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そして・・・
俺は何度も何度も空港を振りかえりながらシャトル乗り場へ戻った。
グシャグシャになった手紙はポケットの奥底に詰め込まれ、大の男が道端で大粒の涙を流しながら下を向いて歩いた。
「どうして・・・。どうして愛子はいないんだ・・・。」

言葉にならない声がもれる。
周りはやっとハワイについた喜びの声を上げているのに、俺は一人またワイキキ行きのシャトルを待った。
何度も携帯を見たが着信ひとつない。
日本の愛子の携帯にかけてみようと思ったが俺は愛子の番号を覚えていない。
まるで全てを失ったかのようにさえ感じた。
俺は携帯の画面をもう一度開き、愛子の画像を消した。「排除」ボタンを押す時の俺の指は震えていた。
頭を抱えながら座り込んでいると一台のシャトルがやってきた。

「お兄さん、乗るかい?」

「ああ。ワイキキまで頼むよ。」

「ど、どうしたんだ?何かあったのか?」

涙にグシャグシャになった俺の顔を見て運転手は聞いてきた。
俺は声にならないまま愛する女が待っても来なかったという事を言った。
すると運転手は驚いた表情で言った。

「ちょっと待ってくれよ。さっきも俺は日本人の女の子で大泣きした女の子をワイキキまで送ったところだよ。」

「え?」

俺は驚いて運転手を見た。

「彼女も彼氏に会いにきたが電話が通じないし、来なかったと言って泣いていたよ。」

「どういうこと!?その子って髪の毛が長くて可愛い日本人だった?」

「そうだな。綺麗な子だったよ。もう涙で化粧はグシャグシャだったけどね。」

愛子だ!でもどうして電話が通じないんだ?
もう一度携帯を確かめたが着信は一つも入っていない。

「その子はどこに行ったの?」

俺は運転手に食いつくように問い詰めた。

「何でもチェックインまで時間があるからってカパフルだっけかな。
 彼氏の家に寄るって言ってたけど・・・。」

「運転手さん!今すぐそこに連れてって!!」

俺は運転手をせかすように言った。
愛子だ。絶対愛子だ。俺は一筋の確信を感じた。しかしなぜ同じ出口に待っていたのに俺達は探し出せなかったのだろうか。しかも電話が繋がらないって意味が分からない。
もしかして別の子か?
俺の中でまた不安がよぎった。

「運転手さん。その子は黒髪だった?」

「いやぁ茶髪だったよ。」

「え?身長は小さかった?」

「そうだなぁ。気になるほど小さくはなかった気がするよ。」

もしかしたら愛子じゃないかもしれない。

「指輪・・・。そうだ!指輪はしてた?」

「そこまで覚えてないよ。」

運転手の席の背もたれを強く掴みながら何度も何度も愛子の特徴について説明したがピンとくるものがなかった。
そのまま愛子と思われる女の子が行ったというカパフルまで連れて行ってもらった。

「ちょ、ちょっと待って!俺の家はあっちだよ!」

運転手は俺の家を素通りして行ったのだ。

「でも彼女はこっちで降りたんだよ。」

すると俺のうちからかなり離れたスーパーマーケットの近くで降ろされた。

「彼女はどこに行ったの?」

「さぁ。この辺りでいいって言っていたから分からないよ。
 彼女だといいな。」

そう言うと運転手は俺を降ろして去って行った。
全く彼女が愛子である確率は低くなった。俺は近くのスーパーマーケットの中をくまなく探したが愛子はいない。
店員に頼んでインターフォンで愛子の名前を呼んでもらったが誰も出てこない。
俺はまた肩を落とし、スーパーからの道のりを歩いた。

「愛子じゃなかったんだ。やっぱり。」

それはそのまま家までの道のりをとぼとぼ歩いていると道端に一軒の店が見えた。
ここは愛子が大好きだったベトナム料理の店でお泊りしたあとはいつも昼ごはんを一緒にここで食べていた。
俺はそこまでベトナム料理が好きだった訳ではないが、愛子が大好きだったため俺も好きになった。
愛子との思い出の店の目の前に来ると、また愛子と一緒に歩いたこの道や店の前で一緒にタバコを吸っていた時のことを思い出した。
そして俺は思い出を噛みしめるように店の中へと入った。

すると、なんとそこには見覚えのある髪型の茶髪の女の子はスーツケースを机の横に二つ置いて後姿で座っていたのだ。
俺は心臓が飛び出すくらい驚いた。
そして店員が俺に気づき席に案内しようとしたが俺はそれを無視して彼女に近づいていった。

「すみません・・・?」

するとその子は勢いよく俺に振りかえった。

「ジェイソン!!!!」

「愛子!!!!」

愛子だ!俺の彼女が目の前にいた。
愛子は涙で真っ赤になった目をまた涙で埋めた。

「何やってるの!?私待ってたのの!?」

「俺だって3時間も待ったんだよ!」

「嘘よ!私だって待ったわ!電話だってしてもかからないし!」

「俺の携帯に着信なんて一度も入らなかったよ!!」

愛子は立ち上がり店のど真ん中で俺達は怒鳴り合った。
愛子は涙を流しながら俺の胸を何度が叩いた。そして俺はそのまま愛子を強く引き寄せて抱き締めた。

「あ・・・会いたかったよ・・・。」

俺の腕に抱かれた愛子は声を殺して泣いている。俺はこれでもかってくらい愛子を強く抱きしめた。
店の中の客も店員も何があったのかと見つめていたが、そんなことおかまいなしで俺達は抱きしめ合った。
愛子の匂いも、感触も全て失わないように強く抱いた。そして愛子の唇にキスをした。何度も何度も彼女の唇は涙でしょっぱくなっていたが、俺は気にしなかった。
こうして俺達はやっとまた二人になれたんだ。

このあとゆっくり話してみると、何と俺が待っていたのは団体様出口で個人出口とはかなり違う場所で待っていたということ、また愛子が書きとめてきた俺の電話番号が一桁違ったことが判明した。
何度か団体様出口の方も見にきたらしいが、ちょうどその時俺が空港の中に入って飛行機が無事到着したか聞いていた頃だったようだ。
神様が俺達の愛を確かめさせるためにこんな困難を与えたに違いない。
俺が愛子との思い出をずっと考えていたと言ったら、愛子も同じように俺との出会いから今までを思い出して涙が出たらしい。
そして同じシャトルの運転手に乗ったことや、同じ運転手に同じような話をしたことを知って、お互い吹き出して笑った。
俺達は前と変わらないくだらないジョークを言って笑い、何度も何度も手を繋ぎ、そして止まないキスをした。
店の外に出て俺がまたしつこいくらい愛子にキスをすると、決まって愛子は「しすぎよ。」って笑いながら俺から顔を離すんだ。

俺はもう絶対離したくないから、それでもまたしつこいくらいキスをした。

これが愛子と俺の物語。今は無事籍も入れ、二人で喧嘩も絶えないが仲良くハワイで暮らしてる。
俺はだいぶ変わったと思う。夜の仕事も足を洗い、今は普通の8時から5時まで仕事をしている。愛子は元々頭が良かったこともあるが、無事職を見つけ今は資格の勉強をしながら家事を両立していた。
朝は一番に「おはよう」って言って、夜は一番最後に「おやすみ」って言って、休日は二人で海に行ったりハイキングに行ったりしている。
たまに喧嘩をすると決まってどちらかが家を空けるが、決まって家で待ってる方は出ていった方が帰ってくるのを待っている。
そして仲直りをして、また愛し合うんだ。
いろいろあった俺達だけど、今は愛子のおなかの中に俺達の愛の結晶がすくすくと育っているんだ。
国籍の違う二人にとって問題は山積みでした。
言葉や文化、そして考え方。二人で話し合っても二人が育った環境が違うためどうやっても分かり合えなかったり、一緒にいるためには「別れ」か「結婚」と究極の選択を迫られたりと苦労が堪えませんでした。
だって二人は共に似ている性格だから「遠距離」なんて考えられなかったんでしょう。いろいろありましたが、今二人は仲よく、そして幸せに同じ土地で暮らしています。
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