契約の姫魔女(武器っちょ短編)
遊森謡子様企画の春のファンタジー短編祭(武器っちょ企画)参加作品です。
●短編であること
●ジャンル『ファンタジー』
●テーマ『マニアックな武器 or 武器のマニアックな使い方』
無謀にも参加してしまいました。
私の名前はロリア。
この世界に蔓延る異生(魔物)と呼ばれるモノを退治するのが役目のハンターをしている。
異生ってやつはグロイ。キモイ。そして強い。角だの牙だの生えて気持ち悪い格好しているくせに魔法も使えて強くて普通の人には倒せない。
そのくせ人の事を嫌ってて人を襲う。だからこそハンターと呼ばれる異生を倒す事を目的として鍛えられた職業があるんだけど……。
「ロリア様、どうなさいましたか?」レイスが不思議そうに聞いてくる。私もよく分からず首をかしげた。
「うん? なんか誰かに見られた?」
「……私は気づきませんでした。この様な大きな街でロリア様が気になさるような視線を感じるなど……言語道断」そうだな。なんだろう? 街中で私が気にするような殺気を感じるなんて確かにおかしい。
私は女だ。……女と呼ぶのもどうかと思う、少女だ。……自分で言っていて悲しくなるが、今年18歳になるのに童顔で、なおかつ145cmしかない身長が私をより一層幼く見させる。
ふわふわの金の巻き毛にクリッとした青い瞳。ぷっくりと熟れた果実のような唇。そして幼く愛らしい顔。本当に自分で言っていて悲しくなるが、どこからどう見ても世間知らずのいい所のお嬢様。レイスの趣味のせいで着ている服もリボンだのレースだのがふんだんに使われた白と黒が基準のふわふわドレス。
さすがに長いと動きづらいのでスカート丈は膝上で短くして、やっぱりレースのついたロングブーツを履いているが……そのせいか余計に変態チックな視線を感じることはよくある。
だからそう言うタイプの視線には慣れていてもう気にしない。……でも気になる視線は私への悪意。
明らかな私への殺気。ハンターという仕事をしている以上、そのような視線を見過ごしたことはない。
「……私……抹殺いたします」そう言って賑わう街中で不遜な空気を醸し出しているのはレイス。私と一緒に仕事をこなしている相棒だ。
正直こいつはかなりうるさくてうざいが……一緒にいる事を選んだのは自分。それは仕方ないと諦めるしかないな。
「馬鹿言うな。……人、だったと思うぞ?」まぁ、そりゃそうだ。こんな街中に異生がいようものならパニックだ。
だが、それならそうで余計に気になる。
……自分で言って悲しくなるが、こんな可愛らしい私に殺意を抱くなど普通ではない、はず。それとも新手のマニアック系か?
私を攫ってかどわかして監禁して? いたいけな私を嗜虐的にいじめて楽しんで……ああ、言ってて気持ち悪くなってきた。
自分で言うのも本当に悲しくなるが、この容姿をしていて得したことは一度もない。寄って来るのは変態か異常性欲者か変質者か……。
もしくはロリコンか小児性愛者かぺドフィリアか……。あぁ、全部似たようなものだった。
こんな格好をしているからより一層そのタイプの輩が迫ってくる事が多い。ならこの格好を辞めればいいのだが……レイスが許してくれない。
そうかイケメンだったから誤魔化されて気づかなかったが、レイスもロリコン変態だったのだな。なるほど、納得だ。
確かにこいつの格好もおかしい。やっぱり白と黒が基準の服だが……詰襟に引っ付いているのはネクタイと言うらしいが、こいつしかしているのを見たことがない。
そして眼鏡をかけているが伊達? 度が入っていない、ファッションとしての眼鏡らしい。やっぱりこいつのセンスはよくわからんな。
「如何されますか?」私の胡乱な瞳を完全に無視してレイスは丁寧な言葉で話しかける。
まぁ、今更こいつの事をとやかく言っても仕方ないな。一緒にいる事を選んだのは自分。……諦めよう。
「気にせず宿に行く」
「かしこまりました」レイスはそう言って私の手を引くとその場を歩き出した。
◆ ◆ ◆
「それで……この少女はどういたしましょう?」
「うん……どうしよう?」私の目の前にはまだ10歳ぐらいと思われる少女がいる。
いつものように狩に行こうと街を出て、依頼があった異生の発生していると言う場所に向かっている途中、いきなり攻撃された。
異生の気配をまったく感じていなかったが、殺気と共に激しい熱を当てられ、私はもちろん食らう前に結界の法を張り巡らし、レイスが氷の刃で相手の動きを封じる。
レイスは咄嗟に相手を見極め殺傷する事を避け、対象を氷の檻に閉じ込めていた。
そしてその中には少女。まぁ、異生の気配がないんだから、人間だろうけど。
「街での視線はお前か? 女の子のくせにお転婆だな?」髪を短く刈り男の様な格好をした、それでも可愛らしい少女に視線を合わせてしゃがむと、睨まれた。
すっごく悔しそうに歯を食いしばり両拳に力を入れている。
「なんだ? だんまりか? まぁ別に興味もないが……私の事を知っていての攻撃か?」自慢じゃないが、結構たくさん異生を倒しているせいか割りと有名だ。
まぁ? こんな私がハンターをしている自体でたぶん噂になるのに、尚且つしっかり仕事をこなしているからか、変な二つ名までついてしまった。
「……契約の姫魔女だろ」……そうか、知っていたか。と言うかその呼び名やめてくれ。姫魔女っておかしくないか?
お姫様と言ったらふわふわキラキラで、魔女って言ったら鬱々ドロドロなんじゃないのか? その二つが合わさった呼び名って意味がわからない。私はどんなイメージなんだろうか……。
「……お似合いですよ」横でボソッとレイスがつぶやいたので、とりあえず足を踏んでおいた。
「わかってて攻撃して来たのか? 勝てると思っていたのか? そしてそんな恨みを買われた覚えはないがな?」しゃがんで視線を合わせたまま首を傾げて見せると、歯を食いしばっていた少女の顔がボッと音を立てたかのように真っ赤になった。……え?
なんだその反応は。
意味がわからず首を傾げたままにしていたら、後ろからレイスに抱きかかえられる。
ちょ、お姫様抱っこはやめろといつも言ってるだろう。
立ち上がり私を抱きかかえたままレイスはどす黒い殺気を込め少女をにらみつけた。
「……殺しても宜しいですか」……は? なぜあの会話でそうなったのだ?
レイスのいつもの過保護っプリが発揮され、私は少女から離され見えないように隠されてしまった。
「レイス?」離れたところに降ろされてレイスを見上げて説明を求めるが、レイスは説明する気がないのか別の事を言う。
「結界を張っておいてください……ね?」……レイスの慇懃無礼が剥がれかけてるって事は……切れてるな。
なぜそうなったのかわからないが、離れた所の結界の中から察するに……戦闘になってしまった。
◆ ◆ ◆
「それで、満足したのか?」
「契約の姫魔女様! 俺と契約してくれ! こんな冷血男より絶対に俺の方が役に立つ!」
「その冷血男に完膚なきまでに負けたのは誰です? 話になりませんね」
「…………」
「これからの季節は寒くなるし、氷の男より熱い男がいいだろ!」
「そのような小便臭い餓鬼が男として役に立つとは思えませんね」
……はぁ、つまりだ。要約すると、さっきの少女と思っていた子は実は男の子で、リートと言う名で十四歳だそうだ。そして殺気を向けていた相手はレイスで……私の事は愛しているんだそうだ。……なんだそれは?
なんでもずっと姫魔女としての活躍を見ていて(ストーカーしていて)、一念発起して行動を起こしたらしい……が、それがなぜ攻撃になったんだ?
「……その、この男を倒して姫魔女様に認めて欲しくて……それに邪魔者消えるし」
「笑止! その程度の実力で私を倒してロリア様の役に立つなど、言語道断」
「……ロリア様って言うのかー。俺もロリア様って呼んでいいですかぁ」少女の様な顔でその子は言うとほわーんと笑う。
か、可愛いじゃないか……。
「と、とにかく、契約は一生を決める問題だ。そんな簡単には出来ない。だが手伝いならかまわないぞ。私の役に立ちたいと言うなら実力で証明してみせろ。そしたら契約を考えてやってもいい」
「はい! 宜しくお願いします!」そう言って私の両手を掴んだ後抱きついて来たリートの後ろでレイスが氷の刃を作り出しているのが見えたので、無言で結界を構築する。
再び勃発した戦いを眺めながら、ため息が漏れる。
はぁ……なんで私の武器はこう癖の強いのばっかりが集まるんだ?
完
いつ武器出てくるんだ? ってこんなオチでごめんなさい。
別で意思を持つ剣話があるので、どうしてもマニアック武器が出てこず……手足となって戦う人になってしまいました。
そしてまったく戦闘も出ずファンタジー要素もなく……短編って難しいですね。
捕捉
ロリア→結界・癒し専門(バリア→ロリア)決してブランドではない。
レイス→氷専門(アイス→レイス)決して幽霊ではない。
リート→熱専門(ヒート→リート)決して投資信託ではない。
そんな単純ネーミングでw
考えたら思っていた以上にネタが広がってしまって、しかも気に入ってしまったので、その後とか書いちゃうかも。そしたら契約の事とか詳しく説明しようかなと思います。
お付き合い下さりありがとうございました。