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第57話 逃亡

 うおおおおおぉ!! ナイス!! ナイスだイディス!! 良いタイミングで帰って来てくれたッ!!



 自身の肩が未だにメキメキと悲鳴を上げていたのだが、俺はこの殺伐とした空気を打破してくれそうな変態の帰還に心の中で喝采を上げていた。



 先程までの殺伐とした雰囲気。

 特に目立ったアクションを起こせないでいた俺は物理的に、そして精神的にも追い詰められていた。



 そして俺へ濁りきった瞳で威圧的な視線を送っていた楓やティファールも急に落下してきた怪鳥の存在に驚き、視線を上空へと移す。



 そして数秒後、怪鳥が落下してきた為に地響きが……




 鳴り響かなかった。



 「あ……あれ!? 私の焼き鳥は!? 今日、焼き鳥とソテーを作ろうかと思ってたのに!!」




 怪鳥が空から落ちてきた事で驚いたからか、ティファールの手の力がほんの少しだけだったが緩んでいた事あって俺は慌てて振りほどく。そしてそのまま駆け出した俺は吸血鬼化と身体強化のスキルを存分に発揮し、並外れた跳躍をしてアイテムボックスであるリングへと怪鳥を収納していた。



 そして風魔法を巧みに使用しながら大きな音を立たせずに着地した彼女は首を左右に振りながら素っ頓狂な声を上げていた。




 ソテーって……イディスってもしかして意外と料理が出来ちゃうの?

 実は黒くてデカイ鍋を用意して油にポーンってするんじゃないの?



「よし、予想通り孫とやらを発見ッ!!」



 直後、怪鳥が消えた事で腹の中にいたのか、煤けた緑色の肌をした男の子が双眸に映る。

 そしてドランジェの長の孫であろう男の子を視認した俺は一旦着地し、そのまま落ちてくる彼を受け止める為に落下地点を予想し、そこへと駆け出した。

 



 数秒後、無事にキャッチした俺は叫び散らしながら



「おい、イディス!! 俺はコイツを届ける為に街に向かう!! そこで落ち合おう!! 去らばッ!! ……ってコイツ胃液か何か浴びたのかは知らねぇけど臭過ぎるわああああぁ!! 鼻ッ!! 鼻が曲がっちゃうううううぅ!!」



 異臭に顔を歪めながら脱兎の如く逃げ出した。



「え!? ど、どういう事!? 去らばって何!? え? え?」



 吐き捨てるように口にした言葉にイディスは狼狽える。

 だが、そんな反応とは裏腹に恍惚のような表情を浮かべる女性が1人いた。



「なんで逃げるの? ……あ、分かったぁ。鬼ごっこがしたいんだね? 昔、イオ君と私と穹姉の3人でよくやったよね……いいよ、絶対に捕まえてあげるから」



 穹姉――鷺ノ宮穹は3つ程年が離れた俺の姉だ。

 小学生の頃に海外に留学してしまって以来、面と向かって話す機会が全くといって良い程に無くなった。「近親が……」や、「法律が……」等と言っていたのは覚えているんだが、何故留学をしたのかは未だに謎だった。だが、毎日1時間程度電話をしていたのであまり、寂しいといった感情を抱くことはなかった。



 先程まで眉を寄せながら俺の行動を目で追っていた楓は合点がいった、と言わんばかりの笑みを見せながら口を開いた。



 そしてその時、浮かべていた笑顔は俺の知っている彼女の笑顔そのものだったのだが、捕まえてあげると言った楓が起こした行動は子供がやるような鬼ごっこのように平和的ではなかった。



「鬼ごっこするとは言ったけど、私から離れるその足は……要らないよ、ねッ!!」



 両手に装備していたナイフを俺の足めがけて投擲した。

 文字通り、捕まえる為に。



 ……うっそおおおおおおぉん!! 

 捕まえる手段がエグすぎるッ!! 

 楓には平和の『へ』の文字も持ち合わせちゃいないってか!! コンチクショウッ!! 



 だが、心の中で焦っていたものの、散々悠遠大陸で修羅場を潜り抜けてきた俺の技量が遅れを取る事はなく、足に向かって背後から飛来してくる6本のナイフへ肩越しに振り向きながら視線を移すと同時に「凍れ!!」と発する事で凍らせ、迫るナイフを無力化した。



 ふぅ、これで一安心。と思ったのも束の間。



 楓にばかり気を取られていた俺はティファールが《闇剣の輪舞曲(ディストーション)》発動させた事に気づいていなかった。



 闇色に染まった漆黒の剣が彼女を囲うように浮かびあがっていたその光景は準備万端、と俺に向かって言っているように思えた。




 ……俺が何したって言うんですか……



 そしてそれを視認した俺は涙目になりながらも何とか思い留まらせようと試みるが



「ちょ、ちょっと待って下さい!! それ、洒落になってねーから!! 流石にそれは……」



 言葉を遮るかのように先程のナイフ6本が可愛く思える程に大量の漆黒に染まった剣が飛来してきた。



「マジかよッ!? ぼ、暴力反対ッ!! てか、誰か助けてえええええぇぇ!!」



 悲鳴染みた俺の叫び声は木霊するかのように響き渡るが、手を差し伸べてくれる人は誰1人としておらず、ひたすら逃げていた。


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