第43話 勇者side 10
人生初の亜人との対面で心踊っていた俺はあの尖った耳を触りたい衝動に駆られ、目の前に佇んでいる褐色の肌を持ち、紫色の髪をしたダークエルフの下へと歩み寄ろうとするが
「おいッ!! 大丈夫か!?」
俺と相対するようにカス王女達の相手をしていた黒フードが前に出てきた事によって阻まれた。
カス王女達は倒されたのか!? と思い、視線を移すが未だに見たこともない魔法に拘束されていたり、罠から抜け出そうとしたりと試行錯誤していた。
…………つ、使えねぇアイツら……
俺の前へと出てきた黒フードは俺がダークエルフの外套を焼いた事あってか、自分も脱いでいた。
恐らく、邪魔だったのだろう。
そして、外套に隠れていたフードの中に金髪イケメンの顔がそこにはあった。
魔人なのだろう、見た目は人間と似ていたが肌が青白かった。
俺が攻撃をした事で少々怪我をしていたダークエルフを見て金髪イケメンは「大丈夫か?」といった心配をする声を掛けていた。それだけなら許せたのだが、金髪イケメンは声を掛けた後、頭を撫でながら彼女を抱き締めていた。
そして
――俺の中の何かがきれた
俺の煮えたぎる胸中など露知らず、イチャラブしていた金髪イケメンに鋭利の刃物のような鋭い殺気の乗った視線を向けながら口を開いた。
「疾風…………あのクソ野郎をぶっ殺すぞッ!! 俺の前で亜人といちゃこらするとは絶対許さねぇ……殺るぞッ!! フォーメーションBだ!!」
声が怒りでかすかに震えている俺の周りには殺気のようなものが徐々に渦巻いていく。
激昂していた俺は勢いに任せて疾風に言い放った。が、そんな態度とは対照的に零也は狼狽の色を隠せれていなかった。
「え? フォーメーションB? 俺、そんなフォーメーション知らないんだけど!! ていうか俺、何すればいいの?」
零也は驚いたように目を瞬かせながら言い放った。その直後、怒号が響き渡る。
「お前なぁ!! 察せよ!! 適当に動いておけばいいんだよ!! フォーメーションB!! って言われると何か凄く感じるだろう? もういい!! 俺一人でぶち殺すわ」
俺は嘆息して首を振った後、此方を一切気にも留めずに未だにイチャラブしていた金髪イケメンに手のひらを向け、口早に詠唱を始めた。
「『紅き色は破壊の象徴
目の前に広がるは燃え上がる炎、滅び行け大地。
理想はここに存在せず、然れど絶望はここに在り!! 《炎熱地獄》』」
獰猛な笑みを浮かべながらも詠唱を終えた瞬間、紅い魔法陣が金髪イケメンの足下に浮かび上がる。
魔法陣の周囲からは無数の火柱が上がり、小さな球形の火と共に金髪イケメンへと襲いかかる。
そんな光景を生み出した張本人は青筋を走らせながら大声を上げるが、爆音にかきけされる。
「幸せ税じゃぁぁぁ!! 受け取れボケナスぅぅぅ!!」
容赦のない火魔法の攻撃により、壁は抉れ、砂が巻き上がり、大気が耳障りな音を立てる。
あちらこちらから、咳き込む声が聞こえてくる。
カス王女達が生きてる証拠だな、よし。
破壊を撒き散らした俺に零也はごほごほと咳き込みながら文句を投げつけた。
「ごほっ、ごほっ……やり過ぎだ。今回もまた……やりたい放題だな……味方が死ぬぞ?」
不敵に笑いながら金髪イケメンがどうなったか、と砂煙の先をじっと見詰めていた俺に呆れた口調で言い放ってくる。
城に居た時にこそこそと狩っていた魔物に対してもやり過ぎなくらいに火魔法をぶつけていた事あって、諦められているのか、そこまで咎められはしなかった。
「心配するな! ちゃんと制御してる。それに、渾身の一撃となるとこの程度の周囲の被害はあって当然なんだ」
砂煙が晴れるとそこには無傷の金髪イケメンとダークエルフが平然たる顔つきで此方を睨み付けていた。
何か叫んできたがそれを遮るかのように俺は大声を上げる。
「は、はんっ、今のはすんごい手加減してあげたんだし!! 手抜き魔法で調子に乗ってんじゃねーぞボケナス。今からが俺の本気!!」
自嘲気味に鼻で笑った後、脂汗を垂らして睥睨しながら言い放った。
瞬間、着用していた上着の胸内ポケットから赤色の液体が入った試験管のような入れ物を取り出した。
「ふ、ふははははは!! 血液魔法と合成させた時が俺の本気なんだ!! だからさっきのは本当に手を抜いていた。いや、ホントだよ? おっしゃぁ!! 出てこい《炎矢》!!」
俺の言葉に疑うような眼差しを零也が向けてきていたので慌てて弁明した後、試験管に付いていた蓋を左手で外して蓋を投げ捨て、薙ぐように手を動かして中身を頭上へと投げつけると同時に空いていた左手でパチン、と指を鳴らした。
瞬間、頭上に投げつけられた液体が燃え上がり、そこから分裂する事で大量の炎矢が姿を現した。
さぁ、やるぞ! と思った時には剃刀のように鋭く踏み込んで大地を蹴っていた金髪イケメンが俺の懐に一瞬で潜り込んでおり、そのまま無防備だった腹に容赦のない拳が叩きこまれた。
苦悶の表情を浮かばせながら俺はそのまま後方へと吹っ飛ばされる。
多少砂煙が巻き上がったが、それに構わず零也は俺の安否を確認しようと慌てて駆け寄ってきた。
「おいっ!! 生きてるか? ただの屍か? どっちだ!?」
「いき……ゴホッ……とるわ……」
血を口からゴポリと吐きながらも返事をするが、先程とは違い、弱々しい。
展開していた炎矢は俺の制御下から離れたのか、いつの間にか消えていた。
「疾風……今この状況の為に背に腹は変えられないって言葉があるのかもしれないな。はぁ、はぁ、俺は奥の手を使っちゃうぜ。砂煙が巻き上がっている今、決断しねぇとぶっ殺されちゃうからな」
意を決したような表情を浮かばせながらそう言うと零也は待ってましたと言わんばかりに唇の端を吊り上げながら言い放った。
「成る程、遂に発動か。俺達の合成魔法、闇風スペシャルが」
俺はその回答に対して首を縦に振らず、苦笑いをさせながら口を開いた。
「ちげぇよ。この状況でギャンブルできっか。俺は……アイツを呼ぶ」
「アイツ……っ!? お前、アイツってオカ研の岡崎の事か!?」
零也は俺の発言に驚愕してしまう。俺はその言葉に頷き、少し前の自分の頭の中を懐かしんだ。
(いやぁ、本当はお宝をこっそりと大量に頂く為に姿を隠す事が出来るアイツを呼んでいたんだが、こんな状況になるとは……呼んでて良かったぁ……それなりの代償は覚悟しなければいけないが、あの調子に乗っている金髪イケメンをギャフンと言わせれるんなら安いもんだ)
「止めるな疾風。俺達は突き進むしかないんだ。それが破滅を巻き起こす事になったとしてもだ!!」
口元に付いていた血を手で拭いながら言い切った。
今の俺を止められる者など……多分、獣耳っ子くらいだ。
「おいっ、考え直せ常闇!! 俺はお前をまだ失いたくねぇ!! 思い留まるんだ!!」
零也は俺を止めようと肩を掴み、揺さぶっていた。
お前では俺を止める事は出来ないんだよ……
「よし…………ちょっとピンチなんで助けてくださぁぁい!!」
俺はアイツと予め決めておいたセリフを叫んだ。
その言葉は壮絶に響き渡った。
プロローグの修正をしており、昨日、投稿をする事が出来ませんでした(´ ; ω ;`)
具体的には、メッセージで
俺の名前は○○
等といった冒頭は、やめた方がいいのでは? と、指摘を受けたので修正させて頂きました。
誤字、脱字等有りましたらご指摘お願いします( `・ω・´)ゞ