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雪と南天と二人の手ぶくろ

作者:風梨凛
 それは、クリスマスの次の日のことでした。
 その日は朝から雪が降り、お昼にはうっすらと外に雪が積もりました。一花の住む地方では、雪が積もることはめったにありません。だから、これは、雪遊びができる絶好のチャンスなのです。
 けれども、
「あ~あ」 
 一花いちかは、ゆううつな顔をしていました。
 一花は小学5年生。下に妹が一人いますが、お姉さんだけあって、一花はしっかり者。だから、お父さんとお母さんが仕事や用事で忙しくても、3つ年下の妹の由花ゆうかの面倒をよくみています。

 とくに、12月は師走しわすといって、昔は、師(お坊さん)が東西に走りまわるほど忙しい月だったそうで、それは今も変わらず、小学生は冬休みでも、お父さんとお母さんは二人とも忙しくて、今日も一花は妹と二人で留守番です。

「せっかく雪がつもったのに」

 そうつぶやくと、一花は、すねて部屋の隅っこに座り込んでいる妹と、タンスの上に置いある2つの手袋に恨めしそうに目を向けました。

 ”おばあちゃんが毛糸の色を間違ったりするもんだから”

 それは、11月の始めのこと。となり町に住むおばあちゃんから、一花と由花に電話がかかってきたのです。
「クリスマスのプレゼントに手袋を編んでやろうと思っているんだけど、いっちゃんと、ゆうちゃんは何色が好きかねぇ」
 おばあちゃんは編み物上手。毎年、マフラーや帽子やら、色々な毛糸グッズをプレゼントしてくれます。おまけに、センスがいいものですから、一花と由花は大喜びで受話器に向かいました。

 姉の一花は、
「私は白!」
と、白い手袋をお願いしました。
 妹の由花は、
「わたし、あか!」
と、赤い手袋をお願いしました。
 けれども、クリスマスにおばあちゃんから二人に届いたプレゼントの手ぶくろの色は、一花の手ぶくろが赤。由花のは白、二人の欲しかった色が逆になってしまっていたのです。

「おばあちゃんったら勘違いしたのね。少し耳が遠くなってきているから、一花と由花の声を聞き間違えてしまったのよ」
 お母さんはそう言って困った顔をしましたが、
「でも、それ、二つともすごく可愛い手ぶくろじゃないの。交換するにしても、いっちゃんとゆうちゃんじゃ、手の大きさが違うし、おばあちゃんが一生懸命、編んでくれた手ふくろなのよ、だから、今はそれを使いなさいよ」
 などと、なだめるような笑みを浮かべるのでした。
 けれども、クリスマスプレゼントの手ぶくろが届くのを心待ちにしていた二人にとっては、これは、笑いごとなどではなりません。
 とくに由花は、
「やだっ! わたし、あかい手ぶくろがいいんだもんっ! 白いのなんて、いらないっ」
 わんわんと大声を出して泣きだしてしまったのです。

 一花はしっかり者のお姉さんでしたから、お母さんの気持ちも分からなくはありませんでした。
 だって、お正月には家族そろって、おばあちゃんの家に新年のあいさつにゆくのです。お母さんは、二人がよろこんで、おばあちゃんのプレゼントしてくれた手ぶくろをつけているところを見せたいのでしょう。
 けれども、それは大人の事情ってやつで、子供の気持ちっていうのは、やっぱり違うんです。

*  *

 ふぅと大きなため息をつくと、一花は、妹を玄関に引っ張ってゆきました。 
「ゆうちゃん、せっかく雪が降ったんだから、家にいたってつまんないじゃん。外に行こうよ。おばあちゃんがくれた手ぶくろをつけて、一緒に雪だるま、作ろう」
 けれども、
「いやっ! おばあちゃんがくれた手ぶくろは白い手ぶくろだもん。ゆうかは、赤い手ぶくろでないと、外になんかゆかない!」
 一花の小さな妹は、がんとして玄関から外に出ようとしないのです。
「仕方ないじゃないの。手ぶくろを編むのは時間がかかるんだよ。もう1度、編み直してなんて、もう、お年のおばあちゃんには頼めないでしょ。それにね、じきにお日さまの光で雪も溶けてしまうよ。そしたら、もう、雪だるまも作れなくなるんだから」
「そんなのやだぁ! 雪だるま、作る」
「でしょ。だったら、外に行こ。雪だるまの他にも今だったら、雪合戦だってできるかもしれないし、うさぎさんだって作れるかもよ」
「……」
 その言葉に由花は、少しだけ心を動かされたようでしたが、
「……でも、でもっ、やっぱり、ゆうかは、赤い手ぶくろがいいんだぁ!」
 そんなやり取りがずっと続いたのです。
 終いには、一花までが泣きたいような気持になってしまいました。
 本当は、一花だって、手ぶくろの色を間違えられて、ものすごくがっかりしていたのです。おまけに、このまま、外に行けずに雪が溶けてしまったりしたら……。

 もう、最悪!

 雪遊びがしたい気持ちは、大きくたって小さくたって、子供なら誰でも同じなのです。

 玄関の扉の隙間からのぞいた外の景色はよく晴れていて、積もった雪がお日さまの光を受けて銀色にきらきらと輝いていました。
 明日の天気予報は間違いなく快晴に決まっています。この雪で遊べるのは、今日しかありません。
 一花は、仕方なく、妹をおいたまま、外に出てゆきました。

 外はとても寒かったのですが、きんとさえわたった空気は気持ちよく、軒先の南天の赤い実が、ふわりと鉢植えにかかった雪の白によく映えてとてもきれいでした。
「南天の赤い実……雪の色の白……」

 一花がぽっと顔を赤らめて、瞳を輝かせたのはその時でした。
「ゆうちゃん、ゆうちゃん! こっち来て! 私、いいこと思いついた!」
 大急ぎで家の中に駆け込むと、一花は、小さな妹の手を引いて、外に飛び出してきました。
 そして、玄関先の南天の木の前でポケットにしまっていた白い手ぶくろを妹に差し出したのです。
「ゆうちゃん、さっさと、これを付けて! これからお姉ちゃんが、ゆうちゃんの手袋に、ものすごい魔法をかけるから」
 由花は、姉の言葉にきょとんと目を見開いて言いました。
「まほう? いっちゃんが? 使えるの?」
「うん、使えるの! でも、それは今だけなの。だから早くその手ぶくろをつけて。手ぶくろをつけたら、手の甲を上にして、お姉ちゃんの方へ手を差し出して」
 ふしぎそうな顔をして白の手袋を手にはめた由花。
 その顔がぱっと明るく輝いたのは、姉の手から小さな赤い南天の実が2つ、その上に乗せられた瞬間でした。
「あっ、かわいい!」
 白い手袋の上の南天の実は、雪の中に浮かび上がる小さな赤いともしびのようで、とてもきれいに見えました。
「ねっ、こうしただけで、雪の上に、ゆうちゃんが好きな赤い色のぼんぼりがついたみたいになったでしょ」
「うんっ、赤いぼんぼりがついたね。いっちゃんのまほうは、すごいねぇっ」
 一花は、その言葉に、うふふと笑みを浮かべると、今度は自分の手に赤い手袋をはめてみました。その手を軒先に積もった雪にかざすと、それは、雪に映えた南天の実のように明るく輝いて見えました。
 すると、希望違いだった赤の手ぶくろがとても素敵に思えてきたのです。

* *

 お正月に一花と由花は、お父さんとお母さんと一緒に、おばあちゃんの家に新年のあいさつに行きました。
 その時、二人は、おばあちゃんがクリスマスプレセントの手袋を編んだ時に残った毛糸で、一花の赤い手袋には白いぼんぼりを、由花の白い手袋には赤のぼんぼりをつけてもらいました。
 赤の白のぼんぼりが、姉妹の白と赤の手ぶくろの上で楽しげにゆれています。

 雪の白と南天の実の赤。
 そして、あの雪の日に、二人でいっぱい遊んだこと。

 一花と優花は、手につけた手袋を見る度に、それを思い出して幸せな気分になるのでした。



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