挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
異世界食堂 作者:犬塚惇平(犬派店主)
33/119

オードブル

・一応ファンタジーです。
・剣も魔法も存在しますが、あまり活躍はしません。
・店主は普通のおっさんです。料理以外できません。
・訪れる客は毎回変わります。ただしたまに常連となる客もいます。
・一部パーティーメニューの注文には事前予約が必要となりますので、よろしくお願いします。

以上のことに注意して、お楽しみいただけると幸いです。
ハーフリングの冒険者、テッドはそわそわと幻の料理を待っていた。
「まだかな~、まだかな~」
足をぶらぶらと揺らしながら、すきっ腹を抱えたテッドは何か頼みたいのをぐっと我慢する。
7日前に異世界食堂に来たときは珍しく同胞がたくさん来て盛り上がったこともあってびっくりするくらいお金を使った。
そのせいでお腹は空だけど財布も空っぽに近く、仲間から借りてきた今回食べる『アレ』の代金に飲み物をいくらかつけたらそれでおしまいになってしまうくらいしかない。

そう、テッドは異世界食堂において、ハーフリングの間では、幻とまで言われている料理を『7日前』に頼んでいた。
一皿の料理としてはこの異世界食堂において最も高価で、同時に最も量が多いと言われるその料理。
それは非常に手間がかかるのと、普段出してないようなメニューが入ることもあって頼んだその日に出すことは出来ず、次に開くときに受け取ると言う『ヨヤク』がいる。
(店主いわく、本当は2日前までにヨヤクすれば作れるらしいが、どの道異世界食堂を訪れられるのは7日に1度なので、やっぱり7日前までだ)
それゆえに、余りに好奇心が強すぎて同じ場所に3日といることは出来ないハーフリングにとっては長らく他の客から存在だけを聞かされるだけの幻の料理だった。

しかし、食い意地の張った先人たちは偉大だった。
あちこちを調べ上げ、調べた結果の地図をつき合わせ、100人近いハーフリングが議論を重ねることでついにそれを見出した。
扉の距離が、ちょうど徒歩で7日分離れている2つの扉。
その2つを結ぶ道を使うことで、ハーフリングたちはついにその料理を食する機会を得た。
その料理はハーフリングたちの苦労に見合うだけの味を秘めており、ハーフリングたちは大いに好奇心とお腹を満足させた。
それからと言うもの、東大陸のハーフリングたちはその2つの扉を結ぶ道を通る機会を得たときは、その料理を口にするようになった。
そう、今回ハーフリングの一員たるテッドが仲間たちとの冒険の過程でちょうどその道を通れることに気づき、頼んだ料理こそ……

「お待たせしました。オードブル2セットです」
「ひゃっほー!ようやく来たよ!」

オードブル。山海の美味を両の手の指の数と同じだけ揃えて1つの皿に盛り合わせた幻の料理である。
「おおお……すごいなあ、これ……」
店主から渡された、複数の料理が混ざり合わないように仕切られた金属でも木でも陶器でもない不思議な皿に盛られたオードブルをいとおしげになでる。
それはまだ出来たてで熱く、透明な蓋を通して如何にも美味しそうな色をしていて、テッドを誘惑する。
本当は今すぐにでも食べたい。今回一緒に買ったビールと一緒に思う様に貪りたい。
「じゃあ、ボク帰るね。ありがとう!」
「いえ。今後ともご贔屓に」
だが、テッドはその誘惑に耐えて店主に言い、店を出る。
「よし!急いで帰ろう!冷める前に!」
そして中の料理を崩さぬよう気をつけながら、猛ダッシュする。
このオードブルを手にするために、仲間には借りを作ってしまった。具体的にはオードブルの代金分。
そんなわけでテッドは金を借りる際にした約束を果たすため、仲間たちのもとへと急ぐのであった。

雨露をしのげる丈夫なテントを張った野営地で、冒険者の一行は野営の準備を整え、食料を探しに行った仲間を待っていた。
「……まったく、テッドの阿呆は一体どこまで食料を探しに行ったんじゃ?」
空腹のせいか若干苛立ちながら、全身を重い金属鎧で包んだドワーフ戦士ガリウスは短い足を踏み鳴らした。
「まあそういうな。今回の旅は順調だったのはテッドのおかげなんだ。多分、あいつなりに色々考えがあるんだろうさ」
それを一行のリーダーでもあり、身体の急所にあたる部分に金属板を貼り付けた革鎧を着て、家から旅の支度金としてもらった魔法のかかった長剣を腰にさした騎士の家の出でもあるアルバートがなだめる。
「ふん、あいつにそんな高尚な考えがあるとも思えんがな……」
アルバートに諭されガリウスはいつもの癖で鼻を鳴らして黙り込む。
テッドの功績はガリウスも認めないでもない。
ハーフリングの間では『オードブル街道』とか呼ばれているらしいテッドの提案してきた道は、確かにものすごい近道だった。
獣道やら危険な場所をいくつか通り抜けなくてはいけないという問題はあったものの、普通なら半月はかかる距離が、半分以下で済んだのだ。
「まあ、実際テッドのおかげで旅は順調なんだし、いいじゃねえか。
 ってかオレもテッドが旅路に詳しいと言うのは知っていたが、まさかこれほどとは思わなかったな」
アルバートの言葉に全身が赤みがかった硬い蜥蜴の鱗でおおわれた魔族の格闘家、ザックも同意する。
テッドを含めてハーフリングが手先の器用さに加えてこの手の旅に関する知識に優れていることは知っていたが、これほどとは思わなかった。
「……それにしてもなんでテッドは今夜はここに泊まろうなんて言い出したのかしら?ここに何かあるの?」
ごく普通の服の上からエルフの魔法が宿った薄手のマントを羽織り、ミスリルのレイピアを腰にさした森都出身のハーフエルフの魔術師、リディアが辺りを見渡して言う。
一応この辺りには危険な魔物はいないし、下の地面も乾いていて水場も近いと、野営地としてはかなり良い場所である。
だが、ここについた時点ではまだ太陽は西に傾きだす前で、急げば日が暮れる頃には近くの街に入れたはずだ。
なのにテッドはこの場所で野営することに拘った。
テッドのおかげで随分と早く旅路は進んではいるのでそれくらいの我侭は聞いてやろうということにはなったが、普段は何とも不思議な話である。
「さて、どうなのでしょうね?先ほどテッドは『ご馳走を食べさせてあげるからお金貸して!』と言って私から銀貨を6枚ほど借りていきましたが」
リディアの疑問に西の大陸の陰陽師が作ったと言う変わった服を着込み、西の大陸の出である銀の聖印を下げた水の神に仕える西大陸人らしい濃い真っ直ぐな黒髪を持つ巫女、サシャが答える。
……こんな、民家もロクに無い場所でお金の使い道なんて無いと思うのだが、テッドの目は本気であった。

「「「「ご馳走?」」」」
案の定、他の4人もその言葉に首を傾げる。
この辺りは、民家すらない野営地である。そんなところでご馳走も何も無い。
「……もしかして、この辺りでしか取れない、美味しい何かがいるとか言う話か?」
少し考えて、アルバートはとりあえず思いついたことを言ってみる。
「それでなんで銀貨がいるのよ?」
「さあ……そこまでは」
リディアに聞き返され、まあそれは無いだろうなと、アルバートはあっさりと自説を捨てる。
この辺りで、珍しい何かが取れるなんて話は聞いたことが無い。
そんなものがあったら、幾らなんでも噂くらいは聞こえてくるだろう。
「それにしてもご馳走か……お前等、ご馳走っつったら何思い浮かべるよ?」
どのみちテッドが帰ってくるまでは結論は出まい。
そう思い、ザックは話題を変えてみる。

「そりゃあお前、ご馳走っつったら昔から肉と酒にきまっとるわい」
当然だと言うように、話題に乗ったガリウスが一言で言い切る。
脂の乗った肉と、酒。
この2つの組み合わせはいつ何時でも素晴らしいご馳走だ。
あとは最近ドワーフの間で噂になっている、美味くて酒精が強い新しい火酒。
この前旅路で出会ったドワーフから杯に一杯分だけ分けてもらったそれもついてきたら完璧だと思う。
「それじゃあいつもと一緒じゃない。これだからドワーフは……
 私は新鮮な野菜が食べたいわ。後は、この時期なら若いエルフ豆とかもいいわね」
そんなガリウスの言葉に反発しながらもリディアは自説を述べる。
両親がエルフであったにも関わらず取替え子でハーフエルフとして生まれ、あの都に住むエルフと比べると魔力が弱くて短命だったために居づらくなって飛び出してきた故郷、森都。
離れてからもう10年近く経つし、森都から離れたばかりの頃は苦手だった肉や魚も今では慣れて食べられなくはないが、故郷で食べなれた味は未だに忘れがたく、今でも時々思い出す。
東大陸ではエルフ豆を育てている人間はほとんどいないので、なおさらだ。
「私はやっぱり取れたての海の魚ですね。後は、しゅらいぷという海の生き物も美味しいのですけど……」
サシャもまた、故郷の漁師の村での潮の匂いを思い出しながら遠い目をして言う。
海に近い街でもない限り、骨が少なくて脂が乗っている海の魚は新鮮な状態では出回らない。
ましてサシャの一番の好物である取れてから半日と持たぬしゅらいぷを煮込んだとがらん入りの辛くて赤い汁なんて、修行のために故郷の海国を離れて東大陸の冒険者になってからは数えるほどしかお目にかかったことは無い。
「ご馳走か……そういえば子供の頃は祝い事の日に食べる菓子がいつも楽しみだったな」
アルバートもまた遠い記憶を思い出す。
小麦粉に卵とミルク、貴重な蜂蜜をたっぷりと混ぜて焼き、砂糖をふんだんに振り掛けた歯が溶けるかと思うほど甘い菓子。
貴族の三男坊であったアルバートでも滅多に口に出来ない代物で、いつも祝い事の日の何日も前から楽しみにしていたことを覚えている。
「俺はやっぱり卵だな。あと、ガキの頃よく行ってた帝都の屋台の出来たてのコロッケはうまかったなあ」
そして最後に話を振ったザックがご馳走と言って思い出した品を上げる。
魔族が普通に暮らせる数少ない国である帝国の都で暮らしていた頃食べた味。
特別な日にしか食べられなかった卵料理と、ダンシャクの実を潰して丸めた団子に水で溶いた小麦粉の衣をつけて揚げたコロッケ。
この2つは今でもザックにとっては忘れられない味だ。
「……こうして聞いてみると、みんな見事にバラバラだな」
5人がそれぞれに思い思いの『ご馳走』を上げた結果に、アルバートは面白そうに言う。
「私たち、全員違う場所の出ですものね」
アルバートの言葉に頷きながら、サシャがしみじみと言う。

冒険者としてチームを組み、活動し始めて5年。
彼等は新しい出会いや別れを繰り返し、今の5人にテッドを加えた6人になった。
6人はそれぞれが違う場所で生まれ育ったものたちであり、ご馳走と聞いて思い浮かぶものもまるで違う。
そのことに、5人はちょっと笑いあい……
「お待たせ!もって来たよ!とっておきのご馳走!」
場違いに明るい声を上げて帰って来たテッドを迎えて、宴が始まった。

5人の目がそれに釘付けになる。
見ているのは、テッドがどうやってか知らないが手に入れてきたと言うご馳走。
それが平らな石の上にどんと鎮座していた。
「……おいおい。ワシはなんか夢でも見てんのか?テッド、お前さん一体どんな魔法を使ってコイツを手に入れてきたんだ?」
5人を代表して、ガリウスがテッドにたずねる。
「ん~、詳しくは秘密だけど、まあ強いて言うなら……転移系?」
それにどこかとぼけた様子でテッドは言う。
あの場所を占拠されたら二度とオードブルにありつけなくなるので『オードブル街道の扉』の場所はハーフリング以外には絶対に秘密にすること。
それがハーフリングの間で取り決められた約束なので、真実を明かす気はテッドには無かった。
「で、これはなんなの?なんだか随分と変わった料理みたいだけど……」
その妙に薄く、見知らぬ材質で出来た皿にいくつもの料理が盛られているのを見ながら、リディアがテッドに問う。
「ああうん。これはオードブルって言うんだ。肉とか魚とか野菜とか色んなものが1つの皿に乗ってる、宴用の料理なんだって」
その問いかけを待ってましたとばかりにテッドは朗らかに笑いながら言う。
「で、これがビールって言うエールね。冷たいから美味しいよ。あ、ガリウスにはウィスキー買ってきたからね」
そしてテッドは茶色いガラス瓶に入ったエールの栓をナイフで器用に抜いてそれぞれのマグに注ぎ、ついでにガリウスに手のひらに収まるくらいの小さなビンに入った、茶色い酒を渡す。
「さあさあどんどん食べてよ。やっぱり料理は出来たてが一番だからね」
そして最後にテッドが店主から貰ってきた紙の皿と、白い、不思議な素材で出来たフォークを全員に手渡し、皿を覆う透明な蓋を開く。

ふわりと、出来立ての料理の匂いが辺りに漂った。

ごくりと唾を飲んだのは、5人のうちの誰であったか。
だが、すぐにでもそれを食べたいと言う想いは皆に共通していた。
「じゃ、じゃあせっかくだし、食べるとするか」
一行を代表してアルバートがそういうと同時に、5人はそれぞれにオードブルに手を伸ばした。


「ほっほう!?こいつぁ新しい火酒じゃねえか!?」
テッドから受け取った酒に口をつけたガリウスは、その味に驚喜しつつ思わず声を上げた。
あの、強い酒精と独特のにおいがする、新しい火酒。
気のせいかこの前分けてもらったものより更に上等な酒の味が、ガリウスの口いっぱいに広がった。
「酒があるなら、やっぱり肉じゃな!」
この美味い酒との出会いに感謝しながら、ガリウスはそれに手を伸ばす。
鶏の肉を油で揚げたとおぼしき塊と、中に刻んだ肉とオラニエがたっぷり詰まった揚げ物。
その二つを口にしていく。

鶏の、脂が乗って生姜の風味がきいた肉が噛み締めるたびに衣を突き破って口の中にたっぷりと肉汁を残していく。
刻んだ肉がたっぷり詰まったほうは豚の肉汁と少しだけ甘いオラニエの風味が、香ばしい衣の風味と混ざり合って口の中に広がる。
そして、その肉汁が口に広がったところで、酒を一口。
強い酒精と香りが肉汁を洗い流し、美味い。
この組み合わせは何度試そうとも、飽きることが無い。
「あ、ガリウス、から揚げとメンチカツならその黄色い奴の汁を掛けるといいよ。
 あと、メンチカツにはその黒いソースをつけても美味しいんだ」
「む……むむう!?」
ふと耳に飛び込んできたテッドの助言に従い、黄色い果物の汁を掛けて食ってみて……絶句する。
鶏のカラアゲとか言う料理に加わった、爽やかな酸味。
メンチカツというらしい細かく刻んだ肉の揚げ物につけた、黒い汁。
それらが加わることで、この2つは更に味が高まった。
「こりゃたまらんわい!」
ガリウスはごくごくと酒を飲みながら、次々と口に料理を放り込む。
その動きは、すべてがなくなるまで止まることは無い。

サシャは一心に魚を食べていた。
(この魚、すっごく美味しいけど、何の魚でしょう?)
それは、サシャの記憶には無い味だった。
赤い身の魚のように脂が乗っているのに、白い身の魚のように臭みが薄い。
色もピンクに近い色で、まるで赤身の魚と白身の魚が混ざり合ったような味。
それがさっぱりとした、乳色の酸味があるソースとよく合っている。
(それにしても……本当にどこからこんな魚を……)
食べながら、テッドが持ってきた品の出所を考えていると、テッドの声が聞こえた。
「おおっと!これ、シュライプじゃん!?へえ、シュライプってフライとかドリアだけじゃなくて辛い味付けもあうんだなあ」
(しゅらいぷ!?)
その言葉に反応し、サシャはテッドが食べているそれと同じものに手を伸ばす。
四角い、何かを包んで揚げたと思しき一見すると地味な料理。
それをフォークでさして口に運ぶ。
「……!?うわ!?本当にしゅらいぷじゃねえか!?」
驚きの余り思わず漁師村で暮らしていた頃の荒い言葉に戻り、困惑と共に、口の中の味を堪能する。
口の中に広がるのは、臭みの無い、新鮮なしゅらいぷ。
とがらんの利いた辛くてとろみのある汁をたっぷりと吸ったそれを噛み締めると香ばしい皮の風味と共に辛さが広がり、サシャに故郷を思い出させる。
「ああ、こいつぁうめえなあ……」
その味に思わず涙が毀れる。
故郷を思い出させ、なおかつ冒険に出てからついぞ食べたことの無いほど美味い料理。
サシャはもはやこの料理を他の人間に渡す気など、毛頭無かった。

エルフ豆である。
それはまごうことなきエルフ豆の塩茹でであった。
(まさかこんなところでエルフ豆にお目にかかれるなんてね)
内心その味に驚きながらもリディアは次々とさや入りのエルフ豆を手にとってはさやから出したエルフ豆を口に運んでいく。
程よい塩加減の、若いエルフ豆の味。
それは、エールと素晴らしい調和を魅せる。
酒を飲むことがほとんど無いエルフの都では作られていなかったエールと、エルフの住む森の村や森都以外では手に入らぬゆでたてのエルフ豆。
この組み合わせは今まで未知であったがこれほど合うとは思わなかった。
(これなら幾らでも食べられそう……あ)
だが、一つ問題があるとすれば、豆の量がそれほど多くは無かったこと。
エルフ豆は早くも底を尽きかけていた。
(残念だけど、今日の夕食はこれだけかしら……)
おいしいエルフ豆を食べた後に、肉や魚を口にする気にはなれない。
名残惜しくも、食事を終えようとした、そのときだった。
「う~ん、やっぱりキューレにはミソだね」
リディアのとがった耳がそのテッドの呟きを捉える。
(ミソ?)
聞きなれぬ名前に思わずテッドの方を見て、それを確認する。
細切りにした、棒状の緑のキューレに、茶色い何かをつけて、テッドがキューレを齧っていた。
普段、野菜を余り好まぬテッドにしては珍しい光景である。
(ミソって、これかしら……?)
テッドのやっていたように、新鮮なキューレにその茶色いものを擦り付けて見る。
(ちょっと匂いが強いわね……でも、余計なものの匂いはしないわ……)
その茶色いものから、肉や魚の匂いがしないことを確認しながら、口に運ぶ。
小気味よい音を立てていかにも新鮮なキューレが口の中で弾け。
「なにこれ!?美味しい!」
リディアが思わず声を上げる。
未知のそれは塩味が強く、だがそれだけではない素晴らしい味がした。
様々な野菜が発酵し、エルフ豆の風味がかすかに混ざり合った強い味。
塩気が強いそれは淡白で水気をたっぷり含んだキューレと組み合わせることで、切っただけのキューレがご馳走へと変貌した。
更にエールまであわせたその味は、森都で暮らしていた頃から数えても生涯で一番の美味だった。
「……」
そこから、リディアは無言でキューレを口に運び出す。
急がねばならない。もし、他の仲間たちまでその味に気づいたら、自分の取り分が減ってしまうのだから。

(ほう、これは少し甘いのか……うん、腸詰めも良い味だ)
アルバートが最初に手を伸ばしたのは、太い串が刺さり、淡い茶色をした不思議な食べ物だった。
それは豚の腸詰めを卵と乳をふんだんに使ったのであろう柔らかな生地で包んで揚げたもので、歯ごたえの良い表面と、対照的に柔らかでかすかに甘い中の生地、そして最後にしっかりと火が通され、美味い肉汁が詰まった腸詰めの味がする。
腸詰の、スパイスと脂の味がしっかりとついた味と、かすかに甘い生地の組み合わせは中々に相性がよい。
さらにそれに酸味のある赤いソースと、辛い黄色いソースをつけることで味が変わり、テッドの持ってきたエールとも良くあった。
(うん。これは、美味いな……)
2本、3本と手を出していく。
ほんの数口で食べ終わる小さな揚げ物を齧り、エールを飲む。
アルバートはそのかすかな甘みを楽しんでいた。
そんなときだった。
「あ、これラムレーズンサンドじゃん……うん。甘い。結構お酒とも合うんだなあ、これ」
アルバートの耳がテッドの言葉を捉える。
(なに、甘いものだと?)
そしてテッドが食べているものをちらりと見て、それを見つける。
黒いベリーを干したものと白いクリームが挟まれた茶色く堅い焼き菓子。
テッドは手づかみで食べていたのでそれに習い、アルバートはそれを口にする。
(お、おお!甘い!甘くてうまいぞ!これ)
そしてその味にアルバートは目を見開く。
その干したベリーは甘みと苦味を含み、それを覆う白いものは甘い乳の味がした。
それを包む焼き菓子は甘みこそ薄いが小麦の香ばしい味がして、かなり甘みが強い酒気を帯びたベリーと白いものの味を引き立てている。
(なんだか昔食った菓子より美味い気がする……どれもうひとつ……)
その味に満足しながら、アルバートは1つ、2つとその焼き菓子に手を伸ばしていくのだった。

「おお、この卵、絶品だぜ!」
ザックが最初に手を伸ばしたのは、卵を焼いたものだった。
鮮やかな黄色の、一口サイズに切り分けられた卵焼き。
それには粉にしたチーズと淡い桃色の燻製肉、それから濃い緑の野菜が混ぜ込まれており、卵の柔らかな味とあいまって絶品だった。
「うめえなあ……こいつは」
エールで口を湿らせながら、ザックは感心する。
テッドが、一体どこから手に入れてきたかわからぬご馳走。
見ればザックも含めて5人ともそれぞれに夢中になってそれを貪っていた。
(さあて次はどれに……)
「ああザック。これ、帝国風のコロッケだよ!ケチャップとあわせると本当に美味しいや」
「お!?コロッケまであるのか!?」
テッドの言葉にザックは早速とばかりにそれを探し出して、フォークでさす。
丸く丸められ、淡く揚げられたコロッケ。
それをコロッケの側に置かれた、赤いソースにつけて、食す。
「なんだこりゃ!?コロッケには違いないが、味が段違いだぞ!?」
その、どこか懐かしいがまるで別物のコロッケの味にザックは声を上げる。
赤くて酸味のあるソースと、ホクホクのコロッケ。
それにはわずかに乳が混ぜられているらしく、コロッケらしからぬ滑らかさがある。
そして、とどめにチーズ。
このコロッケの中心に、ダンシャクの実に包まれたチーズが入っていた。
「なんだよこりゃ!?テッド、マジでどこで手に入れてきたんだこれ!?」
驚きと喜びに包まれながら、全力で料理を食べるテッドにうれしそうに声を掛ける。
ザックは感謝した。今日、この日の料理との出会いに。

5人は大いに満足していた。テッドがもたらしたご馳走、オードブルの味に。
その宴の席は和やかで、誰しもが笑顔で、平和なものだった。

……それから少しして、修羅場が訪れた。

「おい!?ちょっと待て、俺、卵とコロッケしか食ってねえぞ!?」
最初に気づいたのは、ザックだった。
卵とコロッケを堪能し、いざ他の料理に手を伸ばそうとしたとき、既に他の料理はほぼ食べつくされていた。
「え!?あたしだってしゅらいぷと魚しか……ってザック!?アンタ、コロッケ全部食べちまったのか!?」
「なんだと!?腸詰入りの揚げ物なんてのもあったのか!?それを何でお前だけで食い尽くしたのだ!?」
「す、すまない……ってガリウス!?お前、肉料理をすべて食べてしまったのか!?」
「もう、みんないいじゃない、それくらい……ってそこ!あたしのキューレに手を出さないで!」
そう、全員がこう考えていた。
他の料理も食べてみよう。今食べてるのに満足したら。
その結果、全員がある程度満足する頃には、どれもほんの一切れか二切れくらいしか残っていなかったのだ。

辺りに険悪な空気が流れる。
全員がこう思っていた。
自分の分まで勝手に仲間に食べられた、と。

固い絆で結ばれていた5人の間に、溝が生まれる。
パーティー解散。
危機がにわかに訪れようとしていた。
「も~、みんなこんなに美味しい料理なんだから、喧嘩しちゃダメだよ」
それを打ち破るのは、どこかのんびりとしたハーフリングの声。
「そうは言うがな、テッド……うん?」
アルバートがテッドに反論しようとして、それに気づく。

おかしい。

この中で最も多く食べ、最も食い意地が張っているはずのテッドが、争いに参加しないはずが無い。
むしろだれよりも大騒ぎするはずだ、と。
どうやら他の4人も同じ結論に達したらしい。
5人は同時にテッドを見て……

「「「「「テッド!?」」」」」

驚愕する。

「う~ん。やっぱり美味しいよね。流石銀貨3枚もするだけはあるよ、これ」
満足げに頷きながら、テッドはオードブルを堪能していた。

……丸々一皿分買ってきた自分の分を。

「何より10種類も乗ってて色んな味が楽しめるのがいい。これならもう一皿くらい買ってきても良かったかも」
うんうんと頷きながら、テッドは次々と料理を口に運ぶ。
バラエティに富んでいて、ビールとの相性もよいオードブルに、テッドは大満足だった。
……5人の視線が冷たくなって行ってることにも気づかぬほどに。
そして、あの素晴らしいオードブルの半分がテッドの腹の中に消え、残り半分となったとき、5人の心は1つになった。

そして、テッドは5人の様子に首を傾げ……
「え?あれ?みんなどうしたの?みんな恐い顔してさ。
 ってちょっとちょっと!?なんでボクの分を食べようとしてんのさ!?
 ダメだよ!これは全部のボクの分だってば!だから、ダメだってばー!?」
そして、夕闇迫る野営地に、テッドの悲鳴が響き渡った。
今日はここまで。

ちなみに今回のメニューは

鳥のから揚げ
ミニメンチカツ
鮭のマヨネーズ焼き
エビチリ春巻き
枝豆盛り合わせ
もろきゅう
ミニアメリカンドッグ
レーズンバターサンド
ほうれん草とハムチーズのオムレツ
チーズ入り揚げポテト

となっています。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ