森の賢者様改め森の魔女様らしいよ?
※短編の、森の賢者様の続き。
アウグスヌスの森には白の魔女が住まう。
白銀の輝きを放つ髪を持つ魔女は、一昔前この森に住んでいた偉大なる賢者を食べたという。それにより満ち溢れた魔力により、彼女は災厄としてそこに存在している。
あるときはドラゴンを退治し、ある時は我が王国に助言をし、この国を導いてくれた賢者は森の魔女に取り込まれた。
森の白賢者の偉大なる魔力と知恵を授かった魔女の力は強大だ。そんな魔女は力を蓄えるために、眠りについているという。力を蓄えた後、魔女は王国を滅ぼすだろう。
『カタラーツ文庫刊/賢者を食べた魔女より出典』
「ぷぷぷ」
セイナです。あのトリップ美少女ちゃんを追い返してからすでに百年以上経ちました。
私は相変わらずひきこもっていた。自然が溢れ、魔物の溢れるこの森で、精霊と一緒に。でも暇だから時々本を買いに行くんだけど、そうこの『賢者を食べた魔女』って失笑ものよ。
そうなの、私ってば今度は賢者じゃなくて魔女って呼ばれるようになったの。あの王子怒ったのかしら。でも別に怒る必要なかった気がするけど。
だって、トリップ少女に惚れてたわけだから帰さなくて幸せだったでしょうし。あのトリップ少女立派に愛されて王妃やってたらしいからね。
それにしても…、賢者を食べたって。私ってば自分を食べたって事になってるのかしら。本当に、歴史って全て国が勝手に捏造するものよね、失笑だわ。
私は確かに性格は悪いわよ? でもあっちから手を出してこなきゃ無用な事しないわよ。面倒だし。
この前の賢者の時は、知恵を求めてで。今回の魔女の時は、力を蓄えてるねぇ…。本当おかしなこといってるわ。私は人づきあいしたくないだけなのに。
『賢者様ー、不機嫌?』
『魔女様ってよんだ方がいいー?』
「ややこしいから可愛い子達、名前で呼んで」
今まで賢者様扱いだったのに、ややこしいわよね。それにしても精霊達可愛い。
そういえばペット買う予定だったのに結局長寿のペットが中々わからなくて断念したのよね。それにしても私の魔力ってどれだけあるのかしら。全然体が老化しないわ。
何かもうこの頃になると人間って短命よね、って思ってきたわ。ま、私が長寿なだけなのだけれども。長寿な人間もいるけど、200歳生きててよぼよぼのお爺ちゃんとかだったし、私みたいな人っていないのよね。
そもそも魔力を大量に持ってる人ってあんまりいないのよ。私はその中でも異常だたのだけれども。
『じゃあ、セイナ様!』
「ふふ、可愛いわねぇ、本当」
何だか無邪気に飛び回る精霊達可愛すぎる。
賢者でも魔女でも呼び方なんてどうでもいいから私に関わってこなければいい。
私は精霊達とのんびりとゆっくりと、ただ暮らせればいい。何のしがらみもなしに人何かと関わらないで穏やかな生活がしたい。面倒な事は嫌い。
だからどうか、私を放っておいてほしい。関わりたいなんて望まない。私は別に進んで関わる気もないし、滅ぼす気なんて全くない。
そう思っていたけれど、人間は私を放っておいてはくれないらしい。
ある温かな日差しの降り注ぐ、夏の日。精霊達が騒いでいた。
『セイナ様、誰かきたぁー』
『ゆうしゃー? とかいってる?』
「勇者?」
そんな存在いたかしら。基本的にひきこもって情報なんて入ってこない私にとって初耳である。英雄とかはいるけれども勇者なんて存在なんてあんまり聞かない。
『なんか、こっちきてるー?』
『召喚された、とか話してる?』
「…召喚の魔法陣なんて王国にあったかしら」
精霊達の声を聞きながら、そう呟く。
あの王国は、召喚したらしい。となると、地球で読んでた携帯小説みたいに異世界召喚された勇者ってことだろうか。この世界に魔王って存在はいないけれど、何かを倒しに来たと考えると…、私を殺しに来たってことか。
本当にめんどくさい。私は別に王国を滅ぼす気もない。それにしても召喚の魔法陣は私が知らない間にいつの間にか出来ていたみたいだけど、帰還の魔法陣はちゃんとあるのかしら?
それに、異なる世界からこの世界に来たならば中身は変わってしまう。私みたいに、魔力のせいで寿命が大きく変動する場合もある。そういう事、ちゃんと考えてやってるのかしらね、まったく…。人間ってめんどくさいわ。もう300年以上生きてるから普通の人の感覚あんまりない気もするわ。もうおばあちゃんだわね、私。
「それで可愛い子達、勇者なんてものが何で此処に?」
『んー、何かぁ、悪い魔女退治しにきたぁ? って、いってる?』
『セイナ様を狙ってるみたい。どうするのぉ、セイナ様』
「私退治されなきゃいけないぐらい悪いことしらかしら?」
そんなに悪いことしたかしらと椅子に腰かけたまま首をかしげる。
私がやったことといえば煩い連中をカエルに変えたり、美少女ちゃんの時に帰還の魔法陣を発動させてみるのを拒否したり、それで人間に会いたくなくなってこのアウグスヌスの森の魔物を強化したりしていただけなんだけど。って、あれ、もしかしたら一般的にいえばこれやりすぎなのかしら?
んー、どうでもいいけど此処まで向かってきているってことは勇者って強いのかしら。
『セイナ様ぁ、どうする?』
「んー、ちょっと見てみましょうか。負ける気はしないしね」
殺されるのは嫌だし、とりあえず見てみようと思った。
どうやら勇者は、魔術師と騎士を連れてきているらしい。本当に、昔の携帯小説見てても思ったんだけどどうしてわざわざ少数の人数で魔王とかに挑ませるのかしらね。本当に潰したいのなら国の騎士全部を使ってでもぶちのめしにかかればいいじゃないと思う。
「可愛い子達、私ちょっと外いってくるわ。ついてきてくれる?」
『うん、わかったぁー』
『行く、行くー』
さて、異世界から来た勇者ってどんなものなのかしら。
「ええええええええええええええ」
森の中をのんびりと歩いて勇者一行を見たわけだけど、思わず叫んでしまった。
いや、だってなんか知った顔が居るんだよ。でもトリップ少女が来た時点で大分たってたのに、もしかして血縁者…? そうである。勇者の顔は私の2つ下の弟の高校時代にそっくりだった。流石に、300年前だからうろ覚えだけど、そっくりだよ! 私と弟似てたし、勇者と私似てるんだけど。
私の叫び声に即座に反応する弟にそっくりな勇者に、一人の魔術師、二人の騎士。
「な、ま、魔女!?」
「何で、今は眠りについているんじゃ――」
「はいはーい、ちょっと黙ってね?」
さっと、勇者以外の三人に魔法で煩い口を黙らせて体を拘束する。そして、表情を固まらせている勇者を見る。何処からどう見ても日本人。そして弟に本当にそっくり。私は勇者に向かって笑った。
そして、問いかける。
「ねぇ、勇者。田辺莱って名前に聞き覚えある?」
「え、はぁ? な、何でじいちゃんの名前を…」
「何、あいつお爺ちゃんなの。へぇ、こんなにデカイ孫までいるんだ。うわー、やっぱり向こうとこっちって進む時間全然違うのねぇ」
勇者は弟の孫だった。
何だか衝撃ね。それにしても血筋なのかしら、トリップしたからかこの子凄い魔力持ってるわ。見た感じ私と同じで異常なぐらいの量である。それにしてもあの子がお爺ちゃんか…時が経つのは本当に早いわねぇ。
しみじみとそんな事を考えてしまう。
「え、あ? あ、あんた、魔女なんだよな? 何で、じいちゃんの…」
「あー。改めまして自己紹介させてもらうと私は300年前にこの世界にトリップした、あんたのお爺ちゃんの田辺莱の姉! 本名は田辺静菜っていうのよ」
「はいいいい?」
人間は嫌いだけど何か弟の孫って思うと親しみが妙に持てる。身内だって思うと何だか懐かしいし、ちょっと喋りたくなってくるわ。
「じいちゃんの姉…、って行方不明になったっていう?」
「そう。18歳の時にこの世界にやってきて早300年よ。あ、ちなみに向こうはこっちの世界より時間の進みゆっくりなのよ。それよりお話しない? 私あの後の家族の事しりたいわ」
「え、ああっと…、仲間を自由にして、そして何でじいちゃんの姉―――――面倒だから静菜さんって呼ぶけど、静菜さんが魔女なのか教えてほしい」
戸惑ったまま、その子は告げる。
それに対して、勇者に来られても面倒だから弟の孫以外は家にいれたくないけど、一応話をつけとくべきかと私は仕方なく仲間達の声を戻して拘束を解いて家に向かいいれるのであった。
「え、賢者と魔女って同一人物なのですか」
「そうよ、魔術師。ひきこもってたら賢者って呼ばれるわ、ちょっとトリップ少女帰すの断ったら魔女呼ばわりだの、本当に人間って面倒だわ」
やれやれとでも言う風に、家に招き入れた勇者――名前は田辺明久というらしいわ――の仲間に軽く答える。
本当に勝手に賢者って言い出したり、魔女って言いだしたり人間ってめんどくさいわ。
嫌だけど一応お茶は出してあげたわ。可愛い精霊達が、お茶とかあげないのー? って可愛くいってきたから出してあげたのよ。
「トリップ少女っていうのは?」
「騎士1、トリップ少女はこの国の元王妃よ。異世界からトリップしてきてね、私に帰還の魔術を使ってほしいって頼んできたのよ。断ったら魔女呼ばわりだし、ばっかじゃないの」
「……出来るなら何故」
「あら、騎士2、あなた善意で私に人助けをしろというの。嫌に決まってるじゃない。そもそも帰還の魔術って魔力をかなり食うのよ。どうしてどうでもいい人間のためにしばらく魔術使えないって状況にまでならなきゃいけないのかしら。出来るならやらなきゃなんて言うなら燃やすわよ?」
ひげ面の騎士2の言葉にそういえば、騎士2は瞬時に顔を青くする。そして、明久も必死に言葉を放った。
「やめてください! セイナさん。というか、俺王様に魔女を倒したら帰還出来るって聞いたんですけど!」
「私を倒したからって出来るわけないじゃない。バカなの? 確かに私は異界を渡る魔術を完成させたけど、普通の人じゃ理解できないわよ? そもそも聞くけど召喚の魔術なんて何を代償にしたの?」
「え? 何をって」
「言い方を変えるわ。何人を犠牲して勇者を召喚なんてしたの、って聞いてるの」
そう、召喚の魔術は簡単なものなどでは決してない。異界から無機物を召喚するだけでも困難なのだ。それなのに生物を召喚するなんて並大抵のことではできない。無機物を召喚するだけでもどれだけの魔力や、どれだけの高度な魔術知識が居るか私が十分理解している。トリップは空間が歪んで、ただ落ちてくるだけだが、召喚は世界の法則を歪めるにも等しい。
それに加えて、
「それに明久の体は強化されてるわ。召喚する魔法陣にそういうのも組み込んだのかしら。血筋で明久の魔力は元々多いみたいだけど、それも魔術で増幅されているみたいだしさ。それに明久、あなた運動能力や力も変わってるでしょ。此処にきて」
「え、あ、はい」
「やっぱりね。色々なもので明久の体を組み替えたのね。何て事をやってるのかしら、本当に…。何を犠牲にしたの。これだけの魔術を人の体に組み込むだなんて…」
本当に、私を国を滅ぼす魔女だとか勝手に捏造して何てバカな事を。それに明久には私を倒せば帰れるっていってたみたいだけど、もうこの子は”ただの人間”とは言い難いものに変わってしまっている。
世界には法則のようなものがある。地球で魔力のなかった私が、此処に来て魔力が覚醒したのはこの世界の”全てのものが魔力を持つ”というこの世界の法則が作用したからだ。そして私は魔力を持ちやすい体質だったのか、はたまた違う力でも働いたのかわからないが、膨大な魔力を手にした。
色々研究して、帰りたかったから異界に渡る魔術も研究してたからそういう事がわかってきている。でも世界の法則の強弱は世界によって異なるのだ。地球の法則は弱い。そしてこの世界の法則は強い。
異界へ渡る魔術を生み出し、ためしてみたら全然知らない世界にいってしまったり(この世界のモノを手がかりに戻ってきて安心したけど)、地球にいけはしたけど銀髪のままでうんざりしたり…。そうだ。他の世界に行った時、私の中で何かが変わった時もあった。多分、その世界の法則で私が歪められたのだ。
その時は、魔力が全然回復しなくて何十数年近くその世界にいて帰ったけど、帰ったら体の変化ももとに戻った。知らない世界だったしあんまり深入りしたくなかったし、人を一人も見かけない世界だったから大人しく過ごしてこの世界に戻ったんだけど。
私は魔力を膨大に持った長寿の人間として、この世界で固定されてしまっている。そして地球のある世界の法則はこの世界より弱い。だから私は、もとの地球人にはどうあがいても戻れないし、変動してしまった寿命を戻すすべもない。時間を巻き戻すなんて方法も持っていない。だから戻る事を諦めた。
地球に行った時、銀髪は目立つから魔術で隠して魔力が回復するまでいたけど私の姿かたちは一切変化しなかった。もちろん成長してないのに家族に会いに行くことなんてできなかった。その時にはもう既に150歳を超えていたし、昔の私とは違ったのも理由だ。
そして、私のようにきっと明久の体はそういう存在として固定されてしまっている。魔力が膨大なのも、力が強いのも、地球に戻っても戻らない。そしてこの世界は、魔力によって寿命が変わる世界だから明久の寿命はもう変動してしまっていて戻らない。
「あ、あの、魔女…いえ、賢者殿。犠牲とは…」
「魔術師、あなた召喚みたいな異界を渡る魔術にどれだけの魔力が必要だかご存じ? それに、明久の体を作りかえると言えるぐらいいじってるのよ? 召喚の魔法陣にそんなものを組み込むのにどれだけのものが必要だと思ってる?」
「いえ、知りませんけど…、召喚の魔法陣は『迷い人』であった王妃、アリサ様の証言をもとに研究がはじめられたと伝えられてはいますが…」
「あのトリップ少女! 能天気だわね、本当に! いい、よく聞きなさい。異界から無機物を渡らせるってだけで、私の魔力が半分はもっていかれるぐらいなのよ? 異界を人が無理に人の力で渡ろうとしたら私の魔力が100分の1しか残らないぐらい必要なのよ。
ただの人を移動させるだけで、それなの。トリップ美少女の証言ってことはテンプレな異世界勇者召喚でチートな内容なんでしょう。だから、明久の体をこんな風にしたのよね。チート能力を加えるってのはもっと魔力がいるって事なの。その魔力をどうやって手に入れたのって聞いてるのよ。この世界では魔力が多いってはいっても、大抵、150歳~200歳ぐらいまでしか生きられないっていう微々な魔力しか持ってないでしょう」
思わずトリップ少女に文句をいってやりたくなった。能天気に幸せに暮らして、勇者召喚なんて発想を王国に与えたらしいあの時のトリップ少女は本当に頭が働かないのか。ご都合主義な展開しか経験してこなかったのか…。
「賢者様の、100分の99もってかれるって事ですか!?」
「そうよ、騎士1。私ひきこもってて国の事なんて知らないんだけど、最近なんかない? いや、ここ最近じゃなくてもいい、100年ぐらいで流行っているものとか新しく出たものとかある?」
「50年前ぐらいから…、あー、魔力欠病は出てきましたけど…」
「それよ! 騎士2! 魔力欠病について詳しく教えなさい」
「魔力欠病は、体内の魔力がなくなり死んでしまう恐ろしい病気です」
この世界の法則は、全ての生物が魔力を持っていることである。魔力を持っていない生物は死んでしまうものだ。実際世界を渡る魔術をはじめて使った時は死ぬかと思った。なんか私の場合魔力がまだ衰える時期にきておらず、寧ろ増え続けているから今は少しは楽だけど。
世界の法則が作用しているのだ。魔力をもたない、なくしてしまう事はありえない。何かが起こっていない限り。
それも聞いた所によるとこの国でしか魔力欠病なんていうものが起こっていないという。それを王国は私の呪いとかいってたらしい。何だ、バカか。私は今までそんなもん一切知らなかったのに。人のせいにしまくってこれだから人間って面倒なのよ。ふんっ。
「ちょっと、調べさせなさい」
正直人間がどうなろうとどうでもいい。でも明久は私の大切だった弟の孫だ。明久が関わっているなら調べようと思って私は魔術師や騎士1、2の魔力の解析をし始める。
暇だから魔術の勉強はかなりしていたし、解析なんて結構すぐに終わる。
魔法陣は一人で行使しないと、失敗することが多くなる。それは、魔力が人によって異なるからだ。異なる魔力を一緒の魔法陣に組み込む事は大抵失敗することなのだ。しかし一人の魔力で召喚なんて出来ると思えない。
「あら?」
「どうかしましたか、賢者様…」
「ちょっと明久。あなたの魔力調べるわ」
「別にいいですけど、無視はよくないんじゃ…」
「いやよ、私人間嫌いだもの。明久が莱の孫じゃなかったらとっくに追い返してるか殺してるわよ。煩わしいもの」
そういったら明久達がなんか青ざめて椅子に座ったまま固まってるけど気にもせずに私は先ほどの三人を見て気になった事を思いながらも確認する。
しばらく、明久の体に流れる魔力の質などについて解析する。青ざめて固まっている四人を放置したままに考え込んで、ある一つの結論に至って、うわ、と呆れた。
「魔術師、騎士1、2。あなたたちの魔力にまず共通している事が存在してるわ」
「共通の事?」
「あなたたちの魔力は常に何かに少しずつ吸い取られているように思えるわ。そして、明久の体に溢れる魔力は、私同様此処に来た時に手に入った個人の魔力に加え、性質の違う魔力が存在しているわ。まず、王国の人間が魔力欠病に陥るのは、その何かに吸い取られた魔力のせいだと思うわ。あ、私は関与ないわよ? 私のせいとか言われていたみたいだけど」
そう、魔力が吸い取られているのだ。何かに。おそらくその量が多すぎれば、魔力の回復が吸収量に追いつかなくて死んでしまったのだろうと私は予測した。
「吸い取られてる…?」
「何が、そんなものを――…」
「何がってわからないの? そんなに魔力を使うものなんて只一つじゃない。あくまで私の推測だけど、おそらく魔力は勇者召喚の魔法陣の、勇者召喚のために吸い取られてるのだと思うわよ。明久の中には二種類の魔力があるわ。元々の個人の魔力――これは血筋だからか私の魔力に何処か似てるのだけど、それ以外に、王国の人間に似ている魔力が存在しているわ」
血縁があったり、環境によって魔力は性質が違うとはいっても少し似ている場合があるのだ。そして、王国の人間の魔力に似ているものが明久の中に存在している。これがおそらく召喚で上乗せされた魔力であろう。
「え、ど、どういう事ですか…」
「魔法陣が一人で行使するべきものだって知ってるわよね、特に魔術師なあなたなら」
「はい、もちろんです」
「それでどうやって召喚の魔法陣なんてものを発動できるか、考えてみたら答えは出ないかしら? 私が推測するに、『王国に住まう人間』を、『一人の人間』と考えて魔法陣を発動させていると思うの」
そう、私の考えた結果生まれた結論はそうであった。考えればわかることだ。伊達にひきこもって魔術の研究や書物を読みあさっていたわけではない。魔術の知識や、研究はかなりやっているつもりだ。
「それって…」
「そうね、あくまで私の予測だけど勇者召喚の魔法陣のために民を犠牲にしてたともとらえられるわね。私を倒すために呼んだらしいけど、バカな真似はよしなさい。私は相手が自分に不快な思いをさせない限り何もしないし、人と関わるの面倒だからちょっかいだしてこなきゃ何もしないわよ。勝手に賢者とよんだかと思えば、勝手に魔女呼ばわりして…。あと一つ聞くけど、あなたたち王国の人間が全員がやる儀式みたいなのある? 50年前ぐらいから始まったの」
「あ、あります。生まれた子供に祝福を与えるっていって、教会に連れていくものが…。その、魔女の呪いが受けにくくなるとか今では言われてますけど」
「それよ、騎士1。ちょっと詳しくその儀式について調べなさい。おそらく召喚の魔法陣につながっていると思うわ」
勝手に私を魔女にして、アホなんじゃないかしらと正直思う。私は性格は確かに悪いわよ。でも滅ぼす気なんて全くないし。面倒な事は嫌いなのよ。関わってこなきゃいいだけじゃない。
それにトリップ少女も、勇者召喚の事なんて話さなきゃよかったのに。考えなしな子って嫌いだわ。
「いい、魔術師、騎士1、騎士2。あなたたちは国に帰ったらいっておきなさい。賢者と魔女は同一人物でそっちから手を出さなきゃ何もする気がないって事。そして勝手に人のせいにせずに召喚の魔法陣について調べること。そして二度と召喚を行わないことをね。ちゃんとそれをしないで、アホな事いってきたり私を殺しにきたら容赦なくカエルに変えるか燃やすから」
彼ら三人を次々に見ていう。彼らは私を怖がっているのか、少しびくついて頷く。本当情けないわね。
そう思いながらも私は明久の方に視線を向けた。
「それで、明久。あなたはどうするの?」
「ど、どうって。俺帰りたい。魔女を倒せば帰してくれるっていってたけど、じいちゃんの姉を殺す気はしないし」
「当たり前でしょう。そもそも明久みたいなちょっとチートなだけの子供に負ける気はしないわよ。それで、帰してほしいんだっけ」
「セイナさんは異界を渡る魔法陣があるんだろ、それなら帰してほしい」
期待するように、帰りたいという目を向けてくる明久。それを裏切るかのように私は言葉を発す。
「無理よ」
「え、でも世界を渡れるって!!」
「確かに渡らすだけならできるわよ。でも、あなたはもうこの世界の存在として固定されてしまっているの。寿命はすっかり変動してしまっているし、魔力も多いから私みたいに色も変わるわ。そして帰っても魔力も、腕力も全部なくならないわ」
私の言葉に、明久も、魔術師も、騎士1、2もいっている意味がわからないという目を向けてくる。面倒だけど、明久は身内だし説明をしなければと思って私は口を開く。
「世界には法則があるの。そしてこの世界の法則は魔力を保持することだと、私は思ってる。だからこの世界に落ちた『迷い人』も、召喚された明久も魔力を所持しているの。明久の他の腕力や運動神経は召喚陣によって組み込まれたものだけど。
そして、この世界の法則は他の世界よりも強いのよ。地球よりもね。だから戻っても地球の『人間の寿命は100歳程度とか、魔力なんてものは物語の世界だけ』っていう法則は適用されない。もとになんて戻らないのよ。魔力は寿命によって変動する事はわかってるでしょう。一般的な人は寿命は地球人と変わらないわ。でも明久の魔力は私と同じで血筋なのか元々膨大であるし、王国の国民より吸い取られた魔力が明久の一部として召喚の時に組み込まれている。だから、きっと明久は私と同じように寿命がどれぐらい長いか見当もつかない人間となってしまってる。地球に帰っても、明久は平凡には生きられないの。20歳ぐらいの姿で成長は何百年も私と同じで止まるわ。そして何百年も地球で生きなければならなくなるの。そんな世界で明久は生きられる?」
私の問いかけに、明久は唖然となったようだった。
そりゃ、そうだろう。世界に法則があるなんて世界を渡ったり、研究したりしない限りわからないことだ。とはいってもこの法則も私が考え付いたただの仮定だ。でも、帰っても寿命も何も変わらないのは真実なのだ。
一度地球にいったとき何も変わらなかった。それが実証している。
「…なん、だよそれ!! ずっと生きていかなきゃって事か! 何だよ…」
「そうね、生きなきゃよ。ずっと生きたくないなら殺してあげてもいいけど、死ぬのは嫌でしょう? だったら私みたいに大人しくこの世界で生きなさい。帰って寿命が長いことや、魔法が使えるなんて知られたら化けもの扱いされるでしょうし」
そういって明久を見ながら私は思う。
弟は、私に加え孫まで失われてしまうのかと。姉と孫が突然失踪するなんて弟は何を思うのだろうか。それでも私でも法則を変える事はできない。この世界の法則はそれだけ強い。
明久は私と同じで帰れない。まだ高校生ぐらいみたいだし、ちょっと心配だわ。
それにしても他の人間を心配するのって久しぶりだわ。私にも人間の心が残ってたのねぇ、としみじみと不思議な気分になる。
「ねぇ、明久。此処に一緒に住まない?」
そう投げかけたのは、珍しく心配だと思ったからだ。明久は強大な力を持っている。それは利用されやすい。私と同じ目にはあってほしくはない。それに明久は私と同じだ。だから、私を寿命で死んでいったりはしないと思った。私と同じように長寿なのだから。
「……」
「この世界の事教えてあげるわ。それに一緒に暮らしてる精霊達もいる。明久は私と同じで普通と異なってしまってるもの。私みたいに利用されるかもしれないし、同じ目にはあってほしくないわ。身内としてね」
泣き出しそうな顔をしている明久を見ると、昔の自分を思い出す。昔は私も泣いてた時もあったなぁって何だか本当に懐かしかった。
あ、ちなみに他三人は私のいった事が衝撃的なのか口を閉ざしてる。
「それに明久と私は同じだもの。長寿同士、仲良くしましょう?」
そういって投げかければ、明久は諦めたように頷いたのであった。
その後はさっさと魔術師と騎士二人を追い返し、私のいった事ちゃんと言うのよ? やるのよ? しなきゃ殺すからねと軽く脅しておいた。
そうして、私は同居人を得たのであった。
身内がこんなことになったのは怒ることだろうし、明久は可哀相だと思う。だけど、ちょっと同じ存在ができて嬉しいと思ったのは秘密である。
―――森の賢者様改め森の魔女様らしいよ?
(賢者呼ばわりかと思ったら魔女呼ばわりして…、今度は何て呼ばれるのかしらね?)
セイナ
賢者と呼ばれていたが、魔女呼ばわりされていた。捏造お疲れ様と思っている。ちなみに補足するとあの時のアリサを王妃にした王子が、アリサを帰さなかったことに怒り魔女呼ばわりしたのがはじまりである。
ひねくれてるし、人殺すことに躊躇いはない。多分、弟の孫がいなきゃ全員追い返すか殺してた。そして身内じゃなかったら明久の事もきっと放り出してた。召喚で犠牲払っててバカじゃないのと思ってる。
明久。
セイナの弟の孫に当たる。高校生。チート能力まで付加されてしまってる子。
魔術師、騎士×2
ただの脇役。勇者の仲間。
結構長い気がします。感想もらえたら喜びます。