第58話 向かう先は珈琲屋
「ぜぇ……ぜぇ……ぜぇ……ここまで来れば大丈夫だろ……ティファと楓のまるで打ち合わせでもしたかのようなあの挟み撃ち連携プレイのせいで疲労がヤバイ……てか、実は仲良いんじゃねーの?」
すっかり追われる身となった俺は中腰になり、両膝に両手をつきながら肩を激しく上下させて口呼吸をしていた。
ただの鬼ごっこではないデス鬼ごっこが始まって早30分。
俺と同等程度の体力を持っているティファールが加わっている時点で殆ど勝ち目がない為、手詰まりといった現状だった。
「いやー、お兄さんも大変だねぇ……あんな凶暴な女性は僕も初めて見たよ」
「おい、起きてたのかよ……」
「そりゃ、あんだけ騒がれればね……」
先程まで腕で抱え、少し休憩という事で地面に下ろしていた筈の頭に角を2本生やした男の子――竜人の子供がいつの間にか意識を取り戻していたようで地面に横たわりながら呆れ口調で声を掛けてきた。
「ま、さっきまでの事は兎も角、助けてくれてありがとう。僕が生きてるって事はお兄さんが怪鳥から助けてくれたんでしょ?」
「あー、いや、助けたのはイディス……いや、ちょっと性格が可笑しいエルフだ」
どういたしまして、と言っても良かったのだが一切の邪気が無い笑みを向けながらお礼を口にしてきた竜人の子供を前に善良な人間である俺は知っている……といっても殆ど無いのだが、嘘偽り無く伝えてやろうと思い、言葉を発した。
「エルフ……エルフね、分かった。その人にも後でお礼を言うとするよ。ところで……お兄さん達って異邦人でしょ? 一瞬、不知火の人達かと思ったけどお兄さんからはあの独特な匂いが全くしないし……」
「異邦人? それはよく分からんが俺達はぺてん師みたいな赤白チェックに飛ばされてここに来たぞ」
竜人の子供が発した言葉に疑問符を浮かべながらも俺は少し前の事を想起させる。
そして思いを馳せている間、横たわっていた男の子はムクッと立ち上がり、何かを確認するようにスンスン、と音を立てながら俺の匂いを嗅いでいた。
く、臭い! 臭いからちょっと距離を置いておいてよ……
「うん、やっぱり異邦人だね。僕は……あぁ、まだ自己紹介をしてなかったや。僕はシーフィス。竜人街ドランジェ長の孫だよ。そして代々、異邦人を見守る役目を任されている竜人一族だね」
人懐っこそうな笑みを浮かべながら喋るシーフィスは……もう、それは大人びており……歳上相手に一切物怖じしないその態度にコミュ障の俺は人知れず戦慄していた。
「へ、へぇ……そうなのか。あぁ、ところでさドランジェに宿とかあるのか? ナイフや剣を投げたり飛ばしたりしてきてたが一応、あれでも俺の大切な人達でな。出来る限り野宿とかはさせたく無いんだ」
「……あんな人達が大切……はっ! ……か、変わった性癖をお持ちなん「違うわッ!!」……あ、違うんですか?」
腕を組ながら頭を悩ませていたシーフィスは突如、何か思いついたのか先程までとは打って変わって距離を取り、話し方さえも変えて怖ず怖ずといった様子で尋ねてきた。
距離を取って欲しいとは思っていたけどそっちの距離じゃねーからな!? ナイフ投げられて嬉しがるような度し難い変態じゃないからね?
「ま、そんな事は置いておいて。異邦人とはいってもお兄さんからは邪気が感じられないし……それに助けてくれたお礼もしないといけないからね。はい、これ」
「これ……なんの紙だ?」
無邪気な笑みを浮かべるシーフィスは先程の発言で少々気が立ってしまっていた俺を横目に懐から1枚の紙を取り出し、そのまま俺に差し出した。
「それね、珈琲屋へ行く為の地図だよ。あのマスターって悩み事とかをよく解決してくれる事で有名なんだ。……あっ、そうそう。はい、こっちのお金は持ってないでしょ? これでコーヒー1杯飲めるよ。……あぁ、あの女の人達が街に訪ねてきた場合はちゃんと僕が責任をもって宿に案内するから心配は要らないからね」
「ははっ、大丈夫、大丈夫。悩み事なんて無いって」
自分よりも年下の男の子に気を使われる程の問題でもない、と判断した俺は手のひらを突き出し、見慣れないコインを取り出したシーフィスに大丈夫だ、と意思表示をするが
「イオ君どこー? 私悲しいよ……あんなババアに心を許すなんて……ねぇどこにいるの? イオ君。お前なんて要らないってあのババアに向かって早く言ってよぉ……」
ジーザス!! スミマセン! 俺、無力なコミュ障でした!!
何処からか聞こえてきた楓の呟きを耳聡く聞き取った俺は数秒前の自分に馬鹿野郎!! と罵りながらシーフィスが渡そうとした地図とお金を素早く受け取り、珈琲屋に向かって駆け出した。
おぉ……遂に20万文字……我ながらよく書けたものです(-∀-`;)
誤字、脱字等あればご指摘お願いしますm(__)m