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異世界食堂 作者:犬塚惇平(犬派店主)
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サンドイッチ

・一応ファンタジーです。
・剣も魔法も存在しますが、あまり活躍はしません。
・店主は普通のおっさんです。料理以外できません。
・訪れる客は毎回変わります。ただしたまに常連となる客もいます。
・メニューに載っていない料理については店主に確認ください。
 対応できるものは作ります。

以上のことに注意して、お楽しみいただけると幸いです。
異世界食堂には、常連と呼ばれる客が結構いる。
彼らは自分が見つけ確保している『扉』を使い、7日に1度、異世界食堂が開くたびに訪れる。
そうして異世界の料理を堪能することが生活の一部になっているような客である。

異世界食堂の扉は場所を選ばず発生する。
街中や街道筋、城の中など使い勝手の良いところに発生することは稀で、大抵は人里から離れた辺鄙な場所にポツリと扉だけが立っているのが常である。
そういう事情もあって、異世界食堂の客、特に常連になるような客は異世界全体でも見ても変わり者が多い。

世界の津々浦々から集まった変わり者揃いの常連たちは、お互い余り干渉しないようにしている。
世界に名を馳せた有名人がいても、お互い天敵と言っても良いくらい仲の悪い存在がいたとしても、お互い見てみぬ振りをするのがマナーである。
何しろここは異世界。
自分達の世界の常識は通用しないし、通用すると思うべきではない。

更に言えば、下手な真似をして店主から『入店拒否』でも食らった日には目も当てられない。
そんなわけで、常連はお互いを尊重しあうし、そういうのが分かっていない一見客が来れば止めにも入る。

……ただし、例外もある。料理である。

7日に1度、毎回通ってくる、常連といわれるような客は大抵は自分が愛して止まない『大好物』を1つは持っている。
そして、常連ともなれば自分の『大好物』がこの店の料理で一番おいしいと確信している。
……どっちの方がよりおいしいか、なんて話題にでもなれば、大抵は言い争いである。

その日はたまたま、そんな日だった。

「はぁ!?何いってんの?朝までじっくり寝かせて、ソースがしっかりパンとカツに染み込んだ味も知らないくせに! 」
「それはこっちの台詞だ小娘!貴様こそ何も分かっておらぬ!シュライプとタルタルソースの絶妙の組み合わせは冷めても揺るぎないというものがな! 」
言い争っているのは身軽な格好の冒険者でありながらどこか育ちの良さを伺わせる若い娘である『メンチカツ』と、まだ若いが良く鍛えられた体躯を持ち、名剣を佩いて仕立ての良い服を着た騎士である『エビフライ』
この店おいては比較的最近良く来るようになった2人の常連がたまたま席を隣り合わせたために言い争いをし始めたのがことの起こりだった。
(ちなみに異世界食堂では、常連同士は各自の一番の好物がそのまま渾名になることが多い)

「うん?あの2人は何を言い争っているのだ? 」
後から来て、事情を把握していない老侍、『テリヤキ』がこの店で親しくしている、枯れ木のように痩せた古株の常連『ロースカツ』に尋ねる。
「おう。どうやら『サンドイッチ』にしたときより旨いのはどちらか、らしいぞ」
いつものようにロースカツを肴に、透明なジョッキに注がれ良く冷えた異世界産のエール、ナマビールを飲んでいたロースカツが答える。
きっかけは、食後の持ち帰り用としてあの2人がそれぞれの好物を挟んだ『サンドイッチ』を頼んだことであった。

―――白パンに様々な料理を挟んだ食べ物。冷めても美味。持ち帰り可。

サマナーク語で書かれたメニューのサンドイッチの項には、そんな言葉が書かれている。
この様々な料理、と言うのが曲者で、サンドイッチの具は非常に多く、店主にかかれば汁物以外は大抵おいしいサンドイッチにできる。
一応基本となるのはこの店の普通であるマヨネーズと細かく刻んだ卵を和えたもの、燻製肉とチーズに葉野菜を挟んだもの、そして魚の油漬けとマヨネーズを和えたものの3種類だが、常連ともなると自分の好物をサンドイッチにしてくれと頼むことも多い。
ある意味においてこの店の裏メニューとでも言うべき存在、それがサンドイッチなのだ。

「やれやれ。そんなことで言い争っていたのか」
その話を聞き、テリヤキははぁ、とため息をついた。
くだらない。たかだかサンドイッチの具であそこまで熱くなるとは。
「まったくだ……これでは落ち着いて食事も出来ないな」
そう言うと2人は慣れたもので席を立ち、言い争いをしている2人に近寄る。

「だから!一番美味しいのはメンチカツサンドよ!ここのメンチカツはね、冷めても美味しいの!細かく刻んだ肉には肉汁がたっぷりと詰まってて、衣が真っ黒になるくらい染み込ませたソースと、しんなりした野菜と組み合わさって絶品なんだから! 」
メンチカツは一歩も譲らない。
彼女が初めてこの店を訪れた時に手土産に渡されたメンチカツサンドは、出来立てのメンチカツの美味しさとは別の、だが甲乙つけ難い美味だった。
それ以来、この店に来た時は毎回頼んでいるほどだ。
「ふん!これだから王国の小娘は困るな!先ほどから言っているようにシュライプとタルタルソース!この組み合わせは少々冷めた程度で揺らぐ代物ではないわ!ぷりぷりのシュライプのすり身のエビカツが噛み締めるたびに広がるのだ!
 それに知っているか?この店のエビカツサンドはな、赤い果実の野菜と緑の葉野菜を挟む!見た目も美しいのだ!味は勿論、見た目も中身は茶色一色のメンチカツとは比べ物にならんぞ! 」
一方のエビフライも譲らない。
この店に2度目に訪れた時にそのとき一緒だった伝説の剣豪から教えられた裏メニュー。
この店で一番の美味であるシュライプの揚げ物は、パンに挟み、時間を置くことでまた別の魅力をみせる。
その魅力は、それなりに美味なメンチカツといえども勝てる代物ではない。

お互い一歩も譲る気配が無い2人に対して、咳払いをする。
「これこれ。そこの2人、余り言い争うな」
「ここは食事を楽しむ場。多少の会話は料理を楽しむスパイスと言えるが、過ぎれば料理そのものをそこなうぞ?」
その言葉に、思わず2人はそっちを見て、黙り込む。
かたや、王国一……引いては世界一の大賢者。
かたや、放浪の身ながらその剣の腕を世界に轟かせる異国の剣豪。
この店でも屈指の有名人である2人に諭されれば、まだまだ若い2人の常連は思わず黙ってしまうというものだ。
「……そうね。確かに私も言い過ぎたわ……エビカツも、それなりには美味しいと思う」
「いや、こちらも悪かった。謝罪しよう……人の好みは様々だからな」
あからさまに渋々と言った様子ながら、2人はお互い謝る。
そんな2人にテリヤキとロースカツは先代店主時代、よく料理に関して議論していたことを思い出す。

(懐かしいな。思えば私たちもよくどの料理がうまいかで口論になったものだ)
(メンチカツの奴もメンチカツが最も美味なカツだとコロッケの奴とよく喧嘩をしていたな……血は争えないという奴か)

そして昔を思いつつも2人は、若い故に熱くなりやすい2人を諭すべく言葉を発する。
「そのとおりだ。メンチカツもエビカツも確かに旨いがな。パンに挟んで一番美味なのはやはりロースカツのカツサンドであろう」
「カツは熱いうちに食うが一番。サンドイッチにして一番うまいのはやはり冷めても美味なテリヤキチキンであろう」

……古株2人は思わず互いを見た。信じられぬといった顔で。

「……おぬし、断然ライス派ではなかったか?そもそもテリヤキチキンをパンに挟むというのは……どうなんだ?」
ロースカツは思わず隣に立つテリヤキに尋ねる。
普段、テリヤキは自分の好物であるテリヤキチキンを頼んだときは必ずライスであり、パンはたまに気まぐれで別の料理を頼んだ時に選ぶくらいのはず。
そう思ってただけに、テリヤキチキンのサンドイッチというのは予想外だった。
……そもそも甘辛いショーユ味のテリヤキチキンがパンと合うのかというのも含めて。
「そちらこそ、普段はパンなど目もくれずビールとロースカツばかりではないか。何故にパンに挟むという話でまでロースカツになる?」
一方のテリヤキも意外そうに尋ねる。
ロースカツはいつも自分より早く来て、自分より遅くまでいるのは知っているが、その間ずっとロースカツを肴にナマビールを飲んでいるのしか見たことが無い。
時々別の料理を食べていることもあるが、その場合もお供はビールである。
パンとカツの相性が悪くないことは知っているが、ロースカツがそれを頼むとは予想外だった。

2人とも、お互いの選択を信じられぬまま、言葉を紡ぎ、それにそれぞれ答える。
「いやいや。私は月に1度はロースカツのサンドイッチを持ち帰っているぞ? 野菜は入れず、カツとソースとマスタード。
 この3種類だけをパンに挟んで冷めたものを食う。それが絶品なのだ」
ロースカツは時折やっている自分の習慣を語る。
閉店間際……かの魔竜が来るかどうか位までで切り上げ帰って寝て……翌日の昼に食うロースカツサンド。
パンと比べて分厚い、ソースがたっぷり染み込んだロースカツはどっしりと腹にたまり、腹持ちも良い。
ロースカツが長年『愛用』する昼のご馳走である。
「いやいや。私も最近知ったのだがな……テリヤキはパンにもあう。あの甘辛いタレをたっぷりつけたテリヤキチキンの薄切りとキューレの薄切り。
 そして生の新鮮なオラニエを挟んでな、それがバターと辛子を塗ったパンと良くあうのだ。そもそもこの異世界ではテリヤキを挟んだパンは大人気と聞いたぞ? 」
テリヤキの方も負けてはいない。
以前、連れ立ってやってきたエビフライにサンドイッチのことを教えたとき、店主から教わったテリヤキサンド。
それはテリヤキチキンはパンと合わないという先入観を打ち砕く素晴らしい味で、一発でとりこになった。

お互い一歩も譲らず……頑固者同士がお互いを睨みながら言い争いに発展するまで、そう時間はかからなかった。

かくて、他の店の客にまで議論が飛び火する。

古参から新参まで、多数の常連が集まっている時間帯だったせいか、それぞれにこだわりを持って自分のオススメを語る。
「……サンドイッチならば、僕は断然コッペパンを使ったナポリタンドッグですね。知ってますか?
 この店のナポリタンは、パンに挟むときにはかなり濃い目に作る。そうするとパンに挟んだときに最高の味になるんですよ」
王国の若き御曹司が、麺料理にパンをあわせるという大胆な発想を含めて素晴らしいと評価する逸品を進めれば。
「……おやおや。そこの若いお方は物の道理が分かっておりませんね。こっぺぱんに挟んで美味な麺といえば、やはりやきそばでしょう」
「貴様に同意するは不本意でござるが、同意するでござる。焼きたてのお好み焼きに及ばぬとはいえ、ぱんに挟んだやきそばの美味さは、天下一品にござる」
西方の大陸の陰陽師と侍が口々にキャベツとソースの味が素晴らしいやきそばの優位性を語り。
「……その、私としては、サンドイッチでしたら甘い果物に生クリイムをはさんだフルウツサンドが美味しいと思うのですが」
帝国の麗しき姫が最近持ち帰ることにはまっている、クリームたっぷりの甘いサンドイッチを挙げれば。
「……フルーツサンドにするなら、カスタードの方が合うと思う。あっちの方がこってりしている分、ブレッドとよくなじむ」
この店の魅惑の菓子であるプリンをこよなく愛する公国の魔女姫は、同じフルーツサンドでもプリンに良く似た味のカスタードクリームをはさんだものをおす。

かくして店は一時喧騒に包まれる。
どのサンドイッチが一番美味か。持ち帰りと言う『裏技』に気づいた客ならば誰しも一度は食べたことがある料理だけに、議論の種はつきない。

「……しょうもな」
そんな喧騒を、半年振りにこの店を訪れた旅のエルフ、ファルダニアは冷めた目で見ていた。
この店に出会い、誇りを傷つけられて旅立った彼女は、半年前と同じトーフのステーキを食べながら、熱く議論を交わす彼らを半眼で見つめる。

彼女は、常連ではない。

今回はたまたま、ハーフリングからたまたま通りかかる時期、通り道の近くに扉があると聞き、立ち寄っただけだ。
……目的地まで3日ばかり遠回りになったが、長いエルフの生においてはその程度はどうと言うことは無い。
「ふぅ」
半年前と変わらず美味なトーフのステーキを食べ終え、エルフはフォークを置く。
「ありがとう。美味しかったわ」
人間の店主に素直に言う。
……意地でも認めなかったら、それはそれで負けな気がするのだ。
「はい。ありがとうございます」
店主も世慣れたもので、エルフに対して余計なことは言わずに頭を下げる。
「……そう言えば、この店って、ライスの持ち帰りは無いの?」
ふと、気になったことを尋ねる。
この店のパンからは僅かだが乳の匂いがするので食べる気にはならないが、ライスは美味だ。
そんな気持ちからである。だが。
「……まあ、あるにはありますね」
店主は少し悩んでから、そう答える。
「……あるの?」
予想外、いやある意味では予想通りの答えにファルダニアは驚いて店主に尋ねる。
「いやまあ、洋食屋名乗ってる関係上、メニューには載せてないんですがね……」
そう言いながら、店主はそのメニューの名を告げる。
「焼きおにぎりでしたら、持ち帰りでお出しできると思います」
余るくらい炊いたご飯を使った賄いの一種。
無論、客に出す以上はいつも自分で食べるために作る場合やバイトに振舞っているものより少しだけ豪華にする必要があるが、あれなら金を取って出してもいいだろう。
「じゃあそれ頂戴。人間の町の料理ってどれも余り美味しくないの」
ファルダニアすました顔でそれを頼む。
……どうせこの店のことだ。また彼女が想像もしてなかった料理を出すに違いないと確信しながら。
「分かりました。少々お待ちください」
そう言いながら、店主は厨房へ戻る。
(味付けはどうするか。とりあえず昆布醤油とみりんにゴマをパラリと振るので1つ、ネギ味噌で1つとして……)
そんなことを考えながら店主は焼きおにぎりの準備と……パンを準備しておく。

この店を経営して10年以上経つ店主は、経験上知っている。
こんな風に議論が起きた日は、いつも以上に料理が出ることを。

「ああもう!食べれば分かるわよ!店主!メンチカツサンドをこのわからずやにお願い! 」
「ならばこっちはエビフライサンドだ!この小娘に渡してやってくれ! 」
「おい!店主テリヤキチキンのサンドとやらを頼む!そこまで言うなら試してやろうぞ! 」
「こっちはロースカツサンドをくれ!どうせテリヤキサンドの方が旨いだろうがな! 」
「店主、やきそばパンとやらをください。ソース味の麺とは中々興味深い」
「拙者にはなぽりたんどっぐをくれい!味を試してみるでござるに! 」
「では、わたくしも同じものを戴きましょう。お任せします、店主」
「……そこまで言うなら、ここで食べ比べてみればいい。そうすればはっきりする」
「望むところです!すみません!フルウツサンドを生クリイムとカスタアドで1皿ずつくださいな! 」

案の定、注文が出る。
あまりにも予想通りの展開に苦笑しながら。
「はいよ! 」
店主は手を止めず、客たちの方を向いて大きな声で答えた。
今日はここまで。
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