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ほぼ恋愛なし系

トエといっぱいのシュガー



 ピュウーと冷たい風が吹いて、小さな町に冬がやってきました。
 その小さな町のすみっこには、赤いレンガでできた小さなお家が建っていて、そこにはこれまた小さな男の子、トエが住んでいました。
 冬がきてくれるのをずっとずうっと待っていたトエは、それを教えてくれた冷たい風にありがとうをつたえようと、小さな町の中をあっちにこっちに走ってまわります。

「かぜさん、かぜさん、ありがとう。
 はやくふれふれ、しろいユキ。」

 ニコニコ笑顔のトエは、冷たい風にありがとうを言い終わると、今度はちょっとでも早く白い雪が落ちてきてくれるように、お空に手をのばしてピョンピョン飛んでまわりました。

 トエの住む小さな町には、冬になるとたくさんの雪が落ちてきます。
 雪がたくさん落ちたあと、子どもたちはみんな、自分とおんなじくらい大きな雪だるまをひとつ、作ることになっていました。
 小さな子どもはおとなの人といっしょに、大きな子どもは自分ひとりで。
 そうしてがんばって完成させると、その雪だるまに神様が冬の間だけのお友達として、イノチを与えてくれるのです。

 ただ、イノチをくれるといっても決まりはありました。
 おとなだけで作ったものはいけないだとか、子どもがひとりに雪だるまがひとつだとか、大きさは子どもの背と同じくらいまでだとか、うでをふたつ作ることだとか、イノチは一度の冬にひとつだけだとか、ヒドくあつかう子にはもうイノチはくれないだとか、ほかにも覚えられないくらいいっぱいの決まりがありました。
 でも、それでも子どもたちはみんな、雪だるまを作ります。
 だって、やさしくて、力もちで、物知りで、たくさんたくさんあそんでくれて、自分やお家を守ってくれる、そんな冬のお友達のことが、みんな大好きでしたから。

 トエももちろん、雪だるまのことがとってもとっても大好きでした。
 だから、冬がきてくれたことがうれしくて、早くお友達に会いたくて、こうしてお空に話しかけているのです。

「シュガー、シュガー。ぼくのシュガー。
 はやく、ぼくにあいにきて。」

 シュガーというのは、トエが雪だるまにつけてあげた名前です。
 遠い遠い場所にあるどこかの国では、お砂糖のことをそんな風に呼ぶのだそうです。
 だからトエは、白くて甘くて大好きなお砂糖の名前を、白くてやさしくて大好きなお友達につけてあげたのでした。



 お家のお外にはいつだって冷たい風が吹いていたけれど、寒さなんてへいちゃらなトエは、毎日毎日町の中を走りまわり、毎日毎日お空を見上げ話しかけていました。
 そうしてトエのゆびの数ではぜんぜん足りないくらいにたくさん寝て起きたころ、ようやくまっ白い雪が小さな町に落ちてきたのです。
 雪はあっという間にフブキに変わり、トエはお家の中でドキドキワクワクしながらフブキの終わりを待っていました。

 雪がきて、フブキに変わり、お家でいっぱい眠って起きたら、お日さまが出て雪だるま作り。
 それは、おとなも誰も知らないくらいずうっと昔から続いている、小さな町の習慣でした。

 まだまだマドもまっ白けっけな、ある朝のことです。
 早く雪だるまが作りたくて、どうにもウズウズが止まらないトエは、少しだけお外に行ってみようと考えました。
 でも、モコモコと厚着を終えてお外に出る前に、トエはおかあさんにつかまってしまいました。
 トエのおかあさんは、かってにお外に出ようとしたトエを、プンプンガミガミ怒ります。
 プンプン怒ったおかあさんが、とってもとってもこわかったので、もうトエはどんなにウズウズしても、お家の中で待っていようと思ったのでした。

 それからフブキがいなくなるまで、トエは四回もベッドに入らなくてはいけませんでした。
 目がさめて、マドから青いお空とあたたかいお日さまが見えていることが分かると、トエはすぐにパジャマを着替え、おいしい朝ご飯をお腹いっぱい食べてから、お外にワーっと飛び出します。
 長く続いたフブキは、小さな町をすっかり白くしてくれていました。
 お外に出たトエは、それはもういそいで、でもすぐにこわれてしまわないように、しっかりとした雪だるまを作りはじめます。
 さすがに、もう何度も冬を過ごしてきたトエですから、雪だるま作りはすっかりお手のもののようでした。
 とってもがんばって作ったおかげで、トエの雪だるまは、お昼の鐘がなるよりもずっと前にでき上がりました。
 そうして作られた雪だるまは、トエの期待にこたえるように、すぐにお友達として動き出します。

「トエ、トエ。ボクのともだち。
 トエにあえるの、ずっとまってた。」
「ようこそ、シュガー。いらっしゃい。
 ぼくも、ずうっとあいたかった。」

 春と夏と秋をこえて、ようやくガマンの終わったふたりは、ニコニコ笑顔で抱きしめあいます。

「うれしい、うれしい。さあ、あそぼう。
 ハルがくるまで、いっぱいあそぼう。」
「うん、トエ。あそぼう。いっぱいあそぼう。
 のんびりしてたら、フユがおわっちゃう。」

 うふふと笑って、おててをつないで、ふたりはさっそく遊びの相談。
 トエはシュガーと遊ぶために、それから毎日お外に出かけるようになりました。

 ある日はふたりでかくれんぼ。
 ある日はふたりで坂すべり。
 ある日はふたりでおいかけっこ。
 ある日はふたりでダンス大会。
 ある日はふたりで缶をけって。
 ある日はふたりでジャンプきょうそう。

 知っている遊びがなくなれば、今度はふたりで新しい遊びを考えだして、また楽しく遊びました。
 たまには町のみんなと一緒に遊ぶこともあるけれど、トエとシュガーはふたりだけで遊ぶのがいちばん楽しいと思っていました。
 そうして毎日楽しく過ごしていたトエとシュガーでしたが、冬が半分くらいすぎたころに、ふたりが仲良くなくなってしまうある事が起こってしまいます。



「……どうして、シュガー。なんでなの?
 つぎのフユは、あそべないなんて。」
「だって、トエ。きまっているんだ。
 つぎのシュガーは、ちがうシュガーって。」
「ちがうシュガー?
 ちがうシュガーって、なんのこと。」
「ユキだるまひとつに、イノチがひとつ。
 こわれて、とければ、もう、あえない。」

 シュガーからそんなことを言われて、トエはとってもビックリしてしまいました。
 雪だるまひとつに、イノチがひとつ。
 つまり、今のシュガーの中には、トエの知らない新しいイノチが入っているということなのです。

「シュガーは、シュガーじゃなかったの?
 シュガーじゃないのに、シュガーっていって、ずっとウソをついてたの?
 なんだか、そんなの……そんなの、ひどいや!」

 あーんあーんと泣きながら、トエはお家の中に入っていってしまいました。
 お家の中はポカポカ暖かいので、カラダが雪でできているシュガーには入ることができません。
 だから、シュガーはお家のドアをいっしょうけんめいたたいて、トエに話しかけました。

「もどってきて、トエ。あそぼうよ。ボク、ウソなんか、つかないよ。
 シュガーにきいて、まってたよ。トエとあそぶの、まってたよ。」
「いやだ、うそつき、シュガーのにせもの。
 おまえとなんか、あそばない。」

「もどってきて、トエ。あそぼうよ。にせものなんて、どこにもいない。
 シュガーはみんな、シュガーだよ。トエのともだち、シュガーだよ。」
「いやだ、うそつき、シュガーのにせもの。
 ぼくのシュガーは、ひとりだけ。」

「もどってきて、トエ。あそぼうよ。トエとあそぶの、まってたよ。
 みんなみんな、トエがだいすき。トエのともだち、シュガーだよ。」
「いやだ、うそつき、シュガーのにせもの。
 もうユキだるまは、つくらない。」

 トエはお家で、シュガーはお外で、あーんあーんと泣きました。
 さて、困ったのは神様です。
 このままシュガーが泣いてもどれば、シュガーはきっとこう言うでしょう。

「もう、ちじょうには、いきたくない。」

 さてさて、大変。どうしましょう。 
 実は、神様が雪だるまにくれるイノチは、これから一年の内に新しく赤ちゃんとして産まれてくる予定のイノチなのです。
 この冬のお友達という習慣は、産まれることをこわがるイノチたちに、地上はこわくないよ、楽しいよ、ということを分かってもらうために作られたのでした。
 けれど、今のシュガーのように、悲しいまま神様のところへもどってきたイノチは、産まれることをイヤがるようになってしまいます。
 それに、もどってきたイノチから話を聞くために集まっている、次の新しいイノチたちだって、雪だるまになるのをイヤだと言うようになるかもしれません。

 神様はとても困ってしまいました。

 ふたりに仲直りしてもらって、また来年もトエに雪だるまを作ってもらうには、いったいどうしたらよいのでしょう。
 トエがひどいからもうイノチをあげない、なんてことは、神様は言いたくありませんでした。
 だって、トエほど冬のお友達を楽しみに待っていてくれて、トエほどたくさん雪だるまと遊んでくれて、トエほどイノチたちに愛された子どもはいなかったのです。
 うーんうーんと神様が困っている間にも、地上の様子はどんどん変わっていってしまいます。
 シュガーの話を聞きたくなくて、トエはおふとんにもぐって泣き、トエに返事ももらえなくなったシュガーは、ドアから離れてお庭のすみで泣いていました。
 あーんあーんと泣き続けるシュガーの雪だるまのカラダは、流れるナミダの数だけ、どんどんと小さくなっていきます。
 早くなんとかしないと、シュガーが悲しいままもどってきてしまう、と思った神様は、たくさん泣いて、疲れて眠ってしまったトエに、ある夢を見せることにしました。



『シュガーって、なまえをもらったんだ!
 まいにち、いっしょにあそんだんだよ!』
『シュガーにきいてたとおりだった!
 トエは、すっごくステキなおともだちなんだ!』
『とっても、とっても、たのしかった!
 またトエといっしょにあそびたいなぁ!』
『シュガー!ボクは、トエのともだちシュガー!
 きっとキミも、トエがだいすきになるよ!』
『ボクも、シュガーってよんでもらえたんだ!
 トエみたいにステキなこは、ほかにいないさ!』

 それは、お空にもどったシュガーが楽しそうにトエのことを話している夢でした。
 最初に作ったシュガー。その次の冬に作ったシュガー。またまた次の冬に作ったシュガー。
 どんどんシュガーが出てきては消え、出てきては消え、楽しそうにトエの話をしていました。
 みんなおんなじ姿だったけれど、トエにはちゃあんといつの冬に作ったシュガーなのか分かりました。
 みんなみんな、トエの大好きなシュガーでした。

『トエ、トエ。ボクのともだち。
 はやくシュガーって、よばれたい。』

 そうして、夢のさいごにトエが見たのは、今お庭にいるシュガーが地上にくる前の姿でした。
 でも、そこからきゅうにまっ暗になって、シュガーの雪だるまのカラダがどんどんとけていって、ついには水たまりになってしまいます。
 それにビックリしていると、いつの間にか、トエは自分のお家のお庭に立っていました。
 カラカラという音がして、トエが足の方を見れば、シュガーの赤いバケツのぼうしが転がってきます。

『しゅ……がー……?』

 バケツをひろって、抱きしめて、トエはシュガーを探して走り出します。
 でも、お庭も、小さな町の中も、ぜんぶぜんぶ探したけれどシュガーはいなくて、もうどうしたらいいのか分からなくて、トエは町のまん中で立ち止まってしまいました。
 いつも吹いているピュウピュウという冷たい風の音が、トエにはとても悲しく聞こえました。

 そこで、ハッと目をさましたトエ。
 トエはすぐにベッドから飛び起きて、ハダシのまま走ってお外へ出ていきました。

「シュガー!シュガー!ぼくのシュガー!!」

 いそいでお庭に行くと、そこにはトエの半分くらいの大きさになってしまったシュガーがいました。

「シュガー!!」
「……トエ?」

 きゅうに走ってきたトエにビックリして、シュガーは泣くのも忘れて、丸い石の目をパチクリさせます。
 トエは、シュガーの雪だるまのカラダがまだ水たまりになっていないのを見て、よろこんで抱きしめました。

「よかった、シュガー!ぼくのシュガー!
 だいすきだから、ともだちだから、おみずになんてならないで!
 ハルがくるまで、ずっといて!」

 そう言って、トエはまたあーんあーんと泣き出します。
 どうしてか分からないけれど、またお友達と呼んでくれるようになったトエを、シュガーは笑って抱きしめ返しました。

「トエ!トエ!ボクのともだち!!」



 こうして、すっかり仲直りしたトエとシュガーは、今年の冬も、その次の冬も、そのまた次の冬も、トエがおとなになってしまうまで、ずっとずうっと一緒に楽しく遊んだのでした。



 おしまい。

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