恋空
出会いは普通だった。
「こら元杉ー!スカート短いだろ、おろせ」
「はーい」
「まったく・・・お前は目立つんだから大人しくしとけよ」
「はぁ」
「学校は勉強だけできれば良いってもんじゃないからな」
むかつくなぁ。
そんなことまで言わなくても良いじゃん。
「先生」
「おお、波川。課題集めてきてくれたのか」
「はい」
そう言って間に入ってきたのは、同じクラスの・・・えーと、確か波川くん。
まだ新しいクラスになって1週間。
波川くんは去年違うクラスだったから、まだよく知らない人。
「元杉。ちっとは波川を見習えよー」
「なにをです?」
波川くんが聞き返す。
「制服だよ。元杉はいっつも俺に怒られてばっかで・・・」
ああ、もう。
また説教が始めるのか・・・嫌だなぁ。
なんであたしばっかこんなに怒られるんだろう。
他の子の方が明らかに短いじゃん。
「あ、そうだ。元杉さん担任に呼ばれてたよ」
「え?」
「急いでたみたい。じゃあ先生、失礼します」
「ああ」
わけがわからず、あたしは波川くんのあとに次いで、職員室を出た。
ドアを閉めると、波川くんが口を開いた。
「良かったね、あの先生しつこいから」
「え、じゃあ嘘?」
「うん」
教室に向かって歩き出す。
階段を上りながら話をする。
「そっかぁ、ありがとー。あたしいっつもあの先生に怒られてさー。なんでだろー」
「元杉さんよりも制服乱れてる人たくさんいるよな」
「でしょー?」
「あーでも元杉さん頭良いからだよ。あの先生優秀な奴とかには格好もちゃんとしてほしいらしいんだ。だから標的にされるんだよ」
「あー・・・」
なるほどね。
だからあたしにばっかりつっかかるってわけか。
目立つ・・・って、頭のことかよ。
別に目立ってないと思うけど。
「あれ、てか波川くんあたしが頭良いって、なんで・・・」
「だっていつも科目別順位とかに名前のってるじゃん。総合順位はいつも1位だしさ」
「あーあれか」
「1位の人知らない人はいないだろ」
あー確かに目立ってますわ。
あの先生の言ってること一理あるよー。
教室についた。
入ってあたしは席につく前に波川くんに声をかける。
「ありがとね!」
これが、あたしたちの出会いだった。
ほんの些細なこと。
だれにでもあるようなこと。
あたしはふと後ろの黒板に目をやる。
黒板には、春休み明け課題テストの順位がのってる。
科目別のは、上位10人まで。
「あ」
波川くん、けっこーいるよ。
てか、5教科あるうちの国語以外全部じゃん。
「わー総合順位2位」
なんだ、あの人あたしのこと頭良いとか言っときながら自分だってそうなんじゃん。
よく見たら化学負けてるし。
こんなとこに敵がいるとは。
・・・波川史舞樹ね。
珍しい名前だなー『しぶき』って読むんだ。
「なに見てるの?柚月」
「あ、そーいえば麻美って波川史舞樹と去年同じクラスだよね。どんな人?」
「波川?ああ、あの人ね。すっごい真面目な人だよ。まさに優等生って感じ」
「ふ〜ん」
───────1ヵ月半後
またいつものように中間テストが行われ、テストが返ってくる。
授業中に返却されるの、ぶっちゃけみんなは嫌がるけど、あたしはけっこー好き。
だってそれで授業潰れるんだよ?(笑)
そして、いつものように1番だろうと予想していた。
「1位古典、元杉」
「1位英語、元杉」
「数学1位、波川」
「現文は1位元杉」
テスト返済のときに1位の名前が呼ばれる。
うん、いつもと同じ。
数学だけはいつも誰かに負けるから全然気にしてない素振りをしたけど、『波川』という言葉にピクッと反応する。
確か波川くんは前回総合2位。
もし・・・もし負けたら?
ううん、大丈夫。
いつも通りにやったからきっと1位のはず。
不安な気持ちを押し込めようとする。
「化学1位は波川」
「英語文法1位、波川」
「地理1位、波川」
「家庭科の1位は元杉」
「保健1位、元杉」
正直焦っているのがすごく分かる。
波川くん、こんなにできる人なの?
得意の化学も負けてるなんて・・・・
あたしは総合得点を出した。
927・・・・うん、いつもと同じくらい。
大丈夫だよ、大丈夫。
なのになんでこんなにモヤモヤするの?
─────1週間後、個表がきた。
これで全ての結果が分かる。
あたしはおそるおそる個表を開く。
「総合順位・・・・2位」
開いた口がふさがらなかった。
あたし、負けた?
波川くんに・・・負けたの?
「元杉」
「あ、波川くん・・・。波川くん総合で何点だった?」
「えーと、945?」
「わ、15点差か」
ほんとに負けたんだな、あたし。
そう思うと少しだけ目が潤みそうになった。
「つかこれってなんかの間違いだよな。だって元杉の方ができてるだろ?」
「ううん、あたし927」
「えっ」
波川くんは驚いた顔をする。
「・・・なんで?なんであたしだめなの?」
運動部の宿命だけど、テスト1週間前からもらえる部活休みを使って必死に勉強した。
あたしは天才ではないから、だけど、努力でそれは賄われるってことも知ってるから、だから今まで頑張った。
あれ以上どうやれって言うの?
寝る間も惜しんで勉強して、これ以上いつ勉強やれって言うの・・・
「もう、どうやって勉強したら良いのかわからないよ・・・」
はじめて人にもらす愚痴。
いつも1人で抱え込んでいて、ついに出る本音。
あたし、なんのために勉強するの?と。
あたしは自問自答する。
けれど答えは見つからない。
──学校は勉強だけできれば良いってもんじゃないからな──
いつだったか、教師に言われた言葉が頭をよぎる。
ああ、あたしもう勉強もない。
そう思うと、悲しくなった。
どうしてこんなに1位に執着してたんだろうって思える。
別に意味なんかない。
それがだめなの?
そんなあたしに、波川くんは微笑みながら言う。
「大丈夫だよ。だってほら、元杉運動部だからあんまり時間なかったろ?だから期末はきっと大丈夫」
「ほんと・・・?」
「うん」
波川くんの言葉が、嬉しくなる。
『大丈夫だよ』って、はじめて言われた。
心から安心できるような言葉。
弱いあたしを支えてくれる言葉。
ずっと、探してた。
「・・・そうだね。あたし期末は頑張る」
それは、いつもあたしに負けてた人からの言葉。
1位を取れて嬉しいはずなのに、泣きそうなあたしを慰めてくれる優しい人からの言葉。
どうしてこんなに胸が高鳴りするの?
「俺も期末負けないぜ?」
「なに言ってんのー。見ててよ、絶対首位奪回してやる!」
「それはどうかなー」
どうしてこんなに顔がほころんでしまうの?
「いーもん、次こそは化学負けないから!化学と古典と英語だけは誰にも負けたくな〜い」
「残念ながら化学は俺も得意なんだな」
「そんなこと言ってられるのも今のうちだからね」
あたしはあっかんべをする。
「ばーか」
波川くんは口を押さえながら笑う。
なんとなく、それが愛しく見えた。
ああ、ようやく見えた。
希望の光。
今度はあなたに勝つという目標を立てて、挑みましょう。
勉強を頑張る理由、できた。
目標があるならあたしはきっともっと頑張れる。
「波川くん、勝負しようよ。負けたらジュース賭けて」
手をグーにして、腕を伸ばす。
ちょうどパンチをするような格好をして、言った。
すると、波川くんも同じ格好をする。
手と手のグーでふれあった。
「いいぜ」
あたし、波川くんに恋をした。
前教師が言ってた。
学校は勉強だけじゃないって。
確かにそう。
学校は、恋するところでもあった。
あたしが波川くんに恋をしたように。
「さーて、今日も1日頑張りますか」
伸びをする。
白い雲を見ようにも姿を現さないあの空は、どうしてあんなにも青いんだろう。
窓から見る青空はいっそうきれいに見えるのはなぜだろう。
空って海の恋人だから青いんだって。
ほら、好きな人と一緒にいると自分もそうなることってない?
それと同じ原理だって、昔なんかの本で読んだことある。
じゃあ、あたしがあなたを好きだから、あなたもあたしに恋をしますか?
なんてそんなこと、あるわけないけど。
だけどなにもなかった学校生活に、新しい風が吹く。
あたしはもっとすごくなる。
だから、つい期待してしまう。
「元杉、授業はじまんぞ」
「まぁまぁそんな堅いこと言わずに空見てよ、波川くん」
「空?おー見事に晴れてんじゃん。快晴だな」
「でしょ?すがすがしいね〜」
これからはじまる日常。
あなたが一緒にいる日々。
「空が青い理由って知ってる?」
「あ、知ってるー!あれでしょ?」
「「空が海に恋をしたから」」
声がハモって、つい笑う。
顔を見合わせて、また笑う。
「俺も空みたいに恋するかもな」
「え?」
「誰かさんに」
あたしたちの学校生活はまだはじまったばっかり。
だから、これからもっと楽しくなるようにしてこうね。
この想いに嘘はないから。
fin
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