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第56話 狂愛

 ティファールのうなじへと伸びた犬歯――牙ともいえる程に尖った歯を突き立てようとしていた為、俺は口が半開きとなっていた。



 だが、突如妙に落ち着いた口調で耳元へ呟いてきた楓の声によって理性を失いかけていた俺は正気に戻り、それと同時に慌てて下唇を噛むようにして口を閉じた。そしてツゥ、と一筋の血が下唇から垂れる。



 直後、流血する血を舌で舐めとり、苦虫を噛み潰したような顔をさせながら口を開いた。



「……えっと……あー……何しようとしてたんだろうね?」



 血を吸おうとしてました! なんて事は死んでも言えない為、適当にはぐらかそうと惚けてみるが



「……なんで……どうして答えてくれないの!? ねぇ、なんで!? どうして!? どうしてなの!?」



 必死とも言える形相で楓は怒鳴るようにして叱咤する。

 だが、その声はどこか切なさも入り混じっており、様々な感情が(せめ)ぎ合っていた。



 楓と一緒にいた時間は恐らく、彼女の両親を除けば俺が誰よりも長い。

 そう言い切れる自信があったのだが、今までこんな表情を見たことがなかった為に酷く驚いてしまった俺は両手の力が緩んでしまい、背中におぶさっていた楓を離してしまう。



 その結果、地面に足をつける事となった楓はそのまま流れる作業をするかのように俺の胸ぐらをガシッと掴み、自分の顔へグッと近付けた。




 目と鼻の先程の距離となった事でもう見慣れてしまった楓の端整な顔立ちが飛び込んでくる。

 だが、その表情にはいつも浮かべていた温厚な雰囲気等は一切なく、半ば脅迫めいた色が浮かんでいた。



 どうしたものか、そう思っていると剣呑なただならぬ雰囲気にティファールが気付き、こちらににじり寄ってきていたのだがそれを慌てて空いていた左手を突き出す事でストップを掛けた。



 恐らく、幼馴染みに吸血鬼の事を伝えるかどうするかと俺が頭を悩ませている事を汲み取っていたのだろうが、足を止めた一番の理由はそこまで現状を大事に捉えていなかったのだろう。



「え、えっと……どうしたんだ? 楓。いつもと様子が違い過ぎるぞ? ほら、そんなに怒鳴るからティファも驚いて「私の目をちゃんと見てよ!!!」」



 威圧的な態度に俺は辟易してしまい、苦笑いを漏らしながらも返答をするが途中、ティファールに視線を移した事で頭をガシッと両手で掴まれる。



 そして最後まで言い切る事なく遮られ、強制的に楓と向き直る事となった。




「ねぇ、なんで他のヒトを見るの? イオ君は私を……ううん、私だけを見てればいいんだよ?」



 子供に当たり前の事を諭す親のような調子で楓は呟くように声を発した。



 最早、俺の知っている楓ではなかった為、どちら様でしょうか? 等と言ってやりたかったのだが、そんなふざけたような質問を今の状況で投げ掛けれる程俺の肝っ玉は大きく無かった為、言葉を飲み込んだ。




 そして、目の前の女性は本当に楓なのか!? と疑うと同時にどうしてこうなったのかと頭を悩ませ、不自然な程に目を瞬かせながら硬直してしまっていた。




「ねぇ、イオ君……なんか変だよ? 私のイオ君は隠し事なんてしない!! 私を何よりも一番に……私だけを見てくれてた!! こんなの……私の知ってるイオ君じゃない……あぁ、そっかぁ。あのメスに毒されたんだね。待ってて、直ぐ正気に戻してあげるから……そしたら……あの時みたいに、いっぱい愛し合おうね。求めて……狂って……ウフッ、フフフフフ」 



 なんか変だよ? ってそれ、俺のセリフな!!



 なんか凄くヤバイんだけど。

 ていうか何、あの時って!! さもやった事があるかのような言い方をするのは止めて貰えませんかね!! ……それよりも誰だよ!! 楓をこんな狂気の塊みたいな人間にした奴は!!



 

 そして狂気染みた笑い声を響かせながらも楓は、俺の顔を固定していた両手を離し、それによって空いた両手を開いたままの状態で拳を作りながら振り下ろした。すると、あら不思議。


 

 人差し指と中指の間に1本。中指と薬指の間にさらに1本。加えて薬指と小指の間に1本と計3本にもなるナイフの柄の部分を刃が外を向くように一瞬の内に挟み込んでいた。そして、それが両手分なので合わせて6本。どこからか取り出したナイフを持ち、瞬く間に臨戦態勢へと変わっていた。




 ……こ、こえぇぇ



 その一瞬の出来事に1人、戦慄していたのだが気をとられていたのも束の間。

 俺は慌てて止めようと試みるが行動に起こす前に背後から肩に手を置かれ、メキッと悲鳴を上げる事で「なぁに?」と無理やり返事をする事となっていた。



 ギギギ、とロボットのように怖ず怖ずと肩越しに振り向く。

 すると怒り、憤怒といった負の感情を纏いつつも微笑を此方に向けていたティファールが視界に飛び込む事となった。




 ティファール1人でも宥める事がマトモにできないのに加えて楓も、となると完全にキャパオーバー。

 脳内オーバーヒートしちゃってお手上げ状態だ。



「ねぇ、伊織。ただの幼馴染みじゃなかったの? さっきの発言ってどういう事? ねぇ、ねぇってば、ねぇッ!!」



 ティファールも楓と同様に捲し立てる。



 もう収拾がつくつかないの問題じゃなかった。

 どうすれば良いんだよ……と心の中で訴えながら空を仰いだ直後、夕暮れの日差しを浴びていた筈の俺達を暗闇が――影が覆った。




 そして直後、俺の周囲を支配しえいた殺伐とした空気とは正反対と言ってもいい程に意気揚々とした場違い過ぎる声が響き渡った。




「うおっしゃああああああああぁ!!!! 焼き鳥ゲットおおおおおぉ!!!」




 影の正体は少し前まで、血眼になって探していた怪鳥が天高くから墜落し、その過程で日を遮った事によって生み出されたものだった。



 そして身体中傷だらけになりながら落下していた怪鳥には翡翠色の髪を靡かせたエルフが乗って――立っていた。




450万pv突破!有難うございます(*´ω `*)



ヤンデレの描写って難しいですね……(・ω・`:)



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