魔法のスティック
遊森謡子様企画、春のファンタジー短編祭『武器っちょ企画』に乗っかってみました。
●短編であること
●ジャンルは『ファンタジー』
●テーマ『マニアックな武器 or 武器のマニアックな使い方』
お題にちゃんと沿っているでしょうか?
ピンチである。紛う方なき絶賛大ピンチである。目の前にはうぞうぞと沸いて出た魔物。そしてこちらはと言えば、戦えるのは現時点で俺ともう一人の二人だけ。
「……どうするんだよ、この状況」
「そりゃあ戦うしかないでしょう。君が」
「って俺かよ!!」
「当たり前でしょう。そのために君を召喚したんですからね。僕は神官だから戦闘は出来ませんよ。なに、傷ついたらちゃんと癒しの術で直してあげますから」
「それって怪我するの前提だよな? そりゃそうだよな? これだけの数の敵を前に、俺一人に戦わせようっていう、てめえのその根性こそが信じられねえよ!!」
「うるさいですねえ。わめく暇があったらとっとと支度してちゃっちゃと倒しちゃってください。あの子が目を覚ましてしまうでしょう?」
「ぐう」
くそう、こいつには一度も口で勝てた試しがなかったのだ。
俺の名は新藤護。つい三ヶ月ほど前にここにいる神官とか言ってる奴、エネによって日本から召喚された大学生男である。
召喚なんて本当にあるのかよと最初は思ったが、どう考えてもここ現代社会じゃねえし。しかも魔法とかあるし。それで諦めて、元の世界に戻る為にエネに強力する事になった。
そう、この世界には魔法がある。魔法……魔法ね……。
「さあ、マモル。君の実力を彼らにも教えてやりなさい!」
「うるせえ! てめえはあいつと一緒に昼寝でもしてやがれ!!」
そう、この魔法が問題なんだ……。くそう、なんだってこんな事になったんだよ!
エネは俺を召喚する際に、向こうの知識、情報なんかも一緒に自分の頭に引き入れたんだ。こっちで実用化出来るような技術なら実用化させようとか思ったらしい。
そしてその情報の中には、何故か現代日本での『魔法』に関するものも、含まれていたのだそうだ。
それはいい。現代日本に俺の知らない魔法があったって。俺に実害がなければな! だが!!
「実害ありまくりだっての!!」
俺は仕方なく、本当に仕方なくはいているジーパンのウエスト部分にぶら下げていた、ちょっと大きめのストラップに見える「それ」を引き抜いた。
これは俺を召喚したエネが、俺専用にと作った『武器』だという。俺以外の人間には扱えず、また俺もこれを使わなくては力を発揮出来ない。そんな、武器と言うよりは、もはや呪いのアイテムのような代物である。
それを右手に持って、そのまま水平に持ち上げる。深く深呼吸をして……覚悟を決めた。
「ラブリースティック! オープン!!」
その俺のかけ声に、手の中にあったそれはぽん、という擬音でも聞こえてきそうな感じで大きくなった。丁度俺の手にしっくり収まるくらいに。
その手に収まっているもの、それは、ピンクの柄に、頭に当たる部分には赤いハートのオブジェ、ご丁寧にハートには小さな白い羽根までついてやがる。
柄の部分にもランダムにハートがプリントされていて、どこからどうみても、女子向けや大きいお友達向けのアニメでよくある『魔女っ娘』が持つようなアイテムだ。いわゆる魔法のスティックというやつだ!
何故!? どうして!? そこで魔女っ娘なんだ!! 召喚したの男なんだから、そこは何とか仮面が持ってるステッキでいいだろうが!!
なのにエネの奴、
「君のいた国の魔法の道具なのだろう? それならいいじゃないか。君は魔法使いなんだし」
そう、俺はこの世界に魔法使いとして召喚されたらしい。でも! 魔法使いであって魔女っ娘じゃねえんだよお!!
現代日本の知識を中途半端に取り入れているエネには、その差がわからないらしい。たまにわざとやってるんじゃないかって思うけど、そうでもないようだ。
だったら召喚するのも女にしておけよ、と思うのだが、そこら辺りはうまくはいかないらしい。
「一番魔力の強い人間を選んだら君だったんだ」
仕方ないだろう? と言われてしまえば、俺にはそれ以上何も言えなかった。
だが考えてもみてくれ。ごつい男が、二十歳も超えた男が、女子児童が買ってもらいたそうなスティックを振っている姿を。どんな視覚の暴力なんだ。
それを切々と訴えた事もあったが、最初の五分ほどで却下された。くそう、エネめ。
「はー……仕方ねえ、やるしかねえってか?」
このスティック、こんな見た目ではあるが、威力の程はすさまじい。あのエネが太鼓判押すのも頷けるってものだ。だが。
この呪いのアイテム……じゃなかった、俺専用の武器にはまだ問題がある。それは、魔法を発動させるときの事だ。
「……世界のみんなの為に! ラブリーパワーヒーーート、オン!」
……この『溜め』が重要なのだ。ここでどれだけ溜めたかによって、放出される魔法の力が変化する。あと、最初の一言も魔法の呪文の一部だ。一部だったら一部なんだ。俺が好きこのんで言ってるわけじゃねえ!
ちなみに今使ったのは熱波攻撃。これが氷結攻撃だとヒートオンの部分がアイスクラッシュに変化する。雷の場合は……いや、もういいか。
スティックから発せられた熱波攻撃により、敵は一掃された。かに見えた。なんと今回はおまけがついている。
「はーっはっはっはー! ここで会ったが百年目! 今日こそはにっくき貴様らを倒してくれるわ!」
この頭の悪そうな台詞を吐いたのは、一応悪の大神官とされているマルトというやつだ。お前……なんでこのタイミングで出てくるんだよ! 今日はこれで終わったと思ったのに! しかもこいつも日本の情報半端に入れてやがるな! 何がここで会ったが百年目だ!
「……やっぱりやるのかよー」
「何をぶつくさ言っている! 今日という今日は、貴様を倒し」
「ラブリーパワー、パワーーアーーーップ!」
これも溜めが大事だ。ここで以下略。俺の手の中で、スティックが光を発し、形状変化していく。
光が収まった時に現れたのは、柄の部分が若干長くなって、ハートの真ん中にきらきら輝くジュエルがはまり、その周囲にも小さめのジュエルが無数についている、スティックのバージョンアップ版だった。
ちなみにハートに付いていた羽根は、枚数が四枚に増えて大きさも大きくなっている。……無駄に手が込んでるよな、本当に。
「うぬう、おのれえ! 相変わらず卑怯な真似を!!」
いや、どこが卑怯なのか、三十文字以内で述べよって感じだよ。大体悪の大神官とか言われてるくせに、卑怯とかどの口が言うか。あれか? 『悪の』じゃなくて『開くの』大神官か? 何が開くのか知らねえけど。
とりあえずとっとと終わらせて、この羞恥プレイ時間から俺を解放してやらないと。俺のライフは限りなくゼロだっての。
「ふふん、だがしかし、我々がいつまでもやられっぱなしだと思ったら」
「みんなの夢を守るため、みんなの平和を守るため、輝け! シャインラブリーパワーエクスプロージョン!」
ここに溜めは必要ない。その代わり必要なのは、振り付けである。スティックを持って、それを振りつつ、ちょっとしたポーズをいくつか取る訳だ。くそう、これも人に見られたくないものベスト3に入るぜ! ちなみに1位がこれで、2位は先程のスティックを大きくしてる時だ。
腕を振り上げ、ポーズを決めて、今度はスティックを下から上へゆっくり円形状に持ち上げていく。それが頭上の位置に来た時、ハート部分が輝きだした。
そしてハート部分から放たれた光球が、ものすごい早さででかくなり、敵を包み込んで大爆発、するのだ。本当に。
「うぎゃああ! お、覚えてろよ~」
捨て台詞だけは悪役らしいよな、あいつ。
こうして戦闘は終了した。俺も無傷だし、もちろん後方に下がっていたエネも無事だ。それに、エネが張った結界の中でぐっすり寝ていたあいつも。
「マモル、終わりましたか?」
「ああ、もう敵はいねえよ」
「そうですか。だそうですよ、良かったですね、ファナ」
「うん! マモ! ありがとう!!」
そう言って満面の笑みを向けるのは、金髪碧眼の人形みたいに綺麗な女の子だ。本当なら俺の持ってるスティックも、この子にこそ似合いそうなのにな。
見ればスティックはもう元の大きさに戻っている。戻るのは俺の意志一つで、特に呪文も何も必要ない。
だったら術の発動なんかにも必要ないように作っておけよ! とエネを問い詰めた事があるが、奴め、あっさりと言ってのけやがった。
「だって、そういうのを使う魔法使い達って、ちゃんと呪文を使っていろいろしてるだろう? だったら君もそうしなきゃ」
何故そこで『なければならない』になるのかが不思議だ。だがそのことでエネを責めたところで意味はない。それだけは骨身に染みて知っている。
「マモ? 大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ。ファナはよく眠れたか?」
「うん! マモとエネのおかげだね!」
そう言って笑うファナの頭を、俺はなでた。ファナ。俺とエネが守るべき存在。今は七歳の子供だが、後八年後には、世界を救う勇者となる子供だ。
その時まで、あらゆる敵からファナを守る。そのためにエネは俺を召喚したのだ。そしてファナが勇者となった暁に、おれは元の世界に戻れる。
ただここで一つ疑問があるんだが。戻れたとして、それはあの召喚された時間に、そのままの姿で戻れるって事なんだろうか?
実は初短編w