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第49話 避けられない戦い

「うおりゃぁ!! 凍れ!! 凍れ!! 何もかも凍ってしまえやアアァ!!」



 魔王城に足を踏み入れた俺と楓はただひたすら魔王がいる場所へと突っ走っていた。だが、場所を知っている訳ではないので階段を見つけては上るを繰り返し、上へ上へと進んでいた。



 向かっている途中に、城をまるごと凍らせようか、という考えが脳裏をよぎったのだがmpを大量に消費する上、mpがカラッカラの時に魔王が襲い掛かって来ないとも断言出来なかったのでリスクが高いと判断して却下となった。



 魔王城の中は外と同様に火の海だったので、俺が行く道を阻む炎をひたすら凍らせていた。

 向かう道中もそうだったが城にも今のところ魔族1人いなかった。

 魔王の子供に魔王の居場所や、城に魔族は居るのか? と聞いておけば良かったなぁ、と思っている最中に「あ、氷魔法で拘束しっぱなしだったや」と呟いたのはまだ記憶に新しい出来事だ。



 楓がポーションを所持していると分かってからというもの、俺は無理矢理テンションをハイにして魔王の下へと向かっていた。無口になった途端に元気がないとか言われてポーションを飲まされたりしたらたまったもんじゃないからな。



 かれこれもう10回は階段を上っているのだが、最上階へ辿り着く気配は微塵も感じられなかった。



「なあ、楓。一応聞くけど魔王と戦うんだよな? ならこの手じょ、じゃなかった腕輪を外した方が良くないか?」



 足を止めることなく駆けながらも俺は未だに繋がれていた腕に視線を移しながら尋ねた。

 勿論、前回のように手錠とは口にしない。俺は秒単位で成長する人間なんだ……あれ? じゃあ何でコミュ障治ってねぇんだ? あれぇ? あれれぇ?



「うーん……確かに魔王と戦うのならこの腕輪のせいで多少は不利になるかもね……」



 困った顔をさせながら楓はうーん、うーんと唸っていたので俺はここぞとばかりに声を張り上げた。 



「今から戦う相手は魔王なんだ!! 万全を期して挑むべきだろ!! 俺はな楓。お前が大事なんだ。もし、この腕輪があったせいで楓が怪我をしてしまった。なんて事があったら俺は……俺は……」



 さも、楓が心配で心配で仕方が無い、というような言葉を吐きながら俺は右手と違って自由であった左手で目を覆い、口を開いた。



 楓の事が大事だ。という言葉に嘘偽りは無い。だが、実際、魔王を目にした瞬間に引き返す気満々だった俺はそこまで心配しておらず、かなり大袈裟に言い放っていた。そして涙は出ていない。



 戦う気など更々ない俺にとっては、魔王の下へと着く前に楓が引き返してくれるなら尚よし、と考えて喋っていた。そして俺の気持ちを汲んでくれたのか、楓は足を止めて真剣な眼差しで同じく足を止めた俺を見詰めながら口を開いた。



「私、イオ君の気持ちをちゃんと分かってなかったよ……そんなに心配してくれてたなんて……」



 少々大袈裟に言っていたからだろうか、打算など一切ない楓の言葉が胸にグサグサと突き刺さってくる。

 


 ほんのちょーっとだけ罪悪感があるが、楓もやっと俺の考えを理解してくれたようだ。さて、さっさと戻ってティファからのキツイお仕置きを受けに戻りますかぁ!! と考えてながら踵を返そうと思った直後、楓が再び言葉を発した事で俺の足が止まった。



「実はね、私、魔王討伐って危険だよねってちょっと前にふと思ったの」



 気づいたのちょっと前なのかよ、とツッコミを入れたくなったが堪えて聞きに徹する。



「それでね、引き返そうかなってほんのちょっとだけ思ってたんだけどもう憂いは無くなったんだ……だってあんなにもイオ君が私を心配してくれて……ううん、愛してくれてたんだもん。愛の前に敵はないよね!! もう魔王なんか目じゃないよ!!」



「……はへ?」


 

 てっきり、引き返すものだとばかり思ってしまっていた俺はつい、素っ頓狂な声を上げてしまった。

 そして頭をフル回転させて状況把握に努める。



 あ……あれ? もしかして俺、余計な事を言っちゃった感じ? ……えーっと、要するに自分で自分の首をしめたって事か…………嘘だろおおおおおおおおぉ!?



 待て待て、冷静になれよ俺。

 簡単に纏めれば俺のさっき楓に掛けた言葉が悪かったって事だろ? このパターンなら、撤回すればオーケーな筈だ。

 だが、待て。じゃあ何だ、「実はさっきのは嘘で、本当は楓が怪我をしたとしてもどうでもいいんだ」とか言っちゃうの? ……ぶっ殺されるわ。




 何か打開策はないものかと頭を悩ませていたが、楓はそんな俺の心境を一切知らない為、再び俺を引っ張るように駆け出した。



「あ、ちょ、ま……ス、ストップ、ストップぅぅぅ!!」






 俺の自滅発言から30分程度走った頃に他の扉とは違って燃えていない豪奢な扉の目の前にまでたどり着いていた。もうかれこれ数時間程度ずっと走り続けている。はっきり言ってヘトヘトだ。



 だが、楓は所持していたポーションを迷いなく顔面蒼白になりながらも飲みきった事で体力を回復させていた。対して俺は不味そうだったので飲まなかった。



「準備も整ったし、さっさと魔王を討伐して籍を入れるよ!!」



「あ、ちょっと待って俺が開ける。楓は下がってろ……って言っても繋がれてるから無理か」

 


 楓の発言を見事にスルーした俺は覚悟を決めて扉の取っ手を掴む。それと同時に無詠唱で吸血鬼化と身体強化を使用し、双眸の色が黒から赤へ。そして犬歯が少々伸び、体が身体強化のスキルの影響で透明の何かに包まれた。

 そして戦闘の準備を整えた俺は扉を押し開けた。



 部屋は広く、千人程度なら楽に入る事が出来そうな広さだった。



 部屋の中には、俺達の目線の先に2本の角を頭に生やした魔王と思しき男が此方……いや、ドアを生気を失ったような目で玉座のような豪奢な椅子に座りながら見詰めていた。

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