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他人占い
作:中華


高校が終わり、校門から出てくる二人がいた。
天海水羽あまみみずは絵川聡梨えがわさとりだ。
「ねぇねぇ、他人占いって知ってる?」
「は?何それ?」
聡梨が切れ長の目を細め首を傾げた。
「何かね、自分以外の人の事を教えてくれる占い屋が出来たんだって!」
「ふーん、でも、他人の事を知って何か意味あるの?」
「あるよ。だって、芸能人とか直接面識無いじゃん。好きな人とかっ」
水羽は言って楽しそうに笑う。
「芸能人の事は正直当たってるかわかんないけどねー
他はよく当たってるって噂になってるんだよ。
過去とか、その人がある事についてどう思ってるかとか、
これからどう言う運命を辿るのか明らかになっちゃうんだって」
「成る程」
ほんの少し興味が出た。
「ねぇ、聡梨ちゃん」
「何?」
「ほら」
と、水羽がたまたま自分達の前を歩いていたクラスメイトの後ろ姿を指差した。
長い艶やかな黒髪が風になびいている。
その女、三田美衣緒みたびいおはモデルのように美しい顔をしており、
高校生と言うよりは大学生に見える大人びた雰囲気を持っていた。
彼女については良い話しを聞かない。
小学校の頃から気に入らない男の子どころか、
女の子まで叩き伏せていたそうだし(空手を習っているらしい)、
他人と関わる事に興味が無いようで誰かと話しているところを見た事が無いし、
自分達含めたクラスメイトはおろか先生も怖がって彼女を避けていた。
「聡梨ちゃん?」
衣緒の事を考えていた聡梨は水羽の声で我に帰った。
「思ったんだけど、ね、試しにさ、三田美さんの事占ってみよーよ」
「今の話しほんと?私も行きたーい」
急き込んだように割って入って来たのはクラスメイトの月原夕砂つきはらゆうさ
小柄で元気いっぱいの可愛らしい女の子だ。
「私もその占いすっっごく興味あって、
行きたいなー行きたいなーって思ってたんだけど中々予定合う人いなくてさー
この先にあるんだってね」
「ふーん…」
聡梨は興味なさそうな返事をした。
そこまでして彼女の事を知りたいとは思わなかった。
かといって知りたくないわけでもないが。
「行くよね?」
水羽が確認するように聡梨を見る。
「うーん…」
「はい決定!」
夕砂が勇んで二人の手を引いて歩き出した。
三人は店へ向かった。
店は洋風の建築で、占い屋と言うより小さいお洒落な喫茶店のようだった。
椅子に座って待っていると、背の低い女が奥から出て来た。
「いらっしゃい…私が占い師の加上由子花かじょうゆしかよ」
彼女の歳は三十後半から四十後半だろうと聡梨は思った。
厚化粧の映える顔に艶やかな笑みを浮かべている。
「誰から始める?」
水羽が答える。
「あの、私、お願いします」
由子花はほほほ、と笑った。
「緊張なさらないで」
「あの、私、クラスメイトの三田美衣緒さんについて教えて欲しいんです」
水羽の言葉に、彼女は頷いた。
「お安い御用よ」
「早く早くー」
夕砂の言葉を聞いて由子花は笑った。
「これから徐々に見て教えてあげるわ」
由子花は透明な、トランプに似たカードの束を取り出した。
よく見ると、白くうっすらと文字のようなものが浮かんでいる。
「さぁ、三田美衣緒さんの何が知りたいのかしら?」
気がついたように一言つけ加えた。
「あなた達は三田美さんについてどれくらい知っているの?」
問いかけに、水羽と夕砂は衣緒について知っている限りの事を話す。
聞き終わってから、由子花はカードを透かして、どこか遠くを見ながら何度も頷いた。
「本当、とても綺麗な子…それに優しい子ね。
三田美さんの周りにいる誰よりも心が真っ直ぐで強いわ」
三人は目を見開いた。
「えぇーっ本当ですかー?」
夕砂が声を上げる。
「えぇ、事実よ…三田美さんは一人でいるのが好きなのね。とても落ち着くみたいなの」
「はい、いつもそうです」
頷く水羽に夕砂は
「誰かとあの人が喋っているとこ見た事無いしねー」
と言った。由子花が続ける。
「あぁ…それと、歌うのが好きね」
聡梨の顔に意外そうな表情が浮かび、少し身を前に乗り出した。
「そうなんですか?」
「三田美さんて友達いるんですか?」
夕砂の声が聡梨の声を押しのけてしまった。
由子花は目を細めて夕砂を見つめ、別のカードを取るとそれを見ながら口を開いた。
「三田美さんにはたった一人、心を許せる人がいるの。
それは家族でも、クラスメイトでもないわ」
「え!?男ですか?女ですか?」
と夕砂が素っ頓狂な声を上げた。
「年上の男性よ」
由子花は言って、くすっと笑う。
「どんな人ですか?」
「背が高くて…空手を教えている。
彼も、とても強くて優しい心を持っているわ」
「空手道場の阿曽川あそがわさんだ!絶対そう!」
「うん!だね!」
夕砂と水羽が口々に言う。
「心のどこかで、ずっと誰かに助けてほしがっていたのを感じる…
三田美さんに、色々な人が悪意に満ちた視線や言葉、
暴力をぶつけて来る中、彼だけが優しくしてくれた、
話しをちゃんと聞いてくれたって思ってるのを強烈に感じるわ」
それを聞いて、聡梨は思わず声を出していた。
「三田美さんは、道場の人の他に友達欲しいって思ってるんですか?」
言ってしまった後、表に出さないよう努めつつびっくりしていた。
自分は彼女と友達になりたいようではないか。
「彼女は、本当は、彼とだけではなくて、色々な人ととても話したいの」
由子花は聡梨に優しく言って、また別のカードを手に取る。
「でも、話せない…?」
首を傾げ、しばらくカードを見つめた。
「いいえ、話せないのではなく、話さないのね。
いつかはあなた達と対等な立場に立てるだろうと思ってるけど、
まだ時期じゃないと思ってるわ。
それに彼女、誰もが弱いものを襲う本能があるのを理解しているから…
自分を戒めて、わざと今の状況に甘んじているの」
「それって、わざと自分を犠牲にしてるってことですか?どうしてですか?」
今度は水羽が首を傾げる。由子花は意識を集中し、
「今はもう、ほぼ手の尽くしようが無いのを感じ取っている。
本気を出せば改善出来ない事は無いのだけれど、彼女はそれに魅力を全く感じないみたいね」
「犠牲なんて、誰も頼んで無いじゃん。ま、本人が納得してるなら、しかたないよね」
と、夕砂。
「彼女は疲れている。長い間、根も葉も無い噂を流したり、
彼女を語って予定を変更したりしては、
周囲を不審に思わせる心無い人達に囲まれて神経を擦り減らしているから」
「疲れてる…?」
彼女が、疲れている?とてもそうは見えないけど。
と、聡里は軽く肩を竦めた。由子花が次のカードを引く。
突然、水羽が声を上げた。
「三田美さん、いつも、何を考えているのかわかります?」
「今の彼女は、とても苦しんでいる。
でも、色々な思いに蓋をしているせいで、自分が何故苦しいのか分かってないの。
今はただ、死にたい。けれど自分は臆病で自殺出来ない。
殺して欲しい。誰か殺してくれないか。一瞬がいい。それだけなの」
由子花の言葉の後、聡梨は何となく、中途半端な質問をするのははばかられて黙っていた。
「え、えぇと…これからの三田美さんの運命って、どんな感じなんですか?」
ぼんやりとした表情を浮かべていた水羽が、戸惑いがちに聞く。
「彼女の運命は、高校を卒業してから大きく変わるわ。よい方も、悪い方も」
首を傾げながら、再び水羽は聞いてみた。
「悪い方って?」
「元々、長生き出来ない運命にある子なの」
「えっ」
「何で?」
夕砂は不審そうな表情を浮かべた。
「この子、自分からではないけれど、よく喧嘩をするでしょう?」
「うん、そう言う噂」
「本能で、長く生きられない事を悟ってるわ。だから、余計に動き回りたいのね」
所詮は占い。
本当の事ではないかもしれないにしろ、聡梨の胸に、同情のような感情が込み上げて来た。
どうしたらいいんだろう、自分が出来る範囲で助かるなら、
助けてあげたい。気持ちだけでも。ここへ来る途中、すれ違った彼女の背中を思い出した。
次の日の朝、聡梨は水羽と共に、不良三人を軽々とのした衣緒を見つけた。
三人は悪態をつきながら逃げて行く。
「すごいわ、信じられない」
と、聡梨。
「本当、強いのね〜」
と、水羽が手を叩きそうな勢いで言った。
声が聞こえたのか、彼女と目が合った。
その目は虚ろで、確かに『死にたい』と言っているように見えた。
「あっ聡梨と水羽!」
二人の後ろから、夕砂が彼氏と歩いて来て、立ち止まっている二人に手を振ってすれ違う。
「今なら、自殺したい人が喜びそうなサイト、沢山あるのになぁ」
小さくない声で、こう言ってるのが聞こえた。
「は?いきなり何言ってんだお前?」
「べっつにー」
夕砂は横目で、衣緒を見遣りながら通り過ぎる。
「この前例の占い屋で、ある人の事を占ってもらったの。
で。その人今すっごく死にたがってるらしくって。
占い師が言うには運命の別れ道の日が迫ってるって。今の辛さに負けて死ぬか、考え直すか。
生きてれば、運命が好転して楽しくなるのに、馬鹿だよね。
どっちみち長生きは出来ないみたいなんだけどー」
へぇ、と彼氏はたいした関心も無さそうに呟いた。
聡梨と水羽が衣緒を見ると、彼女は、夕砂と彼女の彼氏が立ち去った方を向いていた。
「ねぇ」
と、水羽が勇気を出して衣緒に近づいて、少々びくつきながら話しかけた。
「今、辛い?」
衣緒が振り返る。
「怪我なら、無いけど…?」
と衣緒は、用心深そうに水羽を見ながら言う。
聞き慣れた声ではなかったが、思っていたよりずっと柔らかい。聡梨が口を挟む。
「見ていたからわかるわ。そうじゃなくて、変なこと、言うけど三田美さんは、
人に涙を見せられる状況では無い…と勝手に思ったの」
言いながら、何で緊張してるの私、と心の中でごちた。
衣緒は、困惑した様子で、二人を見下ろした。
「よく分からない…けど…?ありがとう。私、学校に行くわ」
言って、彼女は目を細めて、坂の上にある学校を見上げ、坂を登り始めた。














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