第46話 燃え上がる魔王城
これからガンガン進んでいく主人公視点
……お待たせしました(ノω-、)
少女は、恥態を見られた事で顔を紅潮させながら女性独特の甲高い悲鳴を上げる、等といった可愛らしい反応を見せていた。
だがしかし、外見がティファールに以前から聞かせられていた魔人と特徴が酷似していた。
その事実を瞬時に理解した俺は念の為にと楓の腰を右腕で引き寄せて抱え込み、後ろに飛び退こう。と思ったが手錠が邪魔で出来なかった。
立てた予定が早速狂った事でどうしようか、と数秒程頭を悩ませていると何故か急に右腕を引っ張られる事となった。
思わず右腕に視線を移してしまった俺の双眸には、憎悪の感情を籠らせた視線で右手を射貫く楓の姿が映った。
何か右手にあったか? と思った俺の頭には一つだけ心当たりがあった。
――――薬指に指輪をはめていたなぁ、と
よくよく考えてみた俺はそういえば楓にティファとの関係を伝えていなかったな。と思い出し、折角だから今報告しようと決めるが、俺が口を開く前に言い放たれた楓の一言でその考えは忘却の彼方へ消え去った。
「………イオ君、何? この指輪。しかも薬指なんかにはめちゃって……ねぇ、何これ……この指輪は何なの!? 答えてイオ君!! ねぇ、早く!! 早く答えてよ!!」
何か相当気に食わない事でもあったのか、凄い剣幕で楓は一息にまくし立てる。
急に先程までとは態度を一変させた楓に気圧された俺は何故か脂汗が額に垂れていたが咄嗟に浮かんだ言葉を慌てて口にした。
今の楓に一年前まで漂わせていた人懐っこい雰囲気などは欠片も感じられなかった。ハッキリ言って中身だけ別人だ。
オイコラ、だれが楓をこんなんにしたんだよ。
俺が居ない一年の間に何があったよ。
「こ、これってアイテムボックスなんだよ!! ほら、剣が出てきた!! 凄いだろ、このリング!!」
ティファールとの関係を言えなかった自分が不甲斐ないと思いながらも、にじり寄ってくる楓に向かって一番無難そうな返答であったリングがどれだけ有能なのか、を説明する事に決めた。
その過程で片手剣を空いていた左手に取り出し、必死に弁明をしていた。
楓がやけに指輪を強調していたので、俺は敢えてリングと言葉を変えてみたが恐らくその行為が良かったのだろう。
俺の言葉を聞いた彼女は先程まで双眸から消えていた光を目に灯らせ、安堵の言葉を吐いた。
「アイテムボックス……良かったぁ。イオ君がどこぞの雌に毒されてなくて。でも、それならわざわざ薬指にはめる必要はないよね? 私が近いうちに指輪を薬指にはめてあげるから、このリングは中指に変えておくね!!」
楓は先程までとは打って変わって態度が軟化し、満面の笑みを浮かべていた。
最後の辺りで何か気になるような事を口走っていた気がしたが、突っ掛かったら後には引き返せないような気がしたのでスルーした。
命懸けの会話を終え、疲れ果てた俺は特に何も考えずに顔を赤らめていた少女に視線を移した。
双眸には値踏みをするかのような表情で此方を観察する少女の姿が映った。
俺は不可抗力だったとはいえ、無視してしまった事に罪悪感がほんのちょっとだけ湧いていた。
なので一応謝っておくかと思い、ある程度まで歩み寄ろうと一歩踏み出した。
直後、俺達に怒気のような感情が籠っていたのか震えた声で質問を投げつけられた。
「お主ら……人間か? それともシルファスが儂に寄越した追っ手か?」
臨戦態勢になりながらも怪訝な顔をさせて少女は尋ねてきた。
よく分からない人名も出てきたが、人間かどうかは答える事が出来るので謝罪代わりにまず返答する事にした。
例え根っからのコミュ障だろうと、楓の前で自分よりも幼そうな少女にたじろぐ俺ではない!!
「えっと……しる……シルフォス? はよく分からんが、俺達は人間だ……んぁ!?」
シルファスを知らないと口にした瞬間、少女の頬が緩むが人間、とその後口にした事で緩みきっていた顔を一瞬で引き締めると同時に、半眼で俺達を睥睨した。
見た目にそぐわない刃物のような鋭い眼光を此方に向ける少女の周りには何故か怒り、憎しみといった憎悪といった感情が渦巻いていた。
そんな少女の態度を目にした俺はつい、素っ頓狂な声を上げてしまっていた。
そして彼女が敵意を此方に向けた事を感じ取った俺は持っていた剣を後ろに投げ捨て、左手を腰に下げていた刀の柄に添えて臨戦態勢に入る。
そうして沈黙が場を支配し、空気に緊張が走る事となった。
だがそんな中、楓は一人「やっぱり人差し指がいいかなぁ……いや、でも中指……うーん……」等と呟いていた。
訪れた沈黙は無限にして一瞬。
そして数秒後、俺達を襲った静寂は目の前の少女の怒声によって破られた。
「シルファスと同族……死んで父上に詫びるのじゃッ!!!」
床を蹴り、血走った目で此方を射貫きながらも少女は猛進してくる。
得物を持たずに魔法のようなものを体に纏わせただけの少女を見た俺は刀の柄から手を離し、深い溜め息を吐きながらも魔法を発動させた。
「はぁ……さっきまでの会話で精神的に限界近いんだ……さっさと終わらさせてもらう。詠唱短縮……『氷寒に座せ!! 《氷蝕》!!』」
そう言い切った直後、失言だったぁ!! と気づき、思わず楓の方に慌てて顔を向けるが彼女は「結婚指輪……ウエディングドレス……一人目の出産……名前は二人の名前から取って、かおり……」等と口早に呟いていた。
思わずツッコミを入れたくなったが、詠唱短縮をしたとはいえ使用したのは破壊を撒き散らす氷魔法。
多少意識をそらしたところで死ぬ事は無いだろうが、見た目中学生程度の少女に後遺症を残してしまうのは良くないので慌てて楓から視線を戻した。
詠唱を終えた俺の足元には握り拳程度の小さな青色の魔法陣が浮かび上がる。
裏ギルドの時と同様に魔法陣を中心に氷が部屋を侵食し始めるが、詠唱を短縮したからかあの時よりも広がる速度が段違いに遅い。
だが、数秒で部屋全体を覆いつくすと同時に少女の手足は凍り、身動きを取れないように拘束していた。
「……お主らも魔王の子である儂の首を狙って追いかけてきた輩じゃろう。はよう斬り落とすのじゃ……」
氷に囚われた少女は何度も抜け出そうと試みるが、びくともしなかった為、深い溜め息を吐くと同時に手足を脱力させ、弱々しく爆弾発言を投下した。
「ん? ……魔王の……子?」
一応頭では理解出来ているものの感情が追いついていないのか、俺はポカンと面食らったまま硬直してしまう。慌てて楓に助けを求め、顔を向けるが未だにトリップしていた。
そして俺は何故か思いついてしまった事を無意識に口走っていた。
「えっと……じゃあ、ここって魔王城?」
「ここが魔王城なわけなかろう。ここはログレス郊外。ログレスの中心に聳え立つ魔王城はあっちじゃ」
怪訝な顔をさせながら尋ねた俺を鼻で笑い、一蹴しながらも近くにあった窓に視線を移した。
視線の先は
―――――火の海だった。
何度も目を瞬かせて驚愕に表情を染めていると少女が、もう何もかもどうでもいいと思っているような生気の抜けた声で話し掛けてきた。
「お主は何故か事情を知っておらんかったみたいじゃが、魔王城は今まさに燃え上がっておる大きな建物じゃ。そしてその元凶である父上……いや、魔王はたった一人の手によって
―――御乱心なさられたのじゃ」
何か最近、急展開な話が多いような気もしますがこの作品、まだまだ続きます( `・ω・´)