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天つ乙女と毛獣  作者: awa
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Spring Story.0001 すべての始まり

「私は、昔から違和感を抱いて生きてきた。なぜなら、私は、今のお父さんやお母さんの生んだ子ではなく、よそで拾われた養い子だったのだから。」

■懐かしきメモリー

 ちょうど、桜が満開となる季節。

 潮風香り、海向かいに横浜のランドマークタワーや海ほたるが見える木更津市の浜辺ぞい。

 二〇代くらいの女性が犬を連れて散歩していた。

 犬を連れていた女性の名前は、広瀬百合子。

 見た目はおとなしく、特筆すべき点としては、ゆるやかに肩の後ろへ伸びた色の濃い髪、二重のまぶたがくっきりとしているくらいである。

 体格は小柄で、胸の膨らみだけは普通の人よりも大きかった。

 「さくら、少し休もう。」

 百合子は、ニコニコとした表情で言葉を発した。

 犬も、彼女につかれたと顔に意思を示して百合子に近寄ってきた。

 百合子は近くにベンチを見つけて座り、犬の頭をやさしく撫でてあげた。

 そのとき、百合子の表情は、まるでやさしげに微笑む母親のようであった。

すると、母親に連れられた姫カットの黒髪、きらきらとした瞳の一二才くらいの少女がベンチのそばを通りかかり、犬の目前で足をとめた。

少女は、ニッコリとした笑顔を顔のキャンパスに描かせながら、百合子たちの元に近づいた。

そして、

 「可愛いわんちゃんだわ。お姉ちゃん、名前を教えてくれる?」

 少女は、しばらく犬のことをあやしたあと、百合子に尋ねた。

 「この子は、さくらっていうの。桜の花が咲くころに生まれたのにちなんで付けたの。」

 百合子は、やさしそうな眼差しで少女を見つめて答えた。

 「お姉ちゃん、そうなの。」

 少女は、好奇心溢れた表情を見せ、百合子にいった。

 「ねぇ、おねえちゃん。この子と遊んでもいいかな?」

 少女は、目をきらきらと輝かせ、百合子に尋ね掛けた。

 「いいわ。心ゆくまであそんであげてね。」

 百合子は、少女に気さくな語り口で答えた。

 「ありがとう、お姉ちゃん。」

 少女は、百合子に喜びの気持ちを交え、言葉を返した。

 続けて、少女は体を屈伸させ、師弟関係があるかのように犬と仲良く遊びはじめた。

 「なんだか、この子のことを見ていると、中学生のころのことを思い出す。あのころは楽しかったわ。」

 百合子は、少女が犬と遊ぶ無邪気な様子を見て、心の中に閉じ込めていた懐かしき思い出をうかべはじめた。


■あのころの私

 冬の五輪で数え、三回前、平昌五輪、ソチ五輪よりも前のバンクーバー五輪の開催年となる二〇一〇年。 世界の地図で見て、ファーイースト(Far East)の海上に位置する日本列島。 列島の中心、本州のはるか東側の広い平野から海に突き出て、一年中温暖な気候に恵まれた場所。

 東京・さいたま・横浜などからもそう遠くなく、春夏秋冬を通して多くのレジャー客が訪れる房総半島。 半島の突端の近くには、里美八犬伝の舞台でもある館山の街があった。

 百合子は、一四才、館山の中心街から城山公園・上真倉よりにある長須賀に住んでいた。

 紺色とクリーム色(スカ色)、銀色・菜の花色のツートンカラーを車体に纏う東鉄内房線電車に乗り、君津にある私立の中学校に通っていた。

 百合子は、当時、夏に大輪の花を咲かせるやまゆりのごとく容姿端麗であり、性格もおとなしく、クラスの仲間からも慕われていた。

 まさに、どこにでもいるごく普通の中学生だった。

 だが、そんな彼女には、ほかの人と違うところがあった。

 それは、今いる父親の芳夫・母親の美香が養親であり、生みの父母に関わる手掛かりや記憶を一切持っていないことであった。

 さて、長い時間、館山の街を照らしていたお日様がりんご飴のように紅い夕日となって地平線の先に沈み、まもなく星の輝く空に包まれた。

 百合子は、所属するテニス部の全体練習を終えて内房線の電車にのって帰宅した。

 「百合子、あなたの好きなカレーが出来ているわよ。」

 玄関先で美香がニコニコとした表情で佇み、百合子に言葉を掛けた。

 「お母さん、ありがとう。」

 百合子は、娘らしい元気な表情で美香に答えた。

 さっそく、百合子は左手を足元の革靴に掛けて脱ぎ、リビングに移動した。

 彼女は、ねこと同じ速さで歩き、紺色のブレザー・スカートと翡翠色のリボンが目立つ制服のいでたちで黒い通学かばんをさげていた。

 リビングには、アンティークな椅子やテーブル、デジタル地上波対応テレビがあり、お洒落な雰囲気が漂っていた。

 なお、テーブルの上には、常滑焼の洒落た柄のお皿があり、雲のように白くつやのあるご飯の盛られ、カレーがかけられていた。

 また、カレーのそばには、作り置きしていたあさりの味噌汁が入れられたマグカップがあり、塩の香りを漂わせていた。

 百合子は、席について喜びを心の底から湧かせた。

 「あぁ、美味しそう。いただきます。」

 彼女は、掛け声と共に、右手にスプーンを持ってカレーを食べ始めた。

 そして、

 「おいしい。お母さんのカレーは、いつ食べてもおいしいわ。」

 百合子は、心洗われたかのような様子で美香に感想を伝えた。

 「百合子。そう言ってくれるだけでも、ありがたいわ。」

 美香は、うれしそうに顔をほころばせ、百合子に言葉を返した。

 続けて、

 「百合子。そういえば、東郷さんや中田さんたちと上手く付き合えているの?」

 美香は、つぶらなやさしい瞳で百合子を見つめ、友人関係のことで尋ねてきた。

 それは、まさに養親として、実の娘のようにして育ててきた彼女を気遣う様子が見られた。

 「お母さん、茜ちゃんとあこちゃんのことなら、仲良くできているから心配しなくても大丈夫だよ。」

 百合子は、美香に心配なさそうな口調で答えた。

 「それなら、心配しなくてもいいわね。」

 百合子の話に、美香は肩の荷が下ろし、ほっとした口調で言葉を発していた。。

 百合子は、まもなくカレーライスとあさりの味噌汁を食べ終えた。

 食事の後、彼女は、置いていたかばんを右手に持って階段を上がり、二階にある自分の部屋に移動をした。

 彼女は、部屋に戻るなり、パリの凱旋門に似た二段形の本棚に手を伸ばし、星座にまつわる雑学本を読んでいた。


■守り神の啓示

 日にちは進み、四月二日。

 ちょうど四月一日というエイプリルフールや新年初めの日が終わり、新たな四月二日という日が生まれた頃。

 百合子は、半年前、小金井市の養祖母宅に行く途中、三鷹市内のホームセンターで買った二段ベッドの下段にある布団に身体をゆだね、気持ち良さげに寝ていた。

 このとき、彼女は夢の中におり、まっ白な雲に囲まれて訳もわからず右往左往していた。

 「白く曇っていて前が見えないわ。どうすればいいのかな?」

 百合子は、霧のごとく四方を取り囲む乳白色の雲に対し、ほとほとと困った顔を見せていた。

 その直後、どこからともなく女の声が聞こえてきた。

 その声は、救急車のサイレンや電車・自動車の接近する音のように、最初は小さく、次第に大きくなっていった。

 「あなたは、何者なの? 姿を表して!!」

 百合子は、周囲に警戒という名の気を張り、姿形すら存在しない声の持ち主に呼びかけた。

 「タキリ。生憎、そなたに姿は見せられぬ。」

 声の持ち主は、百合子に申し訳なさそうな口調で平謝りし、まるで穴に身を隠すモグラのごとく自らの姿を現さなかった。

 「あなた、タキリって名前で私のことを呼んでいた。でも、私は、広瀬百合子でそんな名前じゃないわ。それと、姿を見せられないのなら、名前くらい教えてもらったって、罰当たりにはならないわ。」

 百合子は、すぐに頭の整理がつかずに心を揺さぶられ、声の主に尋ね返した

 そのときの彼女は、まさに強風に吹かれ、ひらひらとなびく木の葉と同じ状況だった。

 「忘れていていても、無理はないね。人生の半分以上をアマツホシではない、地球という世界で過ごしているのだから。それと、今は名前は教えられないが、すばる天女の守り神とでも言っておこう。」

 声の主は、百合子に言葉を発した。

 また、声の主は自らを天女の守り神と自称し、テコでも動じない大きな岩山みたいに平然とした様子でいた。

 「えっ、そうだったの!?」

 百合子は、何も知りえていなかった人の表情を浮かべ、姿なき天女の守り神に言葉を発した、。

 「そなたは、元々地球でないアマツホシという世界にあるすばる王朝の姫や天女の子・タキリとして生まれ、その国の正当な王位継承者である。今こそ、天女として目覚め、本当の名前を取り戻し、天女の仲間を集め、王朝に居座る獣を退けて苦行にあえぐ民を解放し、すばるの女王として国の再興を果たすのだ。」

 天女の守り神は、先ほどの口調で百合子の知りえていなかった過去の経歴などに触れた後、試練を課そうとした。

 「天女、すばる王朝、王位継承者、天女の仲間、女王。何のことをいっているのか、私に分からないわ。」

 百合子は、守り神の話す内容をいまいち頭に飲み込めず、混線した電話交換機の状態となった。

 「タキリよ、今は分からなくてもいい。いずれは、天女として目覚めたとき、わかることだ。」

 守り神は、百合子に結んだ紐のようにしっかりとした口調で声を掛けた。

 その直後、百合子の周囲を覆っていたかすみ雲はまたたく間に黒色に変わった。

 視野の先には、黒々としてうつうつそうな雰囲気が漂い始め、口から言葉を出せなくなってしまった。

 言葉を発せられないことに、百合子はもがき苦しみ、思わず目からいくつものしずくをこんこんと湧かせた。

 そうしているなり、百合子の首の付け根の辺りが漆器のように赤い光を放たれた。

 その光は、始めろうそくの光のごとく弱々しいものであったが、瞬く間に全身を覆った。

 「きゃあ!?」

 百合子は、夢から目覚め、何かにうなされた様子を見せ、バッと身体をゆだねていたベッドから起き上がった。

 「さっきのは、夢だったのね。」

 百合子は、顔を左右に動かして確認し、ほっと胸を撫で下ろした。

 「訳も分からない黒い男と女に追われることといい、このことといい、最近変な夢ばかり見ていて、頭がおかしくなりそうだわ。」

 百合子は、眉の両端を下げ、口元を上にあげ、もそもそと落ち着かない様子のまま、苦言を呈していた。

 百合子は、改めて時間を確認した。

 時計は、長い方が一二、短い方が四を指していた。

 また、外の様子を見ると、暗闇の雲の間に宝石の如く春の星々が輝いていた。

 彼女は、夢のことを忘れて気分転換をしようと、赤色のジャージ姿に着替え、腕や足を大きく動かしながら日課としているランニングに出かけた。

天つ乙女と毛獣をお読みいただきありがとうございます。

原作者のawaと申します。

3年ぶりに"小説家になろう"の内容をアップデートしました。

天つ乙女と毛獣という作品は、もともと2010年7月に天女とハイドという作品を作り始めたことに由来する作品です。

作品を書く上で、現実世界を舞台としているため、舞台となる千葉県館山市や南房総市白浜町・君津市などに足を運び、実地調査をしています。

そのため、千葉に住んでいない方、あるいは住んでいる方でも楽しめる内容となっています。

どうか、以後とも天つ乙女と毛獣をご愛読いただけますようよろしくお願いいたします。

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