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あとみっく☆ダーリン 作者:立花招夏
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第二話 後見陸也という人

 柚葉は短大を卒業してすぐ、後見陸也の下で働き始めた。そろそろ一年になる。
 彼はアトミハウジングという主に中古物件を扱う事業を営んでいる。といっても、いわゆる何とか不動産と看板を掲げ、店舗で個人相手に物件を紹介するタイプのやり方ではなく、主に企業向けの社宅や保養所や別荘なんかを仲介する仕事をしている。それぞれの要望に応じ、少し趣向の偏重した物件を探しだし、リフォームし、売却か賃貸するというのが彼の経営する会社の主な業務だ。賃貸した分の物件は、メンテナンスも引き受けているらしく、柚葉自身が日頃会うことはないが、メンテナンス業務を扱う別部署があり、パートも含めればかなりな人数の従業員を抱えているのだそうだ。
 そう言えば、秘書の中川さん以外、他の社員を知らないな。本当に大丈夫なのか? この会社。
 今回のテラスハウスは、ガーデニングのできる社宅というのが顧客の要望だった。このご時世に、都心で、小さいとはいえ庭付きのテラスハウスなどよくあったものだと感心する。
 ちなみに、この前の物件は千葉の畑付き古民家だったし、その前は神奈川の海を見下ろす丘の上の別荘だった。どれもこれも古くてボロくなっていた物件を格安で買い取り、リフォームして付加価値をつけた後、その数倍の値段で売るというあこぎな……もとい、ニッチな仕事を、後見陸也はやっている。
 柚葉の仕事は、専らリフォーム工事後のハウスクリーニングだ。
 ――陸也さんは、一級建築士の資格を持っているから、物件を見る目が確かなんですよ。
 などと善太郎は、いつも誇らしげに言う。 前述したとおり、善太郎こと後見善太郎は、五年前に事故で両親を亡くした柚葉の後見人だ。両親は、ともに郷里が遠く、それまで会ったことすらない九州の親戚に引き取られることになり、意気消沈していた柚葉を見かねて後見人を名乗り出てくれた。そのお陰で、柚葉は両親と暮らしていた家に住み続けることができたのだ。もっとも就職してからは、暇が無くて自宅にはほとんど帰ってないけれど。
 善太郎は柚葉の母親と交流があったらしい。詳しいことは聞いていない。お気づきのとおり、後見陸也と同姓なのは、親戚だからだ。親戚とは言え、本家筋の後見陸也から見れば、善太郎の家は傍系の更に傍系になるらしい。ずいぶん年下(たぶん親子くらい離れている)なのに、善太郎は後見陸也に対していつも敬語で話す。後見陸也はそもそも、後見本家の長男で跡取りだったのだけれど、諸事情の為、後を継がずに自分で起業したのだそうな。
 あんなに細かいのに、御曹司だったとはビックリだ。御曹司なら御曹司らしくもっと大らかに生きてればいいのに……。
 まぁ、庶民の私なんかには御曹司の暮らしなど知る由もないことだけどね。

 翌日、リフォームの全作業が完了した。もちろん、指摘されたサッシレールは、どの部屋のも磨き上げましたよ。サッシレールで化粧直しができるんじゃないかって程、ピッカピカにしましたとも。珍しく後見陸也が、完璧ですね、と褒めたくらいだ。
 彼に褒められたのは、この仕事に就いて初めてだった。驚いて、思わず問い返したよね。
「……あの、もしかして、私はクビですか?」
 おずおずと見上げると、サングラスの縁がきらんと光った。後見陸也は幽かに首を傾げたらしい。
「どうしてあなたをクビにしなければならないんですか?」
「いや、その、あの……褒められたので……そんなこと今までになかったし……それに今回は次の作業場所をまだ聞いてなかったし、もしかしてって……」
 毎回、完了する三日前くらいには、次の作業場所を聞かされていた。だけど、今回はまだ聞いていない。だから、もしかして、次の物件が見つからないか、顧客がなかったかで、経営に行き詰まり、私は解雇されるんじゃないかと少し心配していたのだ。
 だって、あまり一般的ではない業務形態だし、それに、一人で物件の掃除してるって友達に話したら、そんな零細企業で大丈夫なのかって心配されたし。
 もしかしたら、後見陸也は、持ち上げてから落とすタイプなのかもしれないと……。
「私は解雇する時に、まず褒めるような回りくどいことはしません。それから、次の仕事については、今夜にでもお話しするつもりでした」
 そ、そですか。それは朗報だ。
「あ、あぁ、そそそうですか。それは……良かったです」
 ごにょごにょと言葉を濁す。
 朗報なんだけどさ……。
 抑揚のない声。変化しない表情。
 どうにかならないんですか? ソレ。コワいんですが……。
 褒められるなんて、何か悪い知らせの前触れだと思っちゃったじゃん。
 まぁ、何はともあれ、仕事は続けられるようだ。良かった。
 はぁぁぁ、と柚葉は深いため息をついた。
 どうにもこうにも、私は後見陸也が苦手だ。
 何を考えているのか分からない。いっつもサングラス掛けてるし、ってか、いくらサングラスで目を見れないからと言っても、怒っているのかそうでないのかさえ分からない人って、珍しくない?
 アトミック陸也、恐るべし。
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