幽人
「ちょっと聞いてよ、綾乃。あたし霊感があるみたい」
高校へ向かう途中で会った友人が、朝の挨拶もそこそこに言った。
茶色に染めたボブショートがよく似合う活発な性格で、男女共に人気がある。
「霊感?」
綾乃は小首を傾げる。
長い黒髪と色白の肌が神秘的な雰囲気を漂わせる、クラス一の美少女だ。
「あ、信じてない顔。でもホントなんだってば。みんなに見えてないのにあたしにだけ見えてるの。それって幽霊ってことでしょ? 最近見えるようになったんだけど、今もほら、車が走ってるのにおばあちゃんが平気で立って笑ってる」
そう言って友人は、何台もの車が行き交う車道を指差す。そこは交通量が多く、事故が多発しやすい道路だった。
「何かこの世に未練があるのかもしれないわね。もしかしたら、あのおばあさんも車に轢かれて……」
綾乃は眉間にしわを寄せ、忌ま忌ましげに車を睨みつける。
「えっ、綾乃も幽霊見えるの?」
「まあ、ね……」
目を丸くする友人に、綾乃は顔を曇らせて口ごもる。
いずれ言わなければいけない事なのに、綾乃は言いあぐねていた。明るい友人を目の前にすると言いづらさが勝り、なかなか告白できないまま時が過ぎていた。しかし、今日こそはと綾乃は決心して友人に向き直る。
「昨日亜由美達と四人で撮った写真にも写ってたわ。心霊写真ってやつ。気づかなかった?」
「マジ? そういえば亜由美達驚いてたけど、幽霊なんて写ってたっけ?」
友人は腕組みをして昨日スマホで撮った写真を思い浮かべるが、霊が写っていた覚えはなかった。
綾乃が答える。
「ええ、しっかり写ってたわ。あなたと私が」