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蒼咎のシックザール  作者: ZERO-HAZY
第三章 冥幽との邂逅
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26-B -四死公-

 アスモデス四死公(ししこう)のグレモリーは、奈樹(なじゅ)の力を()めていた。戦う気があるのかないのか、(ふたた)び自身の髪を椅子(いす)のようにして座ってしまう。

 不意打(ふいう)ちのようでいい気分がしなかったが、奈樹が素早(すばや)咎力(きゅうりょく)()める。


グレモリー「んー……そうじゃないのよねぇ」


 難しそうな表情を浮かべる。奈樹の手の咎力に氷が宿(やど)り、グレモリーへ発射される!


奈樹「アイシクル・バースト!」


 無数(むすう)氷柱(つらら)が飛んでゆき、壁に突き刺さる! 標的にしていたはずのグレモリーの姿は消えていた。


グレモリー「()めすぎ…余計(よけい)な力を入れすぎよ?」

 

 瞬時(しゅんじ)に奈樹の背後に回り込んだグレモリー。後ろから奈樹の左肩に(あご)を置いた。それを見て、動こうとする蒼輝だったが……。


グレモリー「来ちゃダ・メッ。そこで見ていてね」


 細い人差し指を()()ぐ立てて、蒼輝に停止(ていし)するように合図する。


蒼輝「……!」


グレモリー「こういうこと(はじ)めてなんでしょう? 痛くしないから……。さぁ…力を抜いて…」


 奈樹の背後から、左手で奈樹の左手首を持ち、上へ向けるように手の平を持つ。


奈樹「……」


グレモリー「ゆっくりでいいのよ…。手本を見せてあげる…」


 右手で咎力を発生させる。それは(うす)い紙のような形で手の平に浮かび上がる。


奈樹「…!」


 月花(げっか)氷鶴(こおりのつる)を作った時のことを思い出した。それを脳内(のうない)にイメージして、真似(まね)をするように咎力の形成(けいせい)挑戦(ちょうせん)した。


グレモリー「そう…とってもいいわよ…。(りき)んじゃダメ…力を()いて…リラックスよ」


奈樹「……」


グレモリー「まだ…力入ってる…」


奈樹「あっ…」


 耳元で(ささや)かれ、その吐息(といき)で体がブルっと(ふる)えて声が出てしまう。そして自然に力が抜ける。


グレモリー「そう…それくらいが最小限(さいしょうげん)の咎力の具現化(ぐげんか)できる状態…。それじゃ次はコレ…」


 グレモリーの髪が()びながら動き出し、奈樹の身体にまとわりつく。


奈樹「…!」


グレモリー「怪我(けが)をさせたりしないわ…いい?」


奈樹「どうして…こんなことをするんですか…?」


グレモリー「……」


 グレモリーは答えなかった。これだけの至近距離(しきんきょり)なのに、敵意(てきい)が一切感じられない。ただただ疑問(ぎもん)だけが()き上がった。


蒼輝「……(勾玉(まがたま)…マテリア…。もうとっくに来てもいいはずだ…どうして来ないんだ…?)」


 マテリアの召喚術(しょうかんじゅつ)。強い幻召獣(げんしょうじゅう)を呼び出すには、長い時間が掛かり、多くの血を(よう)する。その(すき)の多さから、勾玉が護衛(ごえい)にいる。

 冥幽界(めいゆうかい)に突入する前に立てた作戦。それは召喚で呼び出した強力な幻召獣で、アスモデス四死公(ししこう)とアスモデスを一網打尽(いちもうだじん)にするものだった。

 仮に全員を倒せずとも、多大なダメージを与えることができれば十分という考えの作戦だった。

 

 だが、勾玉とマテリアは来なかった。それもそのはず…。二人は風魔に強襲(きょうしゅう)され、封咎具(ふうきゅうぐ)によって咎力を(ふう)じられた状態。そして、この城の地下牢獄(ちかろうごく)にいるのだから…。




 そして……その頃、月花はキマイレスに追い詰められていた。


キマイレス「ほーう。今のも()けれるか」


月花「くっ…」


 こめかみから血が流れていた。まるでロックオンしているかのように、逃げても逃げても的確(てきかく)に自身へ向いてくる。こめかみに銃口(じゅうこう)が当てられたことが二度、三度あった。ギリギリで回避しているものの、(はな)たれた散弾(さんだん)にカスってしまい、ダメージを受けていた。


キマイレス「どこまで反応できるか……チキンレースでもしてみるか?」


月花「どういうことです……」


キマイレス「交互に攻撃し合うのさ。俺もそっちの攻撃をギリギリで避けてやる。それをひたすら繰り返し……当たった方の敗北()だ」


 正気とは思えない提案(ていあん)。まるでゲームを楽しもうとしているかのようだった。


月花「……(勾玉さん…マテリアちゃん…遅いな…。このままじゃジリ(ひん)だ…この悪魔はまだ(あき)らかに手を抜いている…。このままじゃ勝てない…)」




 そしてその頃……バサラはゼパイルと戦っていた。


ゼパイル「(あめ)ぇよ!」


 手甲(てっこう)を付けた手でストレートのパンチを放つ! バサラは剣を交差(こうさ)させて、防御(ぼうぎょ)する! (いきお)い良く吹き飛ぶが、右手に持った楼黤(ろうあん)宝刀(ほうとう)益荒男(ますらお)を突き刺してブレーキを掛けて止まる。


バサラ「…くっ…」


マリア「バサラ!」


 マリアがバサラに()()り、法術(ほうじゅつ)によって受けた傷を治療(ちりょう)する。


ゼパイル「そうやって傷を(なお)すだけ、痛みを何度も味わうことになる。やはり女…お前を()かせてやりたい」


 その狂気染(きょうきじ)みた視線にマリアが気が付いて、手が止まる。


ゼパイル「(いく)ら傷付けても、自身で傷を治療できる…そしてまた俺が啼かせる…。最高じゃねぇか…」


バサラ「女を痛めつけるか…いい趣味じゃないな……。男は女を守るもんサ…」 


 傷が治ったバサラは、マリアの前に立つ。


バサラ「益荒男(ますらお)は女を守り、手弱女(やおやめ)は男を(ささ)える…」


ゼパイル「ハッ! 女は男の玩具(おもちゃ)だ! 男の前じゃ啼くことしかできねぇ生物なんだよ! 男の思うままに、されるがままにしとけばいい! そう思う奴がどれだけいると思っている? その考えこそ人間の悪魔に近しい姿!」

 

バサラ「そんな考え持ってないサ……。俺はマリアを……全ての女を傷付けたりしない」


ゼパイル「アスモデス様も紫闇とかいう女を手中(しゅちゅう)にするために刻印(こくいん)を付けた……。それが悪魔のやり方だ。女に対する(あつか)い、所有物(しょゆうぶつ)という証だ。そして……多くの人間が同じように真似をしている」


マリア「バサラは貴方とは……悪魔とは違います!」


 マリアはまた、距離(きょり)を開けて(かま)える。いつゼパイルが自分を(ねら)ってきても対応できるようにするためだった。そして、考えていた。勾玉とマテリアのことを。作戦が実行されててもおかしくない時間だということを。



 そして……レイとアシュの戦い。


アシュ「ふっ…なかなかやるな!」


 ぶつかりあったレイとアシュは、一度大きく距離(きょり)を取った。


レイ「君もね。悪魔は人とは身体能力(しんたいのうりょく)根本的(こんぽんてき)に違うみたいだね」


 レイの腕には冥増輪(めいぞうりん)。その力でアシュと互角の状態だった。


アシュ「なかなか楽しませてくれる…しかし、私には(かな)わないようだな!」


レイ「それは……どうだろうね」


 アシュはまだ本気を出していないことは、レイは理解していた。美意識(びいしき)が高く、自惚(うぬぼ)れているように思える悪魔。しかし、相手をリスペクトした正々堂々とした戦い方にはアシュなりの美学(びがく)を感じ、レイはその姿勢(しせい)関心(かんしん)していた。

 



 その頃……四死公の戦いを見ていたアスモデス。そして風魔。


アスモデス「……四死公(ししこう)はまだ任命(にんめい)して日が浅いせいか…好戦的(こうせんてき)なのはゼパイルだけと言ったところか…。仕方あるまい…他の者には()が力を貸してやるか…」


 アスモデスは玉座(ぎょくざ)に座りながら、空に向かって手を操作する。


 それぞれ別の部屋に居る奈樹と蒼輝、月花、レイの所へ、一つ目の巨大な悪魔が降り立つ!


レイ「これは…!」


アシュ「ふっ…なるほど。考えたものだ。これで戦況(せんきょう)は私が数倍有利と言うことか…」


レイ「……」


 アシュは出現した悪魔を見上げていた。レイはどんな手が来てもいいように、集中力を()()まして(やり)(かま)えた。




奈樹「なっ…!」


 グレモリーの髪に(しば)られた状態。そこに現れた悪魔。油断させておいて拘束(こうそく)したのは罠だったと思った、その時…。


グレモリー「アスモデス…。余計(よけい)真似(まね)を…」


 奈樹は耳元で(はっ)せられた声を確かに聞いた。四死公である者がアスモデスを厄介者(やっかいもの)のように言い放った言葉を。そして、グレモリーは、奈樹に(から)ませていた髪をスルスルと解いてゆく。


グレモリー「いいトコロなの…邪魔よ…!」


 奈樹を背に、グレモリーは悪魔と対峙(たいじ)する。




月花「くっ…増援だと…!」


キマイレス「…ほーう。これはこれは…一つ目悪魔のサイクロプスじゃないか。こんな所でなんの用だ?」


 のんびりと歩いて、ポンッポンッと悪魔を(たた)く。


キマイレス「ん…? どうした? んん?」


 徐々に力が強くなってるのか、バシバシと叩くキマイレス。サイクロプスは叩かれたことで敵と判断したのか、それとも何かの逆鱗(げきりん)に触れたのか、悪魔がキマイレスに(おそ)いかかる!


月花「なっ…!?」


 サイクロプスの拳は地面を殴っていた。キマイレスは(ひね)りを加えたバック転で回避していた。背を向けて着地して、半回転して銃口を悪魔へと向ける。


キマイレス「悪魔掃除の時間だ」


 

 アスモデス四死公のグレモリー、アシュ、キマイレスは、アスモデスが増援のつもりで放った悪魔と戦いを始めた。サイクロプスも十二分に強い悪魔だった。元々の階級は第九(ナインス)悪魔(デーモン)であったが、アスモデスの力によって階級以上の力を持っていた。

 四死公が戦い始めたのは、ほぼ同時だった。そして最も早く倒した者は…。



アシュ「ふっ…外見通り(うつく)しくないな…。力尽(ちからつ)きる瞬間さえも」


 アシュのレイピア、百花繚乱(ひゃっかりょうらん)によって切り裂かれたサイクロプスはバラバラになって倒壊(とうかい)した。


レイ「実力ナンバーワンというのは…あながち間違いでもないみたいだね」


アシュ「その通り! 私こそがナンバーワン!」


 人差し指をピンと立てて、またしても器用な決めポーズを取る。



 そして他の部屋……数発攻撃を防御はしたものの、キマイレスはサイクロプスを後一息といった状態にまで追い込んでいた。


キマイレス「なかなか手強かったが…これでフィニッシュだ」


 クルリとジャンプして攻撃を回避したキマイレス。その巨大な頭部に散弾の連射を撃ち込むと、サイクロプスは力なく倒れた。


月花「強い…あんな巨大な悪魔を…この短時間で…」


 その戦いを見ていた月花は…自分ではキマイレスに勝つ手段は無いことを見せつけられてしまったと感じていた。




グレモリー「ハァ…ハァ…」


 何度も攻撃を()らってしまい頭から血を流し、今にも倒れそうになっているグレモリー。戦いは互角で、どちらが勝ってもおかしくない状態だった。


グレモリー「なぜ…こんなサイクロプス(ごと)きに…。ワタクシのほうが力は上のはずなのに…。まさか…アスモデス…! ワタクシがこうすることを…対峙することを見越して…何か細工を……? うっ…」


 目眩(めまい)でよろける。何とか()()るグレモリー。しかし、その(すき)を見逃さなかったサイクロプスは容赦(ようしゃ)なくグレモリーへ(こぶし)を放った!


グレモリー「しまっ……!」


奈樹「ライト・シールド!」


 奈樹が光術で発生させた壁で受け止めた。


グレモリー「…!」


 ビキッ…ビキッ…!


奈樹「…!」


 壁にヒビが入り、(またた)()に壁が()れる! そのままの(いきお)いで奈樹へ殴りかかる!


蒼輝「させるかよっ!」


 奈樹の前に立ち、蒼輝が二本の剣を交差(こうさ)させて受け止めていた。


奈樹「蒼輝!」


 グレモリーの危機を救った奈樹と蒼輝。敵であるはずの四死公の一人を守り、二人はサイクロプスと対峙した。

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