第39話 勇者side 8
これで勇者sideは一旦終了です。
これ以上長引かせると常闇君が主人公じゃん! と突っ込まれかねないと判断し、高速で時間を進ませました。
「聞いてくれ!! 昨日、急に決まった事なんだが、希望者を募って明日にでもダンジョンへ向かおうと思う。ダンジョンには私と騎士団長のロイ、そしてギルドから雇った護衛役数人が同行する。今回、私達が向かうダンジョンはラギシス王国とエーデル王国のちょうど境界にあるクェーク渓谷の黒獣の森という場所だ。エーデルの糞国王がこれ以上舐めた態度を取らないようにする為の牽制も兼ねている。なので難易度が少々高い。出来れば、自分の実力に自信がない者は今回のダンジョン攻略を見送って欲しい。なにか質問はあるだろうか?」
ディジェアがダンジョンの話を急になんの前触れもなく俺達に持ち掛けてきたのは、召喚されて凡そ1年が経ったとある日の訓練が終わった直後だった。
訓練をしていた場所は俺達が召喚される時に使われた部屋よりも狭く、学校の体育館程度の広さだった事あって、普段から比較的声が大きいディジェアの声はよく響いた。
ダンジョンに向かうという話を持ち掛けられた俺達は訓練で疲れきっていたが、しんどそうな表情を一変させ、目を輝かせる。
が、難易度が高いと聞くと半数以上が苦虫を噛み潰したような表情へと直ぐに変わっていった。
俺は持っていた剣を鞘に納めてから近くの床に置き額から大量に出ていた汗を手の甲で拭いながら、すぐ近くで一緒に訓練をしていた零也に声を掛けようと歩み寄る。
「おい、疾風。どうするよ? 俺は丁度、自分の実力を確かめたかったとこだったんでな、ダンジョンに行こうと思う。今回、自分の実力が十分だと判断出来たら城を出て漆黒を探した後、獣耳っ子ハーレムを築く予定だ。城の外の魔物は実はかなり弱い部類だった、とかじゃ、獣人の国に着いた時に洒落になんねぇからな」
含み笑いをしながら俺は零也に向けて言い放った。
「常闇が行くなら俺も勿論行くさ。何の為に2人で合成魔法を特訓したと思ってんだ。1人になったら意味無いだろうが……まぁ、漆黒の為に書庫を漁っていたらあの魔法を知る事が出来たのは本当に僥倖だった。漆黒には感謝しねぇといけないな。ま、俺らの意思確認も終わった事だ。あの糞王女に伝えにいくか」
零也は鞘から抜いたままだった剣の刃先をディジェアに向け、口の端を吊り上げながら、くくく、と言葉を漏らした。
「よし、んじゃ、あのカス王女に伝えようか。今までは魔力の消費がヤバすぎて発動しなかったり、何故か爆発したりと失敗続きだったが、ダンジョンに行けばちゃんと発動するかもしれん。今回が俺らの愛称から取って名付けた合成魔法、『闇風スペシャル』の初陣だな」
俺は言い終わると同時にディジェアの下へと歩を進め始めた。
「おっしゃぁ!! 蹴散らして蹴散らして蹴散らしまくるぜぇ!!」
零也は持っていた剣を投げ捨ててから、先に歩き始めた俺を追いかけるように歩を進め始める。
俺は異世界に召喚されて一年、クラスメイトのステータスを部屋越しに確認する際に聞き耳を立てたり、カス王女の話などを何度も盗み聞きしていた事あって、スキル欄に『聞き耳』が追加されていた。
聞き耳スキルがあった俺には、カス王女の近くにいた生徒会に所属していた人達の会話が丸聞こえだった。
「おい、光樹。お前はダンジョンに行くのか?」
御堂光樹の相棒ポジションとなっていた相良佑樹がニヤニヤしながらそう訊ねていた。
「勿論だ。ここで行かなかったら何の為に勇者なのか分からないだろ。それよりも……も、望月さん。望月さんは俺がどんな事があっても守るから安心してくれ!! だから心配する事は何もない!! 存分に俺を頼ってくれ!!」
光樹は佑樹の質問に対して、何を今更……と言わんばかりに呆れながら適当に返答をした。
生徒会に所属していた高校3年生組は訓練等といった行動する際、いつもメンバー全員の5人で固まっていた。
初日に楓と緋稲春は喧嘩をしていたが、次の日には仲が元通りになっていた。
いや、寧ろ仲がかなり親密なものへと変わっていた。何を話して仲直りをしたのかは未だに謎だ。
光樹は、少々興奮気味な口調で楓に向かって言い放ったが、生徒会メンバーの楓と光樹を除いた3人は皆呆れたような顔をさせながら見守っていた。
声を掛けられた楓はいつも光樹に話し掛けられるとあからさまに嫌そうな表情を浮かべるのだが、今日はいつもとは違い、満面の笑みを浮かべていた。
「御堂君、私の事は気にしなくていいよ? だって私、ダンジョンに行かないもの」
楓がそう言い切ると生徒会メンバー全員が驚いたような表情へと変わっていく。
初日以降、楓は何度も城の外に出たいと言っていたので全員、楓は行くと勝手に断定していたのだ。
「えっ!? ど、どうして? 城から出たいってよく言っていたじゃないか」
素っ頓狂な声を上げた後、光樹は慌てながらも理由を聞こうと口を開いた。
「理由かぁ……何となくなんだけどね? ダンジョンに向かわずに城に居た方が良いような気がするの。具体的に、と言われてもよく分からないんだけど、凄く良い事が起こるような……そんな気がするんだ……ふふっ」
その時の楓は凄く良い笑顔をしていた。
何故か愛おしそうに着ていたズボンのポケットを触っていた。
聞き耳スキルを持っていた俺は望月先輩のズボンのポケットからジャラジャラと金属と金属が擦れる音がしているのを聞き取ったのだが、急に悪寒のようなものが走り、生徒会メンバー達の会話を聞くのを止め、そして謎の音については深く考えないようにした。
平日が始まりますね……平日は不定期更新になるのでご了承下さい(´ ; ω ;`)