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洒脱なマフィアは素朴な花を愛おしむ

作者:山田まる
前半に少し痛い描写がありますので、苦手な方はご注意ください。


 
 10で身寄りを亡くし、12で身体を売って生きることを決意した。

 もとよりスラムで生まれ、スラムで育ったアイリーンにとって、身体を売って生きるという選択肢は物心ついたときから当たり前のように身近にあるものだった。それでもこれまでそれを選ばずにいられたのは、母親の庇護があったからだ。貧しくても、母子二人何とか支え合って生きてこられたのは、まだ区の福祉がしっかりしていたからだ。

 だが、アイリーンが8歳になった頃から区の様子は一変した。

 優しく賢く民からも人気のあった領主が恐ろしい犯罪に手を染めたとかいう罪で投獄され、いつの間にか得体のしれぬ男がアレス区を管理するようになったのだ。巷では、領主様はその男に嵌められ、暗殺されてしまったのだという話もあった。けれど、それはアイリーンには関係のないこと。アイリーンにとって大事なのは、アレス区が非常に住みにくい場所になってしまった、という事実だけだった。
 新しい領主は遊興に耽り、領地の統治を顧みなかった。福祉などもっての他だ。その結果、領主が変わって2年後、アイリーンの母は病に倒れそのまま帰らぬ人になった。

 母の真似事をして、最初のうちは真っ当に掃除婦として生きようともした。
 けれど、気が付いた時にはもうアレス区にはそんなまともな仕事は残っていなかった。

 だから、生きるために身体を売ろうと思った。

 ボロボロにやせ細った身体、汚れた身なりで、そんなのが高く売れるだなんて思ってはいなかったけれど。
 それでも、一日の食事代ぐらいなら稼げると思ったのだ。
 石のように硬いパンでもいいから、お腹いっぱい食べたかった。空腹に痛む腹を公園の水で誤魔化して寝るような生活に、もう限界を感じていたのだ。
 けれど。

 まさか、初っ端から変態性犯罪者にぶち当たるとも思ってはいなかった。

 引きずり込まれた路地裏で、ナイフを突きつけられた。たぐりよせられた長い髪が、頭皮が剥がれてしまうんじゃないかと思ってしまうほどに痛む。押さえつける乱暴な腕から逃れようと身体をよじれば、みぞおちの辺りを酷く殴られた。崩折れる華奢な身体。汚い路地裏の路上の上、痛みを少しでも逃そうと身体をくぅと丸くする。なのに男は幼い子供のそんな努力ですら無視して、無理やりに馬乗りになった。

 ああもうダメなんだ。

 きっと殺される。
 きっと死んでしまう。
 欲しかったのは、ただちょっと生きていけるだけのご飯だったのに。
 ほんの10トールでももらえればそれで充分だったのに。
 通りに立つ、綺麗な御姐さん方のように一回で何百トールなんて取るつもりもなかったし取れるわけもないことだってちゃんとわかってた。

 だから―――今自分は。
 たかが10トールをけちった男に殺されかけているのだ。

 そう思うと、なんだか泣きたいのを通り越して笑ってしまいそうになった。
 アイリーン着ていた服を、男の粗野な腕が引き裂く。
 腹部が訴える激痛に意識が遠のく。

 もう。
 ダメだ。

 きっと、今目を閉じたらもう二度と空は見えない。
 だけど、もう厭だと思うのも正直本当で。
 生きてたってしょうがないじゃないか、って思うのも本当で。

 諦めたくない。
 諦めて楽になりたい。

 相反する二つの思いにアイリーンは苦痛の中で揺れる。
 突きつけられ肌の上を滑る冷たい金属の感触に、アイリーンの気持ちが諦めに偏りかけた瞬間――…まるで神様は意地悪をするかのように逆転を用意した。





「おやおや、我らが狂犬殿はそんな路地裏に潜んでおられたのかい?
 まさに身に背負う名にふさわしい居場所だ、と感心したいところだが――…」





 深い、声音だ。
 耳の中に。
 心の中に。
 染み入るような柔らかな美声。

 アイリーンの上にいた男が怯えたように動きを止める。
 それから起こったことを、アイリーンはよく覚えてはいない。
 闇に響く深い声音が一言、命じる。
 とたん辺りに響く喧騒。
 男の、怒号。
 たくさんの、足音。
 どこかで、さきほどまで自分の上にいた男の声によく似た悲鳴が聞こえたような気もした。
 そしてそれきり静かになった路地裏に、穏やかな優しい声音が響いた。




「お嬢さん、他に行くあてがないのなら私と一緒に来るか?」




 そう、語りかけた声をアイリーンは今でも覚えてる。
 母親を亡くしてから、今まで誰もアイリーンにそんなことは言わなかった。
 今まで誰もアイリーンにそんなことは言ってくれなかった。
 母親を失ってからたった一人で生きてきた彼女に、初めて手を差し伸べてくれた人。

 それは、光であり闇だった。

 地の底から掬い上げてくれるようでいて、より深い場所へと誘うような誘い。
 今となっても、アイリーンはそのどちらかだったのかわからないでいる。
 ただ一つわかっているのは、その人がアイリーンの『唯一』だということ。

 それが――…、アイリーンと彼の出会いだった。












 幼かったアイリーンを殺そうとした男が、その辺の娼婦を手当たり次第に切り裂いていた異常者だということはあとから知った。あの辺の通りで娼婦を買っては、酷く凄惨な殺しを繰り返していたらしい。あげくつけられた名前が狂犬。
 アイリーンは知らなかったけれども、周囲の娼婦の間では絶対にあの男だけは客にとらないように、また見かけたらすぐに報告するようにと上からキツく言いつけられていたんだそうだ。だからあの時ぎりぎりでアイリーンが助けられたのも、アイリーンがあの男に路地裏に引きずり込まれる様を見た別の娼婦が慌てて連絡を回してくれたからなのだという。

 全く、いくら感謝したって感謝しきれない。

 今でもあの時のことを思い出せばしくりと痛む気がする下腹に手を当ててアイリーンはため息を吐き出す。もう七年もたつのだからそんなわけはないことはわかってはいるのだ。

 そう。
 あれから既に七年の時が流れた。

 ボロボロに痩せ細った小汚い子供だったアイリーンも、今や立派なレディといってもいい姿へと成長していた。小麦色の、健康的に焼けた肌に漆黒の豊かにうねる黒髪。悪戯な仔猫のような色を浮かべた瞳は夜明け前の空のような深い蒼だ。道を歩けば、すれ違い様思わず振り返る者もそう少なくはない。我ながら劇的な成長ぶりを見せたと唸らざるを得ないだけの女っぷりだと思ってはいる。

 だが。
 どうしてもあの男だけは振り返ってくれない。

「………クロードさんのばーか」

 ぷぅと子供のように頬を膨らませてアイリーンはぼやいた。
 クロード、というのはアイリーンにとってこの世で一番大切な人の名前だ。
 何も持たないアイリーンにとって、何よりも大切な宝物のように、大事に大事に胸の中にしまってある名前だ。

 あの時殺されそうになっていたアイリーンを助けてくれた。
 自分自身の身体をきつく抱いて震えることしかできなかったアイリーンに、手を差し伸べてくれた。誰よりも綺麗で強くて、アイリーンの大好きなひと。

 何の気まぐれか、彼はその後もアイリーンを手元に置いて面倒をみてくれた。
 母親を亡くしてからは、その場暮らしで独りきりで生きてきたアイリーンに暖かな居場所をくれた。その庇護のもと十分な教育だって受けさせてくれた。

 だから大好きなのに。
 悲しいかな、クロードは全くといってアイリーンを相手にしてはくれないのだ。
 どこかに出かければ必ずアイリーンの喜びそうな土産を見繕ってきてくれるし、
アイリーンの望むことは大抵アイリーンがそれを口にするよりも先に叶えてくれるのに、決してアイリーンのことを「女」としては見てくれない。

「……まあ、クロードさんから見たら私なんて、ちんちくりんのガキのままなんだろうけどさ」

 小さく呟いて、アイリーンはかくりと肩を落とす。

 クロードは、この辺り一帯の裏社会を牛耳る組織のトップに立つ男だ。もともとアレス区の出身だったが、あのうさんくさい男に領主が成り代わる少し前くらいからは、しばらくアレス区を離れて外でさまざま(・・・・)なことをしていたらしい。

 そして、クロードは遠く離れた地でアレス区の惨状を聞き、それならばと戻ってきたのだ。それが、ちょうどアイリーンの助けられた日だ。
 あれから7年、クロードはアレス区を裏から支配し、裏稼業からではあったもののスラムに統治を敷いた。あの無能な領主はクロードによって追い落とされた。
 アレス区に住む人々は、皆その空いた領主の座にクロードが収まるのだと思っていた。アイリーンだってそうだ。噂にはすぎないが…、クロードには罠にはめられ獄中で暗殺された領主さまの落とし胤だという話もまことしやかに流れている。

 そんな周囲からの声を、クロードはあっさりと無視をした。
 曰く、「私のような裏社会の人間は表に出るべきではないね」だそうだ。
 クロードが決めたことならば仕方はないが、それでもアイリーンは少しだけ、いや、だいぶ勿体ないと思う。

 クロードという男は本当に有能で、美しく、素晴らしい人間なのだ。
 クロードが治めるようになってから、アレス区は生まれかわった。
 スラムには未だに貧しい人々が暮らしてはいるが、アイリーンが子供だった頃のような悲惨さはなりを潜めた。貧しくても、人々が力を合わせて何とか生きていけるような明るさがそこにはあった。
 アレス区の人間の中には、クロードが裏稼業の人間だと知った上で慕う者がいくらでもいる。

 そんなクロードであるので――…、それこそ女性なんて選り取り見取りだろう。
 アイリーンの想像もつかないような豪奢で美しい女性ばかりを毎日相手にしているのだろうとも思う。だから、アイリーンのようなちんちくりんな子供は相手にしないのだとそう言われてもしょうがない部分があるのはわかってる。


「でも…、客まで一人もつかないっていうのはどういうことなの」


 アイリーンは哀しげに、絶望の滲んだ声音でぼやいた。
 応えるように、くすくす、とアイリーンの愚痴を聞いていた御姐さん方が可憐な仕草で苦笑する。

 ここは美しく着飾った女性たちが金を出す男たちに従事する、いわゆる高級娼館の一つだ。特別な点があるとしたら、クロードが直接管理する店だ、ということだろうか。

 クロードの経営するこの≪黒蝶の翅を休める泉のほとり≫は、必要なお金さえ出せば誰でも利用することは出来る店でありながら、そこにいる女性たちと一夜を共にすることが出来るかどうかは、彼女たちの気分次第という仕様になっている。口説き落すことが出来たならば、彼女たちは一夜の恋のお相手として男たちに色鮮やかな艶夢を見せてくれる。だが、例え誰であっても、彼女たちに強制して身体を売らせることは出来ない。それでも多くの男たちが会話を楽しみ、あわよくばそれ以上の関係になれることを期待して≪黒蝶の翅を休める泉のほとり≫に通い詰める。それが、クロードという男のやり方だった。

 アイリーンは18で成人してすぐに、≪黒蝶の翅を休める泉のほとり≫に≪蝶≫として名前を連ねた。

 クロードには散々反対された。
 けれど、アイリーンにとっては夢だったのだ。
 ≪黒蝶の翅を休める泉のほとり≫で働く高級娼婦となって名をあげ、クロードの稼ぎに貢献することが自分に出来る一番の恩返しだと信じていた。恩返しなら他にもたくさん方法があるだろう、と呆れた調子で説得されたが――…、裏稼業で生きるクロードの傍らにはいつだって≪黒蝶の翅を休める泉のほとり≫の≪蝶≫が控えていた。それを見て育ったアイリーンにとって、彼女たちのようにクロードを支えて共に生きるのが夢だったのだ。

 懸命に学んで知識を手に入れたのは、どんな客が来ても対応できるように。
 身だしなみや礼儀作法を身に着けたのは、クロードの『商品』としての格を少しでも上げたかったからだ。

 だから、アイリーンはコネではなく実力で≪黒蝶の翅を休める泉のほとり≫の≪蝶≫になることが出来た。

 が。

 どの≪蝶≫にも必ず一人は馴染みの客がいるというのに、アイリーンはこれまでに一度も客に指名されたことがない。何故だ。

『どうしても、≪黒蝶の翅を休める泉のほとり≫で働くというのかい?』
『はい。≪蝶≫として働いて――…、これまでのクロードさんへの恩に報いたいんです』
『……何度も言っている通り、私に報いる方法はそれだけじゃないと思うがね』
『でも…、クロードさんが傍におく女性は≪蝶≫だけでしょう…?』
『――…それは確かにそうだが』
『だから、私は≪蝶≫になりたいんです。そしていつか――…、クロードさんに呼ばれるような≪蝶≫になりたい』
『…………』

 そう、アイリーンはクロードに宣言したのに。
 ≪黒蝶の翅を休める泉のほとり≫で立派な≪蝶≫として成り上がり、いつかは一夜限りとはいえクロードの相手を務めさせてもらうのだ、とずっと意気込んでいるのに。

 それなのに。

 ≪黒蝶の翅を休める泉のほとり≫の≪蝶≫になって一年あまり、ただ一人の客にも指名されないなんてそんな馬鹿なことがあっていいのだろうか。

 アイリーンは頭を抱えて机に突っ伏す。
 慰めるように≪蝶≫の御姐さん方の綺麗な指先がアイリーンの頭を撫でる。ひたむきにクロードを慕い、クロードの役にたち、傍にいたい一心で≪蝶≫になったこの年若い少女は、彼女たちのお気に入りでもあるのだ。

「お客さんつかないから、お金も入んないし、お金も入んないからクロードさんちからも出て行けないし……」
「あ、アイリちゃんまだ諦めてなかったんd」
「諦めるってなんですか諦めるって…っ」
「ううん、何でもないの」

 成人し、職にもついたのだから独り立ちしてクロードの屋敷を出て行こうとしたアイリーンに、クロードが出した条件は、クロードが認めるだけの収益をしっかりとあげることだった。≪黒蝶の翅を休める泉のほとり≫の基本給だけでは、クロードの『成長を認めて安心して手放せる』レベルの収入には届かないのだ。そんなわけで、結局未だクロードの屋敷に居候状態のアイリーンである。

 独り立ちまでの道は限りなく遠い。

「まぁまぁそう嘆かないで、アイリちゃん」
「そうそう、ああほら美味しい頂き物のお菓子があるのよ?」
「紅茶も冷めないうちにお飲みなさいな」

 口々に優しく慰める御姐さん方だが、決してそのうち客がつくわよだとは言わない辺り状況を熟知している。う、う、と呻きながら顔をあげたアイリーンは、涙目で御姐さんたちを見つめ、通算何百になるとも知れない覚悟を口にした。

「私、今日こそは絶対指名をとってみせますから…っ」














 結果。
 言うまでもなく―――惨敗。
 結局今日も今日とて誰一人に指名されることなく閉店を迎えた。
 次々と指名の入る御姐さん方と席をご一緒したりもするのだけれど、基本的に指名されないアイリーンはメインで客と応対するといったことがない。
 今まで何度も、一見の客をメインで回してもらえないかとお願いしてみてはいるのだが、さすがにここは実力重視の客商売、御姐さん方も自分の客を譲る気にはなれないらしくOKを貰えた試しがない。

「何がダメなんだろうなぁ……」

 アイリーンがぽつんと呟き、帰る準備をしていれば、先に帰る準備を終えていたはずの御姐さんが入り口から顔を出した。何か忘れ物かと周囲を見渡すアイリーンに、御姐さんはにっこり微笑んだ。

「お迎えが来たわよ」
「あ……」

 慌ててアイリーンが時計を見やればそれは確かに約束の時間5分前。
 クロードさんは時間に律儀すぎだ、なんて呟きながらアイリーンは慌てて身支度を整える。華やかな≪蝶≫として相応しいドレスから、身相応の普段着へと。綺麗に着飾っている御姐さんは、指名してくれた客とこれからホテルにでも行くのだろう。綺麗なメイクに、豪奢な夜服。惨敗記録を着実に更新し続けているアイリーンからしたら、羨ましい限りだ。
 いつになったらあんな晴れやかな姿で、クロードの隣に立てる日が来るのやら。

「でも、諦めちゃ駄目だ」

 むん、と気合一つ。
 今日も指名をとることは出来なかったけれど、クロードがこうして迎えに来てくれるのはやはり嬉しい。こうしてクロードの優しさに触れる度に、アイリーンは早く立派な≪蝶≫になりたいと決意を新たにする。

「お待たせしました!」

 そう明るく声をかけて、アイリーンは急ぐ。
 優しげな笑みを浮かべて自分を待つ、大好きなクロードのもとへと。













 「クロードさん!」

 ぱたぱたと軽い足音をたてて駆け寄ってきた少女に、≪黒蝶の翅を休める泉のほとり≫の玄関ロビーで待っていた男は柔らかい笑みを浮かべた。
 年の頃は三十路に差し掛かったばかり、といったところだろうか。
 男盛りの均整のとれた長躯を、一目で上質だとわかるスーツに包んだ立ち姿は、なるほど、貴族の落とし胤だと言われるに相応しいだけの品を兼ね備えている。
 男、クロードは笑みに口元を綻ばせつつも、アイリーンの背後で見送りの態で立つ女性へとちらりと視線を投げかけた。
 つまりそれは確認だ。
 今日もいつも通り一日が過ぎたかどうかを確かめるべく投げかけられた視線に、これまた目だけで女性が頷けば、クロードは満足したように双眸を細めた。

「それでアイリ、今日のところはどうだったのかな。指名をとることはできたのかい?」
「う」

 今日も客が一人もとれなかったことを知っててからかうような深い声音に、アイリーンが口ごもる。拗ねたように唇を尖らせ、ちろ、と上目遣いに一度クロードを見やり、再び深いため息をつくその様子にクロードは心底愉しそうに笑ってその頭を撫でた。

 そんな様子を眺めつ、それこそため息をつきたいのは店に残っていた御姐さん方のほうである。

 そもそも、アイリーンに客が取れるわけなどないのだ。
 できるわけがない。

 背後にクロードが控えているとわかっている少女に手を出すような命知らず、この界隈には存在しない。わざわざ週に何度かは自らこの少女を迎えに来た挙句、己の存在を周囲にアピールして帰るという念の入りようなのだ。

 ―――早い話。

 この男にアイリーンの独り立ちを許す気などカケラもないのだ。
 大事に大事にその腕の中に囲って、逃す気などこれっぽっちもない。

 それほどまでに大切に想っていながら、それがどうしてアイリーンの「クロードさんに全く相手にされていない発言」につながるのかがイマイチ解せない周囲ではあるのだけれども。

 少なくともこの店がクロードにとっての託児所代わりに利用されていることは事実である。そんなわけで、クロードに連れられてアイリーンが店を出ていった後こそ、皆は今日も一日が無事に終わったことに感謝してささやかな祝杯をあげるのである。

「今日も無事にボスにアイリちゃんをお返しできたことを祝ってー」
「かんぱーい」







 それは。
 大好きな男の恩に報いるために背伸びして「女」になろうとする少女と。
 保護者のふりを長い間続けてきたせいで今更どう手を出そうかと考えあぐねる男の――…不器用でどうしようもない恋物語だったりするのだ。







「クロードさん、私って魅力ないですかね」
「さぁ、それはなんとも言い難いね」
「明日はもうちょっと露出で攻めてみます」
「やめなさい」






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