ソウルマスターKAZUKI(18/31)PDFで表示縦書き表示RDF



今回のような『間章』は、ある程度区切りのついたところで挟まれる次の話への伏線とか話繋ぎとしての話となるので、あまり長くありません。『序章』みたいなものと思ってくれて結構です。
ソウルマスターKAZUKI
作:マルミツ



間章:空白の六年間







 目の前のディスプレイでは、神代和輝が必死の形相で奔走していた。



 トイレのドアを切り裂き、常人とはかけ離れた速度で店内を爆走し、特殊な“結界”を用いて用意した特殊板付きの壁を粉砕し、挙句の果てには体にばねでも付いているかのような跳躍の連続、そして遠心力を最大限に利用した遠投。

 そんな人並みはずれた行動を事細かに映した映像だけが、この部屋の光のすべてだった。

「いつまでそんなことやってんの?」

 不意に声をかけられて、部屋の主――水城氷助は振り返った。

「……なぜお前がここにいる、悠島」

「べっつにー。たまたまこの近くに指令で来てたから、ちょっと寄ってみただけ。
 それよりもあんた、何回そのビデオ見たら気が済むわけ? 話しじゃあの事件以来ここにこもりっぱなしらしいじゃない。もしかしてヒッキーに目覚めちゃったわけ?」

 氷助は魅風の戯言を無視し、再び正面に向き直り映像を見つめる。相変わらず冷たいわねーと言って特に気にした風でもない魅風は氷助の横に立ち同じ映像を観察する。この男をここまで夢中にさせる人間とはどんな奴なんだとしばらく興味深げに見ていた魅風だったが、わずか三分で興味のすべてを失った。

「なにこれ? これが噂に名高いあの悪魔? とんだガキじゃない。おまけにあの動き。こんな奴あたしなら三秒で殺せるわ」

「だろうな」

 そっけなく氷助は吐き捨てた。

 悠島魅風が言う三秒という時間は神代和輝を侮ってでのものではない。頭の中で彼の戦闘能力を精密に計算し弾き出した答えがそれなのだ。正直氷助から見れば三秒も持つかどうかすら疑問である。それぐらいこの悪魔と噂された少年は『弱い』のだ。

「ねえ氷助。いつまでもこんなつまんないの見てないでさっさと殺しに行きなさいよ。あたしの指令もあと少しで終わるからさ、さっさとこの任務も終わらせてあたしとどっか出かけましょ」

「……いや、まだ早い」

「はあ? 一体何が早いってのよ。確かにまあ身体能力だけは認めてもいいかもしんないけど、こいつどっからどう見ても『素人』よ? チカラの使い方もてんでなってないし威力もしょぼしょぼ。そのくせ必死こいて駆け回ってさ、バカじゃないの? 自分が正義の味方だとでも勘違いしてんじゃない? あたしこういう奴が一番嫌いなのよね。あんたもそうでしょ? ならさっさとこいつ殺して終わらせましょうよこんな仕事。時間の無駄よ」

「そうだな。俺もこれだけの情報ならばそう考えていただろう。だが不自然な点がいくつかある。事前調査の結果では、奴はごく最近まで己の内にある力に気づいていなかった。しかし今の奴は自分が持つチカラを確実に自覚して使用している。そしてもっとも気になるのはそのチカラの質だ。噂に聞くものとは少し違うもののように思える。俺自身が直接見たことがあるわけではないので断言はできないが……」

「ねえ、その情報とか噂がぜんぶガセってことはないの?」

「ない。お前もよく知っているだろう? “あの男”の情報に狂いがあったことなど未だかつて一度もない。神代和輝は確実にあの悪魔で、つい最近まで普通の学生生活を送っていた。
それがどういうわけか、俺が偵察に来たときには既にチカラを認識した状態となっている……一体何があった?」

 後半はほぼ独り言で氷助は唸る。情報と事実のつじつまが合わない。一体どのような誤解が生じているのか、考えれば考えるほど頭が痛くなる。氷助のここ一週間はそんな日々の繰り返しであった。

 一方突然の来訪者である魅風はぶーとむくれていた。せっかく暇を見つけて遊びに来たというのに氷助がまるで構ってくれない。まあ今までだって構ってくれることなんてほとんどなかったけど、こちらの話に相槌を打つくらいのことはしてくれていた。だが今はあのよわっちぃ悪魔のことで頭がいっぱいでそれすらもなし。一瞬、魅風は自分の任を放棄して悪魔を殺しに行こうかと本気で思った。どうせこの程度の実力じゃ<神器開放>もまだだろうし。

 だがそんな気持ちを魅風は必死に自制しつつ、「そういえばさー」とやや不満げに今の氷助でも答えてくれそうな話題を振る。

「あの悪魔の伝説が噂され始めたのって……確か六年ぐらい前よね? その間神代和輝は本当に一度も自分のチカラを自覚することなく生活してたの?」

「少なくとも情報の上ではな」

「でもそれっておかしくない? なにがどうなって『目覚めた』のかは知らないけどさ、六年間もの間自分の中にあるチカラにちっとも気づかないなんて、鈍感なんて言葉じゃ済ませられないわよ? 正直あたしには元からそんなチカラなんてなかった、もしくはその一瞬だけの奇跡だったとしか……」

「それは確実に否定できる」

 これを見ろ、と言って氷助は傍らにある『神代和輝』と書かれたファイルを手渡す。そこには様々なグラフとよく分からない単位をつけられた数字が所狭しと並んでいた。

「これって、無意識の内に放出されるチカラの大きさを計測した奴? これがどうし――」

 魅風の言葉が不自然に止まる。そのまま彼女は軽く十秒は身動きを静止した後、ぎりぎりと首を動かして氷助を見る。

「ちょっと……冗談でしょ? 確かに一瞬だけだけど、これって、こんなのって……」

「ああ。組織の中でも十指に入る俺やお前の数値を足したとしても届かない―――まさに“緑柱の悪魔”と納得できる数値だ。化け物という言葉は、きっとこういう奴のためにこそあるのだろうな」

 冷や汗が背を伝うのを自覚しつつ、氷助は乾いた笑みを浮かべる。


 こんな正体不明のチカラを持つ敵を、どうやって捕獲すればいい?






◇◇◇







 おそらくこの時からすでに、二人の物語は交錯すべく歩み始めていたのだろう。


 正体不明のチカラを宿しながらもそれに気づかず、ただ己の周りの人々の平和を守るためだけに戦うことを誓った無垢な少年。

 
 物心ついた頃にはすでにその手を血で染め上げ、ただひたすらに『指令』をこなすだけの空虚な日々を生きてきた人形のような少年。


 この二人の辿りついた場所には、一体どのような出来事が待っているのか。



 それは、この世界の『神』すら知ることの出来ない物語である。





今回の次話予告は前話のものをそのままもってきてください。すいません。完全に作者のミスです。どうしても氷助の話を入れたかったので…。

ていうか最近思うんですけど、次話予告とか役立ってるんでしょうかねえ?感想お願いします。











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