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若者はこう生きろ!うしのフットボール 作者:万吉
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ちょいワルな仲間を集めろ

3.ちょいワルな仲間を集めろ
 さて、顧問は決まったが、今度は部員集めが問題だった。既に運動神経のある有望なやつらはみんな運動部に入部していたからだ。教室に戻ってきた連中は、一段高くなった教壇の端に並んで腰掛けると、早速部員をどうして集めるかの相談を始めた。
「鬼塚は11人集めてこいというとったやろ。運動のできそうなやつはみんなサッカー部とか、野球部にはいっとるで。どないする?」
小池が困った顔をした。
「そやな。残った連中は運動音痴ばかりやから、役にたたんわな。人のことはいえんけど」
川島が申し訳なさそうに答えた。川島は、どちらかというと芸術家タイプで運動は得意ではなかった。フットボールに憧れているのも、防具を付けたスタイルに興味があるからだ。
「こうなったら、他の部から引き抜くしかないんとちゃうん」
丸山がそう答えると
「運動神経はあるけど、遊びたいからクラブに入ってないワルもおるで。あいつらはせえへんかな。フットボールは格闘技やから強いやつがおるほうがええけどなあ」
赤木がすぐに続けた。
「そやな。ほなら、両方でいこか。高校時代の友達は一生の友達になるって、鬼塚がいうとったし、ええやつ見つけよ」
連中は、他の運動部から引き抜くことと、遊んでいるワルを誘うことの両方から部員集めをすることに決めた。

 そこで、連中が最初に目をつけたのが、山中だ。山中は、中学時代から青春ドラマで人気があった森田健作にあこがれて剣道を始め、高校入学と同時に即剣道部に入部した人物だ。
 スポーツ万能で足も速く、負けん気も強い。小学校時代には、転校してくるなりみんなを運動場に集めて、誰が学校で一番足が速いかを決める勝負をしたという武勇伝がある。
 赤木と高貴は待ちきれずに部活の途中の山中を強引に呼び出すことにした。
山中の練習する武道場は、体育館のまだ山側にあった。
学校の中央を南北に走る坂道を一番上まで登り、左手に曲がると武道場に着く。二人は、武道場の前の石段を急いで上がり、古ぼけて重くなった扉を開けて大声で山中を呼んだ。
「山中はおらんか」
道場破りのような声が、体育館全体に響いた。
しばらくすると、その声が聞こえたらしく、山中が扉の方にやってきた。
「練習中すまんな。今度、フットボール部を作ることになったんや。顧問は、体育の鬼塚がやってくれるというとる。中学から剣道をやっとるのは知っとるけど、人がおらへんので、お前入ってくれへんか。頼むわ」
山中が剣道場から外へ出てくるなり、二人が同時に頼みこんだ。不思議と息がピッタリと合った。
すると間髪を置かずに、手に竹刀を握ったままの山中から返事が返ってきた。
「ええで」
山中はニコッと笑った。童顔の山中が笑うと本当に嬉しそうな顔になる。山中はまるで誘いを待っていたかのように参加を快諾した。
「お前らと一緒に、フットボールやってみたかったんや」
 このひと言で、山中の入部が決定した。この後山中は、自宅に帰って、父親にこっぴどく叱られたと赤木は聞いた。
「中学時代から続けてきた剣道を捨てるとは何事か、わしはお前を志を途中であきらめるやつに育てた覚えはない」と父親は激しくしかった。
 赤木は山中の父親をよく知っている。山中の父親は、警察署勤務で昔ながらの一本気な性格だった。山中はこの父親の存在により、ひとりっこでありながら、甘やかされずに育つことができている。これで一人部員が増えた。

二人が次に、目をつけたのが、和田だった。愛称は「ダッコ」。
和田は、中学時代から野球をやっていて、結構有名選手だったという噂が流れていた。その和田も入学と同時に野球部に入部している。
 ただ、現状は少し遊びに興味を持ち始め、俗にいう不良の格好を始めていた。いわゆるガクランという丈の長い学生服を着て、詰め襟は5cmもあり、ほとんどコルセット状態。ガクランは地面まで20センチのところまで垂れ下がるほど長い。今は野球も休みがち。
 そんな和田に目を付けたのが、(野球をやっているからおそらく肩は強いやろう、クォーターバックができるかもわからん。最近は、クラブも怠けて遊んどるみたいや)という連中の単純な発想だ。
数日後、赤木と高貴が、授業が終わって家に帰ろうとしていた和田を後から追いかけて声をかけた。
「フットボールなあ」
「今年の正月にたまたまローズボウルを観たんや。あれ、おもろいなあ」
ローズボウルとは、アメリカのカレッジの4大ボウルゲームの一つで、カリフォルニア州のパサディナで行われるパック10、ビッグ10と呼ばれるそれぞれのカンファレンス(リーグ)のチャンピオンが対戦するゲームだ。
意外に和田はフットボールに憧れていた。
「そやろ。遊んどってもしゃあないやろ。俺らといっしょにやろうや。相手をコテンパンにやっつけるのは、快感やで」
最初は少しためらっていた和田を二人が強引に押し切って、その場でOKをとりつけた。

 次は、陸上部の速水。みんなから飛脚と呼ばれている。
その名のとおり速水は、とにかく脚が速かった。百メートルを11秒台で走る。陸上部のエースとして活躍していたので、最初は迷っていたが、
「おまえみたいに脚の速いのは、日本一の関西学院大学にもおらん。絶対に有名なランニングバックになれる。そうしたら女の子にももてるで」そうしつこく誘って、ついに入部させた。
 そして、大石。体がばかでかい。身長は190センチを越え、体重が120キロはある。みんなは、関取と呼んでいる。入学と同時に中学時代と同じ柔道部に入部していた。
体が大きいばかりでなく、手のひらもばかでかい。指を開くと、親指の先から小指の先まで25センチもあった。小学生のときには、かなり太っていたが、今はガッシリとひきしまった体格に変わっている。力の必要なラインにはもってこいの体だった。
 席が高貴の隣だったので、高貴は大石とはよく雑談はするのだが、フットボール部への勧誘はしていなかった。柔道一筋みたいで、なんか無理そうと思っていたからだ。和田が入って気を良くした二人は、その勢いで大石に頼んでみた。
「フットボールはマイナーなスポーツやから、まだそんな大きな奴はおらん。お前なら絶対に相手を倒せる。新しい部を作って青春しようや」
口から出任せをいってOKを取り付けた。
同じようなやり方で、バレーボール部から広山、水泳部から細田を引き抜いた。

細田は、背が高く手が異様に長かった。その格好から、とんぼと呼ばれている。長い手を活かしてバタフライでは、県下トップクラスだった。ただし、25メートルまでは。
細田は、極端に持久力が無かった。
だから、スタートからしばらくはその長い手を活かして、常にトップを泳ぐ。しかし、25メートルを過ぎる頃から失速を始める。
燃料切れだ。25メートルが正式競技にあれば間違いなく県の記録保持者になっていた人物だ。

 この件では、鬼塚先生にも多少迷惑がかかっていた。
やり方が強引すぎると、他のクラブの顧問から苦情が出ていたからだ。
「この前なあ、サッカー部の大竹先生がわしのところへきてな。うしをサッカー部からとらんでくれといわれたんや。まるでわしが引き抜いたようにいわれたわ。わしは、それはうしの決めることやからほっといてくれ。というたったけどな。山中もそうや。竹田先生が来て、山中は1年生やけど3段や。将来有望や。引き抜くのは止めてくれといわれたわ。竹田先生も、大竹先生とおんなじことをいいよった。竹の付くやつはいうことが同じや。ほんま困ったもんやで」
鬼塚先生は、いかにも自分のせいとは違うといいたげな表情で、ぼそっと赤木にいった。
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