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異世界食堂 作者:犬塚惇平(犬派店主)
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スコッチエッグ

・一応ファンタジーです。
・剣も魔法も存在しますが、あまり活躍はしません。
・店主は普通のおっさんです。料理以外できません。
・訪れる客は毎回変わります。ただしたまに常連となる客もいます。
・スコッチエッグは半熟と完熟から選べます。

以上のことに注意して、お楽しみいただけると幸いです。
赤の神に仕える若き見習い神官、エミリオは緊張の面持ちで大きくて丈夫な石の椅子に腰掛ける彼女の前に立っていた。
「よくいらしてくださいました。貴方のことを、私どもは心から歓迎します」
そう言って艶然と微笑む女性の名は、ルシア。
齢50を越えているにも関わらず皺ひとつない笑みと女性としての色香、そして薄絹で出来た艶やかな神官服を着た彼女は赤の神に仕える神官……
それも赤の神に仕えるものには知らぬものなどいない、当代屈指の大神官である。

ルシアはこの辺りに住まう赤の神の信徒にとって、女王とでも言うべき存在である。
齢50を越えてなお衰えぬ艶然とした美貌、真なる信仰の力によりその身を完全に『竜』へと変じられるほどの力。
今まで何度か起こった、他の神に仕えるものたちとの戦ではそのたびに大いに活躍してきた。

また、代々優れた神官を輩出してきた一族の末裔であり、1,000年以上前、北方から野蛮な耳長き侵略者が魔法を武器に攻め込んできたときには、彼女の一族の祖先は竜へと変じて空を駆け、幾多の敵を焼き滅ぼしたといわれている。
赤の神に仕えるものにとっての最大の聖地たる『聖殻神殿』の神官たちですら無視できぬほどの有力者である。
「いえ……そんな……僕なんかがここで修行させて頂けるなんて……その……光栄です」
その言葉にエミリオは大いに恐縮しながら答える。
対するエミリオは赤の神に仕えるものとしてはまだ未熟であると自覚している。
本来ならばこのような大物が聖殻神殿を訪れたとき、わざわざ修行に来てくれと言われるほど目を掛けてもらえるような神官ではないとも。
(やはり僕は……)
ふと、エミリオに暗い気持ちがよぎる。
未だ神官としては未熟なエミリオには、確かに他には無い才能がある。
『少女のような可憐な姿』という、男らしさを欲しがっているエミリオには不要な才能が。

男であると気づかず、または男であると知りながら『男から』愛を囁かれたことも何度かある。
男らしさを求めて髪を剃り上げ、男らしい服を着てみたこともあったが、それも効果が無かった。
ルシアがその美貌を見初めてエミリオに声を掛けたというのは、充分に考えられる話だった。
「ふふふ……大丈夫ですよ。貴方は私が見込んだのですから……」
そんなエミリオの心中に気づいているのかいないのか、ルシアは艶然と微笑み、そっとエミリオを撫でる……
少女のように小柄なエミリオの、優に3倍はある長い『尾』を使って。

そう、強き神々に仕える種族は、何も人間ばかりではない。
神を敬えるだけの知性と文化を併せ持ち、神を敬う気持ちさえあれば、信仰の道は誰にでも開かれる。
そして、赤の神に仕えし人ならざるもの、ルシアの種族はラミア。女性の上半身と大蛇の下半身を併せ持つ、人間より強き種族。
……世界最強の生き物たる竜の姿持つ神に近き存在であり、魔力と知性に優れた有力な種族なのである。

神官ではないただの娘であっても人間の戦士より強い種族であるラミアが人間と親しく付き合うのには、その種族独特の特徴ゆえである。

ラミアには男は産まれない。

種族すべてが『女』であり、年頃になると人間との間に子を為すために交わる。
そして人間の雄より種を貰い、卵を産むことで初めて『ラミアの娘』が生まれてくる。
そんな種族である。

ラミアが人との繋がりを絶てば、待っているのは緩やかな滅亡のみ。
(事実、北の大陸からの旅人によれば、北方にある2つの大陸に住む神に仕えぬラミアは母親とその娘たちの小さな集落しか持たず、人間を無理やり襲って子を為すので危険視され、滅びかけているらしい)
それが分かっているため、ラミアは人間と親しく付き合い、時にエミリオのような『修行者』をも受け入れているのである。
……とはいえ女性の修行者を受け入れたことは1,000年以上の間ただの一度も無いのだが。

「さあ、参りましょう。今日は特別な日。特別に聖地へとご案内いたしますわ」
エミリオの側に寄り、愛を囁くように口を寄せて、ルシアはエミリオを促す。
「せ、聖地ですか……?」
「ええ、そうです。私たちにとっても……恐らくは貴方にとっても大切な場所。
 心から歓迎する。その言葉に嘘は無いことを分かっていただきたいのです」
笑みを全く崩さず、困惑するエミリオに言葉を重ね、しゃなりしゃなりと動き出す。
それに引き付けられるように、エミリオはルシアのそばについて歩き出すのであった。

―――ほら、あれがルシア様が仰っていた方よ。
―――まあ、素敵。流石はルシア様ね。
―――あら、あちらは……ああ、そういえば今日はドヨウだったのね。

人間の数倍に達する体重を支えられるよう、丈夫な石で作られた、ラミアの集落で小鳥のように囀る女たちの声がエミリオの耳に届く。
(み、見られてるなあ……)
その視線を居心地悪く感じながら、エミリオは粛々とルシアについていく。
そして2人はその場所へとたどり着く。
「つきましたわ。ここが私どもの聖地……大切なものを守るための場所ですわ」
ルシアが振り返り、エミリオに告げる。
そこは、一見するとただの洞穴のように見える。
赤みを帯びた岩が削れて出来た、神殿のように飾り立てられてもおらず、余計な手も加えられていない天然の洞穴。
「ここが……いや、なるほど。確かに強い炎の力を感じます」
だが、エミリオはそこが確かに聖地であると確信する。
その中から漏れ出す、赤の神の神気を感じ取ったのだ。
「……ええ。そうでしょう。では、中にご案内しますね」
そんなエミリオを見て嬉しそうに目を細め、ルシアは奥へと促す。
「はい。お願いします」
それにエミリオは好奇心をおさえられぬ様子で頷き、2人は奥へと入った。

洞穴に入り、少し歩くと開けた場所に出る。
「……なるほど。大切なものとは……」
その開けた場所の奥にたどり着き、エミリオはルシアが言っていた言葉の意味を知る。
洞穴にある大切なもの。
一つはこの聖地を聖地たらしめている、恐らくは赤の神が旧き混沌の神と戦ったときに落としたのであろう、深く地面に刺さった深紅の巨大な鱗。
そしてもう1つは……
「ええ。ここは私どもにとって大切なもの……娘たちを守る場所ですわ」
その広間のあちこちでうずくまる、母となる同胞を見ながら、言う。
広間には何人かのラミアがとぐろを巻いてじっとしていた。
……その全員が、ちょうど人間の赤子ほどの大きさの白い卵を抱いて。
「あの娘たちが孵るまでには、おおよそ季節を3つまたぐほどかかります。
 そして、この地において母となるものはこの場で一日の大半を過ごしますわ。
 常に私どもの神のちからに満ちた、この場所で」
そういいながら、ルシアは1人の若い娘に近づく。
「……ああ。お祖母様。どうかされましたか? 」
近づいてくるルシアに気づき、赤子となる卵を抱きながらその娘が祖母に声を掛ける。
「楽にして頂戴。ルーミア。今日はお客様をお連れしたの」
「お客様……ああ、ようこそ、わたくしどもの聖地へ。わたくしはルーミアと言います。
 よろしくお願いしますね。神官殿」
ルシアの言葉でエミリオの存在に気づき、優雅に頭を下げる。
「それでね。ルーミア。今日は貴女が行く日だったと思うのだけれど……」
「……お祖母様。いいですよ。その代わり……」
その言葉で、ルシアが求めるものを察したルーミアは、笑いながら祖母に言う。
「ええ。分かっているわ」
ルシアも心得たもので艶然と微笑みながら頷く
「……あの?あれって? 」
唯一この場の話についていけていないエミリオがルシアに尋ねる。
「……すぐに分かりますわ」
そんなエミリオに対し、ルシアは笑みを崩さず、それだけ言うと更に奥へと向かい……そこへとたどり着く。
「……あれ?なんでこんなところに、扉が? 」
それを見たエミリオは首をかしげる。
そこには場違いな黒い扉があった。
……これまで、人の手が入ったものなど一つとして置かれていなかった洞窟なのに。
「……ふふ。これはわたくしどもの信じる神が10年ほど前に授けてくださった、神の地へと繋がる扉、ですわ」
そういいながら、そっと手を金色の取っ手へと掛け、開く。

チリンチリンと、軽やかな音を立てて扉が開く。

「うわ!?こ、これは!? 」
その扉が開いた瞬間、エミリオは思わず驚愕し、声を上げる。
扉の向こうから漏れ出すのは、強烈な……聖殻神殿の本殿すら越える赤の神の力。
赤の神に仕えるエミリオがただの一度も感じたことが無いほどの、むせ返りそうな赤の神の気配。
「お覚悟なさいましね」
そのエミリオの様子に10年前、初めてかの地を訪れたときのことを思い出しながらルシアが言う。
「この先こそ、真なる聖地……そして、神の国の食べ物を供する場所ですわ」
普段、子を育む母のためのものであるが故に滅多に口に出来ぬご馳走の気配に、ごくりと唾を飲みながら。

聖地は、予想外に活気がある場所であった。
「……なんだか変わった人たちが多いですね」
物珍しい光景にきょろきょろと辺りを見回しながら、エミリオは正直な感想を口にする。
その聖地では、エミリオが見慣れぬ服を着込んだ人や小さき妖精や小人たち、獅子の頭や猫の耳を持つ獣人や魔物、そして耳の妙に長い人間など、実に不思議な人々がいた。
「ええ。ここは異界。そして彼等はわたくしたちと同じく扉を通ってわたくしたちの世界から来た者たちですわ」
そう言いながら、最近見かけるようになった金の神の神官の隣の席まで這いずり、とぐろを巻く。
「さあ、こちらへ」
「はい……失礼します。金の神官さま」
「うむ」
クマーラを使った菓子らしきものを食べている、エミリオと違い如何にも男らしい身体つきの神官に軽く挨拶をしながら、エミリオは椅子へと座る。
「いらっしゃいませ!お客様、ご注文はお決まりですか? 」
そうして座るのを見計らったかのように、羊の角を生やした娘が近寄ってきて、2人に尋ねる。
「ええ、いつもどおりスコッチエッグをお願いしますわ。わたくし達の分は、半分を完熟、残りを半熟。
 付け合せはパンでお願いしますわ。
 それと持ち帰り用に20個ほど……エミリオ様もそれでよろしいですか」
「あ、はい……お任せします」
「はい!ありがとうございます!こちら、お水です 」
そうして注文を終え、2人に透明な硝子の杯に満たした水をそっと置くと、娘は礼をして奥の部屋へと引っ込む。
「珍しいですか?」
きょろきょろとおちつかなげに辺りを見回すエミリオに、ルシアが尋ねる。
「ええ……ここは、赤の神の聖地なのですよね?なにやら食事を出す店のようですが」
この部屋の中の不思議な装飾もさることながら、客たちも不思議だ。
赤の神の聖地という割りに、今、この場所にいる赤の神に仕える神官は、エミリオたちのみであった。
すぐ隣にいるのは身につけた装束からして金の神の神官と見て間違いないだろうし、別の卓には随分と変わった服装をしているが強い光の力を感じさせる白の神の神官らしき女性も4人ほど見える。
ここは本当に赤の神の聖地なのだろうか。
「ええ。そうです。ここは確かに赤の神の聖地。何しろ……赤の神自ら訪れる場所ですから」
そんなエミリオを諭すように、ルシアはその言葉を口にする。
10年前の出来事……産まれて初めて、心の底から驚愕した日のことを懐かしく思い出しながら。
「ええっ!?か、神御自ら!? 」
思わず冗談かと問いそうになる言葉を飲み込む。
目の前にいるのは、敬虔なる赤の神の大神官。
赤の神の神官がこと赤の神に関することでは嘘をつくはずが無い。
「はい。それもこれも、この店の食物が美味であるがためですわ……幸い、神が訪れるのは真夜中ですので、その前にお暇しましょうね」
「は、はい……はい!」
ルシアの言葉に慌ててエミリオは何度も頷く。
赤の神そのものと会うことは非常に光栄なことではあるが、余りに荷が重い。
というより今から神と会いますと言われても、心の準備が追いつかない。
「よろしい。では……食事を頂きましょうか」
そうしているうちに、中年の男……この店の店主が料理を運んできたのを見て、ルシアがエミリオに言う。
「お待たせしました。スコッチエッグです」
ことりと、店主がそれを2人の前に置く。
白い皿の上に盛られた、薄い緑の葉野菜と小さめの赤いマルメット、そして小さめの器に盛られたマルメットの赤い汁に彩られた肉料理。
片方は輪切りにされて細かく刻んだ肉と鮮やかな黄色と白の卵を見せ、もう2つは切られずにそのままの形でじゅうじゅうと音を立てている。
その側には淡い色のスープで満たされた器と、ほのかに暖かな空気を漂わせる茶色い塊が盛られた皿が置かれている。
「あ、美味しそう……」
その音と香りに思わずエミリオは唾を飲む。
「お持ち返り分とテキーラは、帰られる頃にお持ちします。それじゃあごゆっくり」
そして店主は去り、後には美味しそうな香りを漂わせる料理と、それを囲むエミリオとルシアが残される。
「さあ、いただきましょうか」
「は、はい……」
そして2人はさっそくとばかりに料理に手をつける。
「あ、これ美味しい……」
最初に、パンにかぶりついたエミリオが思わず声を漏らす。
まずはとばかりに、焼きたて、薄くて堅い部分と、その下に広がるほのかに甘くて柔らかな白い部分。
食べたことの無い味だが、中々に美味しかった。
「それはパンというそうです……コムギと言う草の実を挽いた粉で焼くそうですよ」
「へえ、コムギ……玉蜀黍では無いんですね」
ルシアの言葉にエミリオはまじまじとそのパンを見つめ、言う。
エミリオたちが普段口にする、玉蜀黍の粉を水で練って蒸したものとは違う食べ物。
それだけでもエミリオに未知の異世界を感じさせた。
「さあ、パンも美味ですが、スコッチエッグを食べてみてくださいな」
「はい。では……」
ルシアに勧められ、エミリオはスコッチエッグに手をつける。
ほのかに湯気を上げる、黄色と白、焼いた肉の灰色にパンと同じ茶色。
それが年輪のように並ぶスコッチエッグを口に運ぶ。
(おお……)
香ばしい風味を持つ衣ごと噛み締めると、肉の味がする。
塩と香辛料で味付けされた、脂の乗った刻み肉の旨みに白く透き通った野菜の甘みが口の中に広がる。
それと共に感じるのは、茹でられた卵の味。
ほのかに塩気を帯びた、淡白な卵の味が、肉の旨みと交じり合い、一つとなる。
「どうですか? 」
ゆっくりとエミリオが飲み込むのを確認してから、ルシアが笑みを深めてエミリオに尋ねる。
「はい!美味しいです。その、とても」
その問いかけにエミリオは笑みを浮べて返す。
「そうでしょう。でも、スコッチエッグの美味はそれで終わりじゃないのですよ。
 次はチリソース……その赤い汁をつけて食べてみてくださいな」
「はい」
ルシアに勧められるままに、エミリオはとぷりと赤い汁をつけて、食べてみて、思わず目を見張る。
(うわ!?これ辛い!? )
そう、その赤い汁は辛くて酸っぱかった。
マルメットの酸味に、トガランが混ぜ込まれているらしき、熱い辛さ。
それ単体ではあまり美味とはいえぬ味。
(だけど……!)
エミリオは次々とフォークでスコッチエッグを刺し、赤い汁につけて、食べる。
(美味しい!)
肉と卵のシンプルな味に、赤い汁の辛味と酸味が加わることで、スコッチエッグは完成する。
その味に残さず魅了されたラミアたちと同じように、エミリオはスコッチエッグを食べ進める。
「良かった。気に入っていただけたようですわね……」
そのことに少しだけ安堵しながら、ルシアもまた、冷める前にと急いで食べる。
そして少しの間、卓にはフォークの音だけが響く時間が来る。

「さて、次は『半熟』ですね……」
やがて、最初に出された切って出された方……完熟を食べつくし、ルシアはエミリオに言う。
「半熟、ですか……こっちの、切っていない方ですよね? 」
ルシアの言葉に、エミリオは更に残った方……ごろりとした、切られていない茶色の塊を見る。
この、卵そのままの形からすれば、これもまた、スコッチエッグなのだろう。
「なんでこっちは切ってないのですかね? 」
「それは、切って見れば分かりますわ」
エミリオの問いに、ルシアが柔らかに答える。
「さあどうぞ。召し上がってください。そちらのナイフで切り分けて」
「はい」
ルシアに促され、エミリオは銀色に光るナイフをそっとスコッチエッグに押し当て……力を入れる。
柔らかなスコッチエッグはたやすく切れて……とろりと黄色いものが流れ出る。
「え?うわ!?こ、これ……」
予想外の出来事に一瞬驚き……その正体を知る。
「そう、半熟は、黄身が固まっていないんです」
だから切って出すことは出来ない。
それが先程の答えだった。
「さあ、どうぞ食べてください……半熟と完熟、どちらが美味かはわたくしどもの間でも中々結論が出ない難問なんですよ」
冗談めかして言って、エミリオに食べるように促す。
「では……なるほど。これは甲乙つけがたい」
言われて口にして、エミリオもまた、ルシアの言葉に納得する。
固まっていないが、間違いなく火が通り、決して生ではない卵の黄身。
とろりと流れ出したそれは濃厚な卵の味があり、肉に素晴らしい味をつける最高の味付けとなる。
それはスコッチエッグに使う赤い汁の辛味と酸味を和らげる。
卵の黄身を味付けとして食べるか、それとも肉と同じく具として食べるか。
確かにどちらを選ぶか迷う味であった。

それから2人は黙々と食べ進める。
瞬く間に皿の上からスコッチエッグが消え、更に零れた黄身と赤い汁も、パンでぬぐわれる。
それから野菜もすべて無くなり……食事が終わりを告げる。
「ふぅ……とても美味しかったです」
「そうですね……良かったわ。気に入ってもらえて」
線は細くとも男の子らしい食べっぷりに目を細めながら、ルシアが言う。
「お待たせしました。持ち帰りのスコッチエッグです」
それから少しして、店主が茶色い紙の袋一杯に入ったスコッチエッグと酒の入った硝子瓶を持ってくる。
「まあ、ありがとうございます……いつもながら、とても美味しかったですよ」
そうして受け取ったスコッチエッグと酒……来店できなかったものたちへの土産の品を受け取りながら、ルシアはそっと銀貨を何枚か渡す。
「ありがとうございます。今後ともごひいきに」
それを受け取り、軽く枚数を数えて、店主はポケットに仕舞い、礼をする。
「はい。ではまたいずれ……さあ、行きましょうか。エミリオさま」
「はい」
2人とも大いに満足して扉を出る。
「「「「「おかえりなさいませ。ルシアさま」」」」」
そうして洞窟に戻ってきた瞬間。2人は卵を抱いたラミアたちに取り囲まれる。
その視線は熱く、ルシアが持っている袋に注がれている。
「「ふふっ……」」
そのことにエミリオとルシアは思わず目を見合わせ、微笑みあう。

かくして、エミリオの修行の日々……後にルシアの孫との間に10人もの『娘』を持つこととなる名神官にとっての始まりの日は、穏やかに終わろうとしていた。
今日はここまで。
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