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他の小説が停滞中にも関わらず書き上げました。全九部の短編ですが、最後まで読んでいただけると嬉しいです。

また、『ごめんねの代わりに』のスピンオフ作品
『GO!GO!WITH☆YOU』
http://pkcr.jp/novel/book.php?novel_id=50145&guid=ON
を携帯サイトポケクリ(PCでも閲覧可能)にて連載中です。こちらは家庭教師コメディーとなっております。こちらもよければよろしくお願いします。
佐伯くん
私が好きになったら、その人は困っちゃうから。
私は可愛くないし、地味だし、明るくもないし、人見知りだし。
そんな私に好かれても、その人は迷惑しちゃうだけだから。
だから、
私は人を好きになっちゃいけなくて。
それは痛いほど分っていて。

それなのに、私の心は言うことを聞いてくれなくなった。
貴方が助けてくれた、その時から。




■□ごめんねの代わりに□■




「橘、おはよ。」
「あ、お、おはよう。」

朝、廊下を歩いていると後ろから声をかけられた。
私の大好きな声。

「さ、佐伯くん、今日は早いね。」
「あー、うん。俺だってたまにはね。」

そう言ってニカっと笑ったのは、佐伯秀介くん。
私のクラスの人気者。

「橘は毎日早くて感心だけどさ。」
「そんな。た、ただ、遅刻するのが嫌なだけだから・・・」

何か言うたびに噛んでテンポの悪い私、橘綾子には、全く釣り合わない彼。
もちろん、彼氏と彼女なんて関係ではない。
友達・・・も危うくて、クラスメイト、知り合いがいいところ。

「うわあ、遅刻常習犯の俺には厳しいお言葉だわあ。お、教室着いた」

ガラリと佐伯くんが扉を開けると、教室にはまだ数人しか人がいない。
だけど、私と佐伯くんは教室に入るとそれぞれの席へと別れていった。

佐伯くんは、少し長めの茶髪で、一つボタンの外したシャツからはキラリとシルバーアクセが除いているような、決して真面目とはいえない生徒で。
だけど、別に授業をサボったりはしないし(朝の遅刻は別として)、体育だっていつも一生懸命で、先生やクラスの皆からとても好かれている。
成績のほうはあえて触れないけれど、容姿はキリリとした奥二重の目が印象的な端整な顔立ちで、勿論女子からはかなりモテる。

だから、私なんかとは絶対釣り合わない人で。
友達っていっても違和感のあるような人で。

好きになったって、迷惑をかけるだけなのに。
なのに。

私の心が、言うことを聞いてくれません。


**********


「あ、あの」
「あ?なんだ、橘かよ。」

それは、二ヶ月ほど前の放課後。
終礼が終わって、掃除当番に当たっている生徒はそれぞれ担当の教室へと別れていく。
私は教室の当番で、私と、もう一人の女子と、男子三人から成る五人の班だったけれど、私以外の四人は、箒を持ったまま窓際の辺りで固まって喋っていた。
だから、実質私一人で掃除をしているような状況で。

一人ではなかなか終わらないと思い、私は意を決して四人に話しかけた。

「そ、掃除・・・」

「は?なに?聞こえない。」
「掃除まだ終わらねえの?」

「掃除、一緒に、」

「なに。だから聞こえねえっつってんの。」
「話しかけてくんなよ、ブース」

最後の一言に、体がぎゅっと竦む。

もごもごと言いたい事もはっきりと言えない私は、彼らにとってつまらない存在で。
私の注意だって、やっぱり聞く耳ももってくれなくて。

諦めてまた一人で掃除に戻ろうとしたときだった。

「おい、お前らちゃんと掃除しろよ。橘、困ってんじゃん。」

予想外だった。
誰かが助けてくれるなんて。

「あ、なんだよ、佐伯じゃん。」

振り返ると、校内ではちょっとした有名人の佐伯くんが立っていて。
私は驚いて声も出なかった。

「なんだよ、じゃねえよ。おら、さっさと掃除しろって。松田に言いつけんぞ。」
「え、それは勘弁。松田はキツイって。」
「じゃあさっさと掃除しちゃえよ。俺も手伝ってやるし。」

松田というのは生徒指導の先生で、かなりの熱血のため色々と面倒くさいと有名なのだ。

佐伯くんは言い終わると、教室の後ろに固められた机を一つずつ元の位置まで戻し始めた。
ぎいいいー。ぎいいいー。
佐伯くんが掃除を始めると、後の四人も渋々ながら一緒にやり始めてくれて。

なんとか無事に掃除を終えることができた。

「あ、あの」

鞄を持って教室を出ようとしている佐伯くんを思わず呼び止めた。

「ん?どうした、橘。」
「そ、掃除、あの、」

お礼を言いたい。
ただ、それだけなのに。
上手く、言葉が出てこなくて。
自分のつま先を見たままの私。

「て、手伝って、もらって、その、」

私の詰まり詰まりの言葉に、佐伯くんはもしかすると苛々してきているかもしれない。
顔をあげると、早くしろよって怒った目が、私を見ているかもしれない。

私は怖くなって、更には声すら出てこなくなってしまった。

「・・・」

どうしよう。
お礼・・・。

「橘、よかったら今日一緒に帰らない?」

え?
今、何て言ったの?

私は彼の言葉がわずかに信じられなくて、思わず顔を上げた。

そしたら、そこには怒っている目なんてなくて。
優しく笑っている佐伯くんの顔があって。

「駅まで。一緒に帰ろう。」

私はコクンと頷いた。


**********



その日から、私は佐伯くんと少しずつ喋るようになって。
廊下ですれ違っても挨拶したりするくらいは仲良くなって。

駅までは同じ道だった。
ホームは違ったから、家は全く正反対の方向だったけれど、駅までたまに一緒に帰ったりもした。

佐伯くんは本当に素敵な子だったから。
優しくて、明るくて、面白くて。
私が喋るのが下手なのを知っても、楽しい話を沢山してくれた。
相槌をうつだけだった私に、愛想もつかさず笑顔で話してくれた。

だから。
私の心が言うことを聞かなくなるのに、そんなに時間はかからなくて。
佐伯くんという引力は、私をどんどんと引き付けていった。


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