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若者はこう生きろ!うしのフットボール 作者:万吉
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最高の教師は子どもの心に火をつける

2.最高の教師は子どもの心に火をつける

 こうして、高貴の念願であったフットボール部を作ることが決まった。しかし、連中にはこれから先、具体的に何をどうすればいいのか全く見当がつかなかった。当然、しばらくは、何もできない状態が続いた。
ただ、連中にはアメリカンフットボール部を作るという意気込みだけはあった。フットボールの宣伝をしようということで、赤木が昼休みに「カレッジフットボール・イン・USA」のテーマソングになっていたレコードをわざわざ学校から自宅まで取りに帰って、みんなに聞かせるというようなこともやった。
また、川島は、絵がプロ並みにうまかったので
「お前、フットボールの絵を描いて、それを教室の窓に張っとけ」
と他の4人にいわれて、画用紙にフットボール選手の絵を描いて、自分たちの教室の窓に張ったりもした。
もちろん、そのプロ並みの絵は、廊下側の窓に外から見えるようにして、窓が埋まるほど何枚も張られた。そして、その絵のヘルメットには「岸川よろず」とか、「臼井ジャスコーズ」といった調子で同級生の名前をもじったチーム名が大きく書かれていた。

そんなことをしながら2週間くらい経ったある日、丸山が、偶然にも体育の鬼塚先生が大学時代にフットボールをやっていたことを聞きつけてきた。
丸山は教室に入ってくるなり、少し興奮ぎみに4人を集めて早口でいった。
「体育の鬼塚な。日本体育大学でフットボールやってたらしいで。頼んだら顧問してくれるんちゃうやろか」
丸山は、明るくて、笑うとめがねの奥で眼がまんまるになる。丸山には子供がそのまま大きくなったような無邪気さがあった。
「ええ・・・、あの鬼塚がフットボールしとったんか。想像できひんな。そやけど今、女子ソフトボール部の顧問をしとるで。グランドで女の子と結構楽しそうにやっとるし、それにあの先生、女の子が好きそうやし、頼んでもあかんのとちゃうやろか」
小池が、心配そうに丸山の方を見た。
小池は、体も小さいが、気も小さい心配性だ。名前が文であることから、ブンと呼ばれている。
小池の言葉にみんな、うーんと黙り込んでしまった。
「ブン、やってもみんで心配してもしゃあないで」
「ほな、どないするん」
赤木の言葉に小池が口をとがらせた。
「フットボールをやっていた先生なんか、なかなかおらへんし、ひょっとしたら鬼塚も本当はフットボールをやりたいんかもわからんで。フットボール部がないからソフトボール部の顧問をしとる。そう思わんか。まあ、頼んでみるだけ、頼んでみよか。他に頼る先生はおらへんのやから」
赤木は、小池の肩を軽くたたいた。
「そやな。他におらへんのやし」
連中はすぐにその気になった。
 フットボール人口の少ない中、しかも田舎町で、関東一部リーグの日本体育大学でフットボールを経験した人物が見つかるとは幸運だった。

その日の放課後、連中はさっそく体育教官室にいる鬼塚先生のところへ、顧問のお願いをしに行くことにした。
 青空高校は、街中から外れた山を削った斜面に建設されていて、南から北へ向かって階段状に校舎が並んでいた。校舎の東側には南から北へなだらかな坂道が走り、その坂道の頂上付近の右側がグランド、左側が体育館となっている。そして坂道を上りきったところの左側が体育館前の駐車場になっている。
この駐車場の南東の角と坂道の間が雑草の生えた土の斜面になっていた。
生徒たちは体育館に行くのに近道をして、よくこの斜面を通っていたので、そこだけは雑草が生えず土が踏み固められて階段状になっている。
そしてこの斜面には、よく鬼塚先生が黒いレイバンのサングラスをかけ、白のTシャツに赤いランニングパンツを履いて、仁王立ちでグランドを眺めていた。体育館の南の角に体育教官室があったからだ。
 赤木と高貴が入学式に初めて先生を見たのもその場所だった。
体育教官室とは、体育の授業の準備室として、体育担当の先生が授業の前後に使う部屋のことだ。鬼塚先生は、この体育教官室を自分専用の部屋のように使い、ほとんど職員室にはいなかった。授業のないときはもちろん、授業の合間でも牢名主のようにこの部屋にいた。校長先生でもないのに校内に自分専用の個室があるようなものだった。

 連中は少し早足で、教室のある棟の3階の北側から亘り廊下を渡って、体育館の角にある体育教官室に着いた。
そして、ドアをノックするなり、待ちきれずに誰ともなくドアごしに声をかけた。
「先生、お願いがあるんやけど」
するとすぐに中から、かすれた声で、返事が返ってきた。
「誰や、まあ、入れや」
そういわれて中にはいると、中から何ともいえない香ばしい匂いがした。見ると、鬼塚先生が赤のランニングパンツ姿で、炭を真っ赤にいこらせた七輪に金網を載せ、その上でにんにくを焼いていた。皮をむいただけの大きなにんにくの塊は、網の上でキツネ色に焼けて、香ばしい香りを放っていた。
にんにくをまるごと焼いて食べるのが鬼塚先生の日課だった。
「先生、俺らはアメリカンフットボールをやりたいねん。先生、大学でフットボールしとったんやろ。顧問になってくれへんか」
挨拶も忘れて、いきなり丸山が話しだした。
いいだしっぺの責任を感じていたからだ。
「そうや、わしがフットボールをしとったんがよう分かったな。そやけどな、わしは今ソフトボール部の顧問をしとるのを知っとるやろ。わしにはあの子らを強くしたる責任があるんや。お前らもそう思うやろ。な。この話は、そんな簡単に引き受けるわけにはいかんわな」
鬼塚先生は、驚く様子も無く、焼けたばかりのにんにくを無造作に口の中に放り込んだ。
そして、そのにんにくを二口、三口かんだ。
「お前らもこれ、食うか。元気が出るで。焼いとるからそんなに臭いもせえへんしな」
と、焼けたばかりのにんにくを、箸でつまんで連中の目の前に差し出した。
「そんなことしにきたんとちがうんや。先生、ごまかさんとってえな。フットボール部を作ることにしたんやけど、素人ばっかりでは、どないしてええか、よう分からんのや」
「頼むから顧問してえな。なあ、頼むわ」
にんにくを目の前に、丸山がもう一度頼み込んだ。
「おまえら、あったま悪いなあ。そんな簡単にはいかへんと今いうたとこやろ。ほんまに頭の悪いやつらはかなわんわ」
鬼塚先生は、あきれたように、にんにくを網の上に戻した。
それを聞いて連中は、すぐに誰からともなく目で合図をした。
事前に打ち合わせをしていたとおりだ。
「何でもいうこときくから、頼むわ」
連中は、そろって大きく頭を下げた。
「何でもいうことをきく・・・」
鬼塚先生は、網の上に箸を置くと、ゆっくりと連中の方に視線を向けた。
それから腕を組んで、考え込んだ。
Tシャツからはみ出た先生の肘や手首には、火傷が治ったような傷跡が無数にあった。
連中は、まだ頭を下げたまま目だけは前を見ている。
「そうか。何でもいうことを聞くんやな。男に二言はないな。分かった。顧問を引き受けたろ」
先生が口を開いたとき、焦げたにんにくの煙で、部屋の中は真っ白になっていた。
「その代わり、やるんやったら徹底してやるで。おまえら、兵庫県代表で関西大会に出るんや。日体大方式でしごいたるから安心せい」
先生は少し、うれしそうな顔をした。
そして、すぐに
「いま、サッカーに人気があるけど、あのスポーツはおもろない。なんでや分かるか?」
「なかなか点が入らんからや。点が入らんと観とる人があきてしまうんや。そやけどフットボールは違うで。1分あれば7点入るんや。20点差でも10分あれば逆転できるんやで。そやから見とる人も退屈せえへんのや。お前ら分かるか。頭悪いから分からんやろな」
と得意そうに連中に向かって一気にまくしたてた。
「はよ、メンバーを集めてこい。そしたらフットボールを教えたる。フットボールするには11人いるで」
「先生、ありがとうございます」
連中は、めずらしく丁寧な言葉でお礼をいって、体育教官室を出た。
教室への帰り道、亘り廊下を歩きながら丸山がいった。
「最初は、あかんというとったわりに、日体大方式でしごくとか、もう最初からやる気やったんちゃうやろか。すぐにやったるというのが、しゃくにさわるから、もったい付けただけみたいやな。まあ、どっちにしてもよかったけど」
連中は、顧問が決まってほっとしていた
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