奪われてしまいました。
それからと言うものダストは時折現れるキラーに心を馳せるようになりました。
けれど醜いダストは思いを伝えることはしませんでした。
王子はもっと素敵で美しい姫を愛するだろう、醜い私では王子には釣り合わない、そう考えました。
そんな時キラーは告げるのでした。
「私はあなたを知るたび、あなたに惹かれています。国を捨ててこの私と一緒に暮らしませんか?」
紳士的に語るキラーはダストの手を握り、祈るように言いました。
「いけません、あなたは美しい姫君と幸せになるべきです」
手を振りほどいてダストは立ち上がり窓を開けました。
「私はあなたなしでは幸せになれません。私はあなたを愛しているのです」
キラーは縋るようにダストの手を取り自分の額に付けました。
「そのようなことを言わないで下さい!!・・・あなたはもうここに来ないで下さい」
ダストは涙を溜めた目でキラーを見つめました。
「なぜですか!?あなたは愛されることを知るべきだ!!外の世界をもっと知って、そして私を愛して欲しい・・・」
「あなたはここを出て私を忘れるのです。美しい姫君と幸せになって下さい。あなたの幸せが私の幸せです。・・・だから、さようなら」
手を外し、立ち上がらせるとダストは手を振りました。
その瞳には涙が溜まり、今にも零れようとしていました。
「私は必ずあなたをこの塔から連れ出してみせます。・・・決して忘れはしない」
キラーはそう言い残し、夜の闇に消えていきました。
ダストは何度も泣きました。
愛した人を傷つけることが、自分を偽ることが、こんなにも辛いと初めて知ったのです。
後悔しても王子はもう窓から姿を見せることはありませんでした。
それからも塔の中で暮らし続け、初めて寂しいという感情がダストの中に生まれました。
十数年の歳月が経ち、ダストの元に訪問者が現れました。
この国には珍しい、魔女でした。
その横には母親のナーシャがいました。
「その醜い顔を変える魔法をしてもらうわ。ただ代価としてあなたの寿命が20年になる。でもその醜い顔で生きるよりはいいでしょう?」
ダストの顔など見てもいないナーシャの言葉にダストの心は深く傷つきました。
醜くても生きていたいのに、ナーシャは命を削ってでも美しくあれと言ったのです。
涙を流しながらもダストは魔法をかけられました。
醜かった顔は見る見るうちに美しくなり、国一番の美貌を手に入れました。
しかしダストは美しさの代わりに余命20年と宣告されてしまいました。
そして美しい姿になったダストは初めて社交場へ行きました。
そこには隣国の王子たちもいました。
しかしそこにキラーの姿はありません。
ダストは彼を探しましたが、見つけることは出来ませんでした。
ダストは両親の勧めで他国の王子と結婚させられてしまいました。
それでもキラーを忘れられず、さまざまな社交場へ赴き、キラーの行方を探しました。
探し続けて行方が分からないまま19年が経ちました。
あと1年でダストは死ぬ運命にあります。
ついにダストは心労で倒れてしまいました。
結婚相手の王子はダストの願いで、残りの1年を塔の中で過すことを許してくれました。
ダストは月を眺めながらキラーを思いました。
あの時一緒に塔を抜け出していたら幸せだったのか、長い一生を共に過せたのか・・・神は悪戯に人の心を動かすのか。
そんなことばかりをダストが考えていると窓がカタカタと鳴りました。
そしてそこには帽子を被り、あの日のままのキラー王子が現れたのでした。
出すとはベッドから起きると窓を開けました。
「やっと会えた・・・あなたと別れてから国の権力を手にし、あなたの国を私のものにしました。さぁ、あなたは自由だ」
キラーは告げると、ダストの手を取りそこにキスを落としました。
「あなたを愛しています」
ダストは涙を流し、嘆き悲しみました。
「私の寿命はあと僅かしかありません。美しい顔の代わりに命を削ってしまったのです」
「そんな・・・やっとあなたをここから連れ出せると思ったのに・・・昔のままでいい、ただただあなたと生きていたかった」
キラーはダストを力の限り抱き締めました。
王子の腕の中は心地よく、ダストは体の力を抜きました。
そしてダストは深い眠りについたのです。
キラーは腕の中のダストにそっと口付け、涙を流しました。
ダストは思いを伝えることが出来ないまま、深い深い眠りについたのでした―――。
以前書いた物語です。ネコはこのお話が気に入っていたので投稿させて頂きました(=^・ω・^=)皆さんにも気に入って頂けると嬉しいです。
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