第34話 肉壁or潜入
「……いやぁ、助かったよ新人君。私も一人ぼっちは寂しいからね」
イディスは裏ギルドのカウンターで椅子に座りながら俺に向かって感謝の言葉を掛けていた。体は心做しか、ぷるぷると微妙に震えている。
恐らく、戦いの後の傷のせいで椅子に座るのも辛いのだろう。
だが、スルーだ。心配する言葉を掛けてみろ、間違いなく藪蛇だ。
野次馬達がイディスを放って談笑しながら闘技場から去っていった後、俺はティファールの手足を動かせられないように、と氷で拘束していたが、氷を一瞬で砕いて拘束を解放し、イディスをどうしようかと一人で頭を悩ませていた。
俺は担いで裏ギルドのカウンターまで連れていこうかと思ったが、俺がティファールを抱き寄せた後、離れようとしたら急に腕組を少々強引にし始め、離れる気配が全く無かったので担ぐ案は直ぐに却下となった。
次に、少々可哀想だったがイディスの片足をズルズルと引っ張って連れていこうか、という案に至った。
俺はティファールに片腕の自由を奪われていたが、イディスの下へと歩み寄り、彼女の片足を掴もうとした。
瞬間、ティファールが物凄く嫌そうな顔へと変わったのを俺は見逃さなかった。
慌てて手を引っ込めて、最悪の展開を避けることに成功した。
俺、かなり成長したと思う。
ていうか、誰かに自慢したい………あぁ、友達いなかったや俺。
結局、大きな箱のような物を氷魔法で俺が作り、イディスをそこに突っ込んで運ぶ事になった。
箱といっても、四方とも塞いでいるわけは無く、ちゃんと一番上は閉じていない。
取っ手の様な物を付け、運びやすいようにと少し工夫をしていた。
箱に突っ込む少し前に、ティファールがイディスの変な方向に曲がっていた腕をボキッ、と痛そうな音を鳴らしながらも元の状態にへと治していた。その時、いい気味だ、と言わんばかりの表情をティファールが少しだけしていたようなしていなかったような気もするが、気のせいだろう。
イディスはティファールに腕を元の状態に治して貰っていた際、「ぎゃぁぁぁぁ!! 痛い! 痛い!!」と悲痛の叫びを上げていた。戦闘の時は全く痛がる事はなかったのに何でだ? と思ったが、多分、アドレナリンか何かでも出ていたんだろうと勝手に結論づけた。
俺はイディスへのその行動は、善意のみによる行動だったと信じている!! いや、信じたい!!
闘技場から裏ギルドのカウンターまでの道のりには、階段がある。
勿論、階段があるからイディスが入っている箱を両手で持ち上げる……なんてことはティファールが許すわけもなく、心の中で少々申し訳なく思いながらも、箱はガタンガタンと激しく揺れながら運ぶ事となった。
裏ギルドのカウンターに着いた時にイディスは、顔面蒼白に早変わりしていた。
イディスは、うぷっ……気持ち悪……と呟いていたが吐く事は無く、箱から自力で出た後、匍匐前進をしながら毒々しい色をした液体の入った瓶をカウンターの下から取りだして涙を目に溜めながらも飲み干していた。
飲み干した直後、少し元気になったのか立ち上がって椅子に座った後、俺に向かって感謝の言葉を掛けていた。
イディスが飲んでいた液体が恐らく、ポーションなのだろう。
…………絶対飲みたくねぇ……
俺はあんな運び方をしたにも拘わらず、礼を言うイディスに対してドン底の中のドン底に落ちていた好感度がほんの少しだけ上がった。
「……あ、そうだ、戦闘欲の良いガス抜きも出来た事だし、さっきの運んでくれたお礼も兼ねて明日掲示する予定だった凄くお得な依頼書を新人君達に譲ってあげるよ」
イディスはカウンターの下に仕舞ってあった質の良さそうな紙を2枚、俺に渡してきた。
凄くお得な依頼書だと!? イディスって変態の癖に実は良い人だったのか!?
俺の中のイディスに対する好感度がうなぎのぼりだよ!!
俺はイディスから渡された2枚の依頼書の内容を直ぐに、確認した。
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依頼書
ラギシス王国に召喚された勇者達のとあるパーティーが
ラギシス王国からエーデル王国に向かう際に必ず通る
クェーク渓谷の、唯一のダンジョンである黒獣の森
を攻略する事になったので、3名の肉壁を募集する。
足が超速い盾役など、大歓迎。
報酬は金貨50枚、拘束期間は予定としては一月程。
※生きていたらちゃんと報酬は渡します。
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依頼書
ラギシス王国に召喚された勇者達の精鋭が黒獣の森を攻略
するという情報が入った。ラギシス王国の王城の警備が
少々薄くなる、この千載一遇のチャンスを利用して、
ラギシス王国の王城に使用人として潜入し、出来る限りの
情報を得て、情報を持ち帰って欲しい。
報酬は持ち帰った情報の重要性によって変動するが、
金貨20枚は最低限約束する。
拘束期間は2~3週間。
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……
………
…………ちょっと待てや。
「おいっ!! イディス。何だこの依頼は。どこがお得だ、どこが」
依頼書の内容を確認した瞬間、イディスへの好感度がドン底の中のドン底にまで逆戻りした。
イディスに対してはコミュ障発動しないな。変態だからだろうか?
「……へ? いや、どう見てもお得でしょ!! 新人ちゃんも新人君に言ってあげてよ!!」
こいつ何言ってんだ? と言わんばかりの表情を俺に向けた後、ティファールに向かって言葉を発した。
「…………悪くは無いわね」
嫌そうな顔をしながら小さな声で答えた。
ティファはどんだけイディスが嫌いなんだよ。
というか、この依頼書は悪くないのか!? 肉壁って書いてるんだけど!!
「………ていうか、この依頼書ってやけに紙の質がいいな」
俺はティファールやイディスの言葉に同意できないまま、小さく呟いた。
その呟きはイディスの耳に届いていたらしく、即座に呟きを拾って説明を始めた。
「……そりゃ、その依頼書の依頼者って両方とも王族だもの。ちなみに新人君が初めに見ていたのがラギシス王国の物で、後に見ていたのがエーデル王国だよ」
イディスは機密事項っぽい情報をぶっちゃけた。
口が軽いのだろう………それでいいのか? 受付嬢。
「王族も裏ギルドを利用するのか………」
俺は呆れながら小さく呟くと、又してもイディスの耳には届いたらしい。
イディスの耳良すぎだろ……
「……ラギシス王国が裏ギルドを利用する事は殆ど無いね。ま、ラギシス王国の依頼は信頼できる人って条件付きだからそれだけ勇者が大事なんでしょ~。あ、エーデル王国のこくお……ゴホンッ、王族は良く利用してるよ!! 腹の中は真っ黒だろうね!! 裏ギルドの人間である私が言うのもなんだけど相当なクズだと思うよ。まあ、いいカモだから表だって言う事は無いけど」
エーデル王国の話になるとイディスのテンションが凄く高くなっていた。
やはりイディスは口が軽いな。
ま、一応ティファも悪くない依頼書と言っていた事だし、今は金を一切持っていないので金が必要だ。
どちらか受けるか、と思いティファに訊ねようとすると、伊織が決めて、と何も言っていないのに答えてくれた。
俺の考えている事ってそんなに分かりやすいですかねぇ……
心の中で少しだけ、いじけながらも俺は一枚の依頼書をイディスに渡した。
沢山のタイトル変更に関する感想をありがとうございましたッ!!
変更するか、しないかは、もう少し悩んでみようと思います。
帰宅してから急いで書いたので誤字、脱字あるかもしれません(一応、確認はしたんですが…)……スミマセン(´ ; ω ;`)