第42話 勇者side 9
伊織視点の第42話を執筆していたのですが、文章が半分以上保存する過程で何故か文字化けしてしまう、といったハプニングがあり、作者が少々萎えてしまった為、書き溜めしておいた勇者sideを投下する事になりました。
勇者sideについては3話程度投稿した後当分の間書くのを止め、本編を突っ走ろうと思っています。(流石にsideを書きすぎた気がして(-∀-`;)
遠藤君視点再び
※勇者sideは飛ばしても本編に影響はありません。
俺達は10日程かけてクェーク渓谷にあるダンジョン、黒獣の森の入り口へと辿り着いていた。
ダンジョンは無人で放置されているのか? と思っていたが、ダンジョンの入り口には見張りような役割を務めていた人が2人程存在していた。ディジェアは門番役のような2人と手続きか何かで随分と長い時間話しており、その為、暇になっていた零也は俺に話し掛けてきた。
「暇だなぁ常闇…………あのさ、ふと思ったんだけどよ。俺達の合成魔法の『闇風スペシャル』ってダサくね? もっとさぁ、『インフェルノ』!! とか『ブリザード』!! みたいな技名の方が良くないか?」
「……今更、それを言っちゃうか。んー……確かに少しダサいな。だがな、まだどんな魔法かも分かっていないんだ。『ハリケーン』!! とか叫んで爆発とか起きてみろ、恥ずかしすぎて顔から火が出るぞ?」
零也は俺の言葉を正論と受け取ったのか、頭を抱えて悩み始めた。
「確かにそれは恥ずかしいが、もっと格好良い技名がいい……どうすれば……うぉぉぉぉ!! 良いアイデアが思い付かん……」
「愛着も湧くし、やっぱり『闇風スペシャル』で良くないか?」
密かに『闇風スペシャル』という呼称を少々、気に入っていた俺はここぞばかりに勧めた。
「いや、でも……でも……」
………………
……………
…………
………
……
「あ、あの……姫様達が出発なさってもう一時間過ぎますよ?」
俺達は合成魔法の技名について案を出しあっていたが、いつの間にか一時間経っていたようで、カス王女と少し前に会話をしていた門番さんが苦笑いをしながら話し掛けてきた。
「「…………マジでッ!?」」
衝撃的な事実を知らされた俺達はお互いに目を剥きながら、ハモってしまった。
「おい、疾風!! グズグズしてないでさっさと行くぞッ!! お宝が俺ら抜きで山分けされちまう!!」
零也を一瞥した後、大声を上げながら俺は駆け出した。
「おうッ!! 本気で走るぜ!! 伊達にサッカー部に所属してなかった事を証明してやんよ!! 『風よ!! 我が身に纏え!! 《付与魔法・風》!!』うぉぉぉぉ!! 風の一部にでもなったかのような体の軽さ!! これで追い付けるッ!!」
詠唱が終わると同時に零也の体は風に包まれた。
「おい!! それサッカー部関係ないだろ!! どこからどう見てもズルだろ!!」
零也の言葉を聞いていた俺は走りながら顔だけを振り向かせ、すかさずツッコミを入れた。
「…………行くぞッ!!」
少し悩んだ挙げ句、そう小さく呟いてから駆け出した。
風を纏っている零也は俺と比べるのも馬鹿らしくなる程に速く、直ぐに追い抜かれた。
「あ、ちょっと待って、俺にもその魔法掛けてよ……おい…………待てって言ってんだろうがぁぁぁぁ!!!」
◆◇◆◇◆◇◆
黒獣の森と呼ばれるダンジョンは名前通り森なのか? と思ったが、実際はどこからどう見ても洞窟で、予想を裏切られた。入り口は少々狭かったものの、中に入ると不自由無く剣などといった武器を振り回せる程には広かった。
ダンジョンの中を進んでいくと、途中に整備がされていない天然物の石や岩で出来た階段等が存在していた。入り口近くには異臭を放ちながら棍棒を振り回すゴブリン等がいたが、階段を下りていく内にゴブリンは存在しなくなり、代わりにコボルト、オーク等のゴブリンよりも強い魔物が辺りを徘徊するようになっていた。
俺は血液魔法を使って血流を体に異常をきたさないように注意しながら細かな調整をする事で身体能力を上げ、零也を追いかけていた。
階段を40回程下りた頃だったか、岩影に息を潜めていた零也を見つけた俺は文句を言う為に声を掛けた。
「はぁ、はぁ、はぁ……おい、疾風。てめぇ、一人だけ楽して突っ走りやがって……来週の夕食で出されるラギシスケーキを譲らねぇと許さねぇぞ」
こめかみ辺りの血管をピクピクさせていた俺は、疾風の肩を掴んで怨念を籠らせた言葉を口にすると同時に、少々鬱憤を晴らそうと肩を掴んでいた手に力を入れていた。
「痛だだだだだ!!! 痛いよ常闇!! というかお前はあの光景に気が付いていないのか? あ、ちょっと待って、今ミシミシって聞こえた!! 俺の骨が折れちゃうから止めて!!」
零也が会話の途中に指差していた方向に視線を移すとそこには、黒のフードを被って黒い外套で身を包んだ人間? 2人とカス王女含む俺と零也以外の人達が戦闘を始めていた。
戦況は、カス王女とロイさん、そしてギルドから助っ人としてやって来た数人が黒 フード2人組の内、背が高い方の使用する魔法によって足止めを食らっていた。
もう一人の黒フードは望月先輩を除いた生徒会メンバー4人と相対していた。
今回ダンジョンに向かったのは生徒会に所属していた4人と俺達だけだった。
水瀬先生は半年程前にとあるメイドに優しくされた事が切っ掛けで惚れてしまった。
その為、今回のダンジョン攻略の話を聞かされた際「俺がダンジョンに行っている間にミミルちゃんの身に何か起こったらどうするんだ!! 俺は残る!! ミミルちゃんの為に!!」等と吐かしていた。ハッキリ言ってもう聖職者もへったくれもなく、ただのアホに成り下がっていた。
その時、俺は独身男性の怖さを垣間見たような気がした。
「おいおい、何がどうなってんだよ……ていうか、金属音とか爆音といった戦闘音が全く聞こえないんだけど俺の耳はイカれちゃったか?」
俺は今の状況に少々驚きながらも小指で右の耳穴をほじくっていた。
「いや、俺もよく分からなくてな……あ、ここだけ風魔法で音を遮断してんだよ。安心しろ、お前の耳はイカれてねぇよ」
「よかったぁ……ていうか異世界に耳鼻科とかあるのかな……うおっ!!」
安堵していると岩影に隠れていた疾風や俺の直ぐ横を何かが凄いスピードで横切っていった。
風魔法によって轟音が聞こえる事はなかったが、何が飛ばされたのか気になり、目を細めて確認するとそこには血だらけの御堂先輩が体を細かに震わせながら横たわっていた。
俺は慌てて黒フード2人組を確認するとそこには相変わらず見たこともない魔法によって足止めさせられていたカス王女達と身体中に無数の傷がつけられていた生徒会メンバー3人の姿がそこにはあった。
「ふっ、仕方ないな……常闇、俺は行ってくるぜ。遂に来たか……俺の本当の力を解放する時がな!!」
言い終わると同時に疾風は岩影から立ち去り、黒フード2人組の内、カス王女達と戦っていなかった方に向けて大声で言い放った。
「おいおい、よくも色々とやっちゃってくれたなお前ら!! よりにもよって俺の……俺の……俺の? ……俺の先輩達を!! 何か粋がっているようだから教えてやる。所詮コイツらは三下!! 俺が主力だ。嵐を巻き起こす零也とは俺の事よ!! 『時間と共に苦しみを味わえ!! 《蠱毒の魔眼》!!』」
右手の中指を立てながら魔法を詠唱すると同時に零也の双眸が紫色に染まった。
途中、俺が「お前がそう呼ばれていたなんて俺は知らなかったぞ」と声を出したのだが聞こえなかったのだろう。
数秒後、悲鳴がダンジョンに響き渡った。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!! 痛い!! 痛い!!」
零也の口から。
「目が!! 目が焼けるぅぅぅ!! 誰か回復魔法をッ!!!」
魔眼の反動によって激痛に襲われていた零也はのたうち回っていた。
俺は零也を呆れた表情で眺めながらも一度溜め息を吐いてから零也の代わりにと黒フードと相対した。
黒フードは急にのたうち回る零也の謎の行動を理解出来なかったのか、唖然としていた。
「はぁ、それがあるからいつも魔眼は使うなって言ってんだろうが……悪いな黒フード。こいつも所詮、三下。本当の主力は俺一人だ……先手必勝ッ!! 『闇の炎に抱かれて消えろッ!! 《ファイア》!!』」
言い終わると同時に真っ赤な炎が黒フードを包み込むように襲った。
「真っ赤な炎なのに闇の炎と言い切ってしまうとは……流石としか言いようがないぞ常闇ッ!!」
いつの間にか回復をしていた疾風が大声でツッコミを入れた。
口元に緑色の液体が付いていたので恐らく不味いポーションを飲んだのだろう。
「うるせぇよ!!」
俺は一瞬だけ疾風のいる場所へと振り向いて言い放った。
魔法を放って数十秒程経つと炎は消え去り、黒フードはフードごと外套が焼け焦げていた。
ボロボロになった外套を邪魔に思ったのか、脱ぎ捨てた。
そして顔を遮る物が無くなった事で顔があらわとなった。
「だ、ダークエルフだとぉ!?」
異世界に召喚されて初めての……しかも女性の亜人との対面に俺は驚きや嬉しさが入り混じったような顔をさせながら叫んだ。