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「まさかアンタも協力してくれるなんてね」
「感謝しろよ」
「誰が」

 会長から頼まれた調査とは、この学校における不登校の生徒や、過去に起こった問題についてのもの。会長は教師や卒業生から探り、江藤は元同級生の2年生と1つ年上の3年生、私は1年生と調査の分担が決まった。

「協力するからにはしっかりやってよね」
「当たり前だ。それに……」
「何?」
「何も言ってねぇよ。お前こそ遊んでねぇでしっかりやれよ」
「こっちのセリフ!」

 まったく、いつになったらこの偽爽やか男はその憎まれ口を止めてくれるのかね。それにいちいちカチンとくる私も私かもしれないけど。
 まぁとにかく今日から少しずつでも情報を収集していかなければいけないのだ。まずは身近な人に色々と話を聞くことだね。

「理子おはよう」
「あ、おはよう!」

 めずらしく私よりも遅い登校の理子。元気一杯の図書委員代理は少し眠たそうな様子だ。

「どうしたの? 元気ない?」
「いいや! 元気ならちゃんと持ってきてるよ!」
「よかった」

 理子は眠たそうだった眼をしっかりと開いて輝かせる。この元気がないとやっぱり理子って感じがしないね。

「思ったよりも図書委員の雰囲気に馴染めなくてさぁ。くじけそうだぁ」

 昨日初参加の図書委員会。根暗そうな人間が集まっているらしいその委員会の雰囲気は、ジメジメとしていて言葉を発することにプレッシャーを感じるとのこと。

「理子ならきっとすぐに溶け込めるよ。大丈夫」
「そうかな?」
「うん」

 そうだとも。理子のペースに乗せられて親しくなった私だって、もしかしたらその図書委員会のジメジメした連中と同じ人種だったのかもしれないのだから。

「でもさぁ、変わったよねぇ」
「何が」
「優華が」
「え?」

 私が変わった?

「なんかさぁ、夏休み前はもっと静かだったというか、無口だったというか」
「そう?」
「うん、そう。前は表情も2択だったね。無表情か笑顔」
「そんなことないよ」
「それ! 今の言葉にもさ、ちゃんと感情がこもってたし」
「……今までそんなに素気なかったんだ、私」
「素気ないんじゃなくて、心ここにあらずみたいな」

 言われてみればそうかもしれない。割といつも本の続きや発売日を気にしていたし……。

「なんかね、人に関心がなかったように見えたなぁ。不思議な雰囲気で」
「私、コミュニケーション苦手だからね」
「今はそんな風に見えないからまた不思議。優華、なんかあったの?」

 何もなかったと言えば嘘になるけれど、私自身の雰囲気や性格が変わるような出来事は特になかったはず。少しばかり忙しい日々ではあるけれども。

「無口の上に声も小さかった優華が、今はあの江藤君に憎まれ口叩いてるし」
「あれはアイツが悪いのよ。等価でお返ししているだけ」
「とにかくさ、なんか活き活きとしてるよ」

 活き活きとしているらしい私だそうだけど、自分自身でそう感じられないのは何故だろう。できればこの身で自分の変化や成長をしっかりと感じたいものだけど。

「まぁとにかく私は嬉しいよ! 優華が更に可愛く女らしくなってさ!」
「変なこと言わないの」
「あ、川崎来た!」

 可愛いとか、女らしいとか、私はそんなことを気にして生きてきたわけではないし、それを重視してこの先を生きていくつもりもない。だけどこう言われてみると、まぁなんというか嬉しいというか照れるというか……。
 でもそれを気にしすぎて自分じゃない自分を演じるのは嫌だ。ありのままで、飾らない自分を見てくれる人が……って何を考えてるんだろうね、私は。
 ありのまま、か。どうだろう。私はありのままの自分を出しているだろうか。素直に自分の意見を言ってみたり、他人の言うことを受け入れてみたりしているだろうか。……していない。
 そう。飾らない自分でいたいと言っていても、まず素の自分が前面に押し出されていないのだから、飾る以前の問題だったりして。
 遠慮、逃避、放棄、無視、そうやって踏みとどまることで安泰を築くことばかり考えてきたのかもしれない。誰かが前に出れば後ろに下がるし、誰かが上に昇れば下に付く。争いや、すれ違いを防ぐための手段。

 でも、それがいけないとは思えない。それで自分も相手も嫌な思いをせず、損もしない。無難で安全な解決策。会長は相手にとことん喜んでもらう為に行動を起こしたりするけれど、労力や利益を考えると結局自分は損。私にはできないんだよね、骨折り損のくたびれ儲けってものが。
 人に頼まれたとか、自分の役割でもない限り会長のようには動けない。でもやっぱり間違ってはいないと思う。自分がいい思いをすれば誰かが嫌な思いをするだろうし、逆なんて考えたくもない。だからいつでも丁度プラスマイナスゼロで釣り合うようにしたい。ただ、何事もなく解決に導ける方法をとればいい。

「川崎先生! 私はこのままのほうがいいと思います!」

 おっと。少し考えごとに更けすぎていたみたいだ。何やら話が進んでいる。

「んー。そうかぁ? 先生はこのシーンは変えた方がいいと思うんだが」
「確かに話のジャンルとしてはコメディですが、やっぱりテーマが伝わるようにするべきです」

 そう、これは文化祭における我がクラスのミニ演劇に関する討議だ。ここ最近から朝のホームルームを使ってシナリオについて話しあったりしている。今まさに意見をぶつけているのはあの自然体代表の理子。川崎相手に屈しないその心に敬意を表したい。

「あー。お前らはどう思う? 先生の意見は没にするか?」

 教室がどよめく。あちらこちらからどっちでもいい、理子の意見で賛成、川崎のでいいじゃん等と色々な声が飛び交う。発言の際は挙手を願いたい。

「まぁ意見も割れてることだし、とりあえず先生の意見でやってみようか」
「いや、譲れません!」

 なんと意志の強い子なんだ。ここは引いておくべきなんじゃない? 理子。
 面倒だからと川崎の意見に賛成していた連中が少し不満気な表情を浮かべる。ちょっとした逆境が生まれてしまったようだ。

「……じゃあ仕方ない。とりあえず両方で練習やってみて決めよう」
「はい!」

 理子のあの嬉しそうな顔。それを見ていると私も微笑ましい気持ちになる。私たちと仲の良いクラスの女子も喜んでいるみたいで何よりだ。というより、仲のいい皆はさ、理子のこと好きなんだよ。明るくて、さっぱりした人格が嫌味を感じさせない。喜怒哀楽を素直に、人を傷つけないように表現できるって素晴らしいことだ。
 こんな場面で意見通しても、まぁ理子だからいいか、と納得できてしまう。これが人徳。

「あーあ。面倒なことしてくれちゃって」
「目立ちたいんじゃない? ちょっと顔がいいからってさ」

 クラスの隅の方でいつもジメジメしている女子たちの嫌な声。何よ。文句あるなら理子に直接言えばいいじゃん。理子が活発なのは今にわかったことじゃないんだし、あの子はいつも湿った雰囲気のあんたたちを差別するようなことだってしてない。

 そう、こうやってどうでもいいような人間にボソボソと文句言われたりするのが面倒なの、私はね。理子がそんなことを気にしないで真っ直ぐに進めるのってすごいよ。自分が持っていない長所を持っている理子を応援したいということだけは、私の中で揺るがないことかな。

 理子の笑顔が、眩しかった。
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