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ソライロ
作:zens


「いったーい・・・。あれ?ここはどこでしょう?」

「・・・俺の頭の上だ。つーか、まず謝罪しろ。いや、その前にそのでかい尻どけてくれないか?」

「で、でかい尻!?女性に向かって失礼です!・・・・って、あれ?私、誰に向かって話しているんでしょう?」

「ここだ、ここ。あんたの尻の下に敷かれてるだろ・・・」

「・・・あ」

「あ、じゃない!全く、空から女の子が降ってきたと思ったら・・・。一体何者なんだ、あんたは?」

「申し遅れました。私は・・・」



今日も空は青い。
今日も空には色がある。
かつて、君がくれた青色が・・・。


「いいよなあ、僕も雲になりたいよ」
「だったら雲になって流されて、どっか行きなさいよ。蒼」

僕は、簗瀬 蒼 (やなせ あお)。
ごく普通の高校3年生。
今年、受験生なはずだけど、空ばかり見ているせいか高校でも1,2を争うバカだ。
今日も、屋上で授業をさぼって空を見上げている。
僕自身、自分の好きなことをして何が悪いのか、全く分からない。
それに学業だけで、人生の全てが決まるとは僕は思わない。

思わないけど、今の世の中的にはそういう風潮みたい。
高校とかは、その典型のようなものだ。

「何だ、瑞希か。何の用?」

今、僕に失礼なことを言ったのは、高校のクラスメイト、翡翠 瑞希 (ひすい みずき)。
高校に入ってからの知り合いだけど、とにかくうるさい。
事あるごとに、僕に注意をしてくる天敵。
名前で呼んでもいいと言うので、そう呼ばせてもらってる。

屋上はあまり人が来ない、というよりも普段は鍵が掛かっていて入れない。
僕が入れるのは合鍵を持っているから。

誰も来ないこの場所で静かに空を眺めるのが僕のお気に入り。

「何だ、じゃないわよ。先生が呼んでる。また、授業さぼって。これじゃあ、卒業できないでしょ」

だけど、瑞希が来たせいで折角の静かな場所が台無しだ。
もうちょっと静かにしてほしい。

「うん、わかったから静かにしてよ。もう少し寝たら行くから」
「ちょっと。あからさまに迷惑ですって顔してる。それに蒼が授業さぼっていなくなるから、悪いんでしょ」

そう言って、僕の方に来る瑞希。
とてもお節介やきで、僕の母親かと正直言いたくなる。
1年の時からの知り合いだけど、その頃から全く変わっていない。
きっと、ダメな僕を公正させることを目標にしているのかな?
現生徒会会長だし。

「何言ってるの!?さっさと、起きてよ」

近づいてくるのはいいけど、これだと見えてしまうんじゃ・・・。
そして、瑞希は僕の視界を遮るように立った。
瑞希のスカートは別に長くない。


「あ・・・」

白か。
そう、見てはいけないところが見えてしまった。

「あ、って何よ?」

訝しげな視線を、僕に向けるものの、自分で気づいたのか、真っ赤になる瑞希。

「・・・み、見たよね?ばかあああっ!!」

見たよねと聞くので、見てないですと僕は言おうとした。
けれども、その言葉はうめき声としてしか、口からは出なかった。

「ぐえっ・・・」

次の瞬間、僕の顔めがけて、踵が降ってきた。
当然、避けられるはずもなく、顔面直撃。
僕が、最後に見たのは、瑞希のスカートの中の白いものだった。

「ふんっ。この変態、バーカ!!」

そして瑞希は、怒って帰ってしまった。
僕は、既に気絶していたので、その言葉を聞いてはいなかった。
この暴力的な性格でなければ、この高校でも1番の美少女なのにね。



「・・・いててて」

僕が、目を覚ましたのは昼休みも近い12時のことだった。

「全く、瑞希は何であんな暴力的なんだろ」

瑞希は僕以外の人には、暴力に訴えることはそうそうない。
僕は、嫌われているんだろうな。

「ま、あと1年だし、どうでもいいか」

そう言って、僕は空を見上げる。
やっぱり、空を見ていると心が落ち着く。

今日の空は、快晴だ。
雲は1つない・・・いや、1つだけあった。
何か、輪のような形をした不思議な雲だった。

そして、僕はその雲に違和感を覚えた。

「・・・何か、あの雲光ってるような。雷かな」

その雲は確かに光を発していたんだ。
その光はだんだんと大きくなっていた。


そして、一段と光ったかと思うと、その雲は消えてしまった。

僕は、思わず起き上がった。
よく雲のあった場所を凝視する。

「あれ?おかしいな。・・・・あっ!!」

雲は跡形もなく消え去っていた。

けれども、何かがそこにはあった。
そして、僕はその何かがゆっくりと落ちてくるのが分かった。

「・・・何か、こっちに来るような」

それは、だんだんと大きくなってきた。

「って、人!?」

そう。それは確かに人だったのだ。
それは確実にこっちに向かってきていた。

げ、やばっ。
そう思ったときには、時既に遅し。
見事にそれは僕に直撃したのだった。




「ねえ、君?ねえってば!!」

また僕は気絶していたらしい。
・・・さっき何か人が降ってきたような気がするんだけど。
僕は、まだ体に力が入らない。

「ねえ、起きてよ」

誰かが僕を揺さぶっている。

「どうしよう・・・。いきなり人殺しの重罪を背負う羽目になるなんて・・・。」

声から察するに女の子みたいだ。
その声は、とても澄みきったまるで小川のせせらぎのような声だった。

「・・・周りに誰もいないし、証拠隠滅したらバレないよね」

何か物騒なこと言ってない?
声がきれいなのに、言ってることはどう考えても黒い。
すごく身の危険を感じるんだけど。

「仕方ないか・・・。死ねっ!!」

そう言って、何かを振り下ろした。

「死ねるかあああっ!!!」

僕は必死にまだ動かしたくないと思う体を動かして、その場から飛びのく。
そして、次の瞬間。何か重たいものが落ちる音が聞こえたのだった。

首を動かして避けたものを見ると・・・何と斧だったのだ。

「・・・あ、生きてた」
「・・・」

その斧で僕を真っ二つにしようとした女の子はバツの悪そうな顔をしている。
ただ、僕もその女の子を見て、唖然としている。
斧を持ってるとかそういう問題じゃない。

「・・・ところで、君。どこの人?」

そう、その女の子は青い髪、青い瞳をしたどう見ても日本人には見えない女の子だったからだ。
それに着ている服が、どう見てもこの日本のものではない。

「ええっと・・・」

僕の質問が悪かったのか、非常に困ったという顔をする女の子。
あまり背は高くないほうだけど、非常にかわいいと美人の中間の顔立ちをしている。

困っている顔もまたかわいらしい。

「その前に1つ聞いてもいいかな?」
「あ、はい。どうぞ」

その女の子は、辺りを見回してしばらく考えると僕に聞いてきた。
僕は、こんなかわいい女の子と話をするのは初めてだったので、緊張していた。

「ここって、どこ?」
「・・・」

僕は、閉口した。
いきなり何を言い出すのかと思ったら、ここはどことは・・・。
何か本格的にまずい人と会った気がする。

そもそも、空から落ちてこなかったっけ、この女の子。

「ミストランデじゃないみたいだし・・・」

よく分からないことを言う女の子。
とりあえず、この町のこと聞きたいんだろう。
教えたら、ここから逃げたほうが良さそうだよね。
変なのに関わるとろくな事にならないのは、古来からの常識だよね。

「ここは、日本の南雲市って言う所なんだけど・・・。詳しいことは交番のお巡りさんにでも聞いてみて。とりあえず、校門のとこまでは案内するからついて来て」

そう言って、僕は歩きだす。

その時だった。
僕の頭上が急に暗くなったのだ。

「危ない!」

と、同時に女の子が僕に体当たりをする。
僕は情けなくも、その女の子に吹っ飛ばされる。

が、文句を言おうとした時、すぐ近くに何かとてつもなく重いものが落ちた音が聞こえた。
僕が、さっきまでいた所が、クレーター状になっていた。
そして、そこには・・・。

「あれ、何?」

ゲームに出てきそうな化け物がいた。
何と言うのだろうか。見た目は人型だけど、その体は腐りかかって中身が飛び出ているし、何より右腕が異様なまでに太い。

「・・・新月ね。こんな気持ち悪いもの寄越して。君、エサにされたくなかったらさっさと逃げて。って!?もう逃げてるし!?」

僕は、そいつを見た瞬間、さっさと逃げていた。
いくら何でも、あれを見て逃げないほうがどうかしてる。
屋上の入り口付近で真っ向から対峙する青髪の女の子と化け物。
おかげで、僕は校内へと逃げる術を失っていた。

「ググググッ」
「ったく。こんな雑魚で私を倒せると思ったら大間違いだってことを教えてあげる」

そう言って、手を天に向かって伸ばす。

「来なさい!空創雲牙!!」
「・・・」

僕は、何が起きるだろうかとこんな状況で不謹慎だとは思うけど、わくわくしていた。
けれど、何も起きることはなかった。
女の子は、そのまま固まっている。

「あれ!?どうして何も出ないの?」

そう言って、空を見上げる。
そして、空に向かって絶叫した。

「何で、快晴なのよおおおっ!!」
「グオオオッ!!」

その叫びを、戦いの合図と思ったのか、咆哮をあげた化け物が腕で女の子をなぎ払った。
アニメとかだと化け物は律儀に待ってくれるんだろうけど、そんな甘い世の中じゃない。
無意味に空に向かって叫んでいた女の子は反応が遅れてしまい、両腕で防御するも吹っ飛ばされる。
・・・あれ?こっちに来てるような・・・。

「うわっ」

女の子は僕にぶつかり一緒に飛ばされる。

「ぐっ」

壁に激突し、僕は一瞬息ができなくなった。

「あ、ありがとう。君のおかげで助かったよ」
「どういたしまして。・・・本当は避けられなかっただけです」
「何か言った?」
「いいえ、何も言ってません」

僕がクッションになったために、衝撃が和らいだ女の子が僕に感謝してくれる。
もちろん、僕は助けようなんて思ったわけじゃない。
感謝されるようなことを、僕はしたわけじゃない。

「空は、快晴か・・・。雲さえあればなあ・・・」

女の子はぽつりとそう漏らす。
その言葉が、気になった僕は聞いてみた。

「あの化け物は、一体何なの?それに、あんな化け物の前で空に向かって手を挙げて、何をしようとしていたの?」
「まあ、今の質問でこの世界のことが何となく分かったから教えてあげる。私は、クリス・レイ・ウィンディア。通称、『空の巫女』よ。あの化け物は、私と同じ巫女である『新月の巫女』が召喚したものね」

空の巫女?新月の巫女?
いきなり訳の分からないことを言い出す、女の子に僕は動揺する。

「あ、そうそう。君、名前は?私が名乗ったんだから、あなたも名乗るべきでしょ?それに巫女に逆らうことは神様を除いては極刑だからね」

何だかよく分からないけど、名前を言わないとあの化け物に殺される前にこの女の子に殺されそうだ・・・。
クリスさんは笑っているけど、その目は確かに言わないと殺すと言っていた。

「僕は、簗瀬 蒼」
「ヤナセ アオ?ああ、アオね。私のことはクリスでいいから。みんな、そう呼んでるし」

僕の名前を、クリスさんは不思議そうな顔をしていて聞いていたけど、理解してくれたみたいだった。

「ところで、クリスさん。あの化け物はどうするの?」

僕は、ゆっくりと近づいてくる化け物を指差す。

「うーん、何とかしてみるから。蒼は、ここにいて。私たちの戦いは一般人を巻き込むことは結構多いからね。だけど、私たちが一般人を殺すことはないと言ったら嘘になるかも・・・。でも、基本的には殺したりなんてしないから」

そう言って、にこりと微笑む。
だけど、言っていることは、あまりにも物騒極まりないことだと思う。

「だけど、例外もあるの。・・・あの化け物みたいな召喚されたものが、その1つ。あれは、何も考えずに相手をただ殺すだけだから」
「それって全然救いになってないよね・・・」

僕は、苦笑いで答える。少し声も震えている。

「まあ、ね。でも、私が蒼を守ってあげる。それに私だってまだ死ぬわけにはいかない。空神様に会うまでは・・・、絶対に。」

その声は、今までで一番意思が篭った強く凛とした声だった。
その空神というのに、会うために生きるか死ぬかといった苦労をしているのだろうか。
だけど、そこまでしてクリスさんが想っている空神というのが、僕は少しだけ羨ましかった。

「じゃあ、行って来るね」

そう言って、彼女は化け物に向かって突っ込んでいく。
そして、斧を化け物に向かって真っ直ぐに構える。

「これでも・・・、食らいなさい!」
「グオッ!?」

そう言って、壁を蹴り、クリスさんは高く跳躍する。
そして、化け物の真上、死角から斧を力いっぱい叩きつけた。

「これで・・・、きゃあっ」
「・・・グガアアッ」

だけど、そんな力いっぱいの斧の一撃をまともに食らったはずの化け物はピンピンしている。
大きくしなる様に右腕が伸び、斧が相手に刺さったままで無防備だったクリスさんを殴り飛ばす。
まともにそれを腹に受けたクリスさんは大きく吹き飛ばされ、壁の上のフェンスに激突した。

「あれを食らって、無傷ってありえないよ・・・」

僕は呆然とする。
クリスさんも同じような顔をしていた。
口からは血が流れ出ている。

「まだまだ、これからよ」

そう言うと、クリスさんはまた立ち上がって化け物に向かっていく。
僕は、ただそれを見ていることしかできなかった。
もしも、僕に戦う力があったとしても、クリスさんのように僕は戦えないだろう。
何故なら、僕にそんな勇気はないからだ。


何故だかは分からないけど、誰もこの騒ぎで駆けつける人はいない。
それに、相変わらず空は雲ひとつない快晴だ。

「はあっ!!」
「ググア!!」

クリスさんと化け物は互角に渡り合っている。

「グルルアアッ!」
「このっ!!」

化け物は腕を大きく振りかぶって、クリスさんに殴りかかる。
彼女は簡単にその大振りな攻撃を避けると、化け物の懐へと潜り込み、その腹に斧を叩きつける。
彼女がさっきまでいた所は、大きな窪みとなっていた。

「ダメね。全然効果がない・・・」

だけど、化け物には全く彼女の攻撃は通じていない。
それに斧がぼろぼろになってしまっていて使い物になりそうもない。
不利を悟った彼女は少しばかり化け物との距離を取った。

それを見た化け物が一瞬だけど、笑ったように見えた。

「グアアアアアッ!」

地面が揺れるほどの叫び声をあげると、化け物はクリスさんに向かって突進していく。
一歩踏み出すたびに、何か液体が体から零れ出している。

「・・・何、あれ?」

その化け物からは、禍々しい何か得体の知れないオーラのようなものが奴の周りを覆っていたからだ。
そして、今までとは比べ物にならない速さでクリスさんに殴りかかる。
クリスさんは、避けることもできずに斧で何とか攻撃を防いでいるけど、斧がだんだんと曲がっているのが分かる。
僕は、その成り行きをただ見ているだけだった。

「くっ、何これ?全く厄介なもの召喚してくれたわね」

口ではまだ強がっているみたいだけど、明らかに相手に押されている。
だが、化け物はクリスさんの追撃をいったん止める。
よく見ると左腕は10本ほどの触手へと変化していた。

「なっ!?」
「ククク・・・」

そして、化け物の話し方にも変化が現れる。

「何がおかしいの?」
「ソラノミコ・・・タイシタコトハナイ」

「喋った!?」

俺は、驚いた。
人間じゃないモノが喋っている所を見るのは、初めてだったからだ。

「モウ、オアソビハオワリダ」
「あっさりと言ってくれるね」

だけど、そう言ったクリスさんの表情が驚愕の表情へと変わった。

10本の触手全てを使って化け物が攻撃してきたからだ。
何とか、防いでいるものの傷が増えているのが僕にも分かる。

真っ直ぐ彼女に向かって、振り下ろされるものがあると思えば、真横、後ろから飛んでくるものもある。
あれを避けるのは、かなりきついと思う。

「ッククク・・・」
「っ!?くっ、このっ」

クリスさんは、3本同時になぎ払うと後ろへと、大きく飛び跳ねる。
だが、その足に触手が1本絡みつき、彼女は地面へと叩きつけられた。

「くはっ」

彼女の肺に溜まった空気が押し出される。

「ごほっごほっ・・・」

だけど、化け物は特に追撃をすることはない。

「・・・」

一瞬、化け物がこっちを見て笑った気がした。
と、思った次の瞬間、化け物はクリスさんを子供が飽きたおもちゃを捨てるかのように放り捨てたのだ。

壁に叩きつけられて、ピクリとも動かないクリスさん。
僕は、初めて本当の恐怖を味わった。
何と言っても、唯一の希望であるはずのクリスさんが負けてしまったからだ。

「ククク・・・。ニンゲン、オマエ、エサ」

とりあえず、言いたいことだけはよく分かった。
僕があまりに弱そうだから、先に捕って食うつもりらしい。

そして、化け物は一歩一歩と僕の方へと近づいてくる。
決して、早くはない。むしろ、遅いくらいだ。
だけど、僕は逃げることができない。

化け物の一歩は、僕にとって死を意味する一歩でもあった。
それを理解した僕は動くことさえできない。

そんなことを考えている間にも、ゆっくりと、でも確実に近づいてくる『死』。

その時走馬灯のように甦る記憶があった。


色のない世界。
ずっと1人だった世界。
ずっと拒んできたはずの、この世界。

―いっそのこと、こんな世界なんて滅びてしまえばいいのに―

―いや、この世界から、僕なんて消えてしまえばいいんだ―

それでいいの?
記憶の中の誰かが、そう語りかけた。

私が一緒にいてあげる。君の色のない世界に色を塗ってあげる。だから、私と一緒にこの世界に色をつけようよ。私たちだけの色を、私たちが思うままに。


「いや、違う」

僕は、化け物を見据え、言い放った。

「消えるのは、・・・僕じゃない。お前だ、化け物!この世界の理はお前を認めてなんていない。この世界にお前の色なんてない!」

―世界は決してあなたの価値を認めない。世界は決して今のあなたの存在を認めない。世界は決してあなたがかつていたということも認めない。消えなさい、世界の理に反するもの。其の名は『断絶する理』―

覚えていないはずのあの女の子の声が、聞こえた気がした。

化け物の腕が振り下ろされる。それが僕にはスローモーションに見えた。
そして、僕はそっと目を閉じた。
言いたいことも言ったし、別に後悔なんてしていないさ。

さよなら、僕の世界。

「・・・あの目、・・・あの力。もしかして、彼が・・・」

そして、僕は意識を失っていた。



・・・目が覚めたみたいだけど、ここは?
気がつくと、そこは辺り一面の闇の世界だった。

そっか、僕はあの化け物に殺されたんだ・・・。
何だか、空しい人生だったなあ。

父さん、母さん。先立つ不幸をお許しください・・・。
母さん。父さんから聞いたんだけど、過去に本当に尻に敷いたことがあるって、真面目な話なの?
父さん。母さんの前では頭が全く上がってないとこ、ずっとかっこわるいって思ってたよ。

でも、健康に気をつけて僕の分まで行き続けてください。

そして、クリスさん。
守ろうとしてくれてありがとう・・・。

「蒼!?蒼、起きて・・・」

あれ?この声はクリスさん?
そっか生きていたんだ。あれ、もしかして2人とも死んでるのかな・・・。

「蒼・・・。ぐすっ・・・、起きてよ・・・」

クリスさんが、泣いている声が聞こえた。
僕には今日会ったばかりの僕に対して、何でクリスさんが泣いているのか分からない。
ああ、きっと彼女は根本的に人に優しいんだろうな。

そして、その声は、闇の向こうから聞こえてくる。
僕は、その声を頼りに歩き出した。

どれだけ歩いただろうか・・・。
深い闇の中に、小さいけれども空が見えた。

青い、青い空。
他に何もない青色だけが、そこにはあった。

空の青。・・・これが、僕の色なんだ。
名前も覚えていないあの子がくれた色なんだ。



「うう・・・ん?」

気がつくと、そこは学校の屋上だった。

「蒼!?」

クリスさんが僕の顔を心配そうに覗き込む。
その目は、少しだけ赤くなっていた。

「あれ?化け物は・・・」
「よかった・・・。無事で」

ほっとしたのか、表情を和らげるクリスさん。

「それに、クリスさん。あれだけ傷だらけだったのに・・・」

ほっとしたクリスさんを見て、僕はふと変化に気づいた。
あれだけ化け物に、ぼこぼこにされて傷だらけだったはずが、今は傷1つ残っていない。

「ようやく雲が出てきたから。ほらっ」

そう言って、西の方角を指差す。
そこには、山から少しだけど雲が出ていた。

「あんな遠くのでもいいんだ・・・」
「うん。そこが空で、私の視界内にさえあればね。それに私は、雲があれば何だって作れるから、怪我をしたって全然平気だよ」

そう言って、腕をぐるぐると回す仕草を見せて、笑うクリスさん。
雲は、とりあえずどこでもいいらしい。
だけど、すぐに腕を回すのを止め、空を見上げる。
その空には、少しだけど雲があった。

「クリスさんのこと、少しだけ聞いてもいいかな?」
「あ・・・、別にいいよ」

僕は、ずっと気になっていた。
彼女の言う巫女というのは、何かこっちの巫女とは根本的な違いがあるような気がしていたからだ。

素っ気無い返事をしたクリスさんは、僕の横に歩いてくると隣に座った。
何か考え事でもしているのか、心ここにあらずといった感じだ。

「巫女っていうけど、実際には何をしているの?」

僕の巫女のイメージは、神社でお守りとかを売っているものでしかない。
旅をしていたり、さっきみたいに異形の化け物と戦っていたりというイメージなんて、もちろんない。

「巫女はね、神を探して世界を渡り歩くの。太陽、満月、新月、雨、星、そして空。巫女はそれぞれの国に6人いるの。伝承によるとね、神を連れて帰ったとき、世界は千年の平和を約束されるんだって。だけど、その任を果たした巫女は未だかつていないの。運よく神を見つけることができても一緒に帰ることは難しい。神は世界に1人しかいらないから、他の巫女は全力で自分の神以外を排除する・・・。でも、一生かけて私たちは神を探す旅を続ける。それが使命だから」

クリスさんは、淡々と語る。
でも、僕は疑問に思ったことがあった。

「じゃあ見つからないこともあるってこと?」

「そうだよ。特に私たちの空神様は見つけることが難しいの。私は第15代目の巫女だけど、前任者たちは誰も会うことすら叶わなかったの。14代目は行方不明になっちゃったし、途中で放棄した人もいるし、他の巫女との戦いの中で死んでいった人もいる」
「じゃあ、クリスさんもこれからも戦い続けるってこと?」
「そうね・・・。戦いはあくまでも巫女の運命だから。だから、戦いを避けることはできない。私には家族とかいないし、大切な守りたいものがあるわけでもない。けど、それは運命なの」

そう言って、クリスさんは表情を硬くする。
だけど、その目には迷いもあるように僕は思えた。

「でもね、できれば戦わないで済む方法がないかなって思ったりするんだよ。私、思うんだ。空神様に会えば、きっと空神様が何とかしてくださるんじゃないかって。空神様はね、6神の中で最上位の神様なの。神なら運命を変えられる、私はそう思っているの。って、都合よすぎだよね・・・」

・・・僕だって、他人が何とかしてくれるならそれにすがりたい。
だけど、僕とクリスさんは決定的に違うことがある。
クリスさんは、運命に抗おうとしている。必死になって神を探そうと旅をしていた。そう、彼女は努力を惜しんでいない。
でも、僕は、ただ何もしないで誰かが腕を引っ張ってくれるのを待っているだけ。

「クリスさんは、一生懸命頑張ってると思うよ。さっきだって、化け物に向かって行ったし」
「頑張るだけじゃダメなの。私たち巫女は結果が全てだから・・・。それに化け物を倒したのは、蒼、君でしょ?」

僕の慰めの言葉は、彼女にとって何の意味も持たない言葉だった。
彼女はその表情をさらに硬くするだけだった。

「僕が倒したわけじゃないと思うよ。気がついたら、いなくなっていただけだし」
「そう・・・。でも、これではっきりとしたことがある」

そう言って、クリスさんは僕をじっと見る。

「蒼。君が空神だったんだね。・・・いえ、空神様に対する数々のご無礼をお許しください」
「え!?」

急に口調を変えるクリスさんに驚く僕。
ご無礼って、そんな大げさな・・・。
だけど、彼女の目は真剣そのものだった。

「ですから、蒼は空の巫女である私が守るべき空神様その人なのです」
「・・・」

あまりに唐突なことを言うものだから、僕の頭はパニックに陥っていた。
何だか大掛かりなドッキリのようにさえ思えてならない。
僕が、辺りに不審なものがないかと見回すと、それを不思議に思ったクリスさんが尋ねてきた。

「どうかしました?」
「あ、うん。何かこういうの慣れてないから、もしかしてドッキリなんじゃないかって」
「ドッキリですか?ドッキリって何ですか?」
「・・・」

どうやら本気でドッキリという言葉を知らないらしい。
そもそもクリスさんのこの反応を見る限りでは、ドッキリという線は薄そうだ。

「空神様?」
「うわっ」
「申し訳ありません・・・」

僕が考え事をしていると、顔を覗き込むようにして横からクリスさんの顔が出て来た。
僕が、驚いてその場から退くと、彼女はとても申し訳なさそうに謝る。

「あのさ・・・クリスさんがよかったらでいいんだけど、空神様って呼ぶのやめてほしいんだ。何て、言うのかな。あまり僕は『様』づけで呼ばれるほど大した人間じゃないし。」

僕の言葉に彼女は少し俯く。
そんなにショックを受けるようなこと言ったかな?もしかすると、クリスさんの価値観ではそうだったのかもしれないな。

「・・・」
「あのさ、別に嫌だったら、どう呼んでも構わないから・・・」
「そっか。じゃあ、普通に話させてもらうね」

僕が、最後まで言い切る前に、クリスさんは決断を下した。

「あはは・・・」

最後まで、せめて喋らせてほしかった。
けど、クリスさんは何だかうれしそうだしいいか。

「じゃあ、改めてよろしくね」

クリスさんは、僕の前に立つと僕に向かって右手を伸ばす。
僕はその手を掴むと、彼女の顔を見ようと見上げる。

「よろしく、クリスさん。・・・あ」
「どうかしたの?」
「い、いや、何でもない」

そう言って、僕は彼女の手を離す。
何と言うのだろうか。彼女の服はところどころ破けており・・・何かそれが非常に・・・エロいです。
僕は、急に顔が熱くなるのを感じた。

僕が急に目をそらしたことを不思議に思ったクリスさんは、僕が目をそらした先へとやって来る。
だけど、声を聞く限りではもうバレバレみたい。

「・・・」
「あれあれ?何で視線をそらすのかな?」

どう考えても、意地悪でやっているとしか思えません。

「その服は、どうにかならないの?」

僕は、クリスさんの服に視線を向けないようにして尋ねる。

「空創雲牙を使えば、応急処置はできると思うよ」
「だったら、何で服はそのままなのさ!」
「うーん・・・、そうだねえ・・・蒼を誘惑するためだったり・・・」
「しないよね。後付だよね、どう考えても」
「よく分かったね、偉い偉い」

そう言ってクリスさんは僕の頭を撫でる。
僕はと言うと、うれしいことはうれしいけど、何だか釈然としない。
何か、大事なことをはぐらかされた、そんな気分がするのだ。

でも、空創雲牙ってあまり便利すぎると思うんだけど・・・。

「でもさ、空創運牙って雲さえあれば、何でも作れるんでしょ?だったら他の巫女に負けることなんてないんじゃないの?」

僕は、疑問に思った。
雲は、普通建物内や洞窟と空のないところ以外では、基本的に存在するはずだ。
それに、何でも作れるなら負けることはありえないはずだ。

「・・・そういうわけでもないんだよ」

クリスさんは、そう言うと語り始めた。

「空創運牙は、確かに万能よ。だけど、相手をその能力で攻撃する術がないの。これが、他の巫女と私の大きな違い。じゃあ、何で歴代の空の巫女は、他の巫女に敗れたんだと思う?」
「そうだね・・・。たぶん、その時に神がいなかったこともあるんだろうけど、単純に物量の差じゃないの?」

彼女の問いに、僕なりの意見を述べてみる。
僕は、巫女とか神とかそういうのは知らないから、彼女の話を聞いた上での推測に過ぎない。
クリスさんは、僕の意見に頷くと話を続ける。

「空の巫女が勝てない理由はね、・・・他の5人に最初に潰されるのが私たちだからだよ。もし、私たちが神を見つけてしまえば、他の5人、その神でさえも対抗するのは難しくなるからね」
「・・・じゃあ、クリスさんを追ってきた化け物っていうのも、他の巫女の差し金ってこと?」
「そうだよ。あれは、新月の巫女の能力『月下召来』。夜にしか使えないけど、化け物を呼び出して、支配下に置くことができる。呼ぶことは夜にしかできないけど、効果はその後も続くから結構厄介なの。私が、空から降ってきたのは、要するに逃げてきたってわけ。30匹も相手に私は戦えないし」

どうやら、クリスさんの住む世界では、僕の住む世界とは根本的なことから違っているらしい。
化け物を呼び出して、使役する能力だなんて反則に近いと思う。

「でも、他の巫女がこっちまで追ってきたらどうするの?」

僕は、このことが心配でならなかった。
だけど、クリスさんは心配ないといった感じで笑った。

「他の巫女は、時空転移なんてできないし、できても世界っていくつもあるから、探すだけで一生が終わっちゃうね」
「そっか」

僕は、少し安心した。
安心したら、少し今まで起きていたことがおかしくなった。

「くくっ、あははは・・・」
「どうしたの、蒼?おかしくなった?」
「ううん。たださ、今までのことが、夢なんじゃないかって思ってさ。そう思ったら何だかおかしくて、笑っちゃっただけ」
「そうね、確かに私もこんなとこで空神とのんびりとお喋りしていること自体がおかしいと思う」

僕らは、声をあげて笑った。
楽しいのかもしれない、ちょっとおかしくなったのかもしれない。
だけど、笑い続けた。ただ、僕は心のどこかで、うれしかったのかもしれない。
こうして、笑いあえる人がいたということが。


その時、学校のチャイムが鳴った。
時計を見ると、12時半。もうお昼だった。

「クリスさんは、お昼どうする?その格好じゃ、校内はうろつけないだろうし、そもそも部外者は立ち入り禁止なわけだし・・・。ちょっと、どこかに隠れてて。見つかったらまずい人が来るかもしれないから」
「へー・・・。誰に見つかったらまずいのかな?蒼」

振り返ると、そこには瑞希が腕を組んで、鬼のような形相で立っていた。

「ははっ、あはは・・・」

僕は、情けなくも苦笑いをするしかない。
あっけなく、一番見つかりたくない人に見つかってしまったのだ。

「ねえ、蒼。この状況はどう説明してくれるのかな?屋上で女の子と2人きりで、しかもその女の子の服はボロボロだし。いつ、その子を連れ込んだの?ここで何してたのか言ってくれるよね?」

だけど、その言葉には有無を言わせないだけの力があった。

「え、えーと・・・」

とりあえず、化け物と戦ってました。

こんなこと言って信じてくれるわけないしなあ。
僕が、何て言っていいのか悩んでいると、瑞希はそれを悪いほうに捉えたらしい。

「・・・ま、まさか、蒼。あんた、口では言えないような事をしていたんじゃないでしょうね!?」
「ええっ!?」

うわっ、とてつもなく最悪な方向で考えてるよ。どうなるんだろう、僕?
だけど、僕の予想とは裏腹にあっさりと瑞希は引き下がった。

「まあ、その反応だと、何かあったわけじゃなさそうね。それに、蒼が女の子に手を出すなんて考えにくいしね」
「よかった、瑞希なら信じてくると思ってたよ」

僕が、そう言うと珍しく瑞希は顔を赤くした。

「別に、蒼を完全に信じたわけじゃないんだからね。午後からの授業はちゃんと出てよ。あ、そうそう。お昼まだでしょ。はい、これ。さっきは、踵落としなんてしてごめんね。ちょっと、やりすぎたかなって思ったの」

そう言って、僕の好きな焼きそばパンをくれる瑞希。
何か、今日の瑞希は様子が変だ。
いつもなら、自業自得だとか言って謝ることなんて絶対無いのに。
もしかして、明日は槍でも降るんだろうか?

僕が、そんなことを考えていると今まで会話に入ることができなかったクリスさんが僕に聞いてきた。

「蒼?この人、誰なの?」

すると、瑞希も、

「あ、そういえば、すっかり忘れてた。その・・・外国人の人、誰?」

クリスさんを指差し聞く。

「えーと、こっちは翡翠 瑞希。僕と同じクラス。で、この青髪の女の子はクリスさん」

とりあえず、クリスさんのことは短く済ませる。
あまり長く話すと、余計なことまで言ってしまいそうだからだ。

だが、瑞希は僕があまりに短く紹介したものだから、クリスさんに興味を抱いたらしい。
クリスさんに直接彼女のことを聞き始めた。

「ふーん・・・、で、クリスさんだっけ。蒼とは、どんな関係なの?」
「瑞希さんだよね。蒼と私の関係?うーん・・・、一言で言うと主人と召使?」
「へー・・・、ねえ、蒼。この子の話は本当なの?」

ここ屋上なのに、何だか空気が冷たいです。
父さん、母さん。もう春だと言うのに、何だか冬が戻ってきたみたいです。

「その前に、クリスさんとは僕だって今日始めて会ったんだよ?それに、この子ちょっと頭のネジが何本か外れてるみたいで、時折変なことを言うんだ」
「ふーん、まあ確かに普通に考えれば、ちょっとおかしいわよね」

そう言って、クリスさんを見る。
そのクリスさんは、ちょっと肩が震えていた。

「ちょっと、2人とも。何か私がおかしい人みたいじゃない!第一、あなた。一体、蒼の何よ?蒼はこれから私とミストランデに来てもらうんだから。ね、蒼?」
「げっ、本当に連れて行く気だったの!?」
「そうだよ。じゃあ行くよ、蒼」

そう言って、僕の手を握るクリスさん。
情けないかな、実際に彼女の戦闘を見ている僕としては、逆らったら殺されるんじゃないかって、反抗する気も起きません。
だけど、それに真っ向から反発する人がいた。

「ちょっと!?蒼が嫌がってるわよ。それにミストランデだか何だか知らない所に蒼を行かせるわけには行かない」
「蒼は、嫌がってなんていないよ」

瑞希だった。
僕の左手を掴むと強引に引っ張る。

「いたたた、痛い、痛いってば」

普通であれば、美少女2人に取り合いをされている僕は幸せなのかもしれないけど、当の本人としては全くうれしくない。
瑞希は、ただクリスさんが気に入らないみたいだし、クリスさんが僕を連れて行こうとしているのだって僕が空神だからだし。

「蒼は痛がってるわ。離したらどう?」
「そっちが離したらいいと思うよ」

そう言って、睨み合う2人。
さらに引っ張る力が強くなる。

「いいから、離してぇぇっ!!」

僕が、叫ぶとお互いに驚いたのか離してくれた。
僕は、自由になったことに感謝しつつ、腕をさする。

だけど、彼女たちは互いに睨み合ったままだった。

「あなたが、離さないから蒼があんなにも痛がっているじゃない」
「いいえ、あなたの馬鹿力がいけないんだよ」

互いに責任を押し付けあってるけど、2人とも悪いと思う。
いや。もしかして、僕が悪いのだろうか。
何だか嫌な予感がするし、ここは逃げるしかないよね。

「こうなったら、蒼に直接聞くしかなさそうね」
「そうだよね、こうなったのも蒼がはっきりしないからだもんね」

「「蒼?私たちのどちらを選ぶの?」」

その時、僕は既に屋上の入り口まで逃げていました。
我ながら、情けないと思うけどね。

「あら?」
「あれ?」

彼女たちは、すぐに僕が逃げたことに気づき、こっちを睨んでいました。

「「蒼、逃げるなあ!!」」
「ごめんなさい」

そう言って、僕はさっさと逃げる。
どっちの味方をしたって、バッドエンドしか思いつきません。





と、見せかけて僕はまた屋上に戻ってきた。
さすがに、掃除用具入れに隠れていたなんてあの2人は思わないよね。

まあ、おかげで何か臭いがついたけど・・・。


「ま、今日は1日さぼるとしますか」
「へー。さぼるんだ?」
「やっぱり、戻っていたんだね」

そう言って、寝転ぶ僕。
涼しい風が気持ちいいし、空もよく・・・見えて・・・。

僕が見たのは青空ではなく、クリスさんと瑞希の顔だった。
しかも、どう見ても怒っているようにしか見えない。

「・・・どうしてここが分かったの?」
「あのね・・・。蒼と何回かくれんぼしたと思ってるの?蒼の行動くらい分かるわよ」
「瑞希さんが言ってました。必ず、ここに戻ってくるからって。だから、階段を降りたふりをして、また戻ってきたんだよ」

僕の考えなんて、あさりと看破されていたらしい。
溜息をつき、呆れた声で言う瑞希。
あれ?さっきまでクリスさんと喧嘩してなかったっけ?
僕は、不思議に思った。今は2人とも特にいがみ合っている様子は無い。

「瑞希。授業始まるよ?」

僕は、時計を見てそう言う。

「もう今日はさぼり」
「何で?」
「たまには、こうして空をただ見上げてるのもいいと思ってね」

瑞希にしては、珍しいこと考えているんだな。
僕が不思議なこともあるもんだと思っていると、瑞希は言った。

「隣・・・いいかな?」
「別にいいけど」

彼女にしては珍しく言葉が途切れがちだった。

「じゃあ、私は反対側!」

何を思ったのか、クリスさんも僕の隣に寝転ぶ。
3人で屋上で寝転んで空を見上げているなんて、何だかおかしい気がする。
ああ、雲が少し出てきたなあ。この雲があれば、あんな思いはしなかっただろう。
だけど、今もない。

「そうそう、蒼」

雲を見ながらそんなことを考えていると、クリスさんが急に話し出した。

「何?」
「で、どっちを選ぶの?」
「はい?」

まだ、あの話続いてたんだ。
僕は、声には出さなかったが、心の中で思った。

「そうね。で、ここは、屋上よ。それに私たちが何で隣にいると思う?」
「・・・嫌な予感しかしないんだけど」

瑞希がクリスさんの言葉に同調する。
僕は、よく分からないけど冷や汗が顔を伝っているのが分かった。
蛇に睨まれた蛙ってこんな感じなんだろうな。

「嫌な感じって、失礼だと思うよ」
「そうね。ま、いいか」

2人から文句を言われてしまったけど、本当のことだと思う。
僕が、どうしようかと悩んでいると、瑞希の視線に気がついた。
瑞希は、僕がそっちに顔を向けても背けることなく僕を見ていた。
そして、何かを決意したような顔になると、頬を赤く染める。

「えいっ」

そう言うと共に、彼女は僕の腕を抱きしめる。

「ええっ!?」
「ああっ!ずるい。わたしだって」
「何!?」

いきなり、腕に抱きつかれ混乱していると、何がずるいのかクリスさんも抱きついてきたのだ。
何だか腕に柔らかいものが当たってるって!!

恥ずかしいやら、うれしいやらで思考が少し追いつかなくなる。
だけど、残った理性を振り絞り言い放つ。

「離れてよ!!」

だけど、その願いは無残にも打ち砕かれた。

「蒼は、私と一緒にミストランデへ行くんです。ね、蒼?」
「何言ってるの?蒼は私と一緒に学校に残るの。そんな危険なミストランデになんて行かせないわ」

僕の話を聞かずに、僕を挟んで言い争う2人。

「えーと・・・」
「あ、そうだ。両方選ぶのは無しだよ」

あ、先に1つの玉虫色の解決策がクリスさんに潰された。

「両方選ばないのも、無しよ」

え?そっちもダメなの?
瑞希の一言で選択肢が二者択一になってしまう。
僕としては、どちらかと言えば瑞希よりの意見だ。
だけど、選ばなかったら、クリスさんに殺されそうな気がしなくもない。

下手をすれば、無理矢理にでも連れて行きそうな気がする。

僕が、結論を出しかねていると、2人はいらいらしてきたのか、腕を抱く力が強くなってきた。
もう、胸が当たってるとかそういう問題じゃなくなってる気がする。

これは、さっさと決めろと言う無言のアピールだろう。

「分かった、決めたよ」

僕は、意を決して言う。
すると、2人とも腕から離れて、真剣な表情をして僕を見る。

「僕は、・・・クリスさん、ごめん。ミストランデには行けないよ」

そう言うと、クリスさんはがっかりした顔をした。
反対に瑞希はうれしそうだ。

「僕はそんな危険な世界には行けないし、行きたくもない。クリスさんの事情は、少しは聞いたから知ってる。だけど、僕には到底無理な話だよ。だから、はっきりと言うよ。僕は、ここに残る」

僕は、生まれて初めてはっきりと他人に物事を言った気がした。
そして、僕はさらに続ける。

「クリスさんも、こっちに残ればいいんじゃないかな。少なくとも、向こうの世界よりは安全なはずだよ。それに、我侭だとは思うし、今日会ったばかりの人の言うことじゃないと思うけど僕はクリスさんに戻って死んでほしくない。こっちの世界に向こうの世界の運命なんて存在しないと思うよ」

これでも、説得できないなら諦めるしかないか。
僕はそう思って、クリスさんの目を見据えて話した。
自分の思いは伝えた、後はクリスさん次第か。

「・・・そうだよね。きっと先代の巫女様もそう思ったんだよね・・・」

クリスさんは、小さな声で言う。
その言葉は震えているように思えた。

「うん、私しばらくこの世界にいる。蒼や瑞希ともっと仲良くなりたいから。ま、それに今帰っても勝算があるわけでもないしね」

これで良かったのかは、分からない。
問題を先送りにしただけかもしれない。
けれど、今を僕たちは生きている。

この空の下で。



「ところで、クリスさんはどこに住むつもりなの?」
「あ、そういえば・・・」

瑞希は、僕も疑問に思ったことを聞く。
たしかに異世界から来たんじゃ、お金も住む場所もないよね。

「そうだねえ・・・蒼の家にでも居候しようかな。だって、私を引き止めたのは蒼だし。責任とってもらわないと」
「何言ってるの!?そんなのいいわけないでしょ!行く場所がないんだったら、私の家に泊めてあげるから」

僕の家に居候すると言い出したクリスさんに噛み付く瑞希。
その前に僕は1人暮らしじゃないし。

「あ、それはいいよ。だって、・・・瑞希うるさいし」
「なっ!?何ですって!!人の折角の好意を無駄にして・・・」
「ああ、もう。ほら、うるさいでしょ。それに私、頼んだ覚えはないよ?」
「ああ、もう!やっぱり頭に来る女ね」

何か僕のとき以上に怒っている気がする瑞希。
こんなに怒っている瑞希を見るのは初めてだ。
てか、クリスさんもこんな性格だったっけ?



僕は、もう関わりたくないなあと思って屋上からそっと逃げ出した。

「もういいや、帰ろう」

そう言って1人で帰ったものの、結局バレて2人まで家に着いてきたのだ。

「蒼。こうなったら私も一緒に住むから!」
「何言ってるの?そんなこと言ったら、蒼が迷惑に感じるでしょ」

何を考えたのか、うちに住むと言い出す瑞希。・・・考えが飛躍しすぎだと思うよ。
だけど、うちの親が女の子との同居を許すとは到底思えない。
・・・いや、むしろ喜んで受け入れそうだ。きっと、後者だ。
絶対に阻止するしかない。僕の頭には、この2人を連れて帰ったらにやにやと笑う両親の顔が浮かんでいた。

結局、僕の説得の甲斐あって、2人は一緒に瑞希が住む寮で住むことになった。


「はぁー、明日からどうなるんだろう」

僕は、溜息をついた。




「転校生のクリス・レイ・ウィンディアです!クリスって、呼んでね」

翌日、クリスさんが転校してきた。
見た目は、特に髪と目の色は普通じゃないけど兎に角美人だから、男子生徒の反応が凄まじい。
割れんばかりの拍手喝采の嵐。
きっと僕だけが、冷めた気持ちでいるに違いない。

「瑞希。これ、どういうこと?」
「ま、まあ・・・。色々とあったのよ。ま、できる限りのことは協力するから」
「助かるよ、瑞希・・・」

瑞希の話を聞くところによると、何でも校長を脅したらしい。
何をしたのかはある程度見当はつく。
僕が、がっくりと項垂れると瑞希が慰めかは知らないけど、優しい言葉をかけてくれる。

「蒼〜。よろしくね〜」

無邪気に手を振るクリスさんのせいで、僕に視線が集まる。
その笑顔が、僕には少し悪魔に見えた。

みんなの視線、特に男子の視線がすごく痛い。
全員友達じゃないないしなあ。嫌がらせとかないといいけど・・・。


何であの時、引き止めたんだろう・・・。
ちょっとだけ、僕はあの選択を後悔した。


最後まで、読んで頂いた方々ありがとうございます。
これは、短編第2弾になります。

短編と言う割には、長くなりすぎた気がしますが・・・。
今回の結果、よく分かったこと。

私には、戦闘シーンはまだ書けないということ。

次に短編を書くときには要領よくまとめたいものです。













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