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若者はこう生きろ!うしのフットボール 作者:万吉
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努力の成果は突然現れる

18.努力の成果は突然現れる

そんなとき、鬼塚先生のところへ、フットボール連盟から一本の電話が入った。
「青空高校に兵庫県選抜チームに参加してもらうことになりました」
電話に出た鬼塚先生は自分の耳を疑った。
春の梅宮との善戦のおかげで、青空高校もユニットで兵庫県選抜として西宮ボウルの前座へ出場することが決まったのだ。通常は、2位までしか出場できない試合に出られることになった。芝の西宮球場で大勢のお客さんの前で試合ができる。しかもナイター。夢のような話に連中はワクワクした。
「引退は、しばらく延期や。ええな」
赤木は、すぐに3年生全員を集めて確認をとった。
もちろん反対する者は誰もいなかった。

6月21日西宮ボウル当日。
メインの試合は、大学生のオール関西対オール関東。
その前座が、高校生のオール兵庫対オール大阪だった。
16時。
赤木たちは、球場内の更衣室で着替えた。野球のない日に競輪の窓口となっている部屋だ。たくさんの発券用の椅子が部屋の片隅に追いやられていた。
着替えが済んで、通用口から球場内に入るとすぐに緑の芝が眼に飛び込んできた。
「うあ、芝生のグランドや」
「照明も付いとる」
誰かが興奮していった。
見るもの全てが心地よかった。
いつもは野球のテレビ中継でしか見たことのない西宮球場に立っている。しかも観客としてではなく、主役として。テレビでみた光景の中に今、自分たちがいる。赤木たちは何ともいえない感動を味わっていた。
まもなく、選手全員に集合がかけられ、全員芝生の上に並び体操が開始された。兵庫県選抜の三高から、夫々キャプテンが前に出て準備体操をした。赤木は、がっしりとした体に似合わず、色白のぼっちゃん顔をした関西学院大学のキャプテンと並んでいた。
うそやろ、日本一の高校のキャプテンと一緒に並んで体操をしとる。
赤木は大勢の観客の前で試合ができる初めての経験に、緊張するどころかワクワクしていた。
間もなく、場内アナウンスにより試合開始が告げられ、試合が始まった。

が、関西学院大学と梅宮のユニットが交互に出場するだけで、なかなか連中の出番がまわってこない。
 県3位だから仕方がないとは分かっていても、連中は出たくて、出たくてしようがない。サイドラインで体が冷えないように小刻みに足を動かしながら、今か今かと出番を待っていた。
そうこうしているうちに、関西学院大学の先生が、鬼塚先生にいった。
「次の攻撃から青空のユニットで出てもらえますか」
やっとチャンスが来た。
それを聞いた青空の連中は
「よっしゃ」
と拳を握って意気込んだ。
相手は、大阪の川田高校中心のユニットだった。
ダラスカウボーイズのようなシルバーのユニフォーム。攻撃開始地点は、自陣の20ヤード付近から。
高貴がコールした最初の攻撃は、小池へのギブだった。小池はボールをもらうと真っ直ぐに走り、約3ヤード進んだ。
次の攻撃。
高貴は、タイトエンドの細田へのフックパスをコールした。
高貴は、手の長い細田に合わせて高めのパスを投げた。
が、警戒をしていた川田のラインバッカーにボールをはたかれて失敗。いよいよ勝負のサードダウン。残り7ヤード。
自陣なので、外へのパスは投げられない。もし、守備の選手にインターセプトされれば、そのまま外側を走られてタッチダウンされる危険性があるからだ。
高貴は小池へのギブフェイクのオプションをコールした。センターの丸山からスナップされたボールを高貴が小池へフェイクすると、守備のラインは一斉に小池目がけて突進してきた。
そのすきに高貴は、小池からボールを抜き取り右へ走り出した。
守備エンドが速水のカバーにまわったのを見て、高貴はすぐにスクリメージを真っ直ぐに駆け上がった。しかし、すぐに内側から走りこんできたラインバッカーにタックルされた。3ヤードの前進に終わった。
フォースダウンで、残り4ヤード。連中は、もう一度プレーをさせてほしいと願った。
しかし、サイドラインからはセオリーどおりパントの指示が出た。
もう少し攻撃したかったが仕方がない。
「パントや。方向は真っ直ぐ。ノーカウント、ブレイク」
赤木はハドルでパントのプレーコールを出した。
続いて、ひとりセンターの丸山から12ヤード後方に下がった。
 そしてそこで両手をパンパンとたたいた。両手をたたくのは、センターにボールを補給できる準備が整ったことを知らせるためだ。
しばらくして、丸山が勢いよくボールを股の間からスナップバックした。
が、丸山のスナップは少し短く、ボールは赤木の目の前でバウンドした。すでに相手の選手は赤木に向かって走り寄ってきていた。このとき、赤木は不思議に落ち着いていた。
赤木の頭には、自分が遠くまでパントを蹴っている姿が浮かんでいた。過去にも何度かこんな体験がある。赤木は慌てることなく、バウンドしたボールを拾い上げ、相手選手につかまる寸前にうまく足の甲でヒットすることができた。赤木には、この一連の動作がスローモーションのように見えていた。

次の瞬間、あたりは凍りついたように静まり返った。が、すぐにその静寂は大きなどよめきに変った。
パントを蹴る時には、足に当るまでボールを見ているため、赤木はまだボールの行方を見ていなかった。しかし、どよめきは赤木の耳にもはっきりと聞こえていた。
(何があったんや)
 赤木が目を上げてゆっくりとボールを追うと、自分が蹴ったボールが地上高くミサイルのように回転しながら飛んでいるところだった。
ボールはナイター照明に照らされて夜空にくっきりと浮かび上がっていた。観客席はそのボールの高さと飛距離に驚いて、どよめいていたのだ。
ボールは、70ヤードほど飛んで川田の選手に補給されたが、滞空時間があったため、その間に走りこんでいた、山中と親分がすぐにタックルして、ゲインはできなかった。敵陣5ヤードで大阪選抜に攻撃権を与えることができた。上出来だ。攻守交替で帰ってくる連中を関西学院大学、梅宮の選手が拍手で迎えた。昨日の敵は今日の友。その拍手が連中には嬉しかった。

そのときのことを山中は、後で赤木にいった。
「もう落ちてくるやろうと思って、いつもの調子で走っていたら、全然ボールが落ちてきいひん。上をみたら、ボールがまだ高く飛んどったのでビックリした。これは、絶対にタックルしてゴール前からの攻撃にしたろうと思った」と。
 その晩は、みんなそろって電車で帰ったが、赤木の頭の中は、たくさんのお客さんの前で試合ができたうれしさで一杯だった。連中は誰も同じ気持ちだった。

田舎の学校で試合をしていてはこんな経験はできるはずがない。
この夜、電車の乗り継ぎ駅である神戸高速鉄道の新開地駅で連中はそばを食べた。時間が遅いせいか、店には他のお客さんはいなかった。
そう広くはないカウンターに、応援に来ていた下級生も含めて制服組が群がった。
慰労会の代わりだったが、おなかがすいている連中には高速そばの少し濃い目のだしが妙に美味しく感じられた。
後でわかったことだが、先の梅宮高校との試合で親分は、肋骨が折れていた。にもかかわらず、そのことを隠しとおして西宮ボウルに出ていた。
本人もまさか、折れているとは思っていなかったようだが、相当痛かったに違いない。親分はそのことが後でばれたときに、
「おまえらとは、根性が違うんじゃ」
と、照れくさそうに、少し偉そうに答えた。
そしてその後、小さな声で独りごとをいった。
「骨折って痛かったんや。悪いことしたな・・・」
西宮ボウルも終わり、3年生は1回目の引退になった。
これから、8月までは、1年生と2年生で練習が続けられる。
鬼塚先生は、残った1年生と2年生をいつもの厳しさで鍛えながら、3年生の復帰を待つことになった。
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