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アンバーの宝石

作者:ゆき猫
とある街の小さな家に、一匹の猫が暮らしていました。
お父さんとお母さん、そして息子達が三人。みんなとても優しく温かさに満ちた家族でした。
小さい頃に捨てられ寒さに震えていた猫は、末っ子の男の子に拾われてこの温かい家族の元へやって来ました。
猫はクロと名付けられ、みんなに可愛がられて育ちました。人間の言葉は分かりませんが、みんなが自分に何かを話かけながら撫でてくれるだけで幸せでした。
家族みんなと仲良しのクロですが、一番の仲良しは拾ってくれた末っ子の男の子でした。まだ小さい末っ子の男の子は、自分を撫でながら一生懸命に自分に話しかけてくれます。
一生懸命に話していると力がこもってしまうのか時々力が強く痛いこともありましたが、それでもクロはその小さな温もりを感じる事が好きでした。
毎日たっぷりの温かい笑顔と愛情を貰って、とても幸せでキラキラとした毎日でした。


時が経ち、クロも大人になりました。三人の息子も大きくなり、一番上のお兄さんは結婚して家にいることがとても少なくなりました。
そんなある日、お母さんとお父さんが新入りの猫を連れて帰ってきました。白く長い毛を持ち、とても毛並みが良くひと目で生まれた時から大切にされてきたのだなということが分かります。どうやらペットショップという所からやって来たようでした。
クロは新入りの猫と仲良くなりたくて近付きますが、威嚇されて自分に近付くなと言われてしまいました。その様子を見たお母さんが、怖がらせては駄目だというようにクロを叱り、その部屋からクロを出し扉を閉めてしまいました。
クロは仲良くなりたかっただけなので、どうして自分が叱られたのかよく分かりませんでした。
部屋の中からは、新入りの猫が家族みんなに甘えるような声を出しているのが聞こえてきます。クロは少し寂しく思いましたが、扉を開けてもらえるまでその場で座り、じっと扉を見上げていました。

その日からクロに向けられる笑顔と優しさが少し減り、減った分は新入りの猫に向けられました。
白く長い艶やかな毛はとても手触りが良く、甘え上手な新入り猫は家族みんなを魅了します。
気が付くとクロに向けられる家族の愛情よりも、新入り猫に向けられる愛情の方が多くなっていました。相変わらず新入り猫からは近付かせてもらえず仲良くなれません。それでもクロは新入り猫も含めて家族みんなのことが大好きでした。
お父さん、お母さん、真ん中のお兄さんが新入り猫にばかり愛情を向けるようになっても、末っ子の男の子は昔と変わらず、むしろ昔以上の愛情をくれました。大きくなった末っ子の男の子は上手に力加減ができるようになっており、彼に撫でてもらう時間が一番の幸せでした。


それからさらに時間が経ちました。クロは歳をとり、眠っている時間が多くなりました。真ん中のお兄さんも家を出て、末っ子の男の子も机に向かっている時間が多くなりました。どうやら大学受験というものが男の子に迫っているようです。
お父さんとお母さんは末っ子の男の子をよく叱っていました。それは上のお兄さん二人はとても出来が良く自慢の息子でしたが、末っ子の男の子はあまり出来が良くなく、いつもオドオドとしているからでした。
素直で優しい彼でしたが、お父さんやお母さんに叱られ続ける日々を過ごしているうちにいつも暗い表情をして俯きがちになってしまいました。
クロに向ける笑顔もどこか悲しくて、クロはとても悲しくなりました。末っ子の男の子は、時々クロを抱きしめては泣いていました。こっそり泣いていた男の子でしたが、男の子の顔と接している部分の毛が濡れるので、彼が泣いている事はクロにはすぐ分かりました。
叱られるのは男の子だけではありませんでした。歳をとったクロは腎臓が悪くなり、うまくトイレで用をたす事が出来にくくなりました。しかしお父さんとお母さんはクロが健康だと思っているので、上手くできなかったことを叱ります。
クロも悪いことをしているのは分かっていましたが、どうすればうまく出来るのか分かりませんでした。次第に言葉だけで叱られるだけではなく、叩かれたり蹴られたり、ついにはゲージの中に閉じ込められるようになりました。
クロが抱っこをねだっても、お父さんとお母さんは顔を見ただけで叱るようになりました。何を叱られているのかはよく分かりませんでしたが、あの大好きだった笑顔を向けられることはもうありませんでした。
顔を見るといつも怒っているお父さんとお母さんは少し怖かったですが、それでもクロはやっぱり家族みんなの事が大好きでした。


ゲージに閉じ込められるようになってから、こっそり男の子がお父さんとお母さんの目を盗んでゲージの外へ出してくれる時がありました。抱っこをして撫でてくれる男の子の温もりと優しさだけは小さい頃と全く変わることはありませんでした。

さらに時は経ち、クロは起きている時間がほとんどなくなりました。もしかしたら、もう先が長くないのかもしれません。
姿を見る度に痩せてやつれていく男の子でしたが、ある日姿を見せた時、彼は相変わらずやつれてはいましたがとても穏やかな顔をして微笑んでいました。まだ春というにはほど遠く、とても寒い冬の日でした。
男の子はゲージを開けるとクロを抱え、自分の部屋へ招き入れました。久し振りに見る男の子の部屋には、以前はなかった赤い色をした本が乱雑に散らばっていました。そして天井近くの高い位置から一本の紐が垂れ下がり、その先端は大きな輪になっていました。
どうしてあんな高いところから紐がぶら下がっているのだろう?クロは不思議に思いましたが、男の子の部屋に久し振りに入れたことが嬉しくて、すぐにそんな疑問はどこかへ消えていきました。
男の子はクロを側にあったベットへと下ろすと頭を撫でて微笑み言いました。
「先にいくね」
男の子はぶら下がっている輪の中に頭を入れると、大きく深呼吸をして力を抜きました。

クロは動かなくなった男の子の足元へ行き、彼を見上げました。
クロが鳴いて呼びかけても男の子は笑いかけてくれません。寝ているのでしょうか。
起きたときにまたきっと、あの温かい笑顔を向けながら撫でてくれるはず。そう思ったクロは安心からかとても眠くなってきました。
次に目を覚ました時には、大好きだった抱っこをしてもらおう。そう思いながらクロは男の子の足元で眠りにつきました。

夜になり、お父さんとお母さんがそれぞれの仕事から帰ってきました。
ゲージを見ると、いるはずのクロの姿が見あたりません。男の子がクロを出したことに気が付いたお母さんが、男の子を叱ろうと彼の部屋の扉を開けて目にしたものは、穏やかな顔をして冷たくなってしまった一人と一匹の寄り添った姿でした。
〈完〉
この物語のクロは、先日亡くなった私の愛猫をモデルにしました。
16歳生きた愛猫は、よく粗相をしてしまう猫でした。私の両親はそれを酷く怒り、手を挙げて怒ることもよくありました。
もしも私が愛猫だったら、そんなことをされたら飼い主にひどく怯え、懐くなんてことはしなかったと思います。
しかし愛猫はとても人懐こく、よく抱っこをせがんでくる猫でした。
その様子をクロの「家族のことが大好き」だったという行動に投影しました。

一昨年の話ですが、私は一度自殺を考えたことがありました。それは末っ子の男の子と同じように、家族や周囲からの重圧のためでした。
しかし私が行動しようとした時、愛猫が普段鳴かないような声で鳴き喚き部屋の扉を開けろと訴えてきました。
扉を開け座り込んだ私の膝に猫は座り、まるでどこにも行かせまいとしているかのようでした。

猫がどういう心理で動いたのかは残念ながら分かりませんが、私は勝手に猫に救われたと思っています。
先日愛猫が亡くなった時、大きな悲しみもありましたが、それと共に強く生きていかなければと思うことが出来たのもこの出来事のお陰ではないかと考えています。

この小説はハッピーエンドではありませんが、またクロと男の子は再会し、2人で幸せに暮らしていくのではないかと思います。
とてもシリアスな小説になってしまいましたが、最後まで読んでくださりありがとうございました!

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