ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
ここに出てくる古武道剣術の流派は、かつて実在し、また新陰流は現在も連綿として残っています。新陰流においては、尾張柳生家を宗家に頂く本派と明治時代の尾張柳生宗家、柳生厳長の高弟達が引き継いだ流れ、遠く流祖・上泉伊勢守や柳生宗厳(石舟斎)の高弟達が残した流れ、新陰流のもととなった愛州移香斎の影の流れなどの後継者が残っています。
 「会津一刀流」に関しては現在継承者がいるかは、著者は確認していません。上泉伊勢守の子または甥と言われる上杉家食客だった上泉主水がそれを名乗ったと「上杉将士書上」には載っております。これは戦友である前田慶次郎が名乗った「穀蔵院一刀流」の向こうを張って名乗ったのではないかと思います。双方とも諧謔のつもりだったのかも知れません。ここでは主水の流派が会津に生きていたという想定です。
1 俺と林太郎
 俺の名前は角南すなみと言う。

 二浪してようやく入った甲陽大学の文学部で、目下小説家を目指して勉強中だ。
 俺の目指しているのは純文学でもラノベ(ライト・ノベル)でもない。歴史あるいは時代小説だ。あまり一般受けしない分野だが、俺にはどうしても書きたいものがある。
 今は廃れてしまったが、中世、特に戦国時代にあった『武家の華』と呼ばれる衆道文化だ。
 情報超過のケイオティックな今の文明のお陰で、同性愛などのタブーはこの無宗教の国では殆ど無くなった。ニューハーフと言われる人達が堂々とテレビに出演している。勿論、彼らに期待されるのは『間違った性に生まれてしまった大人』の会話である。
 物心つかない子供が見ているかも知れない放送で、マスメディアの観点から、番組を作る連中の『綱紀』がないと言われても仕方がない。
 一般的な男と女の性の普通性を持っていない人達が悪いと言っている分けではない。だが、それを売り物にするテレビ局の『常識』がどうかと言っているのだ。本来はそっとしておいて人間同士、受け入れることが筋ではないだろうか。
 単に、暇な人間が無駄な時間にする興味本位の無駄なおしゃべりの種にされ、社会的には何の意味もない話題なのだ。

 日本人は、江戸期に花咲いた男色文化を持っている。
 これは主に『陰間』と呼ばれた売色のプロフェッショナル達と、彼らと『遊ぶ』好事家こうずか達が育んだ文化だ。
 しかし俗習としての男同士の愛は平安時代からあったと言う。お寺には稚児と呼ばれる少年達が居た。彼らは僧達から礼節と教養を叩き込まれ、姿形すがたかたち、立ち居振る舞いは、『庶民』とは全く異なっていた。『稚児草紙』と呼ばれる秘伝の巻物にそのありかたを垣間見ることが出来る。
 彼らは女性ではないが、憧れられ恋される『対象』になりうる存在だったのだ。
 武家の少年達も躾、教育を厳しく受けた。彼らの主に仕える凛とした姿に恋する大人も多かった。
 そういう話を集めた井原西鶴先生の『武道伝来記』や『男色大鏡』は文学でも異色の傑作と言っていい。

 俺の目指すは、かような『失われた文化』の物語なのだ。
 だが、俺としてはそういう物語に武道の味付けをしたい。
 中世に産声を上げた種々の古武道の精神は、これまた現代人には理解出来ないところが多い。また、武士という存在、子供の頃に腰に木の棒をさしてチャンバラごっこをした男の子の記憶。
 棒きれを腰に差すと、自分が特別な使命を持って、『正しく』生きているような感覚。これが大人になっても夢として残っているのだろう。

 新聞などで毎日のように『正しく』生きていない連中の記事を見かける。
 罪が既に露見しても、やっていないと嘘をつく見苦しさ。
 古人の教えを現代人は全く忘れ去っている。腐った会社社長や収賄の政治家は、二千年も昔に彼等のために残された言葉、『李下に冠を正さず』という警告も知らないのだ。
 二千年前にこれほどの真理を書き残すような人がいたと言うことは、人間の精神が全く進化していない証拠だろう。そして自由主義という思想で、そうした一個毅然とした人達が死に絶えてしまった。一体、その時代にどんな人達がどのように生き、また死んでいったのだ。
 真摯な生き方をした人々の一つの例が、戦国時代の武士達ではなかったかと俺は考えている。
 そんなかんなで俺は、(俺自身の嗜好もあるのだが、)戦国期に流行った武家の衆道の物語を研究しているのだ。


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。