ボーっと歩く平次の左後ろをアタシはついていく。
最近、平次の様子がおかしい。というか、変や。
いつからかって言うと、大体3週間くらい前から。
せや、東京にマジックショー見に行って事件に会うた後ぐらいから。
どう変かって聞かれたら、上手く言えへんねんけんど……ボーっとしてることが多なった。
事件のこと考えてるわけでもないみたいやねん。キラキラした目してへんし。
やからアタシは『平次がおかしい』と判断した。
何せ、いっつもいっつもやたらとデカイ声で話す平次が、授業中窓の外見て、黄昏てんねんで? これは異常や。危険や。ヤリでも降るんちゃうかって思う。もちろんこれは、一大事や。
『あの服部平次が黄昏てる』ということは、あっという間に知れ渡って、何でか理由をアタシに聞いてくる。
「知らんよ」
って答えても答えても、聞いてくる人は途絶えへんかった。せやから、
「分かった! 今日の帰りに平次に直接聞いてくるわ!!」
って宣言してしもた。
それで今に至ってるわけなんやけど、どうも話しかけられへん雰囲気が漂ってるっていうか、
上の空の返事しかせぇへんのちゃうかっていう思いとかがあって、何も聞けてへん。
このペースで行ったらあと10分ぐらいで家に着いてまうと思た時、突然平次が口を開いた。
「子分……」
「は? 何、平次?」
「え、和葉!? おったんか」
「お、おったんかって……。まぁ、エエわ。ホンマに何も見えてへんかったっていうんは、よう分かったし。で、何なん? 『子分』って」
「前に東京行った時、和葉んこと子分やて言うたやろ?」
「……うん」
かなりムカついたけどな。
「それで、工藤に言うたことも、確か言うたよな?」
「うん」
工藤くんは、さすがやて思たし。
「あれから、ずっと考えてたんや」
色んな意味で聞くのが怖かったけど、聞きたかった。
「……何を?」
「何でオレは、あん時子分やて思たかや」
「へ?」
「せやからな、和葉のこと子分やと思た理由や。やたらとヘラヘラしとる和葉にイライラしてんけど、それが、ホンマに子分やからなんかって思て」
「……」
何か、凄い方向に話がいってもうてる?
「オヤジが子分を持ってる感じと同じやと思てたんやけど、ちょっと違うような気ぃしてきてな? そうなったら、何であん時子分やて思たんかが分からんくなってきて。なぁ、何でやと思う?」
そんなこと、アタシに聞くなーーーーー!!
って、叫んでやりたい、この鈍感男に。
大体、平次の考えなんかがアタシに分かるわけないやんか、このドアホ!
心の中は乱れに乱れ、台風とハリケーンが一緒に来たみたいや。
黙りこんだアタシに、さらに鈍感キング・平次は追い討ちをかけた。
「もし、子分やないんやったら、オレにとっての和葉って何や?」
頭のどこかでブチッて音がしたような気ぃがした。
「そんなん、自分で考えーや! アタシに聞かんといて! また工藤くんにアドバイスもろたらエエやんか!」
そう言い捨てて、目の前まで来ていた家の中に飛び込んだ。
部屋に入って冷静に考えたけど、それだけアタシを意識してくれてるってことやろか?
よ、喜んでエエんかなぁ……。
はぁ、何でアタシがあのアホのことでこんなにも悩まなアカンのよ。
もう止めや。止め。
これ以上考えても、平次のことなんか分からん。期待するだけムダや。
そう結論づけて、今日はもう考えへんことにした。
でも、次の日。また悩まなアカンかってん。それも、やっぱり平次のことで。
学校に行ったアタシに詰め寄ってくるみんなの質問である「何で平次が黄昏ていたか」には「分からんかった」って答えといた。
やって『アタシが子分じゃないなら何か』を考えてたなんて言いたないやん!
この日、平次が剣道の朝練があるから別々に学校に来たせいで知らんかったんや。
怒り狂っていたっちゅうことに……。
教室に入ってきた平次は、昨日と打って変わって、元気やった。
……よく言えば、な。
悪く言えば、肩を怒らしてドスドス歩いてた。
みんなからの『聞けよ』オーラをひしひしと感じつつ、勇気を振りしぼって平次に話しかけたんや。
「平次、どうかしたん?」
「和葉……」
って、アタシの顔をじっと見てたと思ったら、手を取っていきなり走り出した。
「ちょっ、平次!? どこ行くんよ!?」
「屋上や!」
そう答えて、アタシの手を引っ張って走る。
階段を駆け上り、誰もおらへん朝の屋上に着いたときには、ハァハァ息してた。
「へ、平次、どないしたんよ、いきなり……」
「……したんや」
「へ?」
「昨日、オマエが言うから、工藤に電話したんや!」
「……」
ホンマにしたんや、電話。
「そしたらアイツ、何て言ったと思う?」
『オメェ、まだんなこと悩んでんのか? ……ハッ。ガキ』
「そう言って切りよってんで!? オレの真剣な悩みを『ガキ』の一言で片付けよってんで!? ……? 何笑てんねん?」
「プッ、アハハハ……!!」
必死になって堪えてたけど、押さえることはムリやった。
「オイ、何やねん!?」
まさか、ホンマに電話すると思わへんかったけど、真剣な悩みやったんや、アレ。
嬉しいけど、何か複雑や。そりゃ、工藤くんも困るやろ、こんなこと何回も聞かされたら。
「オイ、答えーや!」
「何もあらへんよ」
ムキになる平次を見てたら、ますます言いたなくなったし、それに、昨日のお返しや。
何も言うたらへん。
「何もあらへんことないやろ! 気になるやんか!」
しつこい平次に、さらにアタシからのちょっとしたイジワル。
「工藤くん、ゴメンな。平次がアホなこと聞いて」
って言ってやった。
「んやと、コラー!!」
朝の学校の屋上に平次の声が響いた。
授業が始まる前に教室に戻ったアタシが、また問い詰められたのは言うまでもない。
でも、何も言わへんかった。
ちょっとは期待……してもエエよな?
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