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第41話 結婚腕輪

 俺達は森の中で一夜を越した後、早朝からラギシス王国王城へと向かっていた。

 野営の際、見張りは要らないか、とも思ったのだが、ゲロ旅が終わって1時間程経つと白目を剥いていたジョニーはケロっとしており、その態度に少々イラッときた俺はジョニーを強制で見張り役に任命した。



 あれでも一応、高位の魔物だったようで、俺達が休んでいた場所にはジョニーの存在に怯え、魔物一匹近づいて来なかった。




「んーと……あったあった。確かこれを渡すんだよな」



 ズボンのポケットに入れておいた推薦状のような4つ折りにした紙を取り出した。

 依頼を受けた直後、イディスから「この依頼を受ける人にはこれを渡すようにって依頼書の裏に書かれててね~」と言われた俺は1枚の紙を受け取り、ポケットへと突っ込んでいた。



 王城に向かう際、顔を偽装スキルで偽装しようかと思ったが長髪で、しかも白色に染まりきった俺の頭を見て一瞬で気づく人はいないか、と思い偽装を使う事を止めた。



 ティファール曰く、雰囲気も1年前と比べるとかなり変わっているらしい。偽装スキルを顔に使うと妙な違和感があるので使いたくなかった、というのも理由の一つだ。



「おい!! お前達。王城に何の用だ。何も用がないならここを彷徨(うろつ)くな」



 俺が壮麗な威容をしていた王城の近くをウロウロしていると、剣を携えた門番と思しき男が怪しむような表情で声を掛けてきた。ティファールは俺の腕にくっついていたから、同じ扱いとなったのだろう。



 いや、さ。見知らぬ人に声を自分から掛けるのは結構な勇気がいるんだよ。あと5分くらい気持ちを落ち着かせていたらちゃんと声を掛けてたよ? ホントホント。



「……………」



 俺は無言でイディスに渡された紙を門番に渡した。



 あ、喋る事が苦手だから無言なわけじゃないんだよ? よく喋る人って信用がないって言うじゃん? だからこの手紙の信用度を上げようと……あ、スミマセン、ただ単に他人と会話が嫌だったから口を開きませんでした……



「何だ、この紙は……あぁ、使用人の件か。中に入っていいぞ」



 紙の中身を見た瞬間、門番は気怠そうにしながら城の中へと招くように道をあけた。



 うんざりした顔をしていた。

 俺達と同じ依頼を受けた人では無いのかもしれないが、使用人になろうとしている人達が何人も訪れたのだろう。



 俺達は許可を貰うと同時に王城に足を踏み入れたが、王城は入って早々分かれ道となっていた。俺が勝手に進路を決め、右に進もうと歩を進め始めると、門番が慌てて声を再度掛けてきた。



「おいおい、仲が良い事はどうでもいいんだが、男は左だ。メイドの採用審査の場所にお前が行ったら騒ぎになるだろうが」



 門番に諭され、道を間違えていた事を知った俺は左の通路へと方向転換するが、ティファールも一緒についてきた。



「ティファ、お前がついてきたら意味ないだろ……離れるっていってもたった数分程度だろ。さっさと済ませれば良いじゃないか」



 ティファールは……それもそうね、と呟いた後、名残惜しそうに俺から離れて早歩きで右の通路へと歩き去っていった。



 今日はやけに物分かりがいいなティファ。何か良いことでもあったのだろうか。



 俺はティファールの背中を数秒程眺めながら見送った後、さっさと行くか、と小さく呟きながら左の通路を進んでいった。



 数分程、左の通路を歩いていると、突き当たりにたどり着き、近くにあった『使用人、採用審査』とでかでかと書かれた看板が立て掛けてあった部屋を見て、ここか、と呟きながらドアノブを捻ってドアを開く。



 ドラマ等で見るような長い机に4人程審査をするオッサンが横に並ぶように座って、「えー、ゴホンッ、何故使用人審査を受けようと思ったのですか?」とか何とか言われるのかなぁ? と思いながら俺は足を踏み入れたのだが、部屋の中には





 壁にもたれ掛かりながら、薄く笑う楓の姿がそこにはあった。



 まるで、これから起こるであろう事に待ちきれなくてソワソワする子供のような表情で笑っていた。



 俺は何故、楓が使用人審査をする部屋にいるのかが理解出来ず、呆然と立ち尽くしてしまった。



 楓は部屋に入ってきた俺を舐めるように下から上へと視線を移して観察をしていた。静寂に包まれた部屋には俺がドアノブから手を離した事で勝手に閉まっていくドアの音が響いた。



 俺を数秒程観察した楓は頬を緩ませながら着用していたズボンからペンダント(、、、、、)のような物を取り出して投げ捨てると同時に俺へと飛び付いてきた。



「あぁっ、イオ君だぁ……髪の色や長さが変わっているけど私の目は誤魔化されないよ……会いたかった……会いたかったよイオ君…………ねぇイオ君。イオ君って香水でもつけてるの?」



 楓は俺の胸に顔を埋め、自身の顔を擦り付けてきた。

 だが、数秒すると何故か急に動きが止まり、少し低い声音で訊ねてきた。



 何故、俺と直ぐに分かったのかが謎だったが、楓に対して「私、山田デス」などと言って否定をする理由も特に無かったので、誤魔化す事はせずに質問に答える事にした。



「……香水? ここに来る途中にメイド数人とすれ違ったからじゃないか? 俺はつけてないぞ? それと……何も言わずに離れて悪かったな楓……心配をかけたな」



 楓に心配をかけてしまったという事は今の楓の行動から察する事が出来たので、謝罪を添えて言葉を返した。



「メイド……うーん……まぁ、いっか。本当だよ!! 凄く心配したんだよ? でももう気にする事はないよ? イオ君からはもう二度と離れないし」



 どこか腑に落ちない、といった表情をさせながらも楓は納得してくれた。

 もう二度と離れないって言ってくれるとは……そんなにも心配をかけてしまったと考えると凄く申し訳ない気持ちになるな……



 楓の為に何かしないとな、等と考えていた俺は自分の胸に顔を埋めていた楓から視線を外して特にこれといった事も考える事なく何故か妙な違和感を覚えてしまっていた今居るこの部屋を見回した。






 部屋には幾何学的な模様(、、、、、、、)が薄くだったが、無数に描かれていた。



 …………ちょ、この部屋って1年前に訪れた部屋と酷似してるんですけどぉぉぉ!!!



 俺は慌てて部屋を出ようとしたが、右手が何かに引っ張られ、部屋から立ち去る事は阻まれた。

 原因を突き止めようと、右手を確認すると俺の右手首は





 ――手錠に嵌まっていた。



 そして楓の左手首にも嵌められていた。




 何が起こっているのか理解出来なかった俺は思わず訊ねた。



「えっと……何? この手じょ「結婚腕輪だよ」……いや、でもこれってどこからどう見ても手じょ「結婚腕輪だよ」………」



 楓はニコリと笑みを浮かべながら復唱した。

 これ以上は無意味と判断した俺は違う事を訊ねた。



「あの……この手じょ……いや、この腕輪って鍵穴が無いような……」



 楓の無言の威圧に耐えれなかった俺は慌てて言い直した。

 嵌められた手錠なんだが、鍵穴が無かった。

 これ、ちゃんと外れるのだろうか?



「何を言ってるのイオ君。これは結婚腕輪だよ? 外す理由なんてどこにもないよ? 夫婦なんだから何もかも見せあったり、一緒に行動するのが常識なんだよ? だから結婚腕輪は必要なんだよ?」



 楓の表情は時折見せるティファールの表情と酷似していた。

 返答に困った俺は、昔読んだ『会話の返答に困った時、必ず通じる返答法』という本に書いてあった言葉を使用した。



「………ソウデスネ」



 少々、ぎこちなかった気もするが、言葉を発した直後、満足そうな表情へと楓は変わったので、先程の返答は中々良かったのだろう。



「楓、さっさと部屋から出るぞ」



 俺は早口になりながら言葉を発したが、先程から、うふふふ、と繰り返し呟いている楓の耳には届かない。諦めて楓を担いで部屋を出よう、と決めた直後、俺と楓は光に包まれた。




「嘘だろッ!?」



 叫び虚しく、俺と楓は何処かへと転移させられる事となった。




◆◇◆◇◆◇◆◇




 転移させられた場所は洋館のような建物の中にある一室だった。

 そして俺達の目の前には、鏡で自分の顔を映し、それを見てニヤニヤしながら頬を緩めていた青白い肌を持った金髪の少女がいた。



「…………誰?」



 俺が思った事を口にすると目の前にいた少女は俺達の存在に気づいたようで、自分の痴態を他人に見られたからか、不健康そうな青白い肌の頬を真っ赤にさせながら叫んだ。




「……こ、こっちのセリフじゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」






ついに楓さん登場ッ!!

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