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『懐かしい顔』

 大会を翌日に控えたある日、俺は朝から森で稽古がてらに一つ、手合いをしていた。

 お相手はニナだ。彼女も明日の大会に出るので、ちょうど手合いの相手を探していたところだった。

 

 結局、あれ以来アゼルは姿を現していない。しかしそれは、未だに答えが出せないでいる俺にとって幸いだった。

 カインとは戦いたくない。しかし俺が過ごしてきたこの三年間は、魔物達との思いでで溢れていて、苦しい時も共に戦ってきた仲間達を裏切るなんて簡単にできることではない。確かに俺は魔物達とはあまり付き合いは良くなかったが、俺が拒絶していただけで、やつらは何かと気を掛けてくれていた。俺をかばって死んだ魔物も数えきれない程いる。そんな俺に、仲間を斬れだなんて、やはり無理だ。


「シレン……?」


「あ……、ごめん」


 剣を握ったにも関わらず、うつむいて動かない俺にニナが心配そうに目を向けている。

 今、目の前にいる彼女も大切な仲間であり、その事実は俺が魔王の手先であっても変わらない。彼女を斬ることなんてできない。クルーエルの命令でもそれは無理だ。人間であろうと魔物であろうと、俺に仲間を斬ることなんてできないんだ。そのジレンマがある限り、この答えは永遠に出すことはできないだろう。


 すう、と深呼吸すると、俺は静かに剣を構えた。


「ようやく動く気になったわね?」


 ニナが挑発的な笑みを浮かべる。そういえば性格変わるんだったな、こいつ。


「待たせて悪かったな。その分すぐに蹴りを付けてやるよ」


 俺は挑発を返すと、一直線にニナに斬りかかる。

 もちろんこれは挨拶代わりの軽い斬り込みで、ニナはあっさりとかわす。


「アンタの意味不明な速さはこの前見せてもらったけど、速さだったら私も負けてないわよ!」


 ニナはトンとステップを踏み、さっきの斬り込みをかわされ、まだ体制が整ってない俺に斬りかかってきた。


「おっと」


 俺は間一髪でニナの刀を剣で受けた。

 ニナは競り負けると判断し、刀で剣を突き離すとバックステップを踏み、距離をとる。


「私は競り合いは弱いのよ……。てかアンタ、私と互角の速さで力も強いなんて反則じゃない?」


「お褒め頂きありがとう。まあホントだったらお前みたいな超人速度にはついていけないんだろうけど」


「……?」


「あ、悪い。なんでもない。手合い中におしゃべりがすぎたな、そろそろ決めるぜ?」


 ニナは刀に鞘を戻すと、神経を尖らせた。抜刀術だ。ギリギリまでその刀を鞘に収めることで、次の一手でどう動くかを読ませない気だ。


「……いくぞ!」


 ニナとの距離を一歩で詰めると、それと同時に剣を振り下ろした。激しい金属音。いつの間にかニナの刀はその鞘から抜かれ、俺の剣を受けていた。受けていた、と思ったら気づけば俺の剣は見事に受け流されていた。

 やられた。隙を作ってしまった俺に対し、ニナは刀を突き付けた。


「参りました……」


「ふん」


 ニナは不敵に笑うと、剣を鞘に収めた。


「いやあ、参ったよ。ホントに。俺もまだまだだなあ」


「当然の結果よ。これに懲りたらアンタもちゃんと稽古しなさい? 毎日」


「……あ、毎日すか?」


「ええ、この私が稽古を見てあげるわ、毎日」


(とんだ高飛車キャラだな。どっちがホントの姿かわからなくなってきた……)


「わかったよ。そういうことならお願いするよ。よろしくな、先生!」


 そういうと、ニナは素直に笑った。

 こういうところは可愛いんだけどなあ。


「さて、と。そろそろお昼だし、一旦街へ戻ろうぜ?」


 俺達はのんびり街へと歩き出した。



 ***



「ああん? いい気になりやがって! 女だからって手加減しねえぞ!」


「うっさいわね! アンタみたいなブサイクがナンパなんて百年早いのよ!」


「て、て、てめえ! 言っていいことと悪いことがあんだよ!」


 その頃、コーストリバーの街では何やら騒ぎが起きていた。

 経緯を説明すると、一人の男が街を歩いていた二人組の女の子にしつこく付きまとい、ナンパしようとしていたが、女の子のうちの一人がキレだし、男をボロクソに言い始めたとかだ。


「……うへえ、あれリィナじゃん」


 街へ戻ったばかりのシレンはちょうどその騒動の近くを通りかかる。騒ぎの渦中にはリィナとシリアと一人のブサイクな男。もちろん面と向き合って睨み合っているのはリィナとその男だ。


「事実でしょう? 金輪際、私達に近付かないで」


 さすがに耐えきれなくなったのか、男は怒りのあまり体を震わせる。

 リィナ達は男に背を向け、そそくさと歩き出した。

 顔を真っ赤にした男はリィナ達のあとをゆっくり追い始めた。


 さすがにしつこくないかと呆れた目で見ていたが、ふと目を降ろすとその男の真意を悟ることになる。なんと、男の手にはナイフが握られていた。


 リィナ達が路地裏に入ると、男は一気に駆け出した。


(まずいぞこれ……!)


「死ねえええ!」


「きゃあ!」


 リィナの叫び声、くっ、遅かったか!?


 しかし、路地裏に入り、見た光景は予想外のものだった。

 どうやらリィナは無事のようだ。縮こまって震えている様子をみると、まだ彼女自身も状況を把握できていないようだ。次に男に目を向けると、背中しか見えないが、何故かナイフを振り上げたまま固まって動かない。シリアはどうだろう、シリアはどうやら後ろの方を見て驚いている。誰かいるのか?ここからでは男の背中でちょうど影になって見えない。


 すると――


「大丈夫ですか!? リィナさん! お怪我はありませんか?」


 その”誰か”がリィナに駆け寄り、声を掛けている。

 いや、この声は聞き覚えがあるぞ。


 リィナはそっと顔を上げると、驚きの表情を見せた。


「ク、クライン!?」


「クライン君! どうしてここに?」


 同時にシリアも声をあげた。


「え、クラインか?」


 俺が声を上げると同時に、男が仰向けにバタリと倒れた。男の胸には一本の矢が突き刺さっていた。


「あ、どうも皆さん、お久しぶりです。あの、ここで話すのもなんですし、どこか店にでも入りません?」


 クラインはそういうと、一人すてすてと歩いて行ってしまった。

 俺、リィナ、シリアは目を丸くして顔を見合わせる。


「あ、そういえば、あなたたちもクライン君と知り合いだったの?」


「あ、うん、俺達も旅の途中でちょっと」


 苦笑して頭をかく。


「てか、シレンいたなら助けなさいよ!」


「ごめん! 間に合わなかったんだ。今回の件に関してはクラインには頭が上がらないな」


 と小話を挟みながら、俺達はクラインのあとを追った。


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