表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

葬式

作者: 光太朗

 葬式って、なんのために、あるんだろう。

 


 美咲の涙を拭おうと手を伸ばしたが、こぼれ落ちる滴があまりにも綺麗で、不謹慎だけれど、見入ってしまった。少しためらって、結局、手を下ろした。

 美咲は、小さな身体を震わせて、もうずっと、泣いている。このままじゃ、身体中の水分が流れ出てしまうんじゃないかってくらい。

 無理もない。近所でも学校でも有名な、仲の良い兄妹だった。三つ違いの、兄と妹。

 どうして、葬式なんてするんだろう──ぼくは、何度目かわからない問いを、心のなかでつぶやいた。

 こんなに、美咲が悲しんでいるのに。

 葬式なんてやらなければ、これほど泣くことも、なかったかもしれないのに。

 ただいたずらに、悲しみを煽っているように思われて、ぼくは不快な気持ちで、黒い列を眺めた。

 陰鬱な、黒い群れ。

 すすり泣く声が聞こえてくる。

 まだ、小学生だったのに──

 かわいそうに──

「美咲ちゃん……大丈夫?」

 黒い服を着て、別人のようにオトナみたいな吉乃先生が、美咲に白いハンカチを差し出した。

 美咲は、吉乃先生の顔を見て、余計にしゃくりあげた。

 黒いワンピースに滴が落ちて、染みを広げていく。こんな日でなければ、よそ行きの、かわいいワンピースなのに。

「せんせい……吉乃先生……なんで、お葬式なんて、するのかなあ」

 驚いたことに、美咲は、ぼくと同じ疑問を口にした。

「なんで、なんでかなあ。こんなの、いやだよう」

 いたたまれなくなって、ぼくは視線を逸らした。何か声をかけたかったけれど、その問いに対する答えは見つけられていなかったので、口を閉ざすしかなかった。

「……さようならを、するのよ。和史君は、もう、……ここにはいないんだって、私も、美咲ちゃんも……みんなが、ちゃんとわかって、さようならをするために、お葬式は、あるの」

 ぼくは、はっとした。

 ──そうだ。

 本当に、死んだのだと──悪い夢ではなくて、本当に現実なのだと、知るためにあるんだ。

 おかしな錯覚を、してしまわないように。

「さようならなんて、したくないよう……」

 美咲も、今日ここにいることで、否応なく、わかってしまっているはずたった。

 だから、昨日よりも泣いているのだ。

 本当に、死んでしまった。

 もう、触れることも、話すことも、できない。





 ぼくは、手をのばす。

 今度は、本当に涙を拭ってやろうと、した。

 

 

 ……そうか。

 ぼくはもう、死んでしまったんだね。 

 

 

 

読んでいただき、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
[一言]  感想ですみません。  あー、そうか。と感じました。生きてる側でなく、死んだ側がそれを理解するためのもの。なるほど、そう考えると葬式の必要性は高いですよね。  ラストで背筋がぞくっとしまし…
2008/04/23 00:07 退会済み
管理
[一言] 短い作品でこんなに胸を打たれるとは。 小さい子供たちに読んでほしい小説です。
[一言] はじめまして。 とても哀しいお話ですね。 仲の良い兄の死を悲しむ妹……。 死んだ兄自身の語りかけによる文章が光ります。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ