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第50話 血酔い

 扉の先は炎が一切上がっておらず、まるで城とは隔離された別の空間のような場所だった。

 てっきり「よくぞ来た勇者共よ、私が魔王だ」などといった前口上でもあるのかな、と思っていた俺はそんな邪念を一瞬で振り払い、表情を引き締めながら目の前に存在する虚ろな目をした魔王から楓へと視線を移す。



「楓、あれは間違いなくヤバイ。俺の経験豊富な危険察知センサーがガンガン鳴……っ!?」



 暢気に逃げようと促していると、先程まで玉座で腰掛けていた筈の魔王は俺達のすぐ目の前にまで気を逸らした一瞬で迫って来ており、どこからか取り出した大剣を右手に今まさに振り下ろそうとしていた。 



 慌てて俺は逆手持ちの要領で腰に下げていた漆黒に刀身が染まった(八咫烏)を抜き、腹で受けた。

 そして剣と刀がぶつかった事で甲高い金属音が部屋に響く。



 対して楓は急な出来事を前にして呆気に取られており、俺は口には出さなかったものの、彼女のステータスを確認しておけば良かったと酷く後悔した。



 悠遠大陸に居た頃にティファールから無闇矢鱈に誰にでも鑑定を使うのは駄目だ、と言われて以来鑑定を使う事を極力控えていたがそれが仇となって帰ってきていた。



 そして打ち合った直後、魔王は口を一切開く事なく無言で俺の背後へと移動し、今度は薙ぐように弧を描きながら大剣を振り抜こうとする。



 それをもう一度自身の得物で防ごうと体を背後にまわった魔王へと向け直そうとするが、右手に手錠が嵌まっていた為、自由に方向転換が俺には出来ず、一瞬でその考えを捨てて魔法を切り詰めて詠唱する。



「『現れろ《氷にて閉じられし棺(アイス・コフィン)》!!』」



 詠唱を終えると同時に俺と楓を囲うように一瞬で棺と言うには大きすぎるサイズの棺が形成された。

 だが、詠唱を切り詰めていた事あってか氷の棺越しに連撃を叩き込んでいく魔王の攻撃によって見る見るうちに抉れていく。



 一瞬で形成した氷の棺は防壁としてはあまり意味を成さなかったが、数秒の時間稼ぎには十分だった。

 俺は一瞬躊躇いを見せるが、どうにでもなれと言わんばかりに半ばやけくそで中指へとはめ変えられていたリングから試験管のような物を右手に取り出し、中に入っていた赤色の液体を喉へと流し込んだ。



 中身は回復薬といった部類のポーションでは無く、ティファールの血だ。

 吸血鬼の場合は滅多な事では死ぬ事が無く、ポーションといった類いの物を必要と殆どしない。なので、ポーションを持ち歩く事は無いのだが代わりに血を持ち歩いている。



 しかし、血とはいっても自分の血では意味がない。その為、基本的に人間の血を持ち歩く吸血鬼が大半を占めていた。



 だが吸血鬼同士の夫婦などはお互い相手の血を持ち歩く。

 吸血鬼の血は血その物が魔力の塊の為、人間の血とは段違いに効果が高いからだ。 

 そして血を摂取すると身体能力は勿論の事、回復力等も飛躍的に高まる事となる。言うなればドーピングだ。



 だがしかし、血の効果もプラスばかりでは無く勿論マイナスも存在する。




 ――そのデメリットが血酔いだ。



 酒に酔う事があるように吸血鬼は血に酔う。

 酒のように酔わない吸血鬼も勿論存在する。そして泣き上戸、笑い上戸があるように血酔いをする吸血鬼にも様々なタイプがあった。





 そして俺は止めどなく殺意が湧くタイプだった。 

 自分の視界に入った物、耳にした事など全てが殺す衝動に結びつく。



 悠遠大陸に転移する以前に一度俺はティファールの血を吸っていたのだが、その時はまだ吸血鬼としての特性や能力といった物が殆ど全く機能しておらず、血に酔う事は無かったが今は違う。



 だが、血酔いといえど本格的に酔うのは新鮮な、それこそ王城の時のように首から吸った時などのみで、今回の試験管のような物に入れた血では少々酔ってしまう程度だ。

 

 

「……くくっ」 



 こぼれる笑み。

 先程までの焦っていた表情は消え去り、唇が愉悦の曲線を描くと共に異様に鋭い犬歯がのぞく。

 そして鮮血のように紅く染まった瞳孔が猫のようにしぼられた。



 姿形、声なども変わっていないが、中身が同一の者とは思えない程に――別人。

 自分を縛りつけていた鎖のような何かが消え、後悔、焦燥、躊躇などの感情は全て燃え尽き、殺意という名の感情が全てを塗り潰す。




「あ゛ー……この感覚……久しぶりだな。

 ……あぁ……相変わらず鳴り始めたな……頭に響いてくる……殺意の音が」



 久しぶりに酔い始めた事で俺は感慨に浸っていた。

 だが、目の前に今の自分からすればそこまで脅威という程では無かったのだが一応魔王が迫ってきていたのでまず俺は逆手持ちで持っていた(八咫烏)をいつも通りの普通の持ち方へと変え、楓の手首を斬らないようにと気をつけながら一切苦悶の声を上げる事なく





 ――右手首を切り落とした



 その行為に魔王の不意討ちのような攻撃から始まり、氷の棺が形成された事で呆然としていた楓だったが「……え?」と反射的にか、口にしていた。



 完全に酔っているわけではないのでそこまで心配する必要はないのだが、関心を持った全てモノに対して殺す衝動へと結びつかせてしまうので少々申し訳なく感じたが彼女を無視し、落ちた手首を切断面へとくっ付けるように持っていった直後、瞬く間に手首が元通りとなった。



 そして強引ではあったが手錠から解放されると同時に目の前で壁の役割をしていた氷の棺の一部が砕け散り、俺の頭へと振り下ろされた大剣が迫り来る。



 だが、俺は不敵に笑いながら左手に未だ持っていた(八咫烏)を迫ってくる大剣へと力任せに打ちつけた。



 そして響く。

 パキンッと音を立てながら割れる大剣と一切の抵抗なく床へと落ち行く刃の欠片。



 俺はそのまま空いていた右手で腰に下げていた銀色の刀身を持った(血舞い桜)を振り抜き、魔王の右腕を容易に切り落とす。


 

 直後、魔王は距離を取ろうと飛び退くが逃げる事を許さんと言わんばかりに俺はダンッと音を立たせて思い切り床を蹴り、湧き上がる感情に任せて叫び散らしながら白髪を靡かせて魔王へと躍りかかる。



「わざわざ血を飲んだんだ……楽しませてくれよ魔王おおおぉ!!!」 



 普段の殺しに忌避を抱いている感情が頭を巡るが影響力は低く、血を飲んだ影響で湧き出ている感情に俺は身を委ねてしまっていた。



 そして飛び退く事で距離を取ろうとした魔王の懐近くまで瞬く間に俺は移動する。

 数メートル程開いた距離を刹那にゼロへと縮める跳躍力はケタ外れ。



 右手で持っていた(血舞い桜)を斜め上空から魔王の首目掛けて振り下ろすが、



 ガキンッ!! 



 と、見えない壁のような物に阻まれ、鈍い音が響き渡る。



「……あ゛あ゛!?」



 そのまま首を斬り落とす気だった俺は予期せぬ出来事を前にして声を荒らげながらも疑問といった声をだした。そしてその直後、玉座の近くまで退避した魔王の直ぐ近くに召喚獣を召喚する時に現れる亀裂のようなものが生じた。



 だがそのヒビのようなものは召喚獣の時のものとは似ているがどこかが違っていた。魔王に刃が届かなかった理由がその亀裂なのだろうと判断した俺は足を止めて狂気的な瞳で射貫く。



 そして、亀裂が生じて数秒もしないうちに1人の男が苛立ったような声をぶつぶつと呟きながら姿を現した。



 痩身の若い男だった。

 シャツと帽子の柄は赤と白のチェック模様、そしてその上に純白のコートを羽織っていた。

 奇術師めいた胡散臭い雰囲気がどことなく漂ってはいたが、そんな事は彼の全身から止めどなく放たれていた禍々しい殺気のようなものに塗り潰された。



「……僕が多大な労力かけて計画していた戦争(ゲーム)なんだぞ。

 まだ何も始まってないのに、引き金役という重要な魔王()を僕が目を離した隙に殺そうとするなんて良い度胸じゃないか。

 …………死ねよ」



 言うが早いか、怒りで歪んだ口から言葉が発せられると共に赤と白のチェック模様の入った右の袖を俺へと向け、袖の中から黒く得体の知れない矢のような物が無数に迸り、飛来してくる事となった。

 祝50話……とはいっても部数はかなり前に50を越えてましたね(-∀-`;)


 最近、完全に『?』といえど主人公最強タグが飾り状態になっていた為、少々戦闘描写に力を入れてみました……とはいってもやっぱり戦闘描写は難しいですね……何ですかね、言葉が思い浮かばないと言うか上手く書けないというか……むーう……。 

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