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異世界食堂 作者:犬塚惇平(犬派店主)
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ポテトチップス

・一応ファンタジーです。
・剣も魔法も存在しますが、あまり活躍はしません。
・店主は普通のおっさんです。料理以外できません。
・訪れる客は毎回変わります。ただしたまに常連となる客もいます。
・当店では材料および調味料の販売はしておりませんので、あらかじめご了承ください。

以上のことに注意して、お楽しみいただけると幸いです。
異世界食堂の常連である『コロッケ』がその少年と出会ったのは、折しも店主が野暮用を済ませてくると言って店を離れたときであった。
「うむ。今日のところはこれにてしまいだな」
皿に残ったソースを白パンで拭い取って口に運び、ごくりと飲み込んで食事を終える。
若い頃から健啖家で通っていたコロッケの食欲は今も衰えず、今日は都合三皿の料理を平らげた。
腹には心地よい熱が満ち、美味な食事の後独特の満足感に満ちている。
「さて、今は余一人か……まあ、少し休んだら戻るとしよう」
店内には人影は無い。
元々、あまり流行っているとは言えぬ店である。
それでもコロッケが来た当初はロースカツと言われる老人や、メンチカツと言われる老いた冒険者などがいたのだが、彼らも向こうに用事があるとかでさっさと帰ってしまった。
また、店主も材料を切らしたとかでちょっと買い物に行くと言って出て行ってしまった。
料理の支払いは先ほど済ませたので、コロッケとしても後は帰るだけなのだが、如何せん、この店の帰り道はちょっと面倒くさい。
若い頃からの趣味である遠がけに出ると言って出てきただけに、一番近い私邸でも馬が必要な距離である。
「やはり、退位の折にはこのあたりに余が住まうための離宮でも建てさせるか」
そんなことを考えつつくつろいでいたときであった。
「おーい、じいちゃん、いねえの?」
奥側、厨房の奥から一人の少年が出てくる。
「っかしーなあ。ばあちゃんがじいちゃんは店にいるって言ってたんだけど……ってあれ?お客さん?」
キョロキョロと辺りを見ながらコロッケに気づき、驚く。
「土曜日は店休みじゃなかったっけ?まあいいや、いらっしゃい」
驚きながらも、お店に来たお客さんにはちゃんと挨拶をするようにという今、一緒に暮らしているばあちゃんの言葉を思いだし、少年は変な格好をしているおっさんに頭を下げた。
(ふむ、店主の孫かの?)
一方のコロッケもまた、少年は正体を正確に察する。
その少年は、泥で汚れてはいるものの、随分と不思議な服を纏っていた。
不思議な文様が織り込まれた半袖のシャツに、毛も生えていない細い太ももがむき出しとなる丈のズボン。
靴下と泥で汚れている、革とは違う不思議な素材で出来ている白い靴。
コロッケの世界では平民から貴族までのどれとも違う格好ではある。
故にこの世界の住人、すなわち異世界の住人とくれば、店主の関係者であろう。
「うむ。生憎だが店主は少し出かけておるぞ。買い物に行くと言ってたな」
そこまで見極め、コロッケは少年の疑問に答えてやる。
「あ、そうなのか。まいったな。せっかくこれ、持ってきたのに」
そう聞くと少年は軽く眉をひそめ、右手に持っていたものを覗き込んで言う。
「ふむ、なんなのだそれは?」
少年が見ているもの。それは透明な革でできた袋に入った泥だらけの何か、であった。
大きさは大小様々で、それがいくつか入っている。
少なくともコロッケは見たことがない代物である。
「なにって、家庭科の授業で育てた芋だよ。今日の授業全部使って掘ってきたんだ。正しん正めーの北海道産のダンシャクだって先生が言ってた」
一応はお客さんにはちゃんと答えてやらねばなるまい。
少年はそう考え、事情を説明する。
春先に学校の畑に植えた、じゃがいもの収穫。
土曜日の午前中授業の全てを使って掘り出して来た取れ立てのそれを、オヤジとオフクロが死んでから一緒に暮らしているじいちゃんにめちゃくちゃ美味しいあげたてポテチにしてもらおうと思って持ってきたのだが、アテが外れたのである。
「ダンシャク?ふむ、となるとそれは作物か」
一方のコロッケもまた、少年の説明である程度事情を察する。
カテイカとやらはよくわからぬが、ようするに学問の一環で少年が育てたダンシャクという作物を店主の元に持ち込んだのだと。
わざわざ料理人の店主の元に持ち込むのだ。
何かの料理の材料となる作物に違いない。
「え?なにおっさんしらねーの?変なの」
「うむ、生憎とこちらのことには詳しくなくてな。して、そのダンシャクとやらはどんな料理に使うものなのだ?」
不思議そうに聞き返す少年に、コロッケは重々しく頷く。
ダンシャクなる作物は、コロッケの世界にはないのだ。
異世界の作物がどんな料理に使われているかなど分かるはずもない。
コロッケは素直に少年に教えを求めた。
そして少年は、少し考え、自分が知るじゃがいもを使った料理を羅列していく、
「え?そりゃあ色々だよ。今日はポテチ作ってもらおうと思って持ってきたけど、カレーとかシチューにも入ってるし、とんじるにも入れるだろ。他にもポテサラとかフライドポテトもうまいし、肉じゃがとかコロッケとかも……」
「何っ!?コロッケ!?コロッケが作れるのか、このダンシャクとやらは!?」
くわっ!と目を見開き、コロッケは少年に尋ねる。
コロッケ。あだ名の通りそれこそが先程まで食していた料理であり、この異世界にある料理の中でも最も美味な料理であるとコロッケが信じるものである。
その材料、と聞けば驚くのも無理はない。
「おっさん本当に何もしんねーんだな。そうだよ。コロッケにはやっぱりダンシャクじゃなくちゃってじいちゃんが言ってた 」
じいちゃんと同じくらいじいさんなのに、そんなことも知らないというおっさんの問いかけに少年は笑いながら答える。
「そうか……そのダンシャクとやらがコロッケの材料か……」
コロッケはその言葉に決断し、少年に提案する。
「少年よ。もしよければそのダンシャクとやら、私に譲っては貰えないか。無論、タダとは言わん」
そんなことを言いながら、懐からそれを取り出し、少年に見せる。
普段、ここの店主は出来上がった料理以外……料理にする前の材料や異世界の素晴らしい味がする調味料の類は売ってはくれない。
考えてみれば、今この時こそがコロッケが異世界の食材を手に入れる、千載一遇の好機でもあった。
「なんだそれ?どっかの外国のお金とかか?なんかぐにゃぐにゃしてるけど」
少年はそれを見て、怪訝そうに聞き返す。
おっさんがじゃがいもの代わりにと取り出したのは、金ピカの丸いコインであった。
丸い、と言っても少年が普段見慣れた百円玉や十円玉と比べれば歪んだ代物で、その表面にはなんかおっさんに似た男の横顔が刻み込まれていた。
不思議そうに聞く少年に、男は一つうなづいて言葉を紡ぐ。
「うむ、これはな、我が国で作った帝国金貨だ。信用では王国金貨と古エルフ金貨には些か負けるが、どんなに安い両替でもこれ一千枚分の価値はあるぞ」
そう言いながら男はもう一枚、今度は少年にも見慣れたものであろうものを取り出す。
それは、一枚の銅貨であった。
表側におそらくはこの世界の数字か何かであろう文字と草が、裏側には相当に優れた腕前を持つ細工職人でも刻み込むことは難しい、ひどく精密な神殿の絵が刻まれた、異世界の銅貨。
以前、この店で料理を食した際に渡された『釣り銭』である。
たかが銅貨にしては少々凝りすぎた意匠であったのと、この店以外では己の財布から金を使う機会など無かったがために持ち歩いていたが、銅貨は銅貨だ。
銅貨ならば、いかに子供であっても見たことがあるだろうし、その価値も知っておろう。
「ふーん。十円の千倍ってことは……え!?それって一万円もすんの!?」
果たして、少年はその価値を知っていた。
店主と同じく、あっさりと正確にその価値を割り出して驚いてみせる。
「うむ。そうだ。これにはイチマンエンの価値がある。これとそのダンシャクを交換して欲しいのだ。悪い取引ではあるまい?」
「まーな……うん、分かった。こいつはおすそ分けだから家に帰ればまだあるしな。うん、じゃあ特別にこーかんしてやる」
子供らしい尊大さで、少年は交換を承諾する。
金貨を受け取ってポケットにしまい、代わりに透明な革製の袋に入ったダンシャクを渡す。
「取引成立、だな」
「うん。こーかんだな」
お互いによい取引をした。
そんな笑みを浮かべ、笑い合う。
「では、私は帰るとしよう。店主に、よろしく伝えておいてくれ」
そう言うと男は立ち上がり、店を出る。
男が降り立った先は、まだ何も無い荒野。
近くの樹には男の愛馬である立派な黒馬が繋がれ、主の帰りを待っていた。
「ダンシャクの実か……まさかコロッケの材料が手に入ろうとはな」
透明な革の中に収められた土にまみれたダンシャクの実を見て、男は笑う。
「……よし、まずは増やさせてみるか」
ダンシャクの実を馬に積み、自身も乗りながら、このあとの算段を立てる。
宮廷庭園の管理を取り仕切らせている大地の神の司祭と、普通であれば育てることなど不可能と言われてきた数々の薬草の栽培に成功してきた宮廷魔術師。
この二人であれば全くの未知のものである異世界の作物を増やすことも不可能ではあるまい。
「なに、余が食べる分だけ確保できれば良いのだ。なんとかするであろう」
異世界の料理を作るための異世界の作物がどんなものかは分からないが、あんな子供が育てられる程度には育てやすいものではあるし、ほんの少々……己が食う分を育てるだけだ。
広大な宮廷の庭で細々と、帝国きっての専門家にやらせるのであれば大した手間にはなるまいし、失敗したならそのときはそのときだ。
長年国を大きくすることだけを願い戦い続けてきた男にとって、それは引退間際のわがままであり、道楽であった。
「とりあえず、掘り出してきたということは土の中で実るということか。ならば少なくとも鳥に食われる心配は無いと言うことだな」
ある程度数が揃うようであれば、他の人間に分けてやるのもやぶさかではない。
そんなことを考え、わくわくしながら、馬を走らせる。

……コロッケこと、帝国初代皇帝ヴィルヘイムはまだ知らない。
その『道楽』こそが帝国の有り様にすら多大な影響を与えるものであり、自身が己の人生で成し遂げてきた数々の偉業の中でも最大の功績の一つに数えられるものとなることを。

ダンシャクの実。それは麦が育つ土地が少なくて飢えに苦しむ帝国の民をお嘆きになった大地の神が敬虔な信徒である皇帝陛下にお渡しになった、神の国の食べ物(神への敬いが足りぬ魔術師たちはエルフが魔術の粋を尽くして生み出した魔法の作物に違いないと言っているがエルフが皇帝陛下が神より賜るより早くダンシャクの実を育てていたなんて話は聞いたこともない)である。
大地の恵みを多めに必要とし、続けて育てると大地に病をもたらすこともあるのの、麦が育たぬ荒地であっても育ち、麦よりも大量に取れて、何よりも美味であるダンシャクの実は皇帝の後押しもあって帝国中に広まった。
今や帝国庶民にとっては主食といえば麦を使った黒パンよりも茹でたダンシャクの実であるほどである。
そして、そのダンシャクの実を背景に帝国内部において力を伸ばした神、それこそが大地の神である。

現在、帝国において偉大なる六柱の神の中で最も有力な神は大地の神である。
大地の神はアンデッドとの戦いにおいて最も有力であると同時に、東大陸で最も広く信仰されている『光の神』や鍛冶仕事にまつわるものを除けばほとんどの信仰者が戦いに身を置く者である『火の神』、光の神の妻であり死と闇を司るがために生けるものに死を与えることを生業とするものたちに信仰される『闇の女神』などと比べれば戦いを苦手としている。
だが、その一方で大地の恵みを蘇らせ、植物を芽吹かせ、大きく育てさせ、大地の病を癒す力を持つがために畑仕事に精を出す農村においては深く信仰されている。
『ダンシャクの実』を育てるための開拓村を年に十は増やすと言われている帝国において、厚く信仰されるようになるのも無理からぬ話である。

そして、大地の神の司祭たちもまた、その意味をよく理解している。
大地の神の神殿において、己の信仰の源となっている『ダンシャクの実』を神の国の食べ物として神聖なものと扱い、同時にダンシャクの実について深く研究しているのは、その力を知るがためである。
そしてまた一つ、帝国のダンシャクの実の歴史に新たな一ページが刻まれようとしていた。


近年、急激に数を増やした近隣の開拓村に求められ作られた帝国の新たな街。
その街唯一の神殿に赴任という形でやってきた大地の神の正司祭であるソフィはお務めを終え、秘密を守るために後をつけられぬよう、気をつけながら軽い足取りで、郊外の森に向かっていた。
(ああ、お腹減った……早く行かないとね)
如何にも急造したという感じの、真新しい木の小屋が立ち並ぶ一角を抜け、見えてくるのは半分ほどの木が切り倒され、切り株が立ち並ぶ一角。
これ以上木を切ってしまえば森が消滅してしまうということで帝国役人により木を切ることが禁じられたがために、誰も近寄らぬ場所。
近隣の木々をすべて切り倒して巨大な石造りの街となった帝都出身で、森というものにあまり縁がなかったソフィは物珍しさから着任したばかりのころに森を散策し……その扉を見つけた。
猫の絵が書かれた黒い扉。
期待に胸をふくらませながら、ソフィはその扉をくぐる。
「……こんにちは。また来たんだね。アデリア」
チリンチリンという鈴の音を聞きながら、店内を見渡し『知り合い』を見つけたソフィが手を振る。
大地の神を信じる異郷の司祭。
帝都の生まれであり、人ならざるものを持つ魔族の知り合いが何人もいるソフィには、アデリアが犬のような耳と尻尾を持つ獣人であることは対して気にならない。
心根が優しく、厳しい修行に耐える司祭であるアデリアを友人と呼ぶことに、なんの抵抗も感じなかった。
「うん。ひはひふり」
一方でその姿を認めた緑の神の獣人神官、アデリアは大好物のダンシャクの実が入った卵焼きを頬張りながら挨拶をする。
そのまま目線で椅子を勧め、ソフィが素直に座ったのを確認してから卵焼きを飲み込む。
「いやね、弟がお金持ってきてくれてね。やっと来れたんだよ。月が変わる頃にまた来るって言ってたから、その時に紹介するね」
ひとまず口にしていた卵焼きを飲み込んだ後、アデリアは新たな友人である異国の神官に事情を説明する。
人間には珍しく、人間の守護者たる白の神では無く緑の神を信奉する神官。
教えが違うのか、己の肉体を竜とする技は知らないというが、その一方で大地の恵みを操る技に長けており、その実力は自分に決して劣るものではないとアデリアは思っている。
年も近く、信じる神も同じである司祭と神官。
彼女たちが仲良くなるのはもはや必然であった。
「いらっしゃいませ。ご注文、お決まりですか?」
そうして椅子に座り、互いにここ最近の出来事について伝え合っていると、店で働く魔族の給仕であるアレッタがソフィに尋ねる。
「うん。いつも通り、ビールと、ポテトチップス大盛りで!味付けは塩とノリ塩とチーズでお願い!」
よくぞ聞いてくれたとばかりにソフィは元気よく注文を出した。
「はい!少々お待ちくださいね!」
注文を受け、厨房へと戻っていくアレッタ。
彼女が料理と酒を手にソフィのところに戻ってくるのは、それからすぐのことであった。

そして、アデリアと他愛のない話をしつつ、アデリアから卵焼きをちょっと分けてもらったりしている(あとでソフィが頼んだ分も分けるのでおあいこである)と、料理が届く。
「お待たせしました。ポテトチップスと、ビールをお持ちしました」
そんな言葉と共にソフィの前に大きな皿いっぱいに盛られた揚げたダンシャクの実の料理と、金色に輝く泡立つ酒が置かれる。
揚げたてのダンシャクの実の良い匂いがソフィの鼻をくすぐり、ソフィは思わずごくりと唾を飲んだ。
「それではごゆっくり」
「うん。また注文があったら呼ぶね」
アレッタにそんな言葉をかけると、首元にかけた銀色の聖印を手に、祈る。
「よし……大地を見守る我らの神よ。我らに実りと糧をもたらしていただき感謝いたします」
大地の神に食前の祈りを捧げた後、ソフィは皿の上の料理にフォークを使わず直接手を伸ばす。
(うん。やっぱり揚げたては違うよね)
まずは、塩。
最もシンプルで慣れ親しんだ味であるそれを手に取る。
指先から揚げたてのフライドポテトと同じ、火傷しそうな熱さが伝わるのを感じつつ、口へと運ぶ。
頬張った瞬間、ポテトチップスは心地よい感触とともに砕け散った。
パリパリと砕けると共に伝わるのは良質のダンシャクの実と油の味。
それらがシンプルな塩の味と混じり合い、胃袋に響く味となる。
(う~ん!やっぱりフライドポテトは『皮』の部分だよね!)
追い込むように泡立つビールを口にしながら、ソフィはますます己の考えが正しいことを悟る。
帝国名物料理であるフライドポテトの真価は皮の部分。
それがソフィにとっての信念の一つであった。

ソフィの親は帝都で『フライドポテト』を売る屋台をやっている。
フライドポテトは中の水気を持ち、儚く崩れていく『中身』と油で揚げられ、歯ごたえのある『皮』、どちらが美味であるかは帝国人の間でも意見が分かれるところではあるが、ソフィ自身は断然カラリと揚がった皮派である。
そんな彼女にとって薄く切ってから挙げることで『皮』のみとなったポテトチップスはわずかな工夫ながら非常に美味なものであった。
(それに味付けもいいし!)
さらにこの店ではうれしいことに大盛りを頼めば値段はそのままで、三種類の味付けができる。
一つは、普通の塩。
もう一つは、塩と相性が抜群である独特の風味があるノリと呼ばれる異世界のハーブを混ぜたもの。
そして最後は濃厚な乳製品の味が癖になる、粉になるまで挽いたチーズを混ぜたものである。
それらを揚げたての熱さに火傷しそうになりながら次々と味わい、冷えたビールを飲む。
「うん。やっはりこの芋のうす揚げもおいひいでふね」
それが異郷の獣人ながら気の合う司祭と共にならばその味も格別である。
それから、ソフィはアデリアと喋りながら、ビールを追加し、しばし話し込む。
それらは信仰に関する真面目な話から、日常のちょっとした出来事、はたまた男の好みなど多岐にわたる。
そんな風にしばらく話しをしっぱなしにしていると、流石のポテトチップスも冷めてしまうのだが、問題ない。

ポテトチップスは、冷めても美味しいのだ。

フライドポテトはダンシャクの身を細く切り、油で揚げた料理で帝国では人気の庶民の味だが、如何せん冷めると味が落ちる。
特に皮の部分はダンシャクの実が持つ水気が外に漏れ出してしまい、柔らかくなって食感が失われてしまい、一気に味が落ちる。
だが、新しいフライドポテトであるポテトチップスは違う。
持ち帰り、数日も置けば湿気ってしまうという問題点はあるものの、冷めた程度では食感が失われず、むしろ火傷の心配がなくなるのでどんどん食べられるという利点もあるほどだ。
そんな事情もあり、その日、ソフィは日が暮れる時間まで気の合う友人とお喋りを交し合い、ビールとポテトチップスを堪能したのであった。

日暮れ、また森へと戻ってきたソフィは足取りも軽く神殿へと戻る。
(料理は美味しいし、最近はお父さんたちも景気が良いって手紙で言ってたし、最高だよね!)
当初は住み慣れた帝都を離れて何年も街の立ち上げに関わる仕事と聞いて渋っていたが、こうして異世界のポテトチップスを味わうことができ、更には大いなる幸運をもたらしたのだから人生はわからないものだと、ソフィは思う。

そう、ポテトチップスを知り大いに堪能した後、ソフィは帝都の両親に手紙でその料理について伝えた。
向こう側が透けそうなほどに薄切りにしたダンシャクの実を揚げるという単純ながらそれまで誰も帝国では作っていなかった新たな料理、ポテトチップス。
それはフライドポテトによく似ていながらまるで別物であると評判を取り、実家の両親に大きな儲けをもたらした。
最近では真似をしてポテトチップスを出す屋台も増えたのが悩みの種だが『最初のポテトチップス』を作り出した店として今でもしがないフライドポテト売りだった頃とは比べ物にならないほどの売上げがあるということだ。
(まあ、元はといえばうちで出してるのも異世界の料理屋で出してるものだしね……)
始まりの、という言葉に苦笑しながらもソフィは両親の栄達を嬉しく思う。
異世界の料理、それも神聖なるダンシャクの実を使った新たな料理。
それが己の親愛なる両親に大きな幸運をもたらしたのだ。
(やっぱりダンシャクの実は偉大だね)
ソフィはその事実に更に大地の神への信仰心を深めるのであった。
今日はここまで。
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