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はつ☆こい

作者: 画伯M

ヤス・・・ヤスは空のむこうからあたしを見守っていてくれる?



「ヤスさみしいよぉ・・・」




あたしの名前は美澄。高校3年生回りは受験勉強でピリピリしている。でもあたしは将来の夢を決められずにだらだらすごしていた。



けいてぃが近くで叫んでいた・・

「やめてよぅアッーーー」




そんな前の見えない暗闇に光をさしこんでくれたのはヤスなんだ。



ヤスとの出会いはあたしがなにもすることなく街をブラブラしてるときだった。

これが全ての始まりだったんだね。



11月26日の夜なにをすることもなく歩いていると・・・


ガシッボカッ


「え?なに?」


あたしにはなにがなんだか分からなかった。みると3人の男があたしを取り囲み下半身をあらわにしていた。


「お前らなにしてんだよっ??」


それがヤスとの出会い。

その時の言葉は、スパルタの兵士3万人の雄叫びの如く私の外耳道を侵入し、鼓膜を振るわせたがしかし、側頭葉細胞ひとつひとつを優しく包みこんだ。


だけど同時にあたしの怒りや憎しみに包まれた涙が頬をつたった。


あるいはその涙は安堵を孕んでいたのかもしれない。



きづいたらあたしは星のない東京の夜空に叫んでいた

「あたしの処女膜かえせーーーー」


そうだあたしはレイプされていたのだ。



ヤスはあたしを優しくつつみこんでくれた。


そんなヤスを気に入りあたしは言ったの・・・



「あなた・・と合体したい。」


あたしは1万年と2千年前から恋をしていたのかもしれない。


それからの日々は目に写る全てが映輝に満ちていた。



ヤスとはいっぱいデートしたし合体もした。



二人のデートコースには必ず行く場所があった、街が一望できる街外れの丘だ。


そこでヤスはあたしにペンダントをくれた。このペンダントは産まれて初めて貰ったプレゼントであたしはこのプレゼントを一生大切にしようと心に誓った。。



そこはあたしがレイプされた場所でもあると同時にヤスという希望の光と出会った場所だった。



そこでも合体した。



そんなある日あたしにはくるものがこなくなった。


それでもあたしはもしかしたら遅れているだけしれないという仮初めの希望にすがりついていた。



そんなある日ヤスと牛角で塩ハラミを食べているときに、不快感と共に胃の内容物が牛角の鉄板のうえにもんじゃした。



あたしはすぐにトイレに行き妊娠検査薬を使った。

・・・・結果は陽性。



真冬の乾いた空を暗く包み込む、黒雲のように突然、現前した現実を、あたしは受け入れられずに茫然とした。

鈍器で殴られたような衝撃と、内蔵を悔い破られるような痛みが、自意識とは隔離された世界であたしをのみこんだ。



席に戻るとヤスはあたしがはきだしたもんじゃを綺麗にたいらげていた。


いい機会だとあたしはヤスに全てを伝えた。


「あたし妊娠しちゃった。」


ヤスは


「産めば。」


と言ってくれた。



あたしはそんなヤスの言葉が全身を駆け巡り歓喜の雄叫びをあげた。



「シャーッオラーーッッ」

あたしは生むことにした。



*1月15日あたしは父の友達に呼び出された。

父の友達の富竹さんは会うなり私を殴りつけた。

ガシッボカッ


「この泥棒ネコッ??ヤスは3年も前からあたしと付き合ってたのよっ」



富竹さんは37才無職の小太りの男性だった。


ヤスはバイだったのだ・・



そのよるは絶望にうちひしがれて家に帰った。


その晩あたしは腹痛で病院に運ばれた・・



流産していた・・・



あたしから流れでたドロドロの肉塊が孕んでいたものは尊い生命という輝きだけではなかった。あたしの幸せ、希望、未来、全てと同化していた。がしかし気付いたときにはあたしは絶望の縁にいた。



ヤスはすぐ病院に駆け付けてくれた。しかしヤスはどこかおかしかった

「やめてよぅアッーーーやめてよぅアッーーー」


「ヤ・・ヤス?どうしたの?おかしいよ・・・?」


「あなと・・・別離したい。」


「え・・・?」


『あなと別離したい。』そう言ってヤスは去っていった。


あたしが経験した別離はヤスとだけではなかった。


その冬父が逮捕されたのだ。


父は麻薬の運びやをやっていた。


父は中脳に集中しているアセチルコリン受容体に際限なくコカインを供給し続けたために、強化行動が強まりコカイン中毒にかかっていた。



・・・もうどうでもいいや


あたしはその頃またヤスと出会う前のようななにもないあたしに戻っていたんだ。




あたしは、ヤスと別れたショックから、自暴自棄になってしまった。

もう、何もかもが嫌になってしまった。

目に映るすべてがペシミスティックに歪んでいた。

そんなあたしは、犯罪に逃げるしかなかった、あるいは、死ぬしかなかったのかもしれない。

でも、死ぬのは嫌。だって、死んだらすべてが終わっちゃうから……。

だからあたしは万引きをすることにしたの。




晩冬の寒さに街が凍える12月の夜、あたしはヤスを忘れられずに、『ポートピア連続殺人事件』を万引きするために、元町セブンに行った。



「いらっしゃいませ」


店員は髭の濃い三十代の男が一人だけだった。



今しかない!



そう思って、あたしは『ポートピア連続殺人事件』を鞄に押し込んだ。

今思えば、そのとき、ヤスのことも鞄に押し込んじゃったのかもしれない。



あたしがセブンを出ようとしたとき。



「こら!待ちなさい!」


ヤバい!


あたしは走った。


タッタッタッタッ


「待て!!」


店員は追って来る。


はぁはぁはぁ



息が切れる


ドタッ


バキッ


「きゃあ!」



あたしは店員に捕まった。



捕まったあたしはセブンの別室につれて行かれた。


「親に連絡するから連絡先を教えなさい!」


店員は叫んだ。


あたしは頑なに、連絡先を教えなかった。



連絡先を言わないあたしと店員は長い間、別室で睨み合った。


店員は、セブンの店長だった。



店長はあたしを叱ってくれた。

本気で叱ってくれる店長にあたしは恋をしてしまった。



「美澄〜好きだよ〜」


「店長、ノロケすぎ〜」


「美澄〜1000回目の合体しよ〜」


「しょうがないなあ〜」



あの日、万引きで捕まって以来、あたしは店長と付き合っていた。


長い間、店長を見つめていたあたしは、店長とやりたくなってしまい、あたしから誘った。

ニンフォマニアのあたしは我慢できないの。



店長のセクスはあたしを力強く貫いてくれた。あたしの過去も憂鬱も絶望も貫いてくれた。



店長と付き合い始めて、また、あたしは幸せの日々に浸れた。



気づけば、もう、春になっていた。



あたしの幸せは、やっぱり長くは続かなかった。


いきなり、あたしの目の前にヤツが現れた。そう、ヤスが現れたのだった。


それは、綺麗な桜が満開の頃。みんなが春を謳歌している頃。


店長と買い物をしていたあたしはいきなり呼び止められた。


「美澄!久しぶり!」



「……ヤス!」



ヤスは短パン、上裸姿で、笑顔をあたしに見せていた。

あの、輝く太陽よりも眩しいヤスの笑顔。



「ヤス!!今まで何やってたのよ!!」


「なんだよ、こいつは!!」

店長が怒鳴った。



あたしを取り合って、二人が戦いを始めた。


「美澄は俺とやり直すんだ!」


「ふざけんな!美澄は今、俺と付き合ってるんだ!」



ドカッ


ボコッ


バキッ


バキッ



勝ったのはヤスだった。

あたしは強いヤスに惹かれた。やっぱりあたしにはヤスしかいないの。



「店長なんか弱いから嫌い!ヤスと付き合いたい!」



あたしはヤスと付き合ったのだった。



でも、あたしの未来はやっぱり暗いものにそうな予感がした。

「ダメ」


場所はいつもの丘。季節は夏。吐息のように囁く。

ここでの合体は何度目だろう。


美澄は体を離すと、ヤスの体を後ろから抱いた。


美澄の手がTシャツの上から胸を優しくゆっくりと撫でた。

美澄が後ろから腰を強く抱いた。

ゆっくりと美澄の腰が下がりヤスの体を持ち上げた。満点の星を見つめながら体が弧を描いた。

見事なジャーマン・スープレックスだった。




犯人はヤスだったのだ!!!!



獲物を捉えたライオンの眼差しがヤスを突き刺す。

一瞬の出来事にヤスは平生を装うものの、狼狽の色を滲みだしている。


美澄が凍った時間を砕いて言う。



「この魔法の粉、もちろんヤスは見覚えあるよね?」


美澄はポケットからつまみ出した透明のビニールをヤスに提示した。


「は?なんのことだよ、美澄?小麦粉ですかあ?www」


ヤスは顔をひきつらせながら応える。


「とぼけても無駄よ。もう多数の証拠があがってるの。ヤスが不幸の粉の取引の元締めだったのね」


美澄が手を振りかざすと、あたりの草むらから捜査員が一斉に飛び出し、ヤスを囲った。


ヤスは大きなため息を吐いたあと、空を仰いだ。



「ここまでか……」



美澄について―――

美澄は自覚していた。今回のヤマを引き受けるのに伴う覚悟。おとり捜査に情を持ち込むのは絶対にやってはいけないタブー。


心は大地に重く腰を下ろす大岩。

どんな雨にも緩いではいけない。


自覚していた。



自覚していなければならなかった。



「おい、なに呆けている。そろそろ現場に着くぞ。」

助手席美澄に上司が語りかける。


上司の一言にも美澄は上の空だ。


ヤスの麻薬の一件以来、美澄に再び大きなヤマが回ってきた。


国内最大規模の取引がある、というたれ込みが入ってきたのだ。信憑性は高いらしい。


車窓から流されていくビル群をぼんやり横目に、すべりだいを右目に、美澄は心の中でつぶやいた。



「ヤス……ヤスは空の向こうからあたしを見守ってくてる?」


冷たい鉄格子の中のヤスに、美澄の心の声は届いたのだろうか。




美澄は胸元のペンダントを優しく握りしめた。




また、冬が来る。



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