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異世界食堂 作者:犬塚惇平(犬派店主)
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ハンバーガー

・一応ファンタジーです。
・剣も魔法も存在しますが、あまり活躍はしません。
・店主は普通のおっさんです。料理以外できません。
・訪れる客は毎回変わります。ただしたまに常連となる客もいます。
・当店のハンバーガーは注文を受けてから作る分少々お時間いただきますので、あらかじめご了承ください。

以上のことに注意して、お楽しみいただけると幸いです。
とある小さな国の片田舎の町外れを、ジャックは小躍りしながら走っていた。
「へへっ…ようやく手に入れたぜ銅貨9枚!」
懐でチャリチャリと音を立てる銅貨の音に気をよくしながらジャックは先を急ぐ。
家の手伝いをしたり、家にあるマキ割り用の鉈でジャイアントラットを退治したり、旅人を案内してやったりして少しずつ稼いだ小遣い。
7日間かけてそれを溜めてジャックはいつも『あれ』を食べに出かけている。
お昼前。昼飯のちょっと前のこの時間帯がいつもの出かける時間だ。
いつもの場所には、いつもの2人が既に来ていた。
「やあ。ジャックくん、こんにちは」
町に住んでいる魔術師の息子であるケント。
「良かったな。もう少し遅かったら僕らだけで出かけてたところだぞ?」
町長の三男坊で2人より1歳だけ年上のテリー。
この悪ガキ3人だけが、この町では『あの場所』のことを知っている。
「おっと。そいつは危なかったな。じゃあ、行こうぜ」
「うん」「ああ」
そうして3人は連れ立ってそこへと向かう。
町外れのとうの昔に使われなくなった古井戸。
もっと子供だった頃に探検と称して潜ったそここそが『あの場所』である。
「ケント。気をつけろよ。お前ただでさえトロいんだから」
「分かってるよ。毎回言わなくてもいいだろ? 」
軽口を叩きあいながら、ロープを伝い、古井戸の底へと順番に下りる。
町外れの、何も無い古井戸の底には。

「よし、開けるぞ」「おう」「うん」
7日に1度だけ、異世界に繋がる扉が現れる。
テリーが代表して扉に手をかけて扉を開くと、チリンチリンという音と共に扉が開いてそこへと繋がる。
「いらっしゃい。適当な席へどうぞ」
常連を案内している最中だった店の店主が小人を満載したお盆を抱えながら3人に言う。
「おう」「うん」「ああ」
3人も慣れたもので、それぞれに短く返事を返すと、空いているテーブルの1つに向かい座って注文を取りにくるのを待つ。
「お待たせしました。ご注文は? 」
すぐさま店主が注文を取りに来たところで、3人は声を揃えて注文をする。
「「「ハンバーガーセット。飲み物はコーラで」」」
「はいよ」
その3人の声の揃いっぷりに少しだけ笑いながら店主は奥への厨房へと向かう。
「楽しみだね」
「まぁな。いつものメシとは比べ物にならねえもんな」
「うん。僕の家でもあれだけのものは出ないからね」
3人は出された熱い湯を含ませて絞った布で念入りに手を拭い、この店で一番うまい料理の話をしながら、店の中を見回す。
「それにしてもよー。この店、亜人多いよな」
「あの扉から来てるのは分かるけど、どこからきてるんだろうね? 」
「不思議なものだな。僕達の世界にはこの店でしか見かけないような亜人がうじゃうじゃ住んでるってことなんだろ? 」
この店に来るといつも思う。自分が住んでる町の狭さと、世界の広さを。

異世界食堂の魔法の扉は、ジャックたちの世界のあちこちに現れる。
そして、その扉を『利用』しているのは、ジャックのような人間とは限らない。
この店には、多くの亜人も訪れる。

腐った豆のソースを使ったパスタを食べるエルフ。
毎回プリンを食べているハーフエルフの魔術師。
浴びるように酒を飲み、様々な魚料理に舌鼓をうつドワーフ。
来るのはたまにだがわいわい、がやがやと騒ぎながら持ち前の胃袋の大きさを生かして無節操に様々な料理を詰め込んで行くハーフリング。

この辺りまではジャックたちの常識の範疇にある種族だ。
話には聞いたこともあるし、エルフ以外は冒険者や旅人と言う形で町を訪れることがたまにある。
だが、異世界食堂の客はそんなものではないような連中もゴロゴロいる。

ハンバーガー用の赤いソースがたっぷりかかった黄色いオムライスを食べるトカゲ人間。
彼らにとっては異常に大きいホットケーキを物凄い数で食べている小人たち。
その隣の席で、生クリームがたっぷり入ったクレープを齧る羽の生えた小人たち。
中に茹で卵が入った肉料理を美味しそうに食べる下半身が赤い蛇である女。

そんな、ジャックたちが御伽噺でしか聞いたことが無いような種族がたくさんいる。
「ここ、夜中になると必ずドラゴンが来るってマジなのかな? 」
「ああ、あの魔術師の爺さんが言ってた話か?流石にホラじゃないか? 」
「どうだろうね?時々だけど吸血鬼も来るとか言ってたけどさ」
他愛の無い、ちょっとした話。
同じ町で生まれ、年も近かったことから兄弟のように親しく育った3人の仲は良好で、和やかな雰囲気で無駄話を続ける。
そして。

「お待たせしました。ハンバーガーのセットです」
店主がいつものように3人の好物を運んでくる。
「お!待ってました! 」
「今日のもうまそうだな」
「こればっかりはここじゃないと食べられないからね」
3人が騒ぎながら皿を受け取り、自分の前に置く。

まず、皿の上に盛られているのはたっぷりのダンシャクの実の揚げ物であるフライドポテト。
味付けはシンプルに塩のみであるそれは、揚げたての熱々であり、そのまま食べても、皿の隅に置かれたとろりとした赤いソースをつけてもうまい。
皿のそばにコトリと置かれたのは、ガラスの杯に注がれ、木でも金属でもない不思議なもので出来た筒が刺さった、黒いジュースであるコーラ。
冷たい氷を入れられて冷やされたコーラはエールのようにぷつぷつと泡が生まれては消え、上のほうには茶色い泡の層が出来ている。

そして、ダンシャクの実と同じ皿にどっしりと置かれているものこそ、メインの料理であるハンバーガー。
表面に香ばしい匂いがする何かの種を散らして軽く焼いた白パンに、肉や野菜、そしてチーズに色々なソースを挟み込んだ料理で、3人が一番に気に入った料理だ。

「うおおお!うまそー! 」
「よし、頂くとするか」
「テリー。涎垂れてるよ? 」
揚げたてフライドポテトと出来立てのハンバーガーから漂ってくる匂いに3人は辛抱溜まらず、皿の上からハンバーガーを持ち上げる。
ハンバーガーを食べるのには、ナイフもフォークもいらない。
手に持って……噛み付けばいいのだ。

「「「うめえ! 」」」

3人の声が重なる。
表面を軽く焼いた白パンは上に掛けられた種と共に香ばしい食感と、中の白くて柔らかい味わいを併せ持ち、輪切りになった赤い野菜はしっかりと熟していて甘酸っぱい。
同じく輪切りにされ、軽く焼かれたオラニエは甘みがあり、口の中でほろほろと溶ける。
肉の下に敷かれた薄い緑の葉野菜はしゃっきりとした食感を与え、肉の上に密かに挟み込まれた酢漬けの野菜はアクセントとなる。
さらにそれを彩るソースもジャックたちがばらして確認した結果によれば酸っぱい赤と辛味のある黄色、そして赤とは違う柔らかい酸っぱさを持つ白と3種類も使われ、ハンバーガーの熱気でとろりととろけたチーズと共に中央に挟まれた肉を引き立てる。

そう、ハンバーガーとは肉を食べるための料理。
様々な材料に囲まれ、それでもなお圧倒的な存在感を持つハンバーガーの肉が3人の舌を襲う。

細かく刻み、再び固めて焼いた肉はあっさり噛み千切れるほど柔らかく、噛み締めると肉の旨みが一気にあふれ出す。
脂を含んだ、シンプルに美味い肉汁。味付けは塩と何かの辛い香辛料くらいであると言うシンプルさが、肉そのものの味を引き出している。
どっしりとした、厚めの丸板の形にまとめられた肉。
それをパンと野菜、チーズが引き立ててハンバーガーと言うものを一つの完成された料理へと昇華させていた。

一声叫んだあとは、ガツガツとハンバーガーを貪るジャックを尻目に、他の2人はそれぞれのセットメニューに手をつける。

「うん。おいしい。これ、どうやって作っているんだろう? 」
ガラスの杯に注がれたコーラを飲み、ケントは首を傾げる。
この黒いジュースはエールのように泡を発するが、酒精の味はしない。
複数の、様々な材料を掛け合わせているらしく甘酸っぱくて爽やかな味だ。
師匠の話によれば、温泉地などには泡が出る水が湧き出す泉と言うものがたまにあるらしいが、それを使っているのだろうか?

「うむ。やはりここの揚げ物はいい油を使っているな」
テリーは赤いソースをつけたフライドポテトに舌鼓をうつ。
油で揚げたてのそれは熱々でほろほろと口の中で溶け、味付けは基本塩のみ。
はるか遠い帝国ではごく一般的な料理であると、家庭教師から聞いたことがある。
それがこんなにうまいのは、使ってる油が純度が高く、油臭くないものを使っているからだろう。
考えてみれば、この店は田舎の少年から見れば雲の上の人間とでも言うべき客も結構来ている。
当然、彼らを満足させるような、都の高級な料理屋に匹敵する良い材料を使っているのだろう。

……その割に、ジャックやテリーのような子供の小遣いで食べられる程度の庶民的な値段で商いをしている辺りは謎だが

そして、3人はあっという間に皿の上の料理を綺麗に平らげ、ジュースを飲む。
3人はいつも、ハンバーガーのセットを平らげると追加で注文をする。
「僕はフライドポテトを貰おう」
テリーは口許についた赤いソースをふき取りながら。
「じゃあ僕はコーラをもう1杯かな。まだ飲み足りないから」
ケントは飲みつくしたコーラが入っていた杯を掲げながら。
「ハンバーガーもう1つくれ! 」
ジャックは指先についたソースを行儀悪く舐め取りながら。

「はいよ」
そんな3人の少年に、店主は苦笑しながら答える。
そういえば昔、しょっちゅうホットドッグを食べにきていた今の彼らと同じくらいの少年少女のカップルが居たななどと思いながら。

「ふぅ…食った食った」
「美味しかったね」
「うむ。やはりここの料理は他とは違う」
すっかりと料理を平らげ、満足した3人は席を立つ。
「おっちゃーん!代金はここに置いとくよ! 」
じゃらじゃらとそれぞれが食べた代金としてきっかりの値段の銅貨を置いていく。

そして扉を開き、また古井戸の底へと戻ってくる。
「よっし!食うもの食ったしさっさと戻るか! 」
「うん。特訓もしなきゃだしね」
「ああ。旅立ちの日も大分迫っているからな」
3人は約束している。
全員が15歳になり、一人前の大人と認められたら、この町を離れて冒険者になろうと。
それは異世界食堂に足しげく通い、狭い異世界を通して広い世界を改めて見たがゆえに好奇心を刺激され続けた結果であり、3人の決意は固い。

「あ、でも、そうなるとハンバーガー食べられなくなるのは残念だね」
「まあ、それはそうだな。けどまあ、世界は広いんだ。世の中にはもっと美味いものも有るかも知れねえぜ? 」
「そうだな……まあ、たまには町に帰ってくれば良いさ。どうせ僕たちは3人で旅をするんだからな」
口々に将来のことを語り合いながら、古井戸を登る。
彼らが大人になり、旅立つ日は、もうすぐそこまで来ていた。
今日はここまで。
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