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アイコン三国志外伝 作者:小金沢

蜀の章

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掌編(何祇伝)      一人でしゃべる男

~~~益州えきしゅう 何祇の邸宅~~~


挿絵(By みてみん) 何祇かし
「おや。これは珍しいお客さんだ」


挿絵(By みてみん) 張嶷ちょうぎょく
「………………」


挿絵(By みてみん) 何祇かし
「それにしても久しぶりだねえ。10年、いや20年ぶりかい?
幼馴染と言っても大人になったら他人同士、すっかりご無沙汰だ。
まあそんなとこに突っ立ってないで上がんなさいよ」


挿絵(By みてみん) 張嶷ちょうぎょく
「結構」


挿絵(By みてみん) 何祇かし
「上がりたくないって? なんか事情がありそうだね」


挿絵(By みてみん) 張嶷ちょうぎょく
「依頼」


挿絵(By みてみん) 何祇かし
「何か頼みがあると。お前さんあいかわらずその二文字縛りをやってるんだね。
まあ二文字でもしゃもじでも伝わるなら大丈夫だ。
幼馴染のよしみでなんでも話してくださいよ」


挿絵(By みてみん) 張嶷ちょうぎょく
「借金」


挿絵(By みてみん) 何祇かし
「これはわかりやすい。この世で一番わかりやすい二文字だね」


挿絵(By みてみん) 張嶷ちょうぎょく
「切望」


挿絵(By みてみん) 何祇かし
「切望するほど金に困ってると。
いったい何があったんだい。
お前さん、酒や女で身を持ち崩す人じゃないだろうに」


挿絵(By みてみん) 張嶷ちょうぎょく
「病気」


挿絵(By みてみん) 何祇かし
「病気か。そりゃなかなか避けようがない。雨や雷と一緒だ。
でも見たところ、どこも悪そうな感じはしないけど」


挿絵(By みてみん) 張嶷ちょうぎょく
「家族」


挿絵(By みてみん) 何祇かし
「お前さんじゃなく、家族の誰かが病気になったのか。
そりゃ大変だ。よしわかった! いくらでも融通しようじゃないか」


挿絵(By みてみん) 張嶷ちょうぎょく
「利息」


挿絵(By みてみん) 何祇かし
「何を水臭いこと言ってるんだい。困った時はお互い様、
それも離れていたって幼馴染じゃないかい。
返せる時に返せるだけ持ってきてくれればいいよ」


挿絵(By みてみん) 張嶷ちょうぎょく
「…………感謝」


挿絵(By みてみん) 何祇かし
「それじゃあちょいと待ってておくれよ。
あいにくと今は手元が不如意でね。
金になりそうな物を見繕って、質屋に駆け込んでくるよ。
だから時間が掛かりそうなんだ。遠慮せず上がって待っといてくれ」


~~~錦屏山きんべいさん~~~


挿絵(By みてみん) 何祇かし
「やれやれ、あれだけ御礼なんかいらないって言ったのに律儀な男だね。
地図と紹介状なんて押し付けやがって。あたしをどこに行かせようってのかね。
それにしても険しい山道だ。こんなとこに誰が住んでるんだか。
おーい。誰かいますかい?」


挿絵(By みてみん) 紫虚上人しきょしょうにん
「………………」


挿絵(By みてみん) 何祇かし
「おやまあ、また無口なお人だよ。
張嶷さんの友達なだけはあるね」


挿絵(By みてみん) 紫虚上人しきょしょうにん
「友人ではない」


挿絵(By みてみん) 何祇かし
「よかった、二文字以上はしゃべってくれるようだ」


挿絵(By みてみん) 紫虚上人しきょしょうにん
「何を占って欲しい」


挿絵(By みてみん) 何祇かし
「おお、誰かと思ったら占いをやる人だったのか。
張嶷さんはあの通りろくに説明してくれないからね。
わけもわからずここまで来たんだよ」


挿絵(By みてみん) 紫虚上人しきょしょうにん
「何を占う」


挿絵(By みてみん) 何祇かし
「ううん、急に言われても困ってしまうな。
特に占ってもらわなくてもいいんだが……」


挿絵(By みてみん) 紫虚上人しきょしょうにん
「義理は果たさねばならぬ」


挿絵(By みてみん) 何祇かし
「仙人みたいな人でも義理人情を感じるんだね。
それにしても仙人に義理があるなんて張嶷さんはすごいな」


挿絵(By みてみん) 紫虚上人しきょしょうにん
「………………」


挿絵(By みてみん) 何祇かし
「はいはい、占いたいことだったね。
そんな恨めしい目で見ないでおくれよ。
ええと、なんにしようかね。
そうさなあ……昨日見た夢とかでもいいかい?」


挿絵(By みてみん) 紫虚上人しきょしょうにん
「話せ」


挿絵(By みてみん) 何祇かし
「あたしの家の裏庭にね、井戸があるんだ。
その井戸の中から桑の木が生えてきたっていう夢を見たんだ」


挿絵(By みてみん) 紫虚上人しきょしょうにん
「寿命だ。
桑という字は十が4つと八が1つと分解できる。
井戸に木が生えれば植え替えることになる。
お前が48歳で死ぬことを表している」


挿絵(By みてみん) 何祇かし
「ははあ……。それはなんともはや。
聞きたくなかったような、聞いて良かったような」


挿絵(By みてみん) 紫虚上人しきょしょうにん
「天命には逆らえない」


挿絵(By みてみん) 何祇かし
「まあこんな戦乱の世の中だ。
若者や子供も死んでいくのに、48まで生きられれば御の字だろう。
残りは……ええと12年くらいかな。大事に生きるとするよ。ありがとさん」


~~~益州 成都せいと~~~


挿絵(By みてみん) 何祇かし
「なに、また視察が来るって?
この暑いのにご苦労なことだね。
この前来た馬謖ばしょくさんだろう。
また鼻薬を嗅がせてやれば、良いように報告してくれるだろうさ」


挿絵(By みてみん) 黄月英こうげつえい
「馬謖じゃないです。私です」


挿絵(By みてみん) 何祇かし
「…………こりゃどうも」


挿絵(By みてみん) 黄月英こうげつえい
「良いことを聞いたです。帰ったら馬謖を収賄でとっちめるです」


挿絵(By みてみん) 何祇かし
「いやあ、さっきのは軽い冗談というかなんというか。
よしてくださいよ。冗談で馬謖さんがとっちめられたら寝覚めが悪いや」


挿絵(By みてみん) 黄月英こうげつえい
「安心するです。お前もとっちめるです。
怠けてると聞いたです。本当なら殺すです」


挿絵(By みてみん) 何祇かし
「な、怠けてるだなんてそんな滅相もない」


挿絵(By みてみん) 黄月英こうげつえい
「証拠を見せるです。収監してる囚人は6人いるです。
全員の罪状と処罰を30秒以内に答えるです。1、2、3」


挿絵(By みてみん) 何祇かし
「右から暴行、傷害、窃盗、暴行、殺人、窃盗。
棒打ち10、20、戒告、棒打ち10、死罪、棒打ち20」


挿絵(By みてみん) 黄月英こうげつえい
「28、29……。
一人目の窃盗は戒告で二人目は傷害と同罰の理由はなんです」


挿絵(By みてみん) 何祇かし
「一人目は初犯で二人目は重犯、
それも故意ではないといえ被害者に怪我をさせています」


挿絵(By みてみん) 黄月英こうげつえい
「わかったです。命拾いしたです。帰るです」


挿絵(By みてみん) 何祇かし
「…………やれやれ、なんとかしのげましたかね。
こんなこともあろうかと、とっくに処罰の決まってる囚人を残しといたのと、
カンペを用意しておいた甲斐がありましたよ」


~~~数年後 益州 広漢こうかん~~~


挿絵(By みてみん) 楊洪ようこう
「またサボっているのか」


挿絵(By みてみん) 何祇かし
「いやいやいや、サボってるだなんて人聞きの悪い。
楊洪さんが見えるまでは働いてましたとも。
たまたまこうちょいと一呼吸入れた時に、ちょうど来られた次第で」


挿絵(By みてみん) 楊洪ようこう
「よだれの跡を拭いてから言い訳するのだな。
その怠け癖さえなければもっと出世できたろうに」


挿絵(By みてみん) 何祇かし
「下手に出世したら忙しくなって、おいそれと怠けられませんからね。
そんなのまっぴら御免ですよあたしゃ」


挿絵(By みてみん) 楊洪ようこう
「だがおかげで私はいい迷惑だ。口さがない者たちは、
お前の出世を私が妨害していると勘違いしている」


挿絵(By みてみん) 何祇かし
「はあはあ、あたしも耳にしましたよ。
なんでも楊洪さんがあたしにこう聞いたそうですね。
おい何祇、どうしてお前の馬は走らないんだい?
そしたらあたしがこう返した。
そりゃ当たり前だ。乗ってるあんたが走らせないんだから!」


挿絵(By みてみん) 楊洪ようこう
「フン、つまらん話だ」


挿絵(By みてみん) 何祇かし
「まったくですよ。そもそも楊洪さんは馬になんて乗れやしない。
筋金入りの勉強嫌いで、馬に乗る勉強も練習もしたくないってんだから」


挿絵(By みてみん) 楊洪ようこう
「乗馬ができないのはお前も同じだろうが」


挿絵(By みてみん) 何祇かし
「あたしはそもそも馬に乗ろうなんて発想がありませんや。
だいたいなんのために馬に乗るんです?
急ぐためでしょうが、あたしは生まれてこのかた急いだことがありゃしない!」


挿絵(By みてみん) 楊洪ようこう
「威張ることではあるまい」


挿絵(By みてみん) 何祇かし
「だからあの話もこう変えるべきですよ。
楊洪さんがあたしにこう聞くんだ。
おい何祇、どうしてお前の馬は走らないんだい?
そしたらあたしがこう返す。
しっかりしてください、馬なんてどこにもいやしませんよ!」


挿絵(By みてみん) 楊洪ようこう
「私がただの馬鹿になっているではないか」


挿絵(By みてみん) 何祇かし
「おや驚いた。馬だけじゃなく鹿もいたのか!」


挿絵(By みてみん) 楊洪ようこう
「………………」


~~~数年後 益州 広漢~~~


挿絵(By みてみん) 治無載ちむさい
「おい何祇、しっかりしろ!」


挿絵(By みてみん) 蛾遮塞がしゃさい
「カシサン、ガンバッテー! ガンバッテー!」


挿絵(By みてみん) 李意其りいき
「………………」


挿絵(By みてみん) 何祇かし
「ははは、あたしゃもう駄目ですよ……」


挿絵(By みてみん) 治無載ちむさい
「何を弱気なことをぬかしやがる。
お前はまだ若い。48歳だろうが」


挿絵(By みてみん) 何祇かし
「48だから駄目なんですよ。
と言うのもあたしが若い頃に…ごほげほごほ」


挿絵(By みてみん) 治無載ちむさい
「無理にしゃべるんじゃない。おとなしくしていろ」


挿絵(By みてみん) 何祇かし
「なんとご無体な。あたしからしゃべりを取ったら何も残りゃしませんよ。
あたしを引き立ててくれた楊洪さんって人もそう言ってました。
そうそう、楊洪さんといえば面白い話があってね、
ある時、あたしにこう聞いたんだ。おい何祇、お前の馬はごほげほごほ!」


挿絵(By みてみん) 治無載ちむさい
「だからしゃべるなと言ってるだろ!」


挿絵(By みてみん) 何祇かし
「やれやれ参りましたね。あたしの親はお前が黙る時は死ぬ時なんだろうって、
よく言ってましたがごほげほごほ!!」


挿絵(By みてみん) 蛾遮塞がしゃさい
「カシ…………」


挿絵(By みてみん) 何祇かし
「あたしゃ幸せ者だ。羌族のあんたらと仲良く出来て、
好き放題しゃべりながら死ねるなんてね。
口から先に生まれて来た身にゃあこれ以上ない果報ですよ。
だからどうか最後まで聞いててくださいな」


挿絵(By みてみん) 治無載ちむさい
「わかった。もう何も言うまい。
異民族の俺たちをお前は平等に扱ってくれた。
お前にならと俺たちは従ったんだ。お前の頼みならなんでも聞く」


挿絵(By みてみん) 李意其りいき
「………………」


挿絵(By みてみん) 何祇かし
「ところでその、さっきから黙って横に座ってる爺様は誰ですかい?
あたしにだけ見える死神ってやつですかね」


挿絵(By みてみん) 治無載ちむさい
「ああ、一言もしゃべらないからよくわからんが仙人らしい。
たぶん見舞いに来たんだろう」


挿絵(By みてみん) 何祇かし
「仙人ですって。するってえと張嶷さんに紹介された……。
そういえばあの人の名前も聞いてなかったな。
たぶんあの仙人の知り合いなんでしょう」


挿絵(By みてみん) 治無載ちむさい
「あんたは羌族だけではなく仙人にも慕われてるんだな」


挿絵(By みてみん) 何祇かし
「恐縮です。そうそう、こんなあたしにもね、無口な友達がいたんだ。
張嶷さんっていう人でね。これがもう筋金入りの極端な無口で、
なんせ一度に二文字しかしゃべらない。いや冗談じゃなくて本当なんだ。
それであたしがある時ごほげほごほ――」


~~~~~~~~~


かくして何祇は一人でしゃべり続けた。
その裏表のない性格は羌族にも慕われ、
彼のいるところ、賑やかな声が絶えることはなかった。

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