第29話 トサカ頭……後でボコる
今回は短いです(-∀-`;)
イディスに闘技場に案内してもらう事になったのだが、そうなると自動的にイディスが俺とティファールの前を歩く事になるわけで。
闘技場へと向かう途中、ティファールは「…………殺しましょうか」と呟きながら持っていた大剣をイディスの首目掛けて振り下ろそうとしていたので俺は慌ててティファールを制止した。
……流石に駄目だろう、それは……
ちなみに何故かトサカ頭の男は俺達についてきていた。
そして野次馬はトサカ頭の男だけでは無く、先程まで裏ギルドで静かに酒を飲んでいた人達も、なようで結構な人数が後ろからついてきていた。
ティファールは自分を行動を制止した俺に対して不満を抱いたのか、「ねぇ、なんで止めるの? なんであの女を庇ったの? ねぇ、なんで? なんで?」と少し目から光を失わせながら俺に、にじり寄って来る……勿論、大剣は持ったままだ。しかも刃は俺に向いている。
半分暴走状態にあったティファールに対して、その場しのぎだったが無茶苦茶な暴論を言ってみたり、支離滅裂な事を口走ったりさせながら宥めようと必死になっていた。が、そんな俺の苦労は報われず、状態は悪化した。
汗をだらだら流しながら必死に言い訳をしている俺を、トサカ頭の男は隣で忍び笑いをしながら見ていた。
………あいつ後で絶対ボコる。
完全にお手上げ状態になりかけた、そんな時だった。
闘技場のような場所が運良く見えてきており、それを見た俺は「と、闘技場!! 闘技場だぞティファ!! この話はまた後でッ!!」と言ってティファールがイディスとの戦闘で先程までの会話を忘れる事を心の中で祈りながら、未来の俺に面倒事を強引に押し付けた。
闘技場は広かった、その一言に尽きる。
大きさはラギシス王国に召喚された時に使われた部屋並みに広く、千人くらいなら楽に入るだろう。観客席みたいな場所もあり、結構洒落ていた。
そして闘技場の足場は土で出来ており、ちゃんと平面に整えてあった。壁は所々抉れていたりと、無数の剣や魔法を使われたであろう痕跡が残っていたが、崩れ落ちるといった気配は微塵も感じない。特別な方法か何かでここは作られたのだろう。
イディスは闘技場に入ると、闘技場の入り口近くに立て掛けてあった長く湾曲した剣を2本手に取った。
手に取った剣は根元から3分の2くらいまでは片刃で、刃先の部分が両刃となっており、鋭く尖っていた。
そんな変わった剣を逆手持ちで持ち、イディスは恍惚といった表情で手に取った剣を眺めていた。
「……あぁ……剣を持っている時が一番落ち着くなぁ……この感触が堪らないよ……ん? こんな剣を見るのは初めてなのかな? 珍しいだろう? この剣はファルカタって言うんだよ」
イディスはティファールが興味深そうに自分が手に取った剣を眺めていたので、自分の得物の名前を教えていた。
俺は剣に興味はあまり無く、少し気になった別の事をトサカ頭の男に訊ねた。
「なぁ……トサカ頭。エルフって弓とか魔法とかを使うんじゃないのか? 俺の目の前にいるエルフが剣をうっとりした表情で眺めてんだけど。剣で戦う気満々っぽいんだけど」
「んぁ? そりゃぁ、普通ならお前の言う通りなんだがイディスさんは普通じゃねぇからな。イディスさんは例外だ、例外。それで納得しろ。あと俺の名前は……あー、本当の名前は教えられないんだった。ま、裏ギルドの先輩って事で先輩って呼んでくれや」
俺はトサカ頭の男の表情が、敬えよ? と言っているように思えてしまうくらい子に憎たらしかった。
その為、そんな態度が癪にさわった俺は先程まで一発ボコって終わりにしようと思っていたが、気が変わって五発にグレードアップさせる事になった。
俺達が着いてから少し時間が経った頃に、後ろからついてきていた野次馬共も闘技場へとたどり着いていた。
野次馬達が勝手に、ティファールがイディスの攻撃を何秒耐えられるか、という賭け事を始めており、5秒! 22秒!! などと言って金を賭けていた。
トサカ頭の男が、そういえば、と前置きをした後に大事な何かを思い出したかのか、俺に話しかけてきた。
「おい、新人。お前の連れがイディスさんの戦闘欲をたぎらせたんだ。お前の連れが動けなくなったら、ちゃんとお前が責任持ってイディスさんの相手をしろよ? 分かったか?」
トサカ頭の男は威圧しようとしたのか眉間にしわを寄せ、睥睨しながら俺に向かって言い放った。
その態度は俺にとっては怖くも何とも無かったが、相手の顔を立てて怖がったフリでもしようか、と考えてしまったが面倒臭くなり結局、はいはい、と軽く返事をする事にした。
「……ティファがあの程度の相手に負けるわけ無いだろ……」
トサカ頭の男に軽く返事をした後、俺が呆れた口調でため息混じりに誰にも聞こえる事のない声量で小さく呟いた。