第45話 召喚されし者
―――――伊織達がラギシス王国王城に着いた頃
「ふ、ふふふふふ、来ました。来ましたよ、お姉様。遂にこの時が!!」
顔をニヤつかせながら不気味にも笑い声を上げ続ける巫女服を着た美少女――リフィアは丸い大きなテーブルに映っていた伊織の姿を目で追いながらも口を開いていた。
「ええ、そうね。一年がここまで長く感じるとは……それにまさか、伊織君が本当に生きてかえって来……ゴホンッ、失言だったわね。リフィア、確かにあの吸血鬼は手強い相手よ。でもね、私が貴女に伝授した女性のあざとい108の仕草に清楚系という属性、そして育ちの良さそうな口調!! もう敵無しよ。さっさと会いに行ってコロっと落としちゃいなさい!!」
ビッチ女神は一年間を懐かしむように発言の節々で途中、遠い目をさせたりしながらも高々と言い放った。
「ええ、行ってきますお姉様!! では、えっと……そこにいる慎ましい双丘をお持ちの…………痛ッ!!!」
慎ましいと口にした瞬間、偽乳女神は即座にリフィアの背後へと移動して尻へ蹴りを叩き込んだ。
怒りを露にしている偽乳女神を尻目に、尻を擦りながら溜め息混じりに諭すように言葉を投げ掛け始めた。
「……はぁ、これだからモテないんですよ。女性なら品のある女性をちゃんと演じないといけませんよ? せめて言動くらい気をつけないと本当に男と間違われ……いったぁぁいッ!!!」
再度、偽乳女神の回し蹴りが炸裂した。
今回は擦っていた腕ごと蹴られ、尻を前に突き出すように前へと倒れこむ。
何故か一度目よりも蹴りの威力が増しており、その結果、不健康そうな白い肌は真っ赤へと変色していた。
「い、痛いッ!! 絶対尻腫れてる!! 凄くヒリヒリするもん……ゴホンッ、お、お尻が悲鳴を上げてますわ。野蛮な行為は控えて貰えないかしら?」
自分の言動が素に戻ってしまった事に気づいたリフィアは慌てて訂正をした。
そして未だに尻を擦っていた。
「なんかリフィア、この一年で更にうざくなったわね。さっさとフラれてきなさい。あの吸血鬼ちゃんと伊織君ってお似合いじゃない。他人の幸せに水をさすような行為は止めなさいな……はぁ、もう会話するのもしんどくなってきたからラギシス王国に送るわね」
偽乳女神は億劫そうな表情を浮かべながらもリフィアに手のひらを向ける。
直後、何処からか現れた光がリフィアを包み始めた。
「やっと会える……やっと伊織君に会え「リフィア、緊急事態よ!!」うっさいわね!! ご、ゴホンッ、し、静かにして貰えないかしら」
感慨にひたっていたリフィアの呟きを邪魔したのは厚化粧女神の叫びだった。
慌て口調で口を開いた彼女の言葉に冗談のような気配はなかった。
「伊織君が魔界領に転移したわ!!」
急に言われた言葉にリフィアはポカンと面食らってしまった。
だが数秒で正気を取り戻し、偽乳女神に向かって慌てながらも訊ねるかのように叫んだ。
「て、転移先を魔界領に変えてッ!!」
急いで転移先の変更を求めたが、返ってきたのは「無理」という残酷な言葉だった。
そしてリフィアが次にとった行動は
「お、お姉様ッ!! 一緒にラギシス王国まで行きましょう!! 私を独りにしないで!!」
慌ててビッチ女神へ抱きつきながら懇願した。
転移は途中でキャンセルする事は出来ないが、転移を使った人にくっついている物や人も転移されるのだ。
リフィアはそれを狙って抱きついたのだろうが、慌ててビッチ女神が引き離そうとする。
「は、離れなさいリフィア!! 私はリフィアが伊織君と良い雰囲気になった時に横から奪う……ご、ゴホンッ、今の言葉は忘れなさいッ!! ちょっと、何でリフィアこんなに力強いの!? 全然離れられないんだけど!!」
ビッチ女神は必死に逃れようと試行錯誤するが離れる気配は一向に無く、リフィアと同様、光に包まれ始めた。
「絶対離しません!! ラギシス王国で男をパクパク食べたらいいじゃないですか!! ついてきてくれれば先程の発言は聞かなかった事にしますからぁぁぁぁ!!」
「あ、ちょっと待って!! せめて化粧品くらいは持っていかせて!! ……って嘘!? もう転移始まってるじゃない!! リフィア!! そこの化粧品を取ってぇぇぇ!!」
ビッチ女神の叫び虚しく化粧品を置きっぱなしのまま、リフィアと共に姿を消した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「本当に騒がしい子よねぇ……あ、あのねクロヴィア。伊織君達がこっちの世界に転移する際に使われたあの一室なんだけど、神気の残滓があったみたいなのよ。それに一人の女性が気づいてね、何か色々と調べようとしているから面倒事が起きる前にこっちへ飛ばそうって事になったの。残滓に関してはもう処理済だから気にする必要は無いわ。私はさっきの転移で疲れたからお願いね」
偽乳女神の言葉を聞いた厚化粧女神ことクロヴィアは溜め息を一度吐いた後、気怠そうな表情を浮かべながら何かを唱え始めた。言い終わった直後、光に包まれた彼女は直ぐに姿を消した。
クロヴィアはもう何度も訪れた事のあった辺り一面が白く染まっている部屋へと転移をしていた。
目の前には偽乳女神が言っていた女性と思しき人間が佇んでいた。
外見は二十歳程だろうか。手入れの行き届いた艷のある黒髪を腰辺りにまで伸ばし、黒目をしている大人の女性だった。ジーパンにTシャツといったラフな格好をしていたが、その相貌は遠くからでもぞっとしてしまう程に見目麗しく整っていた。
格好良い男性なら良かったのになぁ、と思っていたクロヴィアは同性から見ても綺麗としか言いようがない女性が自身の双眸に映った瞬間、少々目を瞬かせるが直ぐに落ち着きを取り戻してお決まりのセリフを口にした。
「質問や説明等は追々するとしてまずは貴女のお名前を教えて頂けますか?」
言葉の何処が面白かったのかは分からないが、クロヴィアの目の前にいた女性は唇の端を吊り上げながら口を開いた。
「他人に名前を尋ねる場合は自分から名乗るのが常識じゃないの!? とツッコミを入れてもよかったんだけど、見たこともないこの部屋に気づいたら居た、って時点でもう常識って言葉が根っこからぶち壊されちゃってるわよねぇ……ま、いっか……私の名前は
――――鷺ノ宮穹だよ」
いつの間にか拙作が15万文字を越えていました……
この作品が終わる頃には何万文字になるのだろうか、と最近考えるようになってきました(´・ω・`)